労使協定とは?
就業規則や労働協約との違い・種類・届け出義務が
生じるケースなどを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「労使協定」とは、使用者(会社)と労働者の過半数を代表する者などが締結する協定です。労働基準法や育児介護休業法によって、一定の場合には労使協定の締結が義務付けられています。
労使協定には、労働基準監督署への届け出が必要な場合と不要な場合があります。届け出義務がある場合は、届け出を怠ると罰則の対象になるので注意が必要です。
労使協定を締結した場合、内容によっては就業規則への反映が必要になるほか、労働者に対する周知を行わなければなりません。労働基準監督署への届け出と併せて、必要な手続きを見落とさないように注意ください。
今回は労使協定について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年3月28日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・育児介護休業法…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
目次
労使協定とは
「労使協定」とは、使用者(会社)と労働者の過半数を代表する者などが締結する協定です。
労働基準法や育児介護休業法によって、労働基準法などの原則を外れた労働条件を定める場合には労使協定の締結が義務付けられています。
労使協定の代表例としては、「時間外労働・休日労働に関する協定」(通称36協定)が挙げられます。
労使協定を締結する目的
労使協定を締結する目的は、労働基準法などの原則を外れた労働条件を定めたい場合に、使用者・労働者間でルールを決めることです。
労働基準法では、労働者の人たるに値する生活を確保するため、労働条件に関する最低ラインとして、使用者が順守すべき原則を定めています。
その一方で、業務上の必要性などの観点から、一定の場合には原則を外れた労働条件を定めることも認めています。ただし、労働時間や有給休暇などの重要な労働条件については、使用者が就業規則などで一方的に決めることができてしまうと、労働者に対する搾取につながりかねません。
そこで、重要な労働条件について労働基準法の例外を定める場合には、使用者が一方的に決めるのではなく、労使協定を締結して使用者・労働者の合意形成を図ることが義務付けられています。
労使協定の当事者
労使協定は、使用者と労働者で締結します。事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合・ない場合で、以下のとおり、当事者が変わります。
①事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合
→その労働組合
②事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がない場合
→労働者の過半数を代表する者
労使協定と労働協約・労働契約・就業規則の違い
労使協定と同様に、使用者・労働者の間で適用されるルールを定めたものとして、
- 労働協約
- 労働契約
- 就業規則
があります。
労使協定と労働協約の違い
「労働協約」とは、使用者と労働組合が締結する契約です。
労使協定と労働協約は、以下の点において異なります。
①当事者
労使協定における労働者側の当事者は、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合か、または労働者の過半数を代表する者です。
これに対して、労働協約の当事者は労働組合に限られます。
②効力範囲
労使協定は、事業場に所属する労働者全体に対して適用されます。
これに対して、労働協約が適用されるのは、原則、当事者である労働組合に所属する労働者に対してのみです。ただし、事業場において常時使用される同種の労働者の4分の3以上に対して労働協約が適用されるに至った場合には、他の同種の労働者にも労働協約が適用されます(労働組合法17条)。また、一の地域において従業する同種の労働者の大部分が労働協約の適用を受けるに至った場合、労働委員会決議によって、当該地域における他の同種の労働者と使用者にも労働協約が適用されることがあります(同法18条)。
③有効期間の上限
労使協定には原則として有効期間の上限がなく、労使の合意によって自由に期間を定めることができます(ただし、例外的に上限が設定されているものもあります)。
これに対して、労働協約の有効期間は3年が上限とされています(同法15条)。
④届け出の要否
労使協定は、労働基準法などの規定に基づき、労働基準監督署への届け出が必要な場合があります。
これに対して、労働協約は、労働基準監督署に対する届け出が不要です。
労使協定と労働契約の違い
「労働契約」とは、使用者と労働者個人が締結する契約です。
労使協定は、事業場に所属する労働者全体に適用される労働条件が定められます。これに対して労働契約は、あくまでも労働者個人に適用される労働条件などが定められるものです。
なお、労使協定の適用を受ける労働者との関係では、労使協定の内容が労働契約の一部となります。
労使協定と就業規則の違い
「就業規則」とは、賃金・労働時間などの労働条件に関することや職場内の規律などについて定めた社内規程です。常時10人以上の労働者を使用している事業場では、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければなりません(労働基準法89条)。
労使協定は使用者・労働者側の合意に基づき締結される契約ですが、就業規則は使用者が一方的に定める社内規程です。
労使協定の種類|締結すべき場合・届け出の要否
労使協定を締結すべき場合は、労働基準法や育児介護休業法において定められています。労使協定の種類によって、労働基準監督署に対する届け出が必要か不要かが異なります。
届出が必要な労使協定とは
労使協定を締結した上で、労働基準監督署に対する届け出が必要になるのは、以下の場合です。
- 労使協定の締結・労働基準監督署への届け出が必要な場合
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・使用者が委託を受けて労働者の貯蓄金を管理する場合(労働基準法18条2項)
・1年単位の変形労働時間制を導入する場合(就業規則に定めた場合は届け出不要。同法32条の4第1項)
・常時使用する労働者が30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店の事業において、労働者を1日10時間まで労働させる場合(同法32条の5第1項)
・労働者に時間外労働または休日労働をさせる場合(=36協定。同法36条1項)
・事業場外みなし労働時間制について、所定労働時間以外のみなし労働時間を定める場合(みなし労働時間が法定労働時間以内の場合は届け出不要。同法38条の2第2項)
・専門業務型裁量労働制を導入する場合(同法38条の3第1項)
など
36協定とは
36協定は、従業員に残業や休日出勤をさせることがある全ての企業が締結しなければならないため、さまざまな種類がある労使協定の中でも重要性が高いといえます。
36協定には、時間外労働や休日労働に関する以下の事項を定める必要があります。
- 必須協定事項
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①労働者の範囲
②対象期間
③時間外労働・休日労働をさせることができる場合
④時間外労働時間・休日労働日数
⑤有効期間
⑥1年の起算点
⑦時間外労働の上限を超えないこと
- 特別条項を定める場合の協定事項
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⑧特別条項を適用する場合の時間外労働時間の上限
⑨特別条項による労働をさせることができる月数
⑩特別条項による労働をさせることができる場合
⑪健康及び福祉を確保するための措置
⑫割増賃金の率
⑬特別条項による労働をさせる場合の手続き
36協定を締結しなければ、使用者は労働者に時間外労働や休日労働を命じることができません。また、時間外労働や休日労働をさせる場合でも、36協定に定められた条件を遵守する必要があります。
36協定については、以下の記事で詳しく解説しているのでご参照ください。
労基署への届け出が不要な労使協定
労使協定の締結は必要であるものの、労働基準監督署に対する届け出は不要とされているのは、以下の場合です。
- 労使協定の締結は必要だが、労働基準監督署への届け出は不要な場合
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・賃金の一部を控除して支払う場合(法定控除を除く。労働基準法24条1項)
・1か月単位の変形労働時間制を導入する場合(同法32条の2第1項)
・フレックスタイム制を導入する場合(同法32条の3第1項)
・休憩を分散して付与する場合(同法34条2項)
・代替休暇制度を導入する場合(同法37条3項)
・時間単位の有給休暇を付与する場合(同法39条4項)
・有給休暇の計画的付与を行う場合(同条6項)
・有給休暇中の賃金を標準報酬日額で支払う場合(同条9項)
・育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇を取得できない労働者の範囲を定める場合(育児介護休業法6条1項、12条2項、16条の3第2項、16条の6第2項)
・時間外免除、短時間勤務を適用しない労働者の範囲を定める場合(同法16条の8第1項、23条1項)
など
労使協定を作成・締結する際の手続き
労使協定を締結する際の手続きは、以下のとおりです。
①労働組合などとの交渉
②労使協定の締結
③就業規則の変更
④労働者に対する周知
⑤労働基準監督署への届け出
1|労働組合などとの交渉
まずは、労使協定に定める内容を決定するため、労働組合(または労働者の過半数代表者)との間で交渉を行います。
会社の実態に合った労使協定を締結するため、労使の間で誠実に協議を尽くすことが求められます。会社としては、労働者側の主張を傾聴し、労働者が働きやすい環境を整えられるような制度を検討すべきでしょう。
2|労使協定の締結
使用者・労働者間の交渉がまとまったら、労使協定を締結します。
労使協定は、書面による締結が必須とされています。合意内容を漏れなく書面に落とし込んだ上で、使用者・労働者側の各代表者(またはその授権を受けた者)が署名などして締結しましょう。
3|就業規則の変更
労使協定に関わる労働条件は、いずれも就業規則の記載事項とされています。
したがって、各事業場において常時10人以上の労働者を使用する使用者は、労使協定の内容を就業規則に反映しなければなりません。取締役会などの機関決定を経て、労使協定の効力発生日に合わせて就業規則の変更を行いましょう。
4|労働者に対する周知
締結した労使協定および変更後の就業規則の内容は、労働者に対して周知しなければなりません(労働基準法106条1項)。
周知の方法は、以下のいずれかから選択できます(労働基準法施行規則52条の2)。
①常時各作業場の見やすい場所へ掲示する(または備え付ける)
②書面を労働者に交付する
③磁気テープ・磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する
5|労働基準監督署への届け出
届け出が義務付けられている労使協定については、効力発生日の前日までに労働基準監督署へ届け出なければなりません。
また、各事業場において常時10人以上の労働者を使用する使用者は、労使協定の内容を反映する就業規則の変更についても、労働基準監督署への届け出が必要となります。
労使協定に関する違反行為への罰則
- 労使協定の締結義務違反
- 内容への違反
- 届け出義務違反
については、労働基準監督官による行政指導の対象になり得るほか、悪質な場合には刑事罰の対象となる可能性があります。
労働基準法などの規定を遵守して、適切に労使協定の締結・運用を行いましょう。
労使協定の締結を怠った場合
労使協定の締結が必要であるにもかかわらず、それを怠ったまま該当する労働条件を適用した場合は、労働基準法違反に該当します。
例えば、36協定を締結せずに時間外労働や休日労働をさせた場合、法定労働時間の規制(労働基準法32条)や休日付与の規制(同法35条)への違反に当たります。
これらの違反に対しては、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります(同法119条1号)。
また、事業主(会社)も両罰規定により、「30万円以下の罰金」の対象となる点に注意が必要です(同法121条1項)。
労使協定の内容に違反した場合
使用者が労使協定の内容に違反した(=労使協定で定められたルールを逸脱した)場合、労働基準法違反に該当します。この場合、労使協定の締結を怠った場合と同じく刑事罰の対象です。
例えば、36協定で定められた上限を超えて時間外労働や休日労働をさせた場合、法定労働時間の規制(労働基準法32条)や休日付与の規制(同法35条)への違反に当たります。
この場合の法定刑は、労使協定の締結を怠った場合と同じく「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」です(同法119条1号)。
事業主にも両罰規定により、「30万円以下の罰金」が科されます(同法121条1項)。
労使協定の届け出義務に違反した場合
届け出義務のある労使協定につき、労働基準監督署への届け出を怠った場合には「30万円以下の罰金」に処されます(労働基準法120条1号)。
さらに、労使協定の内容を反映した就業規則の変更につき、労働基準監督署への届け出を怠った場合には「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処されます(同法119条1号)。
事業主に対する両罰規定は、労使協定・就業規則のいずれの届け出義務違反についても「30万円以下の罰金」です(同法121条1号)。
労使協定についてのまとめ
労使協定について、特に重要なポイントをまとめます。
① 労使協定の概要
使用者(会社)と労働者の過半数を代表する者などが締結する協定です。一部の特殊な労働条件を定める際には、労働基準法や育児介護休業法によって、労使協定の締結が義務付けられます。
② 36協定の概要
時間外労働および休日労働のルールを定めた労使協定です。
36協定を締結しなければ、使用者は労働者に時間外労働や休日労働を命じることができません。なお36協定は、労働基準監督署へ届け出なければ効力を生じません。
③ 労使協定の締結手続き
労使協定は、労働組合(または労働者の過半数代表者)との間で交渉を経て合意し、書面により締結します。
締結した労使協定の内容は、就業規則に反映する必要があります。変更後の就業規則は、労働基準監督署に届け出た上で、労働者に周知しなければなりません。
労使協定については、その内容によって労働基準監督署への届け出を要するものと、届け出が不要なものに分かれます。届け出が必要な労使協定については、効力発生日の前日までに届け出なければなりません。
④ 労使協定違反の罰則
労使協定に違反した場合は、労働基準監督官による行政指導の対象になり得るほか、悪質なケースでは刑事罰の対象となる可能性があります。
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