解雇理由証明書とは?
使用者の交付義務・記載事項・
作成時の注意点などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

解雇理由証明書」とは、解雇の理由を記載した証明書です。労働者に対して解雇予告した使用者は、労働者の請求に応じて解雇理由証明書を交付しなければなりません。

解雇理由証明書には、主に以下の事項を記載します。
・労働者の氏名
・使用者の氏名または名称
・交付年月日
・解雇日または解雇予告の日
・解雇の理由

解雇理由証明書には、労働者の請求しない事項を記載してはなりません。また、再就職や転職を妨げる目的で、秘密の記号を記入することも禁止されています。
労働者側は、解雇理由証明書の記載内容を踏まえて、解雇不当であると主張してくることが予想されます。解雇理由は、訴訟になることも想定して記載しましょう。

この記事では解雇理由証明書について、使用者の交付義務に関するルール、記載事項および作成時の注意点などを解説します。

ヒー

懲戒解雇になった人から、「解雇理由証明書を発行してください」という連絡がありました。作成したことがないのですが、渡さないといけないのですか?

ムートン

解雇理由証明書を解雇になった労働者から求められた場合、使用者には交付義務があります。不必要なことは書いてはいけないので、注意して作成しましょう。

※この記事は、2025年3月14日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

解雇理由証明書とは

解雇理由証明書」とは、解雇の理由を記載した証明書です。労働者に対して解雇を予告した使用者は、労働者の請求に応じて解雇理由証明書を交付しなければなりません

解雇予告後は、解雇理由証明書の交付義務が生じる

解雇予告を受けた労働者は、退職日までの間、使用者に対して解雇の理由について証明書を請求することができます。労働者の請求を受けた使用者は、遅滞なく解雇理由証明書を交付しなければなりません(労働基準法22条2項)。

解雇理由証明書の交付が義務付けられているのは、解雇の理由を明確化し、労働者が反論できるようにするためです。使用者としては、労働者から反論されることを想定して、解雇の理由を適切に記載したうえで証明書を交付する必要があります。

請求された解雇理由証明書を交付すべき時期

解雇理由証明書は、労働者から請求された後「遅滞なく」交付するものとされています。

遅滞なく」とは、「事情の許す限りで早く」という意味と解されています。解雇理由証明書に記載する解雇の理由を、社内で改めて精査できる程度の時間的余裕はあります。

ただし、解雇理由証明書の交付があまりにも遅れると、労働者がその旨を労働基準監督署へ申告するなどして、トラブルに発展するおそれが否めません。
遅くとも、労働者の請求を受けてから1~2週間以内には、解雇理由証明書を交付できるようにしましょう。

解雇理由証明書の交付義務に違反した場合の罰則

解雇理由証明書の交付を怠った者は「30万円以下の罰金」に処されます(労働基準法120条1号)。
また、解雇理由証明書の交付を怠った者が、会社のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合は、会社も「30万円以下の罰金」に処されます(同法121条1項)。

検察官による起訴までには至らなくても、労働基準監督署に解雇理由証明書の交付義務違反を疑われると、労働基準監督官による臨検(立ち入り調査)が行われることがあります(同法101条1項)。

臨検の結果、解雇理由証明書の交付義務違反が認められた場合は、事業場に対して是正勧告がなされます。是正勧告を受けた場合は、速やかに解雇理由証明書を交付するなどの是正対応を行わなければなりません。
是正勧告に従わないと、事件が検察官に送致されて起訴される可能性が高まるのでご注意ください。

解雇理由証明書と退職証明書の違い

解雇理由証明書と類似した文書として「退職証明書」が挙げられます。

退職証明書は、退職に関する事項を使用者が証明する文書です(労働基準法22条1項)。次の項目のうち、労働者が請求した事項のみを記載します。労働者が退職証明書を請求できるのは、実際に退職した後です。

退職証明書の記載事項

・使用期間
・業務の種類
・その事業における地位
・賃金
・退職の事由(解雇の場合は、その理由を含む)

これに対して解雇理由証明書は、労働者の氏名や解雇予告日などの基本的事項を除き、専ら解雇の理由を記載した証明書です(同条2項)。退職証明書とは異なり、解雇理由証明書は解雇の予告を受けた日から退職の日までの間に請求できます。

ただし実務上は、退職した後に解雇理由証明書の交付を請求されるケースもよくあります。この場合、労働基準法上は「退職証明書」を交付することになります。

退職証明書の記載事項は上記のとおりですが、労働者が請求していない事項を記載してはいけません(同条3項)。したがって、解雇の理由の証明のみを求められた場合は、退職に関するその他の事項は記載せず、解雇の理由のみを記載した退職証明書を発行する必要があります。

解雇理由証明書を交付しなくてよいケース

解雇理由証明書は、解雇を予告した労働者全員に対して交付を要するわけではありません。以下に挙げる場合には、解雇理由証明書の交付は不要です。

  • 労働者から交付を請求されていない場合
  • 解雇予告後に、自主退職または合意退職をした場合
  • 解雇後2年間が経過した場合

労働者から交付を請求されていない場合

解雇理由証明書は、労働者から請求された場合に限って交付する義務が生じます。したがって、労働者が請求してこない場合は、解雇を予告した場合でも解雇理由証明書を交付する必要はありません。

解雇予告後に、自主退職または合意退職をした場合

労働者に対して解雇を予告した後に、労働者が自主退職をした場合や、労使の合意に基づいて退職した場合には、解雇理由証明書を交付する必要がなくなります。

前述のとおり、退職後に請求された場合は退職証明書を交付することになります。

退職証明書について、解雇された労働者はその理由の記載を請求できます。しかし、自主退職や合意退職は解雇ではないので、解雇の理由の記載を請求することはできません
使用者においても、労働者に対して予告した解雇の理由を、自主退職や合意退職の退職証明書に記載する必要はありません。

解雇後2年間が経過した場合

解雇理由証明書または退職証明書の請求権は、行使することができる時から2年が経過すると時効により消滅します(労働基準法115条)。
解雇後に解雇理由証明書(法的には退職証明書)を請求された場合でも、請求の時点で解雇後2年間が経過している場合は、使用者は労働者に対して当該書面を交付する義務を負いません。

ただし、上記の時効が完成する前に、労働者から内容証明郵便や裁判手続きなどによって解雇理由証明書(退職証明書)の請求を受けた場合は、時効の完成が猶予されます。この場合は、引き続き証明書の交付義務が残る点にご注意ください。

解雇理由証明書の書き方|記載事項の例文(記載例)を紹介

解雇理由証明書の例文(記載例)を紹介します。実際に解雇理由証明書を作成する際の参考にしてください。

解雇理由証明書

○○ ○○ 殿

×年×月×日
株式会社○○
代表取締役 ×× ××

当社が、○年○月○日付けで貴殿に予告した解雇については、以下の理由によるものであることを証明します。

【解雇の具体的な理由を記載する。】

以上

解雇理由の記載例

① 破産等による廃業の場合
当社は、○○を原因として事業の継続が不可能となり、○年○月○日付けで○○地方裁判所に対して破産手続開始の申立てを行いました。当該破産申立てに先立ち、貴殿を含む労働者全員を解雇したものです。

② 経営不振による整理解雇の場合
当社は、○○を原因として経営不振に陥り、人件費を削減する高度の必要性が生じました。○○などの代替措置を講じたものの、十分な効果が得られず、整理解雇の実施がやむを得ないとの判断に至りました。そのため、当社所定の基準に従い、貴殿を整理解雇の対象者として選定したものです。

③ 就業規則違反による懲戒解雇の場合
貴殿がした下記の行為は、当社の就業規則における下記の条項に違反するものです。

・○年○月○日、○○○○をした行為(第○条第○項)
……

以上

当該行為はいずれもきわめて悪質であり、当社において改善の見込みが全くないと判断したため、貴殿の懲戒解雇を決定したものです。

④ 著しい能力不足による普通解雇の場合
貴殿は○年○月○日に当社へ入社した後、多数回にわたって業務上の軽率なミスを繰り返しました。所属部署の上長等が再三にわたって指導を行ったものの、一向に改善の余地が見られません。そのため当社において、就業規則第○条第○項の解雇事由に当たると判断し、貴殿の普通解雇を決定したものです。

解雇理由証明書を作成する際の注意点

解雇理由証明書(または退職証明書)を作成する際には、特に以下の各点に注意しましょう。

  • 労働者の請求しない事項を記載してはならない
  • 再就職や転職を妨げる目的で、秘密の記号を記入してはならない
  • 解雇理由は、訴訟になることも想定して記載すべき

労働者の請求しない事項を記載してはならない

解雇理由証明書には、労働者の請求しない事項を記載してはなりません。退職証明書についても同様です(労働基準法22条3項)。

特に、労働者が退職後に請求できる退職証明書については、労働基準法において記載事項が複数挙げられているものの、労働者が請求した事項のみ記載すべき点に注意を要します。
例えば、解雇の事実のみを証明するよう請求されているのに、解雇の理由を証明書に記載してはなりません。

労働者が請求していない事項を解雇理由証明書に記載した場合は、行為者および会社がそれぞれ「30万円以下の罰金」の対象になります(同法120条1号・121条1項)。
実際に刑事罰が科される可能性は低いですが、労働基準監督署の是正勧告を受けることや、労働者から損害賠償を請求されることなどは十分考えられるのでご注意ください。

再就職や転職を妨げる目的で、秘密の記号を記入してはならない

使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、解雇理由証明書に秘密の記号を記入してはなりません退職証明書についても同様です(労働基準法22条4項)。

前述のとおり、解雇理由証明書および退職証明書には、労働者が請求しない事項を記載してはならないとされています。これは、労働者が再就職先などから証明書の提出を求められた際、労働者にとって不利益な事実が提出先に知られることがないよう配慮するためです。
秘密の記号の記載によって、労働者が想定しない事実が提出先に知られてしまうと、上記の趣旨が台無しになってしまいます。そのため、就業妨害の目的で、解雇理由証明書および退職証明書に秘密の記号を記載することは禁止されています。

例えば業界内で通用している暗黙の了解に従い、労働組合に所属していたことや、遅刻や欠勤が多かったことなどを示す記号を、解雇理由証明書または退職証明書に記載することは労働基準法違反です。

一見して何を意味するか分からない記号を記載していると、就業を妨げる目的で秘密の記号を記載したと判断されるおそれがあります。
解雇理由証明書または退職証明書には、あくまでも労働者から請求された事項のみを記載し、紛らわしい記載をしないように心がけましょう。

上記の規制に違反した場合、行為者は「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」、会社は「30万円以下の罰金」の対象になります(同法119条1号・121条1項)。
また、労働基準監督署の是正勧告や、労働者からの損害賠償請求を受けるおそれもあるので十分ご注意ください。

解雇理由は、訴訟になることも想定して記載すべき

労働者側は、解雇理由証明書の記載内容を踏まえて、解雇不当であると主張してくることが予想されます。そのため、解雇理由は訴訟になることも想定して記載すべきです。

会社においてきちんと検討を行ったことが分かるように、解雇理由は具体的に記載することが望ましいです。

その一方で、解雇の原因となる労働者の行為が複数ある場合は、それをどこまで列挙するかについて個別の検討を要します。中途半端に列挙すると、証明書に記載されていない理由を後から主張したときに「後付けだ」などと反論される可能性があるので注意しましょう。

不当解雇に関する訴訟では、会社側は解雇が正当であったことを証明しなければなりません。解雇の正当性を十分立証できるように、客観的な資料に照らして合理的な解雇理由を検討しましょう。

ムートン

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