【東京高判令和6年5月22日】
業務委託先の従業員が起こした自損事故につき、
損害賠償責任の範囲が信義則上
損害額の10%に限定された事例

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この記事のまとめ

東京高裁令和6年5月22日判決では、建設業を営むX社が所有する2台のトラックを、業務委託先であるA社の従業員であったYが運転していたところ、いずれも自損事故を起こして破損させた事案が問題になりました。

東京高裁は、X社がYに対して請求できる損害賠償の範囲を、信義則上損害額の10%に限定しました。その理由として東京高裁は、YがX社の従業員から解体作業や廃材の運搬についての具体的な指示を直接受け、X社の車両・工具・資材等を使用していたことなどを挙げています。

本件では、業務委託先の従業員が委託元に加えた損害につき、直接雇用関係にある労働者に準じて損害賠償責任の範囲が制限された点が注目されます。

裁判例情報
東京高裁令和6年5月22日判決(判例タイムズ1530号94頁)

※この記事は、2025年11月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

事案の概要

本件は、建設業を営むX社(一審原告)が所有する2台のトラックを、業務委託先であるA社の従業員であったY(一審被告)が運転していたところ、いずれも自損事故を起こして破損させた事案です。
X社はAに対し、不法行為に基づき、407万5940円※と遅延損害金の損害賠償を請求しました。

※弁護士費用以外の損害額合計668万4606円-既払金(保険金)297万9206円+弁護士費用37万0540円=407万5940円

Yが起こした自損事故は、平成31年1月28日に発生したガードレール衝突(第1事故)と、同年3月13日に発生した高速道路での横転事故(第2事故)の2件です。

Yは以下の反論を行い、裁判所に対してX社の請求を棄却するよう求めました。

・労働者が労働の過程で軽過失によって損害を与えたとしても、そのリスクは使用者が負担すべきである。
※第1事故の時点は、YはX社に直接雇用されていたわけではなかったものの、直接雇用下にあるのと同視できる程度にXからの指揮命令に服していたと主張しました。第2事故の時点では、YはX社に直接雇用されていたと主張しました。
 
・X社は、A社に対して業務委託料40万円を支払わないことによって、本件の賠償額を実質的に回収している。
 
・代車費用については、代車の必要性がなく損害として認められない。仮に代車の必要性があったとしても、代車費用の損害は保険によって填補されている。
 
・逸失利益については、事故前と事故後の売上等の実績が比較されていないので、損害が明らかにされたとはいえない。また、X社が代車費用を請求していることを踏まえると、車両の使用ができなくなったことによる逸失利益を請求するのは矛盾している。
 
・車両保険においては、全損の場合には免責金額を控除しないのが通常である。第1事故・第2事故のいずれでも車両は全損となっているため、X社の主張する免責金額(各20万円)は控除されずに保険金が支払われたはずである。

原審の東京地裁立川支部は、2万2844円とこれに対する遅延損害金の限度でX社の請求を認めました。これに対して、X社とYの双方が自己の敗訴部分を不服として控訴しました。

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