横領(横領罪)とは?
着服との違い・構成要件・具体例・
発生時に会社がとるべき対応などを 分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「横領」とは、自己の占有する他人の物を不法に領得する行為です。
刑法に定められている「横領罪」には、以下の3種類があります。
①単純横領罪(252条)
②業務上横領罪(253条)
③遺失物等横領罪(254条)特に、役員や従業員が会社資金を横領した場合には、業務上横領罪によって重く処罰されます(刑法253条)。
企業としては、役員・従業員による横領を未然に防ぐため、予防策を講じることが大切です。会社資金の管理方法を厳格化し、定期的に残高のチェックや監査を行うことなどが考えられます。横領の違法性につき、役員・従業員に十分周知することも大切です。
実際に役員・従業員による横領が発生してしまった場合には、速やかな事実関係の把握に努めるべきです。その後は状況に応じて、
・ 警察に対する被害届の提出
・ 懲戒処分
・ 横領資金の返還請求
などを行いましょう。会社資金の管理方法を見直して、横領の再発防止を図ることも求められます。今回は横領について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年3月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

目次
横領(横領罪)とは
「横領」とは、自己の占有する他人の物を不法に領得する行為です。
自己の占有する他人の物 | 他人から管理を委託されて、自分が所持している物(例:会社から管理を任されているお金や、顧客から預かっていた物品) |
領得 | 自分(または第三者)のものにする目的で、他人の物を不法に取得すること |
「横領」の定義
刑法において「横領」は特に定義されていませんが、「自己の占有する他人の物を自己に領得する意思を外部に発現する行為」と解するのが判例・通説です(領得行為説、最高裁昭和27年10月17日判決)。
例えば、目的物を売却・贈与・質入れする行為や、金銭を使い込んでしまう行為などが不法領得の意思の発現行為、すなわち横領に当たります。
横領と着服・窃盗・背任の違い
着服との違い
横領と似た言葉として「着服」がありますが、横領が刑法上の用語であるのに対して、着服は「不正な手段でごまかして自分のものにする」という意味の一般用語です。
基本的には、着服行為は「横領」に当たるケースが多いと思われますが、横領罪が成立するか否かについては、あくまでも刑法上の要件に従って判断されます。
窃盗との違い
「窃盗」とは、他人の意思に反して不法に財物の占有を奪取する行為です。
横領と窃盗の違いは、「財物」が、
- 自分の占有下にあるか(自分が預かっている他人の物なのか)
- 他人の占有下にあるか(他人が持っている他人の物なのか)
にあります。前者は横領、後者は窃盗です。
例えば、スーパーで「トイレットペーパー」を万引きしたとします。この場合、トイレットペーパーは、スーパー(=他人)が占有する財物なので、「窃盗」に該当します。
一方、会社から取締役として使用してよいお金を委託されていたとします。この場合、お金自体は会社の財物ですが、会社ではなく取締役(=自分)が占有しているので、これを不法に使用などした場合は、「横領」に該当します。
背任との違い
会社の役員や従業員による横領については、横領罪と同時に「背任罪」(刑法247条)も問題になります。
背任罪は、他人のために事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図る目的または本人に損害を与える目的で任務に背く行為をし、財産上の損害を加えた場合に成立する犯罪です。
横領罪と背任罪の区別に関しては、
- 物の不法領得については横領罪
- その他の任務違背行為については背任罪
が成立するというのが学説上有力な見解です。
横領の種類|該当行為の具体例・罰則も併せて解説!
刑法に定められている「横領罪」には、以下の3種類があります。
- 単純横領罪(刑法252条)
- 業務上横領罪(刑法253条)
- 遺失物等横領罪(刑法254条)
単純横領罪
単純横領罪は、横領罪の基本的・原則的な類型で、自己の占有する他人の物を横領した場合に成立します。法定刑は「5年以下の懲役」です。
本人または本人に授権された者から委託を受けて物を占有していたことが、単純横領罪の構成要件です。占有について本人などによる委託がない場合には、遺失物等横領罪の成否が問題となります。
- 単純横領罪に当たる行為の例
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・友人から預かったお金を勝手に使った
・友人から預かった宝石を勝手に売却した
業務上横領罪
業務上横領罪は、業務上自己の占有する他人の物を横領した場合に成立します。横領罪の加重類型であり、法定刑は「10年以下の懲役」と重く設定されています。
「業務」とは、委託を受けて物を管理する内容の事務です。例えば質屋や倉庫業者、職務上金銭を保管する会社の役職員などが業務上の占有者に当たります。
- 業務上横領罪に当たる行為の例
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・倉庫業者が顧客から預かっていた物品を勝手に売却した
・経理部の従業員が、預かっていた会社のお金を自分のものにした
遺失物等横領罪
遺失物等横領罪は、遺失物・漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した場合に成立します。法定刑は「1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料」と軽めです。
遺失物等横領罪が成立するのは、物の占有が本人などの委託に基づかない場合です。これに対して、占有が委託に基づく場合には、単純横領罪または業務上横領罪が問題となります。
- 遺失物等横領罪に当たる行為の例
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・道端に落ちていた財布を警察に届けず、自分のものにした
・客から商品代金を受け取った店員が、誤って請求額よりも多く支払われたことを知りながら、請求額との差額を自分のものにした
業務上横領罪の構成要件
企業の役員・従業員による不祥事として発生する横領は、その多くが業務上横領罪に該当します。
業務上横領罪の構成要件は、条文上以下の4つに分解されます。各構成要件の意義を確認しておきましょう。
「業務上」
前述のとおり、「業務」とは委託を受けて物を管理する内容の事務をいいます。業務上の占有者に当たるのは、例えば質屋や倉庫業者、職務上金銭を保管する会社の役職員などです。
業務を委託された者としての責任の重さに鑑み、業務上横領罪の法定刑は、単純横領罪よりも重く設定されています。
「自己の占有する」
「占有」とは財物に対する事実的支配、つまり自分の判断で財物を利用・処分できる状態をいいます。
業務上横領罪における「占有」は、本人または本人に授権された者の委託に基づくことが必要です。委託がない場合には、遺失物等横領罪が成立するにとどまります。
「他人の物を」
「他人の物」とは、他人の所有物のことです。
業務上横領罪は所有権を保護するための規定であるため、横領によって他人の所有権が侵害されたことが要件とされています。
「横領した」
「横領」とは、不法領得の意思を実現する一切の行為です。
「不法領得の意思」とは、委託を受けた任務に背き、所有者でなければできないような処分をする意思をいいます(最高裁昭和24年3月8日判決)。例えば売却・贈与・質入れ・金銭の使い込みなどが横領に当たります。
役員・従業員による横領の予防策
役員・従業員による横領を防ぐため、会社が講ずべき予防策としては、以下の例が挙げられます。
- 会社資金の管理を個人に任せない
- 出金は必ず複数承認制とする
- 小口現金の帳簿残高と実額を照合する
- 定期的に内部監査を行う
- 横領の違法性について役員・従業員に周知する
会社資金の管理を個人に任せない
役員・従業員の横領を防ぐためにもっとも重要なポイントは、会社資金の管理に関する広い裁量を個人に与えないことです。
日々必要になる小口の資金はともかく、まとまった金額の会社資金について、その管理を個人に任せることは避けましょう。
出金は必ず複数承認制とする
会社資金を出金するタイミングは、役員・従業員による横領がもっとも発生しやすい場面の一つです。不必要な出金や水増しした出金が行われれば、直ちに横領となってしまいます。
出金をきっかけとした横領を防ぐには、会社資金の出金を複数承認制とすることが効果的です。役員・従業員単独の判断では出金できないようにすれば、横領のリスクを相当程度減らすことができます。
小口現金の帳簿残高と実額を照合する
各部署が日々の支払いなどに充てるための小口現金は、従業員にとって手近であるため、横領の対象になりやすい傾向にあります。どんなに少額であっても、横領であることには変わりがないので、会社は厳正な対応をとらなければなりません。
小口現金の横領を防ぐためには、残高を帳簿に記録した上で、実額との照合を定期的に行うのがよいでしょう。可能であれば毎日、複数人で照合作業を行えば、横領はすぐに発覚してしまうという認識が従業員の間に広まり、小口現金の横領リスクを抑えられます。
定期的に内部監査を行う
会社が横領を予防する仕組みを整備しても、その仕組みをかいくぐるかのように、複数の役員・従業員が共謀して横領を図るケースがあります。
共謀による横領を抑止するためには、定期的に内部監査を行うことが効果的です。帳簿・ファイル・業務メールなどを徹底的に監査すれば、怪しい資金の流れや役員・従業員間のやり取りなどを看破できます。
定期的に内部監査が行われていること自体も、役員・従業員に対して警戒感を与え、横領への抑止効果につながるでしょう。
横領の違法性について役員・従業員に周知する
横領が犯罪であることを正しく認識せず、軽い気持ちで横領に手を染めてしまう役員や従業員も存在します。
会社としては、横領の違法性を役員・従業員に周知し、発覚したら厳しく対応することを明確化すべきです。会社が再三にわたって強いメッセージを発せば、役員・従業員は横領の違法性を否応なく認識し、該当する行為を控えるようになるでしょう。
役員・従業員による横領が発覚した場合の対処法
万が一役員・従業員による横領が発覚した場合には、会社は迅速に事実関係を把握し、横領を行った者の責任追及・処分などを適切に行う必要があります。
横領発覚時の対応の大まかなフローは、以下のとおりです。
①資金の流れを把握する
②行為者・関係者に対する事情聴取を行う
③警察に被害届を提出する
④行為者に対する懲戒処分等を行う
⑤横領資金の返還を請求する
⑥会社資金の管理方法を見直す
①資金の流れを把握する
まずは横領されたと思われる資金の流れと、それに関与したと思われる役員・従業員を把握する必要があります。
帳簿や銀行口座の入出金履歴、出金が可能だったと思われる役員・従業員の挙動などを中心に調査し、事実関係の把握に努めましょう。
②行為者・関係者に対する事情聴取を行う
資金の流れが把握できたら、横領の行為者や関係者と思われる役員・従業員に対して事情聴取を行いましょう。
横領に関わった人の間で口裏を合わせているかもしれませんが、嘘をついていれば客観的な証拠と矛盾する言動がなされる可能性が高いです。事前調査によって得られた資料などと照合しつつ、怪しい言動がないかを慎重に確認しましょう。
③警察に被害届を提出する
横領は犯罪であるため、警察に被害届を提出すれば捜査してもらえる可能性が高いです。横領の金額・常習性・行為者の態度などによっては、被害届の提出も検討すべきでしょう。
ただし、行為者に再起の機会を与えるとともに、レピュテーションの悪化を防ぐ観点からは、被害届を提出せず社内だけで処理することも選択肢の一つです。会社としてどのように対処すべきなのか、経営的な視点も含めて総合的に検討しましょう。
④行為者に対する懲戒処分などを行う
横領は就業規則違反に当たるため、懲戒処分の対象になります。
懲戒処分を行う際には、懲戒権の濫用(労働契約法15条)に当たらないように注意しなければなりません。
横領は犯罪なので、もっとも重い懲戒解雇も認められる可能性が高いと考えられます。しかし念には念を入れて、法務部門や顧問弁護士の間で、懲戒処分の内容を慎重に検討しましょう。
⑤横領資金の返還を請求する
横領された資金については、行為者に対して返還を請求できます(民法703条、704条、709条)。裁判外・裁判上の各手段(交渉・訴訟など)を通じて、行為者に返還を求めましょう。
ただし、横領された資金がすでに使い込まれてしまっている場合は、回収できず費用倒れになってしまう可能性もあります。どこまで深追いして請求すべきかについては、金額や資金使途などの事実関係を踏まえて適切に判断しましょう。
⑥会社資金の管理方法を見直す
実際に横領が発生した場合、会社資金の管理方法に甘い部分があった可能性が高いです。
横領の再発を防ぐためには、不備を突かれた部分を修正して、会社資金の管理体制をいっそう強固にすることが大切です。必要に応じて資金管理の方法を見直しましょう。
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