【最決令和5年10月26日】
吸収合併のための株主総会に先立って
対し委任状を送付したことが吸収合併等に
反対する旨の通知に当たるとされた事例

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この記事のまとめ

最高裁令和5年10月26日決定の事案では、吸収合併契約の承認を議案とする臨時株主総会に関して、株主が会社宛に送付した議決権代理行使の委任状が、株式買取請求権の要件である会社に対する反対通知に当たるかどうかが問題となりました。

最高裁は、賛否欄に「否」と記載されている委任状が送られてくれば、会社において反対議決権や株式買取請求がなされる株式の数の見込みが分かり、対策や検討の機会が得られる旨を指摘し、委任状は反対通知に当たると判示しました。

今後吸収合併等をしようとする会社は、賛否欄に「否」と記載されているなど反対の意思表示がなされていれば、委任状を会社に対する反対通知として取り扱い、株式買取請求に備える必要があります。

裁判例情報
最高裁令和5年10月26日決定(民集77巻7号1860頁)

※この記事は、2025年4月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

事案の概要

食品加工会社(S社)が、別の会社(N社)に吸収される吸収合併に関して、議決権代理行使の委任状が会社に対する反対通知に当たるか否かが争われた事案です。

食品加工会社であるS社は、N社との間で吸収合併契約を締結し、当該吸収合併契約の承認を決議事項とする臨時株主総会を招集しました。

S社の株主であるXはS社に対し、当該株主総会における議決権の行使をS社代表取締役に委任する旨の委任状を送付しました。
委任状には、吸収合併契約の承認議案の賛否について「」に○印が付けられており、欄外に「合併契約の内容や主旨が不明の上、数日前の通知であり賛否表明ができません(合併契約書を表示して下さい)」との付記がなされていました。

株主総会決議によって吸収合併契約は承認されましたが、S社代表取締役はXの代理人として、当該議案に反対する旨の議決権を行使しました。

その後、XはS社に対し、Xが保有するS社株式を公正な価格で買い取ることを請求しました。これは会社法に基づく反対株主株式買取請求権によるものです。
XとS社の間で、株式買取価格の協議が調わなかったため、Xは裁判所に対して価格決定の申立てを行いました。

しかし、Xが反対株主の株式買取請求権を行使するためには、株主総会に先立って吸収合併に反対する旨をS社に対して通知する必要があります。

Xは議決権代理行使の委任状をS社に対して送付していますが、この委任状がS社に対する反対通知に該当するか否かが問題となりました。

原審の名古屋高裁は、委任状において「否」に付けられた○印はあくまでもS社代表取締役に対する議決権行使の指示に過ぎず、S社に向けられたものではないと判示しました。
そのうえで、XがS社に対して送付した委任状は反対通知に当たらないとして、Xの株式買取請求権を認めませんでした。

Xは原審の決定を不服として、最高裁に対して許可抗告を行いました。

決定の要旨

最高裁は、原審の決定を破棄し、さらに原審と同旨である第一審の決定を取り消して、審理を名古屋地裁に差し戻しました。

最高裁は、反対株主として株式買取請求をするために、株主総会に先立つ反対通知が要件とされている趣旨は、会社に対策や検討の機会を与えることであると指摘しました。
すなわち、議案に反対する株主の議決権の個数や、株式買取請求がなされる株式数の見込みが分かれば、議案を可決させるための対策を講じたり、撤回を検討したりする機会が得られるということです。

このような趣旨に鑑みて最高裁は、委任状によって吸収合併に反対する旨の意思が会社に対して表明されている場合は、上記の見込みの認識や対策・検討の機会が会社に与えられていると言えるため、委任状の送付が反対通知に当たるとしました。

会社法785条1項、2項1号イ……の趣旨は、消滅株式会社等に対し、吸収合併契約等の承認に係る議案に反対する株主の議決権の個数や株式買取請求がされる株式数の見込みを認識させ、当該議案を可決させるための対策を講じたり、当該議案の撤回を検討したりする機会を与えるところにあると解される。

……株主が上記株主総会に先立って吸収合併等に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を消滅株式会社等に送付した場合であっても、……吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるときには、消滅株式会社等において、上記見込みを認識するとともに、上記機会が与えられているといってよいから、上記委任状を消滅株式会社等に送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。

引用元|最高裁令和5年10月26日決定(民集77巻7号1860頁)

本件について最高裁は、委任状において賛否欄の「」に○印が付けられていたため、吸収合併に反対するXの意思が委任状に表明されていたことは明らかであるとしました。
欄外の付記についても、吸収合併の議案に反対する理由を記載したものとみるべきであって、委任状に反対の意思が表明されていたとの判断を左右するものではないとしました。

本件委任状は、……代理人となるべき者に対して議決権の代理行使の内容を指示するだけのものではなく、上記勧誘をしてきたS社に対する応答でもあったということができ、本件委任状の送付は、S社に向けて本件吸収合併についてのXの意思を通知するものでもあったというべきである。そして、本件賛否欄には「否」に〇印が付けられていたのであるから、本件吸収合併に反対する旨のXの意思が本件委任状に表明されていたことは明らかである。……
以上からすると、本件委任状の送付は、本件吸収合併に反対する旨のXの意思をS社に対して表明するものということができる。
したがって、XがS社に対して本件委任状を送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。

引用元|最高裁令和5年10月26日決定(民集77巻7号1860頁)

判断のポイント

原審では、Xが送付した委任状の名宛人がS社代表取締役であり、S社ではない点に注目して、委任状がS社に対する吸収合併の反対通知には当たらないと判断しました。

これに対して最高裁は、株主総会に先立つ反対通知が要求されている趣旨を踏まえて、委任状が反対通知に当たるかどうかを実質的な観点から検討している点が注目されます。
委任状の名宛人がS社ではなくても、現実に委任状がS社に対して送付されており、吸収合併の議案の賛否欄に「」と明記されていれば、S社はXが反対株主であると認識できるということです。

本決定が実務に及ぼす影響

本決定がなされる以前は、議決権代理行使の委任状において、吸収合併等の賛否を「否」と記載して会社宛に返送しても、株式買取請求の要件である反対通知には当たらないとする学説が有力視されていました。

しかし本決定により、委任状の賛否欄の「否」に○印を付けて返送するだけでも反対通知に該当し、反対株主として株式買取請求権を行使できることが明らかになりました。
今後吸収合併、吸収分割または株式交換をしようとする会社は、反対の意思表示がなされている委任状も会社に対する反対通知として取り扱い、株式買取請求に備える必要があります。

ムートン

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