根抵当権とは?
通常の抵当権との違い・活用例・民法のルール・
設定と消滅の手続きなどを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

根抵当権」(ねていとうけん)とは、一定の範囲に属する不特定の債権を担保するため、不動産などに設定される担保権です。

根抵当権は通常の抵当権と異なり、担保される債権(=被担保債権。貸付金などのこと)が特定されていません。
例えば、通常の抵当権では「AのBに対する100万円の貸付債権」などと具体的に被担保債権を特定しますが、根抵当権の場合は「AがBに対して将来取得する一切の貸付債権」などと、被担保債権の範囲を定めます。

根抵当権の主なメリットは、将来発生するものを含めた幅広い債権について、一つの不動産を担保とすることができる点です。
事業用資金の融資リバースモーゲージによる生活費の融資など、何度も反復した借入れが想定される場合に、根抵当権が活用されることがあります。

根抵当権に関するルールは、民法で定められています。特に極度額、被担保債権の範囲、元本の確定に関する規定などが重要です。

根抵当権を設定する際には、債権者と債務者の間で根抵当権設定契約を締結した上で、法務局に設定登記を申請します。
反対に、根抵当権を消滅させる際には、まず根抵当権の元本を確定させた後で完済するか、または債権者と債務者の間で根抵当権の消滅に関する合意書を締結することが必要です。その後は設定時と同じ要領で、法務局に抹消登記を申請します。

この記事では根抵当権について、通常の抵当権との違い・活用例・民法のルール・設定と消滅の手続きなどを解説します。

ヒー

「会社の所有地を担保に差し入れて、根抵当で事業資金の融資を受ける」ってどういう意味ですか? 大丈夫なんですか?

ムートン

基本的には土地を担保にお金を借りる抵当権の仕組みと同様です。ただし、根抵当権には通常の抵当権と異なるポイントがあります。少し難しいですが確認してみましょう。

※この記事は、2024年2月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

根抵当権とは

根抵当権」(ねていとうけん)とは、一定の範囲に属する不特定の債権を担保するため、不動産などに設定される担保権です。

根抵当権と通常の抵当権の違い

通常の抵当権の場合は、「AのBに対する100万円の貸付債権」などと、担保される債権(=被担保債権)を具体的に特定します。

ムートン

いわゆる住宅ローン・事業者向けの不動産担保ローンなどは通常の抵当権に該当します。

これに対して、根抵当権は通常の抵当権と異なり、被担保債権が特定されていません。例えば「AがBに対して将来取得する一切の貸付債権」などと、被担保債権の範囲が定められるにとどまります。

ヒー

債権を特定せずに担保を設定することに意味があるのですか?

ムートン

例えば、事業資金の融資を継続的に受ける場合、最初に設定した根抵当権で全ての貸付債権が担保されるので、融資の都度抵当権を設定する必要がなく手間やコストが省けます。また、現時点では存在しないものの、将来発生する可能性がある債権にも担保を設定できる点も、根抵当権の大きな特徴です。

根抵当権のメリット

根抵当権の主なメリットは、将来発生するものを含めた幅広い債権について、一つの不動産を担保とすることができる点です。
被担保債権をあらかじめ特定する必要がないため、発生するかどうかが不確実な債権についても、発生した時点で不動産を担保とすることができます。

また、各債権について個別に抵当権登記を経る必要がないため、手間や登録免許税を軽減できる点もメリットといえます。

根抵当権のデメリット

債務者から見た根抵当権のデメリットは、被担保債権の範囲が広がり過ぎてしまうおそれがある点です。債務者としては、根抵当権設定契約において、被担保債権の範囲を適切に限定する必要があります。

また、将来発生する債権も被担保債権に含まれ得るため、既存の債務を完済したとしても、根抵当権を直ちに消滅させることはできません。根抵当権を消滅させるには、元本確定後に完済するか、または債権者との間で消滅の合意をする必要があります。

根抵当権の活用例

根抵当権は、何度も反復した借入れが想定される場合に設定されることが多いです。

具体的には、以下のようなケースにおいて根抵当権が活用されることがあります。

根抵当権の活用例

① 事業用資金の融資
メインバンク等が顧客企業に対して、事業用資金を複数回にわたって貸し付けることが見込まれる場合には、その全ての債権を担保するため、不動産に根抵当権を設定することがあります。

② リバースモーゲージによる生活資金の融資
リバースモーゲージ(reverse mortgage)とは、自宅の不動産を担保として、金融機関から生活資金等を借り入れる制度です。
リバースモーゲージによる貸付けは、毎年または毎月など定期的に反復して行われるため、自宅の不動産に根抵当権を設定して担保とします。

根抵当権に関する民法のルール

根抵当権については、民法で以下のルールが定められています。

① 極度額
② 被担保債権の範囲
③ 根抵当権に関する事項の変更
④ 元本の確定
⑤ その他

極度額とは

極度額」(きょくどがく)とは、根抵当権によって担保される債権の上限額をいいます。根抵当権を設定する際には、必ず極度額を定めなければなりません(民法398条の2第1項)。

根抵当権の被担保債権は広範囲に広がる可能性がありますが、極度額が設定されることにより、担保不動産の所有者は自らの負担の大きさを予測できるようになります。

被担保債権の範囲とは

根抵当権は、一定の範囲に属する不特定の債権を担保します。根抵当権によって担保される債権の範囲を「被担保債権の範囲」(ひたんぽさいけんのはんい)といいます。

根抵当権の被担保債権の範囲は、以下のいずれかに限定して定めなければなりません(民法398条の2第2項・第3項)。

被担保債権の範囲の定め方

(a) 債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるもの、その他債務者との一定の種類の取引によって生ずるもの
(b) 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずるもの
(c) 手形上もしくは小切手上の請求権
(d) 電子記録債権

(例)
× AがBに対して取得する一切の債権(取引の種類も発生原因も特定されていない)
○ AがBに対して取得する一切の貸付債権(取引の種類が特定されている)
○ AがBに対して△△契約に基づき取得する一切の債権(発生原因が特定されている)

ムートン

「被担保債権」自体は定めなくても、「被担保債権の範囲」は定める必要があります。

また、実際に根抵当権を行使できるのは原則として、確定した元本利息その他の定期金および債務不履行に基づく損害賠償に限られます(民法398条の3第1項)。

根抵当権に関する事項の変更

根抵当権に関する事項の変更については、以下のルールが設けられています。

根抵当権に関する事項の変更のルール

(a) 被担保債権の範囲・債務者の変更
被担保債権の範囲または債務者は、元本の確定前に限って変更することができます(民法398条の4第1項)。その際、後順位抵当権者その他の第三者の承諾は不要です(同条2項)。

ただし、元本の確定前に被担保債権の範囲または債務者の変更を登記しなかったときは、変更をしなかったものとみなされます(同条3項)。

(b) 極度額の変更
極度額は、利害関係者の承諾を得なければ変更できません(民法398条の5)。なお、元本確定後でも極度額の変更は可能です。

利害関係者とは、極度額の変更によって影響を受ける者をいいます。

<増額時の利害関係者の例>
・同順位または後順位の担保権者
・後順位の担保不動産の差押債権者、仮処分債権者、仮登記権利者

<減額時の利害関係者の例>
・根抵当権の転抵当権者
・被担保債権の差押債権者

元本の確定とは

元本の確定」(がんぽんのかくてい)とは、特定されていなかった根抵当権の被担保債権が特定されることをいいます。

(例)
AがBに対して取得する一切の貸付債権(不特定)

元本の確定

元本確定時点までにAがBに対して取得した貸付債権(特定)

確定した元本については、根抵当権者は根抵当権を行使できるようになります(民法398条の3第1項。なお、利息その他の定期金と債務不履行に基づく損害賠償については、元本の確定前後に関わらず根抵当権を行使可能)。

元本の確定については、民法において以下の規定が設けられています。

(a) 元本確定期日
(b) 元本確定請求
(c) 元本確定事由

元本確定期日

根抵当権を設定する際には、元本確定期日を定めることができます(民法398条の6第1項)。
その際、後順位抵当権者その他の第三者の承諾を得る必要はありません(同条2項・民法398条の4第2項)。

また、元本確定期日を定めた後に変更することも可能です(民法398条の6第1項)。変更の場合も、後順位抵当権者その他の第三者の承諾は必要ありません(同条2項・民法398条の4第2項)。
ただし、変更前の期日より前に変更の旨を登記しなかったときは、変更前の期日において元本が確定します(民法398条の6第4項)。

なお元本確定期日は、根抵当権を設定した日または変更した日から5年以内としなければなりません(民法398条の6第3項)。

元本確定請求

根抵当権設定者は原則として、根抵当権の設定の時から3年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができます(=元本確定請求)。
根抵当権設定者による元本確定請求が行われた場合、根抵当権の元本は、請求時から2週間を経過すると確定します(民法398条の19第1項)。

また、根抵当権者は原則として、いつでも元本確定請求ができます。根抵当権者による元本確定請求が行われた場合、根抵当権の元本は請求時に確定します(同条2項)。

ただし、元本確定期日がすでに定められている場合には、根抵当権設定者および根抵当権者のいずれも、元本確定請求を行うことができません(同条3項)。

元本確定事由

以下のいずれかの事由(=元本確定事由)に該当した場合には、根抵当権の元本が確定します(民法398条の20)。

(a) 根抵当権者が抵当不動産について競売もしくは担保不動産収益執行または物上代位による差押えを申し立てたとき。
※実際に競売手続もしくは担保不動産収益執行手続が開始せず、または差押えが行われなかったときは、元本は確定しません。

(b) 根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき。
(c) 根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始または滞納処分による差押えがあったことを知った時から2週間を経過したとき。
(d) 債務者または根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき。

その他

上記のほか、根抵当権については、以下の事項に関する規定が設けられています。

  • 根抵当権の被担保債権の譲渡等(民法398条の7)
  • 根抵当権者または債務者の相続、合併、会社分割(民法398条の8~398条の10)
  • 根抵当権の処分、譲渡、一部譲渡(民法398条の11~398条の13)
  • 根抵当権の共有(民法398条の14)
  • 抵当権の順位の譲渡または放棄と根抵当権の譲渡または一部譲渡(民法398条の15)
  • 共同根抵当(民法398条の16・398条の17)
  • 累積根抵当(民法398条の18)
  • 根抵当権の極度額の減額請求(民法398条の21)
  • 根抵当権の消滅請求(398条の22)

根抵当権を設定する手続き

根抵当権を設定する際には、以下の2つの手続きを行うのが一般的です。

① 根抵当権設定契約を締結する
② 根抵当権の設定登記を申請する

根抵当権設定契約を締結する

根抵当権設定者(=不動産の所有者)と根抵当権者(=被担保債権の債権者)の間で、根抵当権設定契約を締結します。

根抵当権設定契約には、主に以下の事項を定めます。

① 不動産の表示
根抵当権を設定する不動産の情報を、登記事項証明書に揃えて記載します。

② 被担保債権の範囲・極度額
根抵当権によって担保される債権の範囲と、極度額を定めます。

③ 元本確定期日
元本確定期日を定める場合は、契約締結日から5年以内の日付とします。なお、元本確定期日は定めなくても構いません。

④ 根抵当権の設定登記手続き
契約締結後の設定登記手続きについて、時期や費用負担などを定めます。

など

根抵当権の設定登記を申請する

根抵当権設定契約の締結後、不動産の所在地を管轄する法務局または地方法務局に対して、根抵当権の設定登記を申請します。登記申請は、契約締結と同日付で行うのが一般的です。

根抵当権設定登記申請の必要書類

・登記原因証明情報(根抵当権設定契約書)
・登記済権利証または登記識別情報
・根抵当権設定者の印鑑証明書(発行日より3カ月以内のもの)
・根抵当権設定者または根抵当権者の資格証明書(法人の場合に限る)
・委任状(司法書士等に依頼する場合、実印を押印する)
・本人確認書類(本人が手続きをする場合)

根抵当権設定登記を申請する際には、登録免許税がかかります。
登録免許税額は、極度額(下3桁切り捨て)の0.4%です。税額の下2桁は切り捨て、1,000円未満の場合は1,000円となります。

根抵当権を消滅させる手続き

根抵当権を消滅させるためには、根抵当権の元本を確定させた後で完済するか、または根抵当権設定者と根抵当権者が消滅に関する合意書を締結します。
その後、根抵当権の抹消登記を申請します。

パターン1|根抵当権の元本を確定させた後、完済する

元本が確定すると、根抵当権は通常の抵当権へと転じます
その後に被担保債権を完済すれば、付従性によって抵当権が消滅します。

パターン2|根抵当権の消滅に関する合意書を締結する

根抵当権は、根抵当権設定者と根抵当権者の合意によっても消滅させることができます。

この場合、根抵当権設定者と根抵当権者の間で、主に以下の事項を定めた根抵当権の消滅に関する合意書を締結します。

① 根抵当権を消滅させる旨
② 根抵当権の抹消登記手続き
など

根抵当権の抹消登記を申請する

根抵当権の消滅に関する合意書の締結後、不動産の所在地を管轄する法務局または地方法務局に対して、根抵当権の抹消登記を申請します。

根抵当権抹消登記申請の必要書類

・登記原因証明情報(根抵当権の消滅に関する合意書)
・根抵当権設定契約書
・登記済権利証または登記識別情報
・根抵当権設定者または根抵当権者の資格証明書(法人の場合に限る)
・委任状(司法書士等に依頼する場合、実印を押印する)
・本人確認書類(本人が手続きをする場合)

根抵当権抹消登記を申請する際には、登録免許税がかかります。
登録免許税額は、不動産1個当たり1,000円です(土地・建物の場合は、合計2,000円)。

根抵当権のついた不動産の取引の注意点

根抵当権が設定された不動産については、売却前に根抵当権を消滅させるか、または売却直後に根抵当権を消滅させるのでなければ、基本的に買い手がつきません。
元本確定後の完済、または債権者との交渉・合意によって、根抵当権を消滅させるめどを立てた上で売却活動を行いましょう。

買い手側としては、根抵当権が設定された不動産の購入は避けた方が無難です。被担保債権が不履行となった場合、購入した不動産が競売にかけられてしまうおそれがあります。
よほど特別な事情がない限りは、根抵当権が設定されていない不動産を購入しましょう。

ムートン

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