民事再生とは?
民事再生手続の流れ・
再生計画案などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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民事再生とは、経済的に窮境にある債務者について、その債権者の多数の同意を得ることにより、当該債務者の事業または経済生活の再生を図るための法的手続をいいます。
換言すれば、民事再生とは、債務者が企業である場合を念頭に置くと、破産とは異なって事業を維持しながら、その事業の再生を図る手続になります。破産手続に比べると年間の件数は少ないですが、新型コロナウイルス感染症の流行を経て、今後さらに倒産状態に陥る企業も増加するものと見込まれ、メニューの一つとして民事再生が選択される場合も増えるものと思料されます。
そこで、この記事では、特に「民事再生」について基本的な事項を解説します。
※この記事は、2023年9月11日時点に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
民事再生とは
民事再生とは、経済的に窮境にある債務者について、その債権者の多数の同意を得ることにより、当該債務者の事業または経済生活の再生を図るための法的手続をいいます。
民事再生と破産の違い
破産が原則として、債務者が事業を停止して、破産管財人の下で、債務者が保有する資産を解体・清算する「清算型」の手続であるのに対し、民事再生は、事業を維持・継続しながら、事業の再生を図る「再建型」の手続と整理することができます。
民事再生と会社更生の違い
「再建型」の手続には、民事再生のほかに会社更生という手続があります。両手続の違いについて主なものを挙げると以下のとおりです。
民事再生 | 会社更生 | |
---|---|---|
利用できる債務者 | 制限なし | 株式会社 |
手続の主体 | 原則として経営陣が続投し、再生債務者自らにて手続を進めることができる。 | 原則として現経営陣は退任し、更生管財人が手続を進めることとなる。 |
担保権の処遇 | 別除権として原則は自由に行使できる。 | 更生担保権として整理の対象となる。 |
このように、会社更生と比較すると、民事再生の場合には、
✅ 株式会社以外の債務者も利用することが可能
✅ 原則として再生債務者自らが手続を進めていくことが可能
となります。また、会社更生は、比較的大きな株式会社において利用されるものであり、最近では件数も減ってきているところです。
民事再生の手法
さて、企業が再生手続の開始を申し立てる場合を念頭に置くと、民事再生とは、大雑把に言えば、窮境状態にある企業が、収益力を改善することを目指しつつ、裁判所の関与の下で、再生計画案を策定し、再生債権者の理解を得て、適正な収益力により弁済できる程度に、開始決定時点で負担している債務を圧縮する手続になります。
再生手法として最もイメージしやすいのは、再生債務者において事業を継続することを前提に、事業から得られる収益をもって、再生債権の弁済に充てるパターンだと思います。このような再生手続のパターンを「自力再建型」といいます。
もっとも、自力再建型の手法が採用される場合は少ないのが実情であり、実際には、再生債務者が現に営んでいる事業をスポンサーに承継し、スポンサーから支払われる対価をもって、再生債権者に対する弁済に充てるという手法が多く採用されています。このような再生手続のパターンを「スポンサー型」といいます。
スポンサー型の場合には、自力再建型の場合とは異なり、長期の分割弁済にはならず、スポンサーから支払われる対価でほとんど一括して弁済がなされる傾向にあるため、再生債権者としてもメリットがあるところです。
この場合、再生債務者は、概ねいわば空っぽになり、最終的には解散・清算することが一般的です。
この点、民事再生法1条によれば、
民事再生法 第1条
この法律は、経済的に窮境にある債務者について、その債権者の多数の同意を得、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等により、当該債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し、もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図ることを目的とする。
民事再生法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
とあり、「再生債務者の再生」ではなく、「再生債務者の事業の再生」が目的とされています。スポンサー型の場合には、再生債務者の事業は再生債務者の下ではなくとも、スポンサーの下で再生することになるため、民事再生法の目的には沿うものと考えられています。
スポンサー型の場合には、再生手続開始後において、可能な限り、再生債務者において広くスポンサー候補を募集し、入札手続を経るなどして、公正にスポンサーを選定することが多いです。
一方で、再生手続開始申立前にあらかじめスポンサーとの間で支援に関する基本契約を締結し、当該スポンサーの支援を受けることを前提として、再生手続開始の申立てを行うことも多く、このようなパターンを「プレ・パッケージ型」といいます。
プレ・パッケージ型の場合には、あらかじめスポンサーが決まっていることから、スポンサーを選定できないかもしれないという懸念はありませんが、スポンサー選定の公正性などについて十分に説明できることが重要となります。
再生手続開始の申立てと開始決定
申立ての要件
債務者が以下の要件を満たすときは、再生手続開始の申立てを行うことができます(民事再生法21条1項)。
前段 | 破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき ※ 「破産手続開始の原因となる事実」とは? 支払不能:債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態 債務超過:債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態 |
後段 | 債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務の弁済をすることができないとき |
破産手続開始の原因と比較すると、支払不能や債務超過が生ずる「おそれ」で足りるなど、破産よりも前段階での申立てが可能となっています。
開始決定の要件
裁判所は、民事再生法21条に規定する要件を満たす再生手続開始の申立てがあったときは、同法25条の規定によりこれを棄却する場合を除き、再生手続開始の決定をします(民事再生法33条1項)。
この点、民事再生法25条に定める条件は、以下のとおりです。2号の「債権者の一般の利益」は、他の箇所にも登場する重要な要件であるため、後ほど触れたいと思います。
1号 | 再生手続の費用の予納がないとき。 |
2号 | 裁判所に破産手続又は特別清算手続が係属し、その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき。 |
3号 | 再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき。 |
4号 | 不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。 |
民事再生手続の構造
DIP型手続とは
「民事再生と会社更生の違い」でも触れたとおり、
✅ 会社更生では更生管財人
✅ 破産手続では破産管財人
が管理処分権を行使しますが、民事再生の場合には、原則として、再生債務者自身に管理処分権が認められています(民事再生法38条1項)。このような管理処分権の所在を踏まえ、民事再生は、「DIP型手続」(DIP:Debtor in Possession)と呼ばれています。
とはいえ、再生債務者が自由に手続を進めることが許容されているわけではなく、「再生手続が開始された場合には、再生債務者は、債権者に対し、公平かつ誠実に、前項の権利(※管理処分権)を行使し、再生手続を追行する義務を負う。」(民事再生法38条2項)とあるように、再生債務者はいわゆる公平誠実義務を負っています。
そのため、例えば、
× 一部の再生債権者を優遇すること
× 資産を安価で処分してしまうこと
なお、裁判所は、再生債務者が法人である場合において、再生債務者の財産の管理または処分が失当であるとき、その他再生債務者の事業の再生のために特に必要があると認めるときは、利害関係人の申立てによりまたは裁判所の職権で、管財人を選任することができます(民事再生法64条1項)。
このような裁判所の処分を管理命令といいます。管理命令が発令された場合には、管財人が再生債務者の事業および財産について管理処分権を握ることとなり、DIP型手続ではなくなりますが、以下では、管理命令が発令されない原則的な場合を前提に解説します。
監督委員の選任
以上のとおり、民事再生はDIP型手続ですが、民事再生法54条に基づき、裁判所より「監督委員」が選任されることが一般的です。監督委員とは、再生債務者による業務の遂行および財産の管理が適正になされるように監督する職務を負担する再生手続上の機関であり、事業再生に通暁した弁護士が選任されることが一般的です。
裁判所が監督委員による監督を命ずる処分(監督命令)を行う場合、当該監督命令では、監督委員の同意を得なければ再生債務者がすることができない行為が指定されます(民事再生法54条2項)。
例えば、
✅ 通常の事業の範囲を超える財産の処分
✅ 別除権の目的である財産の受戻し
を行うに当たっては、監督委員の同意を得ることが必要とされます。
また、破産手続における否認権(破産手続開始決定前になされた破産者の行為、またはこれと同視される第三者の行為の効力をなかったものとする形成権)は破産管財人が行使しますが、民事再生手続の場合には、裁判所が監督委員に否認権を行使する権限を付与し、監督委員が否認権を行使します(民事再生法56条1項・2項)。
再生手続開始決定後の流れ
①財産評定と125条報告
再生債務者は、再生手続開始後遅滞なく、再生債務者に属する一切の財産につき再生手続開始の時における価額を評定し(民事再生法124条1項)、かかる評定を完了したときは、直ちに再生手続開始の時における財産目録および貸借対照表を作成し、これらを裁判所に提出する必要があります(民事再生法124条2項)。この手続を「財産評定」といいます。
後述のとおり、破産手続の場合の配当に相当する利益を最低限確保できることが、再生計画認可決定がなされる要件の一つとして定められているところ、財産評定は、かかる要件を満たすのか、また、再生債権者としては再生計画案に賛成するべきなのか、について判断するための重要な資料となります。
また、再生債務者は、再生手続開始後遅滞なく、
① 再生手続開始に至った事情
② 再生債務者の業務および財産に関する経過および現状
③ 保全処分または査定の裁判を必要とする事情の有無
④ その他再生手続に関し必要な事項
を記載した報告書を、裁判所に提出しなければなりません(民事再生法125条1項)。
かかる報告書は、一般に「125条報告書(または125条1項報告書)」と呼ばれ、再生債権者に対して、上記①~④について説明するための資料となります。
②債権届出と債権調査
再生債務者に対して再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、共益債権や一般優先債権でないものや、再生手続開始後の利息の請求権、再生手続開始後の不履行による損害賠償および違約金の請求権は、「再生債権」とされます(民事再生法84条)。
- 共益債権・一般優先債権とは
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共益債権とは、主に民事再生法119条各号に定められた請求権や、民事再生法120条に基づき共益債権化された再生債権であり、再生手続によらず、再生債権に先立って、随時弁済することとなります(民事再生法121条1項・2項)。
例えば、再生手続開始決定後に、再生債務者に対して原材料を納入したことで生じた代金債権や(民事再生法119条2号)、再生手続開始申立後、再生手続開始決定前に再生債務者に対して原材料を納入したことで生じた代金債権(この場合、原則的には、再生手続開始決定前に生じた債権ですので、再生債権となるはずです)であるものの、監督委員の承認を受けて共益債権となったもの(民事再生法120条)を挙げることができます。
一般優先債権とは、一般の先取特権その他一般の優先権がある債権であって、共益債権以外のものをいいます(民事再生法122条1項)。一般優先債権も、再生手続によらずに随時弁済することとなります(民事再生法122条2項)。
例えば、一般の先取特権が認められている労働債権(給料など。民法306条2号・308条)や、一般債権よりも優先権が認められている租税債権(税金など。国税徴収法8条)などが挙げられます。
再生債権は、民事再生法に特別の定めがある場合を除き、再生計画の定めるところによらなければ、弁済をし、弁済を受け、その他これを消滅させる行為(免除を除きます)をすることができません(民事再生法85条1項)、再生債権を有する者(再生債権者)は、再生手続に参加するために、債権届出期間内に再生債権を届け出る必要があります(民事再生法94条1項)。
その後、再生債務者において、再生債権の内容および議決権について認否を行い、その結果を記載した認否書を作成し、裁判所に提出することとなります(民事再生法101条1項・5項)。そして、再生債務者が認め、かつ、届出をした他の再生債権者の異議がなかったときは、その再生債権の内容および議決権が確定することとなります(民事再生法104条1項)。
- 自認債権とは
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破産手続の場合には、破産債権者において破産債権を届け出なければ配当を受けることができませんが、民事再生手続の場合には、再生債務者において、届出がされていない再生債権があることを知っている場合には、当該再生債権について、自認する内容や再生債権者の氏名・名称および住所などを認否書に記載しなければなりません(民事再生法101条3項、民事再生規則38条2項)。
このように自認された債権を「自認債権」といい、議決権は認められませんが、再生計画に基づき弁済を受けることができます。
③再生計画案の作成と決議・再生計画の認可
再生債権の内容および議決権が確定すると、再生債務者は、
① 全部または一部の再生債権者の権利の変更
② 共益債権および一般優先債権の弁済
などについて定めた再生計画案を作成し(民事再生法154条1項)、裁判所に提出することとなります(民事再生法163条1項)。
そして、裁判所は、一定の要件に該当する場合を除き、当該再生計画案を決議に付する旨の決定(付議決定)をします(民事再生法169条1項)。
そのうえで、再生債権者は、債権者集会の期日において議決権を行使する方法や、書面等投票の方法など、裁判所が定める方法により議決権を行使し(民事再生法169条2項)、
① 議決権者の過半数の同意
② 議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意
の両方が得られれば、当該再生計画案は可決されることとなります(民事再生法172条の3第1項)。再生計画案が可決された場合には、裁判所は、一定の要件に該当する場合を除き、再生計画認可の決定をします(民事再生法174条1項)。
認可決定が確定すれば、再生計画は効力を生じ(民事再生法176条)、再生債務者は再生計画を履行していくこととなります。
再生計画案についての注意点
清算価値保障原則
付議決定および認可決定の要件として、再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反しないことが挙げられています(民事再生法174条2項4号・169条1項3号)。
これは、再生計画に基づき配分される利益が、再生手続開始時点での清算価値(再生債務者の財産を解体・清算した場合に債権者に配分される利益)を上回っていることを意味します(清算価値保障原則)。
「①財産評定と125条報告」記載の財産評定は、再生債務者から提出された再生計画案が清算価値保障原則を満たすか否かを判断するために必要な資料となります。
再生計画案に債権者の同意を得るためには
前記のとおり、再生計画案が可決されるためには、
① 議決権者の過半数の同意
② 議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意
が必要となります。そのため、再生計画案が付議決定や認可決定の要件を満たす必要があることは当然のこと、再生債務者としては、債権者の理解を得るための活動が重要となります。
最終的には債権者の意思にかかっている以上、おのずから「必ず債権者の同意を得られる再生計画案」というものは存在しませんが、再生債務者として、公平誠実義務を履行しながら、債権者の理解を得るために説明を尽くすことが、再生計画案について債権者の同意を得るための方策と言えるでしょう。
この記事のまとめ
以上のとおり、民事再生の概略についてご説明いたしました。もっとも、民事再生は、会社更生よりは利用しやすい手続であるものの、弁護士や公認会計士等の専門家の協力が必須となりますので、利用について検討される場合には、適宜専門家にご相談いただくことが望ましいところです。この記事については、表題どおり「民事再生とは?」を知るための一助としていただけますと幸いです。
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