意匠権とは?
権利の概要・登録要件・侵害の
判断基準や対抗策などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「意匠権」とは、物品や建築物などの意匠(デザイン)を保護する知的財産権です。
デザインについて意匠登録をすれば、他社によるデザインの模倣を防ぐことができます。また、他社に対してデザインの使用を許諾し、ライセンス料収入を得ることも可能です。
意匠登録をするためには、意匠法に定められる登録要件を満たす必要があります。特許権などと同様に先願主義が採用されているので、デザインを公表する前に意匠登録の出願を行うことが望ましいです。
意匠権侵害の有無は、デザインの要部(重要な部分)の同一性・類似性と、全体としての類似性を総合的に考慮して判断されます。
意匠権侵害を受けた場合には、侵害者に対して差止請求や損害賠償請求などを行うことができます。
この記事では意匠権について、権利の概要・登録要件・侵害の判断基準や対抗策などを解説します。
※この記事は、2023年4月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
意匠権とは
「意匠権」とは、物品や建築物などの意匠(デザイン)を保護する知的財産権です。
意匠法が保護対象とする「意匠」には、以下の3種類があります(意匠法2条1項)。
①物品の意匠(例:車やかばんのデザイン)
②建築物の意匠(例:博物館やホテルのデザイン)
③画像の意匠(例:スマートフォンの操作画面やアプリの表示画面のデザイン)
意匠権の目的
意匠権の目的は、デザイン(意匠)を保護することによって創作を促し、産業の発達に貢献することです。
意匠権が認められることにより、生み出したデザインを他人に盗用されることを防ぎ、場合によってはライセンスにより収益化できるようになります。その結果、社会全体で創作意欲が掻き立てられ、新たなデザインが次々と生み出されることが期待されています。
意匠権を取得するメリット
意匠権を取得するメリットは、主に以下の6点です。
✅模倣品を発見しやすい
意匠権は見た目に関する権利なので、知的財産権に精通していなくても容易に模倣品を発見できます。
✅他者へのけん制や模倣品排除に効果的
意匠登録がなされると、その内容が公示されるため、他者による模倣品や類似品の投入をけん制する効果があります。
✅特許性の有無にかかわらず権利化できる
意匠権は見た目を保護する権利なので、特許権が取得できない場合でも、意匠権による保護が可能となる場合があります。
✅ブランド形成に役立てることができる
自社らしさが表れたデザインを保護することで、ブランドイメージの形成に役立ちます。
✅手続が簡便なため、出願しやすい
意匠登録の手続に必要な書類は、「図面」と「願書」のみなので、比較的出願がしやすいです。
✅費用と時間を抑えて権利化できる
意匠は、特許などと比べ、権利化までにかかる費用が安く、審査機関も短いです。
参考元|特許庁「みんなの意匠権 十人十色のつかいかた」
意匠権によって保護されるデザインの具体例
意匠権によって保護される「意匠」とは、以下のいずれかであって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいいます(意匠法2条1項)。
- 意匠に当たるもの
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①物品の形状・模様・色彩またはこれらの結合
(例)
・電化製品のデザイン
・家具のデザイン
・服のデザイン
・自動車のデザイン②建築物の形状・模様・色彩またはこれらの結合
(例)
・ビルのデザイン
・博物館のデザイン③画像(機器の操作に使用されるもの、または機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限る)
(例)
・スマートフォンの情報表示用画像
・PCアプリのGUI
意匠権の効力(効果)
意匠権をもつ者(以下、意匠権者)は、業として「登録意匠」および「これに類似する意匠」の実施をする権利を専有します(意匠法23条)。
登録意匠との類似性は、重要な部分の同一性・類似性および全体としての類似性を考慮して判断されます(詳細は「「要部」の同一性・類似性」にて解説します)。
意匠権の存続期間(有効期間)
意匠権の存続期間は、意匠登録出願の日から25年です(意匠法21条1項)。ただし、関連意匠の意匠権については、基礎意匠の意匠登録出願の日から25年で失効します(同条2項)。
※関連意匠:出願中または登録済みの自己の意匠に類似した意匠として、意匠権の設定登録を受けたもの(同法10条)
※基礎意匠:関連意匠のベースとして選択された意匠
登録意匠の確認方法
意匠権の設定登録が済んでいる意匠は、独立行政法人工業所有権情報・研修館の「特許情報プラットフォーム」で確認できます。
意匠権の主な活用方法
意匠権の主な活用方法は、以下の2つです。
- 自社製品の模倣を防ぐ
- 登録意匠の使用を許諾してライセンス料収入を得る
自社製品の模倣を防ぐ
意匠権の登録を受けることにより、他人が登録意匠またはそれと類似した意匠を業として使用することは禁止されます。
また、他者に意匠権を侵害された場合でも、差止請求や損害賠償請求などができるようになります(とりうる対抗策の詳細は「意匠権侵害を受けた場合の対抗策」にて解説します)。
その結果、登録意匠についての独自性が確保でき、自社商品の差別化・ブランド化を図ることができます。
登録意匠の使用を許諾してライセンス料収入を得る
登録意匠のデザインが魅力的である場合は、他社からそれを使用したいとのオファーが届く可能性があります。
他社に対して登録意匠の使用を許諾すれば、その対価としてライセンス料収入が得られます。意匠権の存続期間(25年)を通じてライセンス料収入を得ることができれば、会社として資金繰りの安定やさらなる成長につながるでしょう。
意匠権の取得方法
自社のデザインについて意匠権を取得するためには、特許庁に対して意匠登録の出願を行います。特許庁の審査官は、次の項目で解説する登録要件に沿って、意匠登録の可否を審査します。
意匠を出願する方法の詳細については、以下の記事を参照ください。
意匠登録の要件
意匠登録を受けるためには、以下の要件を全て満たす必要があります。
①工業上の利用可能性
②新規性|今までにない新しいデザインであること
③創作非容易性|当業者が容易に創作できるデザインでないこと
④先に出願された意匠の一部と同一または類似でないこと
⑤不登録事由に該当しないこと
⑥一意匠一出願|デザインごとに出願していること
⑦先願|他人よりも早く出願したこと
工業上の利用可能性
意匠登録が認められるデザインは、工業上利用できるものであることが必要です(意匠法3条1項)。
工業上の利用可能性に関しては、以下の要素などが審査されます。
- どのような用途に用いられるデザインか
- デザインの形状は特定できるか
- 視覚に訴えるデザインであるか
- 同一のデザインを量産し得るか
新規性|今までにない新しいデザインであること
意匠登録を受けるデザインは、今までにない新しいものである必要があります(意匠法3条1項各号)。言い換えれば、出願前に同一または類似のデザインが存在しないことが必要です。
なお、自身(自社)の創作したデザインであっても、出願前に公開されたものは新規性の要件を満たさないのが原則です。ただし、新規性喪失の例外規定の適用を受けることにより、新規性がないことを理由とする拒絶査定を回避できます。
創作非容易性|当業者が容易に創作できるデザインでないこと
新規性のあるデザインであっても、そのデザインの属する分野における通常の知識を有する者(=当業者)が出願前の段階で、以下の情報に基づき容易に創作できたものについては、意匠登録が認められません(意匠法3条2項)。
- 日本国内または外国において公然に知られたもの
- 頒布された刊行物に記載されたもの
- 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったもの
先に出願された意匠の一部と同一または類似でないこと
先に出願されて意匠公報に掲載された意匠の一部と同一または類似のデザインについては、新規性がないため意匠登録を受けることができません(意匠法3条の2本文)。
ただし、先行出願と同じ者が出願する場合には、先行出願が掲載された意匠公報の発行前に出願すれば、後行出願についても意匠登録が認められる可能性があります(同条ただし書き)。
不登録事由に該当しないこと
以下のいずれかに該当するデザインは、意匠登録を受けることができません(意匠法5条)。
①公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある意匠
②他人の業務に係る物品・建築物・画像と混同を生ずるおそれがある意匠
③物品の機能を確保するために不可欠な形状、もしくは建築物の用途にとって不可欠な形状のみからなる意匠、または画像の用途にとって不可欠な表示のみからなる意匠
一意匠一出願|デザインごとに出願していること
意匠登録は、原則として個々の意匠ごとに出願する必要があります(意匠法7条)。複数の意匠をまとめて出願することは、原則として不適法です。
ただし、以下のいずれかに該当するデザインは、例外的に一意匠として出願して意匠登録を受けることができます。
①組物の意匠(同法8条)
同時に使用される2以上の物品・建築物・画像であって、意匠法施行規則別表に定めるものを構成する物品・建築物・画像に係る意匠のうち、組物全体として統一性があるもの
②内装の意匠(同法8条の2)
店舗・事務所その他の施設の内部の設備・装飾(=内装)を構成する物品・建築物・画像に係る意匠のうち、内装全体として統一的な美感を起こさせるもの
先願|他人よりも早く出願したこと
同一または類似の意匠について、異なる日に2以上の意匠登録出願があった場合、最も先に出願した者だけが意匠登録を受けられます(先願主義。意匠法9条1項)。
なお、同一または類似の意匠について、同日に2以上の意匠登録出願があった場合、出願人の協議によって意匠登録を受けられる者を定めます。協議が成立しない場合には、いずれの出願人も意匠登録を受けることができません(同条2項)。
意匠権侵害の判断基準
登録意匠と同一または類似の意匠を、意匠権者に無断で業として使用する行為は意匠権侵害に当たります。
問題となる意匠が登録意匠と類似しているか否かを判断するに当たっては、知財高裁平成23年3月28日判決が示した以下の枠組みが参考になります。
①「要部」の同一性・類似性
②全体としての類似性|「要部の類似性」と「他部の違い」の比較
「要部」の同一性・類似性
知財高裁平成23年3月28日判決は、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の「要部」として把握し、登録意匠と問題となる意匠が要部において構成態様を共通にしているか否かを観察する必要があると指摘しました。
・意匠に係る物品の性質、用途、使用態様
・公知意匠にはない新規な創作部分の存否
など
登録意匠と問題となる意匠の要部が同一であるか、または似通っている場合には、意匠権侵害が認定される可能性が高くなります。
全体としての類似性|「要部の類似性」と「他部の違い」の比較
知財高裁平成23年3月28日判決は、意匠の類否を判断するに当たり、要部の比較にとどまらず、意匠を全体として観察することを要すると指摘しました。
全体としての類似性の有無を判断する際には、「要部の同一性・類似性」と「他部の違い」のどちらが強い印象を与えるかがポイントです。
前者が上回る場合は意匠権侵害が認定されやすく、後者が上回る場合は意匠権侵害が否定されやすくなります。
意匠権侵害を受けた場合の対抗策
自社の意匠権を侵害された場合には、以下の方法によって対抗しましょう。
①差止請求
②不法行為に基づく損害賠償請求・不当利得返還請求
③信用回復措置請求
④刑事告訴
差止請求
意匠権者は、事故の意匠権を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止・予防などを請求できます(意匠法37条)。
意匠権侵害の差し止めには緊急を要する場合が多いので、民事保全法に基づく差止仮処分を申し立てるのが一般的です(民事保全法23条2項)。
不法行為に基づく損害賠償請求・不当利得返還請求
自社の意匠権を侵害されて損害を被った場合、侵害者に対して不法行為に基づき損害賠償を請求できます(民法709条)。
意匠権侵害による損害賠償請求については、損害額の推定規定が設けられており、意匠権者側の立証責任が緩和されています(意匠法39条)。
また、侵害者が意匠権侵害に当たる行為によって利得を得て、その反面意匠権者が損失を被った場合、意匠権者は不当利得返還請求を行うこともできます(民法703条、704条)。
信用回復措置請求
意匠権侵害によって業務上の信用が害された場合、意匠権者は侵害者に対して、業務上の信用を回復するのに必要な措置を請求できます(意匠法41条、特許法106条)。例えば、登録意匠を盗用した粗悪商品を販売した場合などが、信用回復措置請求の対象です。
具体的な信用回復措置としては、日刊紙・TVCM・ウェブサイトなどを通じた謝罪広告が代表例に挙がります。
刑事告訴
故意に意匠権をした者について、意匠権者は刑事告訴することができます(刑事訴訟法230条)。
刑事告訴を受けた捜査機関には、当該犯罪について捜査を行う義務が発生するため、侵害者が刑事処分を受ける可能性が高まります。
意匠権侵害に科される罰則(刑事罰)
意匠権者の許諾を得ずに、登録意匠または類似意匠を業として使用した者には「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金」が科されます(意匠法69条)。
また、譲渡・貸し渡し・輸出の目的で侵害物品を所持する行為など、意匠権の侵害とみなされる行為(同法38条)をした場合は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」が科されます(同法69条の2)。
法人の代表者、または法人・個人の代理人・使用人その他の従業者が、その業務に関して上記の違反行為をした場合には、当該法人・個人にも「3億円以下の罰金」が科されます(同法74条1項1号)。
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