【2024年4月等施行】金融商品取引法等改正とは?
四半期報告書の廃止・
ソーシャルレンディング等の規定整備
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- この記事のまとめ
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2023年11月20日、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が成立し、2023年11月29日に公布されました。施行日は2024年4月1日等とされています。
改正内容は多岐にわたりますが、この記事では、特に、
✅ 四半期報告制度の廃止
✅ ソーシャルレンディング等に関する規定の整備
について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年12月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
- 金商法…金融商品取引法
- 改正金商法…金融商品取引法等の一部を改正する法律による改正後の金商法
- 企業内容等開示府令…企業内容等の開示に関する内閣府令
目次
【2024年施行予定】金融商品取引等の一部を改正する法律とは
金融商品取引法等改正の背景
2023年3月14日、金融庁より、「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され、同年11月20日に成立しました。
これは、「我が国の金融及び資本市場をめぐる環境変化に対応し、金融サービスの顧客等の利便の向上及び保護を図るため、顧客等の最善の利益を勘案しつつ、誠実かつ公正に業務を遂行すべき義務の規定の整備、顧客等への契約締結前の説明義務等に係る規定の整備、インターネットを用いてファンド形態で出資を募り企業等に貸し付ける仕組みを取り扱う金融商品取引業者に係る規制の整備等を講ずる必要がある」ことを理由としています。
金融商品取引等の一部を改正する法律の公布日・施行日
「金融商品取引等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)の公布日と施行日は、以下のとおりです。
- 公布日・施行日
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公布日|2023年11月29日
施行日|
①2024年4月1日:四半期報告書制度の廃止関連
②公布日から起算して1年以内の日(2024年11月28日までの日):その他
③公布日から起算して1年半以内の日(2025年5月28日までの日):ソーシャルレンディング関連等
改正ポイント1|四半期報告書制度の廃止
改正前の四半期報告書制度とは
これまで、上場会社は、金商法24条の4の7に基づき、内閣総理大臣に対する四半期報告書の提出が義務付けられてきました。
- 四半期報告書とは
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四半期報告制度は、企業を取り巻く経営環境の変化が激しくなり、企業業績も短期間で大きく変化するようになる中、投資家に対して企業業績等に関する情報をより適時に開示するとともに、企業内において、より適時な情報把握により的確な経営の検証を行う必要性があるとの認識のもと、2006年に導入されました。
四半期報告書の構成は法定されており、企業情報(事業・会社・経理の状況など)を開示する必要があります。上場会社の場合は、金融商品取引所で3年間公衆の縦覧に供されます(金商法25条1項7号)。
四半期決算短信とは
他方、上場会社は、金融商品取引所の自主規制の適用も受けており、東京証券取引所の有価証券上場規程404条によれば、「事業年度若しくは四半期累計期間又は連結会計年度若しくは四半期連結累計期間に係る決算の内容が定まった場合は、直ちにその内容を開示しなければならない」とされています。
四半期決算短信は、「決算短信・四半期決算短信作成要領等」(株式会社東京証券取引所、2022年4月)に従って作成することとされており、四半期における業績(経営成績、財政状態)や配当の状況などについて開示されることとなります。
四半期決算短信の内容は、金商法に基づく四半期報告書の内容と重複するところがあり、開示のタイミングも近接していることから、近年、四半期報告書については、四半期決算短信に一本化するという方向性が示されていました(金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告―中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて―」2022年6月13日)。
非財務情報(サステナビリティ情報・コーポレートガバナンス情報など)の重要性の増大
さらに、我が国では、サステナビリティに関する取組みが企業経営の中心的な課題となるとともに、それらの取組みに対する投資家の関心が世界的に高まっている状況です。
現に、2022年1月31日には、企業内容の開示等に関する内閣府令が改正されており、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書において、サステナビリティ情報の「記載欄」が新設され、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」および「指標及び目標」の開示が求められるようになりました。
このように、企業内容の開示においては、中長期的な企業価値に関連する非財務情報の重要性が増している状況といえます。
- 有価証券報告書とは
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上場会社を含む、継続開示義務を負う発行者は、事業年度ごとに、事業年度の終了後3カ月以内に、内閣府令で定める事項を記載した報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないとされており、かかる報告書が有価証券報告書になります。
上場会社の場合、有価証券報告書は、財務局やEDINETで5年間公衆の縦覧に供されます(金商法25条1項4号、企業内容等開示府令21条)。
- サステナビリティ情報とは
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「サステナビリティ」とは、ESG(Environment, Social, Governance)要素を含む中長期的な持続可能性であり、サステナビリティ情報には、国際的な議論を踏まえると、例えば、環境、社会、従業員、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティなどに関する事項が含まれ得ると考えられるとされています(金融庁「記述情報の開示に関する原則(別添)」)。
2023年改正の概要|四半期決算短信・半期報告書へ
金商法等改正案では、このような状況に鑑み、人的資本を含むサステナビリティ情報等の開示の充実と併せて、企業開示の効率化の観点から、金商法上の四半期報告書制度を廃止することにしました。
①四半期決算短信への一本化
まず、前記のとおり、金商法上の四半期報告書制度が廃止されることになるため、第1・第3四半期については、取引所規則に基づく四半期決算短信に一本化されることになります。
なお、四半期報告制度を廃止することで、開示の後退と受け取られ、日本市場全体の評価が低下するおそれ等に鑑みて、当面は、上場会社に対して、四半期決算短信を一律に義務付けるものの、適時開示の充実の達成状況や企業の開示姿勢の変化のほか、適時開示と定期開示の性質上の相違に関する意見等を踏まえた上で、四半期決算短信の任意化について幅広い視点から継続的に検討してくことが考えられるとされています(金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」Ⅰ1(1)(2022年12月27日))。
そのため、確定した話ではないものの、今後、四半期決算短信の開示も任意化される可能性については、あらかじめ把握しておくことが望ましいでしょう。
②半期報告書の提出義務化
次に、現行の金商法24条の5第1項によれば、上場会社のうち、四半期報告書を提出しなければならない会社以外の会社について、その事業年度が6カ月を超える場合に、半期報告書の提出が義務付けられていましたが、四半期報告書の提出に関する規定が削除されることにより、上場会社全てにおいて、半期報告書の提出が義務付けられることになりました(改正金商法24条の5第1項)。
そして、上場企業と投資家のこれまでの実務への配慮や、半期の財務諸表に対する保証に関する国際的な整合性の観点から、上場企業の半期報告書については、現行の第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人によるレビューを必要とするものとし、従前、原則として、半期経過後3カ月以内に提出することとされていたものが、半期を経過した日から起算して45日以内の政令で定める期間内に提出することが義務付けられることになりました(改正金商法24条の5第1項)。
③半期報告書・臨時報告書の公衆縦覧期間の延長
他方、四半期報告書の制度が廃止されることにより、半期報告書および臨時報告書は、法令上の開示情報として、その重要性が高まることとなりますので、それぞれ3年間、1年間とされていた公衆縦覧期間が、課徴金の除斥期間と同じ5年間に延長されることとなります(改正金商法25条1項6号・8号)。
- 課徴金について
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重要な虚偽記載または不記載のある四半期報告書を提出した者には、300万円と有価証券の市場価額の総額の10万分の3のいずれか大きい額の課徴金が課されるとされており(金商法172条の4第2項)、四半期報告書を提出しない場合は、監査報酬相当額(直近事業年度の加算報酬相当額が存在しない場合は400万円)の2分の1の課徴金が課されることとされています(金商法172条の3第1項・2項)。
前者については、当該四半期報告書を提出した日から5年、後者については、四半期報告書の提出期限から5年が、課徴金の除斥期間とされています(金商法178条10項・11項)。
- 虚偽記載への対応
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前記のとおり、四半期報告制度が廃止されて、四半期決算短信に一本化された場合、当然のことながら、四半期報告書の虚偽記載に対する課徴金制度は適用されないこととなります。そのため、四半期ごとの開示書類において虚偽記載がなされるおそれにどのように対応するのかということが問題となります。
もっとも、この点に関しては、金融商品取引所において、エンフォースメント(実効性確保措置)を適切に実施していくとの方向性が示されています(金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」Ⅰ1(5)(2022年12月27日))。
改正ポイント2|ソーシャルレンディング等に関する規定の整備
ソーシャルレンディングとは
いわゆるソーシャルレンディング(融資(貸付)型クラウドファンディング)とは、下図のように、インターネットを用いてファンドの募集を行い、投資者からの出資を、ファンド業者を通じて企業等に貸し付ける仕組みをいいます。
通常、企業がデット(借入金や負債のこと)により資金調達を行う場合、金融機関から融資を受けることが考えられますが、スタートアップ企業などは金融機関の融資審査を通らず、融資を受けられない、または受けられたとしても、その金額が限定されるという問題があります。
これに対して、ソーシャルレンディングの場合には、融資に至るハードルが低く、スタートアップ企業などでも融資を受けられる可能性があるというメリットがあります。
ソーシャルレンディングの改正前の位置付け
ソーシャルレンディングにおけるファンド業者は貸金業登録が必須
金商法の改正とは少し離れますが、まず、ソーシャルレンディングの現行法上の位置付けについて見ていきたいと思います。
まず、ファンド業者と企業との関係を見ると、ファンド業者は、企業に対して貸付を行うこととなりますので、貸金業法に基づき貸金業の登録を受けなければなりません(貸金業法3条1項)。
投資家の貸金業登録は不要?
ソーシャルレンディングにおいて、投資家による出資行為自体が、貸金業法2条1項に規定する「金銭の貸付け」に該当し、貸金業の登録を受ける必要がないかということが問題となります。
この点に関しては、従来、
① 特定の借り手への貸付に必要な資金を供給し、
② 貸付の実行判断を行っている場合
には、貸付行為を行っているものと評価するが、かかる判断の一要素として、
✅ 借り手を特定することができる情報が明示されていないこと(匿名化)
✅ 複数の借り手に対して資金を供給するスキームであること(複数化)
がなされていることも考慮するとされていましたが、金融庁は、さらに、次の場合には、投資家は、貸付の実行判断を行っていないものと解釈できることを公表しました。
(1)事業スキーム 商法535条に規定する匿名組合契約によるものであり、投資者は、貸付業務を執行することができず、貸付行為に関し、権利及び義務を有していないこと。 (2)ファンド事業者(貸付実行者) ① 貸付約款等において、ファンド事業者(貸付実行者)自らが、貸付金額、貸付金利、資金使途等の貸付条件を設定のうえ借り手に提示し、借り手と投資者とが貸付けに関する接触をしない旨や当該接触をさせないことを担保するための措置が明記されていること。 ② ファンド事業者(貸付実行者)は、貸金業法24条の6の12第2項に規定する社内規則に、借り手と投資者とが貸付けに関する接触をさせないことを担保するための措置を規定していること。 (3)ファンド販売業者 ① 匿名組合約款等において、投資者は、貸付業務を執行することができず、貸付行為に関し、権利及び義務を有していないこと、また、投資者と借り手とが貸付けに関する接触をしない旨や当該接触をさせないことを担保するための措置が明記されていること。 ② ファンド販売業者は、投資者に対し、借り手も投資者との貸付に関する接触が禁じられていることを説明していること。 参考元|金融庁監督局総務課金融会社室長「金融庁における法令適用事前確認手続(回答書)」2019年3月18日 |
かかる解釈は、投資家において貸金業登録が不要となる範囲をさらに広げたという意味合いもあるものの、「匿名化」の要素を緩和し、投資家への情報開示の拡充を図ることを企図したものであるという点も重要です(金融庁ウェブサイト「ソーシャルレンディングへの投資にあたってご注意ください」2019年3月27日(同年5月29日更新))。
このように、ソーシャルレンディングにおいては、投資家に対する情報開示の拡充が重要な要素として意識されており、以下で述べる今般の改正にも通ずるところがあります。
ソーシャルレンディングにおけるファンド業者は第二種金融商品取引業者に当たる
次に、投資者とファンド業者との関係を見ると、ファンド業者は、投資者から出資を募り、企業への貸付という集団投資事業を行いますので、第二種金融商品取引業者に該当します。
- 第二種金融商品取引業者に該当する理由
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ファンド業者は、出資者との間で匿名組合契約などを締結し、金銭の出資または拠出を受けて、企業への貸付という出資対象事業を行うところ、当該事業から収益の配当または当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利は、原則として、有価証券とみなされます(金商法2条2項5号)。
そして、当該有価証券の募集または私募を業として行うことは、金商法2条8項7号ヘおよび28条2項1号に基づき「第二種金融商品取引業」に該当するので、ソーシャルレンディングに関与するファンド業者は第二種金融商品取引業者に該当することとなります。
投資家への情報提供に関する問題点
ところで、有価証券またはデリバティブ取引に係る権利に投資する投資運用業者は、運用財産について、内閣府令で定めるところにより、定期に運用報告書を作成し、当該運用財産に係る知れている権利者に交付しなければならないとされています(金商法42条の7第1項本文)。
このように、投資運用業においては、投資家は、定期に運用報告書の交付を受けることにより、運用実績や今後の運用方針について知ることができます。もっとも、ソーシャルレンディングにおけるファンド業者は、第二種金融商品取引業者であって、有価証券またはデリバティブ取引に係る権利に投資する投資運用業者ではないため、運用報告書を投資家に交付する義務はありません。
そのため、ソーシャルレンディング等の運用行為を行う第二種金融商品取引業者が運営するファンドを巡って、投資家への情報提供等に関する問題が認められる事案が発生していました。
2023年改正の概要|出資対象事業の状況に係る情報の提供の確保
このような状況の下、金商法等改正法は、新たに「貸付事業等権利」という用語を定め、出資対象事業が貸付事業である場合において、その状況に係る情報の提供が確保されていない場合について、以下のような規定を設けることにしています。
① 貸付事業等権利の新設
② 有価証券の売買等の禁止
③ 有価証券の募集等の禁止
①貸付事業等権利の新設
出資対象事業から収益の配当または当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利のうち、当該出資対象事業が主として金銭の貸付を行う事業であるものその他政令で定めるものを意味します(改正金商法29条の2第1項10号)。ソーシャルレンディングを営むファンドから、収益の配当または当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利は、この「貸付事業等権利」に該当することとなります。
そして、今般、貸付事業等権利について、(1)投資信託、集団投資スキームの自己募集、自己私募、(2)有価証券の売出し、(3)有価証券の募集・売出しの取扱い、私募の取扱い等の行為を業として行う場合には、金融商品取引業の登録を受けるに当たって提出する登録申請書に、その旨を記載することが義務付けられました(改正金商法29条の2第1項10号)。
②有価証券の売買等の禁止
金融商品取引業者等は、貸付事業等権利については、当該貸付事業等権利に係る出資対象事業の状況に係る情報が、当該貸付事業等権利を有する者に提供されることが当該貸付事業等権利に係る契約その他の法律行為において確保されているものとして内閣府令で定めるものでなければ、概要、以下の行為をしてはなりません(改正金商法40条の3の3)。
(1) 有価証券の売買、市場デリバティブ取引、外国市場デリバティブ取引(金商法2条8項1号)
(2) (1)の取引の媒介、取次、代理(金商法2条8項2号)
(3) 投資信託、集団投資スキームの自己募集、自己私募(金商法2条8項7号)
(4) 有価証券の売出し(金商法2条8項8号)
(5) 有価証券の募集・売出しの取扱い、私募の取扱い等(金商法2条8項9号)
③有価証券の募集等の禁止
金融商品取引業者等は、貸付事業等権利については、当該貸付事業等権利を有する者に貸付事業等権利に関する契約その他の法律行為に基づき提供されるべき情報が提供されていないことを知りながら、概要、以下の行為をしてはなりません(改正金商法40条の3の4)。
(1) 投資信託、集団投資スキームの自己募集、自己私募(金商法2条8項7号)
(2) 有価証券の売出し(金商法2条8項8号)
(3) 有価証券の募集・売出しの取扱い、私募の取扱い等(金商法2条8項9号)
このように、一定の場合に、売買等や募集等について禁止するという規定を新たに設けることにより、ソーシャルレンディング等に参加する投資家に対する情報提供を充実させることが目的とされています。
この記事のまとめ
以上のとおり、今般の「金融商品取引法等の一部を改正する法律」に関して、特に、四半期報告諸制度の廃止、およびソーシャルレンディングに関する規定の整備につきご説明いたしました。
改正金商法の施行時期はさまざま(四半期報告書の廃止は2024年4月1日、ソーシャルレンディングに関する改正は公布から1年6カ月を超えない日)ですが、あらかじめどのように改正されるのかを知っておいた方が望ましいところです。今後の動向を注視しておくべきでしょう。
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参考文献
金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告―中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて―」2022年6月13日
金融庁「記述情報の開示に関する原則(別添)―サステナビリティ情報の開示について―」
金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」2022年12月27日
金融庁監督局総務課金融会社室長「金融庁における法令適用事前確認手続(回答書)」2019年3月18日