【最判令和5年3月10日】
トラック運転手に対する「割増賃金」の支払いが
労働基準法上の割増賃金として
認められなかった事例

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この記事のまとめ

最高裁令和5年3月10日判決では、トラック運転手として勤務していたXが、当時の勤務先であるY社に対し、時間外労働等に対する賃金と付加金等の支払いを請求した事案が問題になりました。

Y社は労働基準監督署の指摘を受けて、Xら労働者の給与体系を変更しました。しかし新給与体系の実質は、旧給与体系における通常の労働時間の賃金(基本歩合給)の一部を、名目だけ「割増賃金」に置き換えて支払うというものでした。
最高裁は、新給与体系における「割増賃金」の中に通常の労働時間の賃金が含まれていること、および通常の労働時間の賃金と時間外労働等の対価を区別できないことを理由に、労働基準法上の割増賃金の支払いとして認めませんでした。

時間外手当等の金額については、就業規則や賃金規程によって算定基準を明記したうえで、通常の労働時間の賃金から明確に区別して算定し、労働者に通知することが求められます。

裁判例情報
最高裁令和5年3月10日判決(裁判所ウェブサイト)

※この記事は、2026年8月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

事案の概要

トラック運転手として勤務していたXが、当時の勤務先であるY社に対し、時間外労働等に対する賃金と付加金等の支払いを請求した事案です。

Xは平成24年2月ごろにY社に雇い入れられたところ、当初の賃金は月ごとの賃金総額を決めたうえで、その賃金総額から「基本給」と「基本歩合給」を差し引いた額を「時間外手当」とするものでした。
つまり、実際の時間外労働に応じて時間外手当を計算するのではなく、先に賃金総額が決まっていて、そこから基本給等を差し引いた「残り」が時間外手当になるという仕組みでした。

上記の賃金体系(=旧給与体系)は労働基準監督署によって問題視され、Y社は適正な労働時間管理を行うよう指導を受けました。そのため、Y社はXの賃金体系を次のように変更しました(=新給与体系)。

① 基本給
経験・年齢・技能等を考慮して、各人別に決定した額を支給する。

② 基本歩合給
1日500円とし、実出勤した日数分を支給する。

③ 勤続手当
出勤1日につき、勤続年数に応じて200~1000円を支給する。

④ 割増賃金
旧給与体系と同様の方法により、業務内容等に応じて決定される月ごとの賃金総額から基本給・基本歩合給・勤続手当等の合計額を差し引いた額を支給する。
※「時間外手当」と「調整手当」に区分されている

 (a) 残業手当・深夜割増手当・休日割増手当(=時間外手当)
労働基準法に定められた方法により、時間外労働・深夜労働・休日労働の時間数に応じて算定した額

 (b) 調整手当
割増賃金の総額から時間外手当の額を差し引いた額

新給与体系に変わっても、Xを含む労働者の総労働時間や現に支払われた賃金総額は、旧給与体系の時とほとんど変わりませんでした。しかし賃金の内訳を見ると、新給与体系では基本給が増額された一方で基本歩合給が大幅に減額され、新たに調整手当が導入されることになりました。
新給与体系の導入に当たり、Y社はXを含む労働者に対して変更内容につき一応の説明をしたところ、特に異論は出ませんでした。

Xは、Y社に対して未払いの賃金(残業代など)を支払うよう請求する訴訟を提起したところ、第一審ではその一部(遅延損害金を含めて224万7013円)の支払いを命じる判決が言い渡されました。
Y社は第一審の認容額全部をXに支払いましたが、Xは第一審判決を不服として控訴しました。

控訴審の福岡高裁は、上記のY社の支払いによって賃金の未払いはなくなったとして、Xのその余の請求を棄却しました。新給与体系における時間外手当が、Xの時間外労働等の対価として支払われたものであると認めたためです。
その理由として、時間外手当は基本給から区別されていて金額を計算できるため、通常の労働時間の賃金と労働基準法上の割増賃金を区別できることや、Y社が労働者に対して新給与体系について一応の説明をしていたことなどを挙げています。

Xは控訴審判決を不服として、最高裁に上告しました。

判決の要旨

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