抱き合わせ販売とは?
問題点・独占禁止法の規制・
セット販売との違い・事例・対策などを
分かりやすく解説!

この記事のまとめ

抱き合わせ販売」とは、メインとなる商品やサービスに、別の商品やサービスを付けてセットで販売することをいいます。

抱き合わせ販売には、不要な商品・サービスの購入を強要する側面や、競合他社を不当に排除する側面があると考えられます。そのため独占禁止法では、不当な抱き合わせ販売を「不公正な取引方法」として禁止しています。

商品やサービスのセット販売をする際には、相手方に対して不要品を押し付けたり、競争を不当に制限したりすることにならないかを慎重に検討すべきです。
また、取引先から抱き合わせ販売の疑いがある勧誘を受けた場合は、公正取引委員会への通報を検討しましょう。

この記事では抱き合わせ販売について、問題点・独占禁止法の規制・事例・対策などを解説します。

ヒー

「抱き合わせ販売は禁止」と聞きました、でもセット販売の商品はたくさんありますよね。あれって全部違法なんですか?

ムートン

全ての抱き合わせ販売が違法なのではなく、相手方に対して不当に不利益を与える場合などに問題になります。シェアなども関係してくるため、しっかりと理解しましょう!

※この記事は、2024年9月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 独占禁止法…私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
  • 一般指定…不公正な取引方法(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号)

抱き合わせ販売とは

抱き合わせ販売」とは、メインとなる商品やサービスに、別の商品やサービスを付けてセットで販売することをいいます。

抱き合わせ販売によって、「おまけ」のような位置づけで販売される商品やサービスには、以下のようなパターンがあります。

抱き合わせ販売の例

・メインとなる商品やサービスとセットにすることにより、付加価値が生じて顧客満足度が向上するもの
(例)電動歯ブラシに、替えのブラシを付けて販売する

・売れ残っていて、在庫を処分したいもの
(例)人気があるゲームソフトに、売れ残っているゲームソフトを付けて販売する

・これから積極的に訴求して、知名度や売上を向上させたいもの
(例)PCに、最近開発した自社製のセキュリティソフトを付けて販売する
など

抱き合わせ販売の問題点

複数の商品を組み合わせることによって新たな付加価値を生じさせることは、技術革新や販売促進の手法として、必ずしも不適切とはいえません

しかし、抱き合わせ販売の対象とする商品・サービスの組み合わせや、企業側の意図によっては、以下のような問題点が生じることがあります。

① 不要な商品・サービスの購入を強要する側面がある
② 競合他社を不当に排除する側面がある

不要な商品・サービスの購入を強要する側面がある

抱き合わせ販売の商品やサービスを購入する消費者は、本当はそのうちいずれかだけを購入したいと考えているかもしれません。

ヒー

こっちの品はいらないけど、セットでしか売ってないと言われたから…

抱き合わせではなく別々にも購入することができるなど、消費者に選択肢が与えられていれば大きな問題はありません。しかし、抱き合わせでの購入を強制するような形で販売されている場合は、消費者に対して不要な商品・サービスの購入を強要する側面があります。

このような形での抱き合わせ販売は、消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害する点で問題があると考えられます。

競合他社を不当に排除する側面がある

抱き合わせ販売の組み合わせによっては、競合他社を不当に排除する効果が生じることがあります。

例えば、市場において大きなシェアを占める商品(PCやゲーム機本体など)に、自社製のソフトウェアを必ずセットで販売するとします。この場合、他社がその商品について同種のソフトウェアを供給することは、事実上不可能になってしまいます。

もちろん、自社商品に自社製のソフトウェアを付けることは、消費者の利便性を高める側面もあるため、一概に不適切であるとは言えません。
しかし、消費者のメリットに比べて、競合他社を不当に排除することなどによるデメリットが大きい場合は、独占禁止法との関係で問題になることがあります。

抱き合わせ販売に対する独占禁止法上の規制

独占禁止法では、不当な抱き合わせ販売を「不公正な取引方法」として禁止しています。

「不公正な取引方法」とは

不公正な取引方法とは、事業者間における公正な競争を阻害するおそれがあるものとして、独占禁止法によって禁止されている行為です(独占禁止法19条)。

不公正な取引方法に当たる行為は、独占禁止法2条9項において列挙されています。
また、同条6項を受けて、公正取引委員会の告示により「一般指定」と「特殊指定」が定められています。

独占禁止法における抱き合わせ販売の定義|適法なセット販売との違いは?

一般指定
(抱き合わせ販売等)
10 相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。

引用元|公正取引委員会ウェブサイト「不公正な取引方法(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号)

複数の商品やサービスをセットで販売する行為が、一律で独占禁止法に該当するわけではありません。上記のとおり、独占禁止法によって禁止される抱き合わせ販売は、「不当」および「強制」であることが要件とされています。

抱き合わせ販売が「不当」であるのは、従たる商品(=いわゆる「おまけ」の商品)について、市場閉鎖効果が生じる場合です。市場閉鎖効果とは、既存の競争者の事業活動を阻害したり、参入障壁を高めたりするような状況などをもたらすことをいいます。

抱き合わせ販売によって市場閉鎖効果が生じるかどうかは、以下の要素などによって判断されます。

市場閉鎖効果の有無の判断基準

① ブランド間競争の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易度など)
② ブランド内競争の状況(価格のバラツキの状況、当該商品を取り扱っている流通業者等の業態など)
③ 抱き合わせ販売をする事業者の市場における地位(市場シェア、順位、ブランド力など)
④ 抱き合わせ販売が他の事業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度、態様など)
⑤ 抱き合わせ販売によって影響を受ける他の事業者の数、および市場における地位
など

特に、販売事業者の市場における地位(主にシェアなど)が高ければ高いほど、抱き合わせ販売が不当である(=不公正な取引方法である)と判断される可能性が高くなる点に留意すべきです。

なお、抱き合わせ販売が不公正な取引方法に当たるのは、「強制」である場合に限られています。したがって、買い手側がバラバラに購入することもできる場合は、原則として不公正な取引方法に当たりません。
ただし、バラバラに購入する場合は価格が異常に高くなるなど、事実上抱き合わせ販売を強制していると評価できる場合は、不公正な取引方法に当たると判断される可能性があります。

抱き合わせ販売をした場合のペナルティ

不公正な取引方法に当たる抱き合わせ販売をした者は、以下のペナルティを受けるおそれがあります。

① 公正取引委員会による排除措置命令
② 取引先等による差止請求・損害賠償請求

公正取引委員会による排除措置命令

不公正な取引方法を用いた事業者は、公正取引委員会から排除措置命令を受け、抱き合わせ販売の差止めなどを命じられることがあります(独占禁止法20条)。

排除措置命令に不服がある場合は、6カ月間に限り取消訴訟を提起することができますが、出訴期間を経過すると排除措置命令が確定します。
確定した排除措置命令に違反した者には「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」が科されるほか(同法90条3号)、法人にも「3億円以下の罰金」が科されます(同法95条1項2号)。

取引先等による差止請求・損害賠償請求

不公正な取引方法によって利益を侵害されて著しい損害が生じたとき、またはそのおそれがあるときは、その事業者に対して侵害の停止または予防を請求することができます(独占禁止法24条)。

また、不公正な取引方法に関する排除措置命令が確定した後に限り、被害者は違反事業者に対して損害賠償を請求することもできます(同法25条・26条1項)。

差止請求や損害賠償請求を受けると、違反事業者は経済的に大きな損失を被ってしまうおそれがあるので注意が必要です。

抱き合わせ販売が問題となった事例

抱き合わせ販売が問題になった事例として、以下の3つを紹介します。

① ゲームソフトの抱き合わせ販売をした事例
② 表計算ソフトとワープロソフトなどの抱き合わせ販売をした事例
③ 消毒用機器と消毒液の抱き合わせ販売をした事例

ゲームソフトの抱き合わせ販売をした事例

家庭用電子おもちゃの卸売りをするH社が、人気ゲームソフト「ドラゴンクエストⅣ」を約7万7600本仕入れた上で、そのうちの一部を在庫となっているゲームソフトとセットにして販売した事例です。

H社は、「ドラゴンクエストⅣ」の販売に当たって在庫ゲームソフトを処分しようと考え、以下の内容を小売業者に周知しました。

  • 過去の取引実績に応じて、各小売業者に「ドラゴンクエストⅣ」の本数を配分する
  • 数量配分を超える本数の購入を希望する場合は、在庫ゲームソフト3本を購入することを条件に、「ドラゴンクエストⅣ」を追加で1本販売する

その結果、25店の小売業者が上記の提案に応じ、「ドラゴンクエストⅣ」約1700本と、在庫ゲームソフト約3500本の抱き合わせ販売が行われました。

公正取引委員会は、「ドラゴンクエストⅣ」が人気の高い商品であることや、H社における在庫処分の組織的・計画的な意図を否定できないことなどを踏まえて、上記の抱き合わせ販売につき排除措置命令を行いました。

表計算ソフトとワープロソフトなどの抱き合わせ販売をした事例

PC用OSソフト「Windows」で著名なM社が、1995年から数年間にわたり、自社製品のうちシェアの高かった表計算ソフト「Excel」と、ワープロソフト「Word」とスケジュール管理ソフト「Outlook」をセットで販売した事例です。

M社は1994年当時、Excelについて表計算ソフトの市場シェア第1位を占めていた一方で、Wordはワープロソフトの市場シェア第2位でした。
また、Outlookの発売開始は1997年で、スケジュール管理ソフトの中では後発でした。

M社はPCメーカーとの間で、当初はExcelとWord、Outlookの発売開始後はExcel・Word・Outlookをプレインストールまたは同梱させる契約を締結しました。
その結果、WordとOutlookの市場シェアが拡大し、1997年にはいずれも市場シェア第1位となりました。

公正取引委員会は、シェアの高かったExcelにWordとOutlookを抱き合わせて販売することで、ワープロソフトとスケジュール管理ソフトの公正な市場競争を阻害したと判断し、M社に対して排除措置命令を行いました。

消毒用機器と消毒薬の抱き合わせ販売をした事例

アメリカの大手製薬会社J社から事業を引き継ぎ、内視鏡洗浄消毒器を販売しているA社が、公正取引委員会から排除措置命令を受けた事案です。

J社およびA社は、販売する内視鏡洗浄消毒器に、自社製の消毒薬のパッケージにつけたバーコードを読み取らなければ洗浄消毒機能が作動しない仕組みを導入していました。
これは、安価な後発消毒薬が使用されることにより、自社製の消毒薬の売上が減少するのを防ぐ目的によるものでした。

公正取引委員会は、J社およびA社の行為が消毒薬に関する公正な市場競争を阻害しているものと判断し、A社に対して排除措置命令を行いました。

参考:公正取引委員会ウェブサイト「(令和6年7月26日)ASP Japan合同会社に対する排除措置命令について」

不当な抱き合わせ販売をしないための注意点

独占禁止法違反に当たる不当な抱き合わせ販売をしないためには、公正な市場競争を阻害する効果(=市場閉鎖効果)が生じるかどうかについて、事前に慎重な検討を行うことが大切です。

特に、市場シェアが大きい商品やサービスと、他の商品やサービスをセットで販売する際には注意を要します。
過去の排除措置命令の事例などを参考にしながら検討を行い、市場閉鎖効果が生じる可能性がある場合には抱き合わせ販売を取り止めましょう。

取引先から抱き合わせ販売の勧誘を受けた場合の対処法

取引先から、買いたい商品と買いたくない商品を抱き合わせで購入するよう求められた場合は、その抱き合わせ販売が不公正な取引方法に当たらないかどうかを検討しましょう。

抱き合わせ販売によって市場閉鎖効果が生じると思われる場合には、公正取引委員会への通報をご検討ください。

参考:公正取引委員会ウェブサイト「相談・申告・情報提供・手続等窓口」
ムートン

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参考文献

公正取引委員会ウェブサイト「不公正な取引方法(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号)」

公正取引委員会ウェブサイト「特殊指定の見直し」

公正取引委員会ウェブサイト「(令和6年7月26日)ASP Japan合同会社に対する排除措置命令について」

公正取引委員会ウェブサイト「相談・申告・情報提供・手続等窓口」