名誉毀損とは?
侮辱罪との違い・具体例・成立要件・
時効・相手を訴えたいときの流れなどを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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名誉毀損とは、公然と事実等を指摘して人の名誉を傷つける(=社会的評価を低下させる行為)です。
損害賠償請求や刑事罰の対象となることもあります。「事実」は、真実であるか虚偽であるかを問いません。そのため、嘘の情報でも、人の社会的評価を低下させていれば、名誉毀損となります。
名誉毀損に似た犯罪として、侮辱罪(事実を指摘しなくても、公然と人を侮辱する犯罪)などがあります。
侮辱罪と名誉毀損罪は、「事実を指摘するか」否かが異なります。
例えば、「バカ」「ブス」といった書き込みをすることは、主観的な「評価」だけを示しており、何らかの「事実」を指摘してはいないので、侮辱罪になります。一方、インターネット上に「○○は、振り込め詐欺集団の幹部」などと書き込んだ場合、事実を指摘しているので、名誉毀損罪になります。
本記事では、名誉毀損について基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年10月17日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- プロバイダ責任制限法…施行後の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
目次
名誉毀損とは|定義と具体例を分かりやすく解説!
名誉毀損とは、公然と事実等を指摘して人の名誉を傷つける(=社会的評価を低下させる行為)です。
損害賠償請求や刑事罰の対象となることもあります。
「人」には、個人だけでなく、法人(会社など)も含まれます。また、「名誉」とは、外部的名誉(=評判・名声・信用といった社会的評価)をいいます。そのため、他者からの何らかの表現により、本人の心が傷ついたとしても、社会的評価を低下させたと認められない場合は、名誉毀損罪は成立しません。
例えば、以下のような場合、他者の社会的評価を傷つけているので、名誉毀損に当たります。
- そのような事実がないのに「○○は、賃金を搾取する会社」などと記載したビラを配る
- モデルが簡単に特定できる小説において、「背任事件に関与」「愛人がいる」など、社会的評価を傷つける記述をする
- そのような事実がないのに、インターネット上に「○○は、振り込め詐欺集団の幹部」などと書き込む
名誉毀損に関する法律
名誉毀損に関する主な法律は、刑法と民法です。
刑法では、他人の名誉を毀損した者に科される刑である「名誉毀損罪」について規定しています。(刑法230条)
また、民法では、名誉毀損行為を行ったものに対する損害賠償請求や、名誉回復措置について規定しています。(民法709条、723条)
各法についての詳しい説明は、後述します。
名誉毀損の時効
刑法における時効
刑法に定める名誉毀損罪の公訴時効(その犯罪について裁判所に起訴できなくなる期限)は、3年です。(刑事訴訟法250条2項6号)
この3年は、「名誉毀損行為」が終わった時が起算点になりますから、例えば、ビラを配り終わったときや、インターネットへの書き込みが完了したときから計算して3年となります。
また、名誉毀損罪は、親告罪(被害者の告訴がなければ処罰できない犯罪)ですが、告訴にも期限があり、犯人を知った日から6カ月以内に被害者が告訴しなかった場合、名誉毀損罪により処罰することはできなくなります。(刑事訴訟法235条)
民法における時効
民法に基づく請求は、「名誉毀損」という不法行為に基づく請求ですから、不法行為に基づく請求に対する時効や除斥期間の規定が適用されます。(民法724条)
具体的には、以下のとおりです。
・被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年(時効)
または
・名誉毀損行為が終わった時から20年(除斥期間)
刑法と名誉毀損|刑法上とりうる法的措置も含め解説
刑法に定める名誉毀損罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する」犯罪です。(刑法230条)
名誉毀損罪が成立する要件
名誉毀損罪が成立する要件は、以下の3つです。
- 公然性
- 事実適示性
- 名誉の毀損
名誉毀損罪の要件1|公然性
「公然」とは、次のいずれかの人に、情報が伝達され得る状態のことをいいます。
- 不特定の人|相手方が限定されていない状態
- 多数の人|発信の範囲が限定されてはいても、ある程度多くの人数がいる状態
インターネットの誰でも見れる掲示板への投稿などは、「不特定の人への伝達」に当たります。
一方、少人数しかみられないとしても、グループ内の誰かが他の人に伝えたり広く公表したりすることが予想される中での投稿などは、「多数の人への伝達」に当たり、公然性が認められることもあります。
名誉毀損罪の要件2|事実適示性
「事実」とは、人の社会的評価を低下させるだけの具体的な事実をいいます。
この事実は、真実であるか虚偽であるかを問いません。
そのため、嘘であっても、人の社会的評価を低下させていれば、名誉毀損となります。ただし、死者に対する名誉毀損については、摘示した事実が嘘の場合にのみ処罰されます。(刑法230条2項)
なお、以下のように事実を示すのではなく、主観的な「評価」だけを示す場合には、「事実」の摘示とは言えず、名誉毀損罪にはなりません。
- 会社で「バカ」「役立たず」と陰口を言う
- インターネット上に、「アイドルの○○はブス」などと書き込む
- 口コミに「この店の料理はまずい」などと書き込む
名誉毀損罪の要件3|名誉の毀損
「名誉」とは、世間の評価や名声などの外部的名誉(社会的評価)をいいます。
- 名誉毀損罪の定義・要件のまとめ
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名誉毀損罪とは、簡単に言えば、
要件1|嘘か真実かを問わず(※)、
要件2|具体的な事実を不特定または多数の人に伝えることにより、
要件3|人の外部的名誉(社会的評価)を毀損する犯罪
です。※死者の場合は嘘に限る
名誉毀損罪が成立しない場合
上記のとおり、人の社会的評価を下げる事実を多数の人に伝えると名誉毀損罪に問われる可能性があります。
しかし、報道機関などは、表現の自由(憲法21条)の一環として、事実を報道する権利(報道の自由)を有しており、人の外部的名誉を下げるような事実の報道を全て名誉毀損罪とすると、この報道の自由を害することとなります。
そのため、報道される側の自己の名誉を守る権利と報道をする側の報道の自由や報道を受け取る側の知る権利という相対する権利間の調整が必要となります。
この点、刑法は、人の社会的評価を下げる事実を不特定または多数の者に伝えたとしても、以下の要件を満たせば、名誉毀損罪に問わないとしています。(刑法230条の2第1項)
① 事実の公共性
② 目的の公益性
③ 真実性の証明
名誉毀損罪が成立しない場合の要件1|事実の公共性
「事実の公共性」とは、摘示した事実が「公共の利害に関する事実(=多くの人にとって利害関係にある事実)」であることをいいます。公共性があるか否かは、公表された事実の内容や性質に照らして客観的に判断されます。
なお、個人のプライバシーに関する私生活上の事実は、原則として公共性がありません。しかし、個人のプライバシー情報であっても、その人が携わる社会的活動の性質や社会に及ぼす影響力の大きさによっては、公共性が認められる場合があります。
また、起訴されていない人の犯罪行為に関する事実については、公共性が認められます。(刑法230条の2第2項)
名誉毀損罪が成立しない場合の要件2|目的の公益性
「目的の公益性」とは、事実摘示の目的が、専ら公益を図るものであることをいいます。
この「専ら」とは、主たる目的であることをいうので、100%公益目的である必要はありませんが、主目的が、金銭を得る・うらみを晴らすなどの個人的な利益である場合には、公益性は認められません。
なお、公務員または公選による公務員の候補者に関する事実については、公務員としての資質・能力に全く関係がない事実(例:身体的特徴)を除き、公共性・公益性が認められており、真実性が証明できれば、名誉毀損罪には問われません。
名誉毀損罪が成立しない場合の要件3|真実性の証明
「真実性の証明」とは、摘示した事実の主要・重要な部分について、
- 厳格な証明によって(=適式な証拠調べを経た、証拠能力のある証拠により証明をする)
- 合理的な疑いをいれない程度に真実であること(=一般的に考えて疑いを抱かないレベルで真実と感じられること)
を証明することをいいます。
名誉毀損罪の効果|刑法上とりうる法的措置
名誉毀損罪を犯した場合、3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金が科されます。
ただ、前述のとおり、名誉毀損罪は親告罪ですから、名誉を毀損された被害者が加害者への処罰を希望する場合、告訴が必要です。
- 告訴とは
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告訴とは、法律で告訴できると規定されている人(犯罪の被害者など。以下「告訴権者」といいます)が、捜査機関(警察や検察)に対して、犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示をいいます。
具体的には、告訴権者が捜査機関に告訴状を提出し、それが受理されることが必要です。
名誉毀損罪・信用毀損罪・侮辱罪の違い
名誉毀損罪と似た犯罪として、信用毀損罪と侮辱罪があります。
名誉毀損罪と信用毀損罪の違い
信用毀損罪とは、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損する犯罪です。(刑法233条前段)
虚偽の風説 | 客観的な真実ではない噂・情報。いわゆる「デマ」や「ガセネタ」も虚偽の風説に当たる。 |
流布 | 不特定または多数の人に広める行為。インターネットの掲示板への書き込みやSNSへの投稿なども「流布」に当たる。 |
偽計を用いて | 他人を欺く行為や人の錯誤・不知を利用すること。 |
人の信用 | 人の経済的な側面での信用。例えば、人の支払い能力や、取り扱う商品、サービスの質などが、ここでいう「信用」に当たる。 |
名誉毀損罪と信用毀損罪の主な違いは、以下のとおりです。
- 名誉毀損罪=人の社会的評価を毀損する
- 信用毀損罪=人の経済的な信用を毀損する
名誉毀損罪と侮辱罪の違い
「侮辱罪」とは、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱する犯罪です。
「公然と」とは、名誉毀損罪と同じく、不特定または多数の人に情報が伝達され得る状態のことをいいます。
「侮辱する」とは、他人の人格を蔑視する価値判断を示すことをいいます。
名誉毀損罪とは、「事実」を摘示するか否かが異なります。例えば、「バカ」「ブス」といった書き込みをすることは、主観的な「評価」だけを示しており、何らかの「事実」を摘示してはいないので、侮辱罪になります。
民法と名誉毀損|民法上とりうる法的措置も含め解説
名誉毀損の民法上の位置づけ
名誉毀損は、人の社会的評価を傷つける行為ですから、民法709条に定める不法行為に該当します。
- 不法行為とは
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故意(わざと)または過失(うっかり)によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害する行為
名誉毀損が成立する要件
民法においては、以下を満たす場合、名誉毀損に当たります。
- 故意または過失による事実または意見論評の流布
- これによる被害者の社会的評価の低下
民法では、刑法と異なり、事実だけでなく、意見や論評であっても、それらを流布(不特定または多数の人に広める行為)することにより人の社会的評価を低下させた場合には、名誉毀損に該当します。
「意見論評」とは、証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などをいいます。(最高裁判決平成16年7月15日)
従って、「A社がB社を私物化している」「〇〇は極悪人」など、主観的な評価を示すだけの場合であっても、民法では、不法行為に該当する可能性があります。
「社会的評価が低下」するか否かは、一般人の感覚を基準に判断されます(最高裁判決昭和31年7月20日、最高裁判決平成28年1月21日)。
名誉毀損が不法行為とならない場合
民法も刑法と同じく、報道や表現の自由との調整のため、名誉毀損に当たる行為であっても不法行為とならない場合があります。
この点、民法における名誉毀損の態様には、「事実の摘示」と「意見論評」がありますが、それぞれについて不法行為とならない場合の基準が異なります。
事実の摘示については、以下の基準を満たす場合には、不法行為となりません。
① 事実の公共性
② 目的の公益性
③ 摘示された事実が重要な部分において真実であること(真実性)または摘示された事実の重要な部分を真実と信ずることについて相当の理由があること(誤信相当性)
上記のとおり、事実が真実でなくとも、相当な理由に基づき、摘示した事実の重要な部分を真実であると信じたことが証明できた場合にも、不法行為となりません。
意見評論については、以下の基準を満たす場合には、不法行為となりません。
① 公共性
② 目的の公益性
③ 意見ないし論評の前提となる事実が重要な部分において真実であること(前提事実の真実性)または意見ないし論評の前提となる事実が重要な部分について真実であると誤信して、そう信じたことについて確実な資料、根拠に照らして相当の理由があること(前提事実の誤信相当性)
④ 人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでないこと
なお、上記の基準を満たしていれば、意見論評自体は、社会的に妥当であったり、一般の支持を受ける内容であったりする必要はありません。
名誉毀損の効果|民法上とりうる法的措置
効果1|民法709条に基づく損害賠償請求
名誉を毀損された被害者は、民法709条に定める不法行為に基づく損害賠償請求により、自己に生じた損害について、損害賠償を請求できます。
名誉毀損は、人の外部的評価を低下させる不法行為ですから、名誉毀損に対する損害賠償の中心となるのは、外部的評価を低下させられたことによる精神的苦痛に対する損害賠償(いわゆる「慰謝料」)となります。
効果2|民法723条に基づく名誉回復措置
名誉毀損は、人の外部的評価を低下させる行為ですから、被害者は、金銭賠償だけでなく、外部的評価を回復させることを希望することもあります。
そこで、民法では、損害賠償だけでなく、直接的に外部的評価を回復させる措置を求める権利を認めています。(民法723条)
このような外部的評価回復措置には例えば、以下のようなものがあります。
- 謝罪広告
- 一定範囲への謝罪文の郵送
- 取消訂正記事
- 看板や垂れ幕の撤去
効果3|人格権に基づく差止請求
また、民法に明文上の規定はありませんが、現に進行している名誉毀損行為を止めることを目的として、人格権に基づく差止請求が認められる場合があります。
この差止請求とは、例えば、名誉毀損表現の載っている本の出版の差し止めを求める、インターネット上の記載の削除などを求めるものです。
しかし、差止請求を安易に認めると、表現者の表現の自由を不当に害することになりかねません。
そこで、名誉毀損による被害者の損害と表現の自由の調整の観点から、差止請求が認められるためには、名誉毀損表現を残しておくことにより被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る恐れがあることが必要です。
名誉毀損で相手を訴えたいとき(法的措置をとるとき)の流れ
刑法に基づく処罰を求める場合
名誉毀損罪は親告罪ですから、刑法上の処罰を求める場合、被害者が捜査機関に告訴状を提出して告訴する必要があります。
告訴状では、名誉毀損行為を具体的に特定して記載した上で、このような行為を行った加害者に対し処罰を求める意思表示を行います。
この際、加害者が分かっていれば加害者名も記載しますが、加害者が分からなかった場合でも、「犯人不明」のままで告訴可能です。
捜査機関は、告訴を受理したときには、告訴状に記載された名誉毀損行為について捜査を行い、検察官が起訴の必要性を判断します。
検察官が起訴した場合には、裁判所により、以下の判断がされ、判決が下されます。
- 被告人による名誉毀損行為があったか否か
- 被告人の行為につき、「名誉毀損罪が成立しない場合」に当たらないか
- 名誉毀損罪が成立した場合、どの刑罰を科すか
民法上の請求の場合
被害者は、名誉を毀損された場合、加害者に対し「名誉毀損の効果|民法上とりうる法的措置」の欄で記載したような法的措置をとれますが、その流れは以下のとおりです。
① 加害者の特定
② 裁判所への民事訴訟の申し立て
③ 裁判所への執行の申し立て
①加害者の特定
被害者が、名誉毀損を理由として損害賠償や名誉回復措置を行おうとするときには、加害者を特定しなければなりません。
この点、本や雑誌、著者が明確な記事やブログで名誉毀損行為がされている場合には、加害者を特定することは比較的容易です。
しかし、インターネット上の掲示板などへの匿名の投稿で誹謗中傷されたような場合、加害者を知ることは容易ではありません。
そのような場合、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求によりプロバイダから発信者情報を得ることができる場合があります。発信者情報開示請求については、後述します。
②裁判所への民事訴訟の申し立て
加害者が特定された場合、一般的には、まず、加害者との間で話し合いを行い、記事などの削除や謝罪・損害賠償請求を求めていくこととなります。
しかし、任意の話し合いでは解決がつかなかった場合、裁判所に対し、民事訴訟を提起することとなります。
民事訴訟を行う場合、
- 損害賠償請求
- 謝罪記事の掲載
- 記事の削除
など、自分が求めている救済措置の内容を明確にした訴状により訴訟を提起し、裁判で、証拠を提出して、それぞれの請求に必要な証明を行います。
民事裁判が提起された場合、裁判所では、当事者が提出した証拠をもとに
- 名誉毀損行為があったか否か
- 名誉毀損が不法行為とならない場合に当たらないか
- 名誉毀損があった場合、被害者が求める請求(損害賠償・謝罪記事の掲載・記事の削除など)は認められるか
- 損害賠償請求が認められる場合、その金額はいくらか
などについて、審議され、判決が下されます。
③裁判所への執行の申し立て
裁判により損害賠償や名誉回復措置等の請求が認められた場合にも、加害者が支払わなかったり、名誉回復措置等を行ってくれなかったりする場合もあります。
その場合、裁判所に執行の申し立てを行います。具体的には、以下の申し立てなどを行います。
(損害賠償請求)
・給与等の金銭債権の差し押さえ・転付命令の申し立て
(謝罪広告等の名誉回復措置請求)
・強制金決定の申し立て(謝罪記事を載せるまで1日につき一定額の強制金の支払いをさせるなど。いわゆる間接執行の方法)
・代替執行(他の媒体に加害者名義の謝罪記事を載せた上でその費用を請求するなど)の申し立て
(記事の削除等の差止請求)
・強制金決定の申し立て
インターネット上の表現と名誉毀損
インターネット上の名誉毀損の特徴
昨今では、インターネット上の名誉毀損行為が大きな社会問題となっています。
インターネット上の名誉毀損には以下のような特徴があります。
- 誰でも容易に名誉毀損行為を行える環境であること
- インターネット上に載せた情報は、瞬時に不特定多数の者に閲覧されること
- 匿名による名誉毀損行為が、他の媒体に比べ容易であること
- コピーや転送が容易で、伝播可能性が高く、損害がときとして深刻になり得ること
- インターネット上での反論が可能であるが、それによっても損害の回復が十分に図られる保証がないこと
このような特徴をもつインターネット上の名誉毀損行為については、本や雑誌、マスメディア上での名誉毀損とは異なる考え方が必要な場合もあります。
以下では、このようなインターネット上の名誉毀損についての判例をいくつか紹介します。
インターネット上の名誉毀損に関する裁判例
裁判例1|インターネットの個人利用者の表現行為についての最高裁判所判決
個人によるインターネット上の表現行為について、閲覧者は軽度の信頼性しか有しておらず、また、個人対個人であって、被害者側もインターネット上で反論することが容易であるといった点から、通常の名誉毀損とは異なる基準で判断すべきではないかとの議論もありました。
しかし、最高裁は、個人の表現行為であっても、インターネット上の名誉毀損について、通常の名誉毀損と同様に判断することを明確にしました。(最高裁判決平成22年3月15日)
裁判例2|SNS上の発言について有名人への名誉毀損が認められた裁判例
政治家など、有名人がSNS上で持論を展開し、その中で、他の有名人の行動等に言及することは多くあります。
しかし、そのような言動も、場合によっては名誉毀損とされることがあります。
一例として、日本維新の会代表の松井一郎大阪府知事が、米山隆一前新潟県知事のSNSの投稿で名誉を傷つけられたとして、550万円の損害賠償を求めた訴訟において、大阪地裁は、名誉毀損を認めて米山氏に33万円の支払いを命じた裁判例があります。(大阪地裁判決平成30年9月20日)
裁判例3|インターネット上の転載と名誉毀損に関する裁判例
インターネットにおける名誉毀損の典型的な例は、自分が名誉毀損に当たり得る書き込みなどをすることでしょう。
しかし、インターネット上では、
- 名誉毀損に当たり得るページにハイパーリンクを貼る
- 名誉毀損に当たり得る書き込みを拡散する
などにより、名誉毀損を間接的に行ってしまうケースがありますが、このような行為も、場合によっては名誉毀損となります。
加害者が、被害者の名誉を毀損する内容の書き込みに飛ぶハイパーリンクを設定していた事案について、東京高裁では、
「ハイパーリンクが設定表示されている本件各記事を見る者がハイパーリンク先の記事を見る可能性があることは容易に想像できる」
「本件各記事を書き込んだ者は、意図的に本件記事3に移行できるようにハイパーリンクを設定表示しているのであるから、本件記事3を本件各記事に取り込んでいると認めることができる」
として、インターネット上の転載についても名誉毀損罪が成立し得ると判断しています。(東京高裁判決平成24年4月18日)
インターネット上の名誉毀損に対する対策
対策1|侮辱罪の厳罰化
インターネットの普及により、SNS上の名誉毀損や侮辱的な発言が大きな社会的問題となっています。
そこで、それらの行為を抑制するため、2022年7月7日より侮辱罪が厳罰化されました。
具体的には、侮辱罪を犯した場合に科される刑罰は、従来は、拘留または科料のみでしたが、厳罰化後は、以下の刑罰が科されます。
- 1年以下の懲役または禁錮
- 30万円以下の罰金
- 拘留
- 科料
なお、拘留とは、1日以上30日未満の期間、刑事施設において身柄を拘束し自由を奪う刑罰です。(刑法16条)
30日を超えると「禁錮」と呼ばれます。(刑法13条)
また、科料とは、1,000円以上1万円未満の金銭の納付を命じる刑罰です。(刑法17条)
1万円以上の場合、「罰金」となります。(刑法15条)
対策2|プロバイダ制限責任法による対応
インターネット上の投稿は匿名性が高く、誹謗中傷行為が生じても被害者が加害者を特定することは容易ではありません。
そこで、プロバイダ責任制限法は、インターネットを通じて誹謗中傷やプライバシーの侵害などが生じた場合に、以下の手続きをとれると定め、被害者の救済を図っています。
- 発信者情報開示請求|発信者情報の開示を求めることで加害者を特定できるようする
- 削除依頼|被害者がサイト管理者などに対し権利侵害情報の削除を求めることで更なる侵害を防ぐ
発信者情報開示請求とは、サイト管理者(コンテンツ・プロバイダ)やインターネット接続業者(アクセス・プロバイダ)に対して、誹謗中傷などの発信者(投稿者)を特定するための発信者情報の開示を求める請求です。
- 自分に対する誹謗中傷の投稿がなされた
- 自分のプライバシー情報が暴露された
といった場合には、発信者情報開示請求を行うことができます 。
削除依頼とは、誹謗中傷を受けた被害者が、サイト管理者などに対し、権利侵害情報の送信および流通防止を依頼するものです。
なお、プロバイダ制限責任法は、サイト管理者などに対して、削除依頼を受けたら必ず削除しなければならないといった義務は定めていません。
しかし、サイト管理者などは、被害者の依頼に応じて名誉毀損の流通防止などに応じた場合、以下のいずれかの要件を満たしていれば、当該防止措置を行ったことについて投稿者(加害者)からの損害賠償請求に応じる必要がありません。
(1) サイト管理者などが、当該情報の流通によって、他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき
(2)被害者であることを主張する者から、侵害情報・侵害された権利・権利が侵害されたとする理由を示して送信防止措置を講ずるように、サイト管理者などに対する申し出があり、サイト管理者などが、発信者に対してその理由を示し、送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合に、照会の到達日から7日を経過しても、発信者から送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申し出がなかったこと
プロバイダ制限責任法は、このように、「送信および流通防止措置をとったサイト管理者などには、一定の保護があります」として、サイト管理者などに、被害者からの削除依頼に応じるメリットを与えることで、被害者の削除依頼を実現しやすくしています。
おわりに
昨今のインターネット上の名誉毀損行為は、一般人が匿名で特定の人物を誹謗中傷することが容易であり、また、そのような書き込みが容易に拡散されるというインターネットの特性から、近年、大きな社会問題となっています。
インターネット上の誹謗中傷は、誰もが被害者になり得るものであり、自己が被害者になった時にどのような対応ができるかを知っておくことが重要です。
また、勤務する会社や訪れた店の感想の書き込みなど、個人的な意見の表明であっても、場合によっては名誉毀損行為になり得ます。
自分が被害者となった場合に、どのような対応ができるか、また、自分の書き込みが名誉毀損行為とならないため、どのような点に注意したらよいか、本記事を参考に確認しておくと良いでしょう。
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