労働基準法違反に当たるケースとは?
事例・罰則・違反回避のための対策などを解説!
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- この記事のまとめ
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労働基準法には、会社が労働者との関係で遵守すべきさまざまなルールが定められています。
(例)
・解雇予告、解雇予告手当の支払い
・法定労働時間
・36協定の締結
・時間外手当、休日手当、深夜手当の支払い
・休憩の付与
・有給休暇の付与
など労働基準法に違反した場合、行政指導や刑事罰の対象になります。さらに、労働者との間でトラブルに発展する可能性も大いにあります。
企業が労働基準法違反を回避するには、コンプライアンス研修などでルールの内容に習熟した上で、労働時間の管理を徹底することが大切です。さらに、労働者にヒアリングを行うなどして、実際の労働状況を正しく把握し、労働基準法違反の状態が生じていないかどうかをチェックしましょう。
この記事では、労働基準法違反に当たる主な行為、違反時の罰則、労働基準法違反を回避するために企業が講ずべき対策などを解説します。
※この記事は、2023年5月2日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 育児介護休業法…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
目次
労働基準法違反に当たる主な行為(事例)
労働基準法違反に当たる主な行為としては、以下の例が挙げられます。
①解雇予告をしない・解雇予告手当を支払わない
②36協定を締結していないのに、時間外労働や休日労働をさせる
③36協定に違反して長時間労働をさせる
④残業代を適切に支払わない
⑤休憩を適切に与えない
⑥有給休暇を与えない
⑦産休・育休などを取得させない
⑧作成義務のある就業規則を作成しない・届け出ない・労働者に周知しない
⑨労働基準監督署に申告をした労働者を不利益に取り扱う
①解雇予告をしない・解雇予告手当を支払わない
会社が労働者を解雇する場合、原則として以下のいずれかの対応が必要になります(労働基準法20条1項・2項)。
① 30日以上前に解雇を予告する
② 30日分の平均賃金に相当する金額以上の解雇予告手当を支払って、即時解雇する
③ 解雇をn日前に予告した上で、(30-n)日分以上の平均賃金に相当する金額以上の解雇予告手当を支払って解雇する
上記をまとめると、
解雇予告期間+解雇予告手当に対応する日数≧30日
とすることが必要です。
天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、または労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合には、労働基準監督署の認定を受ければ上記の義務が免除されます(同法20条1項但し書き・3項・19条2項)。
②36協定を締結していないのに、時間外労働や休日労働をさせる
労働時間の上限は、原則として「1日8時間・週40時間」と決まっています(労働基準法32条)。これを「法定労働時間」といいます。
また、使用者は労働者に対し、週1日以上(または4週間を通じて4日以上)の休日を付与しなければなりません(同法35条)。これを「法定休日」といいます。
法定労働時間を超える労働を「時間外労働」、法定休日における労働を「休日労働」といいます。
会社が労働者に時間外労働または休日労働をさせるには、労働組合などと「36協定」を締結し、36協定で定めたルールに従わなければなりません(同法36条1項)。
③36協定に違反して長時間労働をさせる
36協定を締結している場合でも、労働者に対して指示できる時間外労働の時間数・休日労働の日数は、36協定で定められた上限の範囲内に限られます。
また、時間外労働・休日労働が認められる場合についても、36協定によって限定されます。
④残業代を適切に支払わない
時間外労働・休日労働・深夜労働(午後10時から午前5時までの労働)をした労働者に対しては、会社は以下の割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条)。
時間外労働 | 通常の賃金に対して25%以上 ※月60時間を超える部分については、通常の賃金に対して50%以上 |
休日労働 | 通常の賃金に対して35%以上 |
深夜労働 | 通常の賃金に対して25%以上 |
時間外労働かつ深夜労働 | 通常の賃金に対して50%以上 ※月60時間を超える部分については、通常の賃金に対して75%以上 |
休日労働かつ深夜労働 | 通常の賃金に対して60%以上 |
⑤休憩を適切に与えない
会社は労働者に対して、労働時間に応じて45分以上または1時間以上の休憩を付与しなければなりません(労働基準法34条1項)。
労働時間 | 休憩時間 |
---|---|
6時間以内 | 不要 |
6時間超8時間以内 | 45分以上 |
8時間超 | 1時間以上 |
また、休憩時間は一斉に与えるのが原則です(労使協定を締結すれば、分散付与も可。同条2項)。付与した休憩時間は、労働者の自由に利用させる必要があります(同条3項)。
⑥有給休暇を与えない
会社は以下の2つの要件を満たす労働者に対して、年次有給休暇を付与しなければなりません(労働基準法39条1項~3項)。
①6カ月以上継続勤務したこと
②基準期間※の全労働日の8割以上出勤したこと
※基準期間:最初に付与される有給休暇については、雇入れから6カ月間。それ以降に付与される有給休暇については、付与日直前の1年間
継続勤務期間 | 年次有給休暇の日数 |
---|---|
6カ月以上1年6カ月未満 | 10日以上 |
1年6カ月以上2年6カ月未満 | 11日以上 |
2年6カ月以上3年6カ月未満 | 12日以上 |
3年6カ月以上4年6カ月未満 | 14日以上 |
4年6カ月以上5年6カ月未満 | 16日以上 |
5年6カ月以上6年6カ月未満 | 18日以上 |
6年6カ月以上 | 20日以上 |
※フルタイム労働者:1週間の所定労働日数が5日以上、または1年間の所定労働日数が217日以上の労働者。それ以外の労働者(パートタイム労働者)については、継続勤務期間・所定労働日数に応じた日数の年次有給休暇を付与
有給休暇は原則として、労働者の請求する時季に与える必要があります(同条5項)。
事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に有給休暇を与えることも可能です。ただし、正当な理由がないのに有給休暇の時季を変更することや、有給休暇の取得を一切拒否することなどは労働基準法違反に当たります。
⑦産休・育休などを取得させない
6週間以内(多胎妊娠の場合は14週間以内)に出産する予定の女性労働者が休業を請求した場合、会社は産前休業を認めなければなりません(労働基準法65条1項)。
また、産後8週間を経過しない女性労働者を就業させてはなりません(ただし、産後6週間経過後に、女性労働者の請求に応じて、医師が支障がないと認めた業務に就かせる場合を除く。同条2項)。
また育児介護休業法では、労働者に育児休業・介護休業などを取得する権利が認められています。育児介護休業法に基づき、労働者によってなされた育児休業・介護休業の請求を拒否することは違法です。
⑧作成義務のある就業規則を作成しない・届け出ない・労働者に周知しない
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務があります(労働基準法89条)。
また、作成した就業規則は、以下のいずれかの方法によって労働者に周知しなければなりません(同法106条、1項、労働基準法施行規則52条の2)。
①常時各作業場の見やすい場所への掲示・備え付け
②労働者に対する書面の交付
③データによる記録・確認用機器の設置
⑨労働基準監督署に申告をした労働者を不利益に取り扱う
会社の労働基準法違反について、労働者は労働基準監督署に対して申告することができます(労働基準法104条1項)。
労働基準法に違反した場合の罰則(ペナルティ)
労働基準法に違反する行為をした場合、会社は以下のペナルティを受ける可能性があります。
①労働基準監督官による行政指導
②刑事罰
③労働者からの各種請求
①労働基準監督官による行政指導
労働基準法違反の有無を調査するため、労働基準監督官は、
- 事業場などへの臨検(立ち入り調査)
- 使用者に対する帳簿・書類の提出要求
- 使用者・労働者に対する尋問
を行うことができます(労働基準法101条1項)。
臨検等の結果として労働基準法違反が発覚した場合、労働基準監督官は会社に対して是正勧告を行います。是正勧告を受けた会社は、速やかに違反状態を是正した上で、その結果を労働基準監督官へ報告しなければなりません。
②刑事罰
労働基準法違反に当たる行為の多くは、刑事罰の対象とされています。
主な違反行為の法定刑は以下のとおりです。
強制労働をさせる行為 | 1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金(労働基準法117条) |
・労働者からの中間搾取 ・最低年齢未満の児童を労働させる行為 ・坑内労働の禁止、制限違反 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金(同法118条) |
・解雇予告義務違反 ・解雇予告手当の支払い義務違反 ・違法な時間外労働をさせる行為 ・賃金(残業代)の不払い ・休日の付与義務違反 ・休憩の付与義務違反 ・有給休暇の付与義務違反 ・産前産後休業の取得拒否 ・労働基準監督署への申告を理由とする不利益な取り扱い など | 6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金(同法119条) |
・労働条件の明示義務違反 ・休業手当の不支給 ・就業規則の作成、届け出義務違反 など | 30万円以下の罰金(同法120条) |
労働基準法違反で逮捕されることはあるか?
労働基準法違反によって逮捕されるケースは稀ですが、法律上逮捕が禁止されているわけではありません。
犯罪に当たる労働基準法違反が認められ、かつ労働基準監督官の是正勧告に全く従わない場合などには、関与した役員・従業員が逮捕される可能性もあるので注意ください。
③労働者からの各種請求
労働基準法違反の内容に応じて、会社は労働者から以下の請求を受ける可能性があります。
・未払い残業代(未払い賃金)の請求
・解雇予告手当の請求
・労働災害の損害賠償請求
など
企業が労働基準法に違反しないための対策
労働基準法違反を犯さないため、企業は以下の対策を十分に講じましょう。
①労働基準法のルールに習熟する
②労働時間の管理を徹底する
③実際の労働状況を正しく把握する
①労働基準法のルールに習熟する
労働基準法を遵守するためには、そのルールの内容をよく理解することが大前提です。
特に役員・管理職については、最新の法改正を含めて労働基準法のルールに習熟させる必要があります。定期的に社内研修を実施するなど、法令知識のインプット・アップデートを図りましょう。
②労働時間の管理を徹底する
労働基準法違反は、労働時間のずさんな管理が原因で発生するケースが多いです。
勤怠管理システムを通じて客観的に労働時間を管理し、違法な長時間労働の発生防止に努めましょう。
③実際の労働状況を正しく把握する
勤怠管理システムを導入していても、システムに登録されていない残業が隠れて行われていることもあります。特に、持ち帰り残業やテレワークなどが行われている場合は要注意です。
定期的に1on1ミーティングを行って業務状況をヒアリングするなど、労働者の実際の業務状況を正しく把握する取り組みを行いましょう。
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