【2023年施行】消費者契約法改正・
消費者裁判手続特例法改正とは?
改正点を分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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事業者と消費者の契約に関する法律として、消費者契約法があります。
また、消費者被害を回復するための制度として消費者裁判手続特例法に基づく被害回復制度があります。
この記事では、2022年5月に成立した、この2つの法改正について、改正内容と実務対応のポイントを解説します。
※この記事は、2022年12月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・消費者裁判手続特例法…消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律
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目次
【2023年施行】消費者契約法・消費者裁判手続特例法改正とは
公布日・施行日
公布日と施行日は、次のとおりです。
- 公布日・施行日
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消費者契約法
公布日│2022年6月1日
施行日│2023年6月1日消費者裁判手続特例法
公布日│2022年6月1日
施行日│2023年10月1日
【2023年6月1日施行】消費者契約法改正の目的・概要
消費者契約法は、事業者と消費者の契約(消費者契約)に適用される法律です。不当勧誘等による取消しや不当条項を無効とすることなどによって消費者保護を図っています。
コロナ禍によるオンライン取引の急増等により、消費者や消費者契約を取り巻く環境が急激に変化しました。それに伴い、消費者保護の在り方を見直し、環境の変化に対応した法とすべきという観点から、主に下記に関する改正が2022年に行われました(令和4年法律第59号)。
①契約の取消権
②解約料の説明の努力義務
③免責の範囲が不明確な条項の無効
④事業者の努力義務の拡充
⑤適格消費者団体の要請
【2023年10月1日施行】消費者裁判手続特例法改正の目的・概要
2016年に施行された消費者裁判手続特例法は、消費者団体訴訟制度のうち、被害回復制度について定めています。
- 消費者団体訴訟制度とは
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内閣総理大臣が認定した消費者団体(適格消費者団体・特定適格消費者団体)が、消費者に代わって事業者に対して訴訟等をできる制度
1. 適格消費者団体による差止請求
事業者の不当な行為をやめるように求める(消費者契約法等)2.特定適格消費者団体による被害回復
多数の消費者に生じた集団的な被害の回復を求める(消費者裁判手続特例法)
2-1. 共通義務確認訴訟(第1段階):事業者の金銭支払義務の確認
2-2. 簡易確定手続(第2段階):個々の消費者の誰にいくら支払うかを確定
しかし、被害回復制度の利用は大きくは進んでおらず、制度に期待される役割が十分発揮されているとは言い難いと指摘されてきました。
そのため、消費者裁判手続特例法による訴訟手続が利用されやすくなるよう、主に下記の改正が行われました。
①共通義務確認訴訟の対象範囲の拡大
②和解の柔軟化
③消費者への情報提供方法の拡充
消費者裁判手続特例法改正の詳細は、「【2023年10月1日施行】消費者裁判手続特例法改正のポイント」から解説します。
【2023年6月1日施行】消費者契約法改正のポイント
①契約の取消権
消費者契約法には、消費者による契約の取消権の類型として、誤認惹起型と困惑型があります。そして、同法立法時に困惑型として規定されていたのは以下の2つのみでした。
①不退去
②退去妨害
その後、2018年改正において、
③社会生活上の経験不足の不当な利用をして、不安をあおる告知
④社会生活上の経験不足の不当な利用をして、恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用
⑤加齢等による判断力の低下の不当な利用
⑥霊感等による知見を用いた告知
⑦契約締結前に債務の内容を実施等
⑧不利益事実の不告知による取消しの要件緩和
という類型が追加されました。
これらの類型は時代の流れに即して立法され、多様化してきました。しかし、コロナ禍も相まってオンラインでの取引が増加するなど、消費者契約の締結方法等は日々変化し、上記8類型では対応しきれない状況が生じていたため、本改正によって新たな困惑型の類型等が追加されました。
✅ 消費者を任意に退去困難な場所に同行し勧誘
✅ 契約締結の相談を行うための連絡を威迫する言動を交えて妨害
✅ 契約目的物の現状変更
以下、3つの類型について詳しく解説します。
(1)消費者を任意に退去困難な場所に同行し勧誘
消費者契約法
消費者契約法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第4条 1~2(略)
3 (略)
⑴~⑵ (略)
⑶ 当該消費者に対し、当該消費者契約の締結について勧誘をすることを告げずに、当該消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら、当該消費者をその場所に同行し、その場所において当該消費者契約の締結について勧誘をすること。
改正前においても、退去妨害(消費者契約法4条3項2号)が規定されており、これは消費者が退去の意思を示したにもかかわらず、事業者が退去させない場合に適用されます。
しかし、消費者に勧誘目的を告げずに他の場所へ誘導した上で、退去を困難な状況にし、契約の締結を迫る事案が生じていました。このような事案は退去妨害には該当しませんが、勧誘目的であることを告げずに消費者を退去困難な場所に連れて行き、勧誘を行うことは、退去妨害と同等の不当性があると考えられるため、本条項が規定されました。
- 「消費者を任意に退去困難な場所に同行し勧誘」の要件
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①「消費者が任意に退去することが困難な場所」
・消費者の任意の退去が困難であるか否かは、諸般の事情から客観的に判断される
(例)遠方まで連れて行かれ、帰りの交通手段がない場合 等・「諸般の事情」には当該消費者側の事情を含む
・ただし、事業者が当該消費者の事情を知らなかったときはこの限りではない
(例)当該消費者に身体的な障害があるが、事業者はそれを知らなかった場合 等②「当該消費者をその場所に同行し」
・3号の制定の趣旨は、事業者が消費者を退去困難な場所に移動させた上で勧誘を行うことを防止することにある
・「同行し」とは、消費者が自発的に移動した場合には認められない
・消費者の意思決定にどの程度事業者が介入した場合に「自発的に移動した場合」と言えるのかは、諸般の事情を考慮して判断する
- 事業者が対応すべきこと
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事業者が、勧誘目的を告げた上で、消費者を退去困難な場所に連れて行き、勧誘を行うことには本号の適用はないと考えられている
→事業者としては、場所を移動する場合でも、勧誘目的を消費者に伝えた上で勧誘する必要があります
なお、勧誘目的を告げることの内容にどこまで折り込むのかは、今後の検討課題と考えられます。
例えば、消費者に対して勧誘目的を告げていたとしても、行く先を告げず、移動する先が退去困難かどうか、消費者が判断できなければ、消費者は事業者の誘導に従って退去困難な場所に移動することがあり得るのではないでしょうか。
このような場合には本号は適用されないこととなり、消費者被害につながることも考えられます。
(2)契約締結の相談を行うための連絡を威迫する言動を交えて妨害
消費者契約法
消費者契約法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第4条3(4)当該消費者が当該消費者契約の締結について勧誘を受けている場所において、当該消費者が当該消費者契約を締結するか否かについて相談を行うために電話その他の内閣府令で定める方法によって当該事業者以外の者と連絡する旨の意思を示したにもかかわらず、威迫する言動を交えて、当該消費者が当該方法によって連絡することを妨げること。
本号は、消費者が契約の締結について、第三者(親・友人など)に相談しようとしたところ、事業者の高圧的な態度等によってそれを妨げられ、そのまま契約を締結させられる消費者被害があったことから新設されました。
- 「契約締結の相談を行うための連絡を威迫する言動を交えて妨害」の要件
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「威迫する言動」とは
→他人に対して言語挙動をもって気勢を示し、不安の感を生ぜしめること①「強迫」(民法96条1項)は相手方を畏怖(恐怖心)させる行為
≠「威迫する言動」は畏怖(恐怖心)を生じさせない程度の行為も含まれる
②「強迫」は相手方の契約締結に係る意思表示に向けられている
≠「威迫する言動」は、消費者の連絡を妨げることに向けられている
- 事業者が対応すべきこと
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学生が「親に相談したい」などと伝えたにもかかわらず、「自分の意思で決めないと」「他の学生は一人で決めている」等を伝えて連絡を妨げる行為は、「威迫する言動」に含まれると考えられる
→事業者としては、消費者が誰かに相談したい等を伝えてきた場合には、その行為を遮るような言動を行わず、消費者に対し、相談・連絡など意思決定のための時間を設けるなどの対応を行う必要があるでしょう
(3)契約目的物の現状変更
消費者契約法
消費者契約法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第4条3(9) 当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部若しくは一部を実施し、又は当該消費者契約の目的物の現状を変更し、その実施又は変更前の原状の回復を著しく困難にすること。
改正前においても、契約を締結した場合に事業者が負う義務を契約前に実施することを取り消しの対象とする規定が存在します(旧4条3項7号)。
しかし、事業者の義務の実施とは言えない形で、事業者が契約の目的物の現状を変更することで、消費者に対して、契約を締結するしかないと動揺させるような状況を作出し、困惑させるという被害がありました。
(例)不用品買い取りのために訪問した業者に貴金属を見せたところ、「切断しないと十分な査定ができない」と言われ、切断されてしまい、買い取りに応じてしまった
改正では対象を拡張する形で、事業者が、事業者の義務ではない追加的サービスを契約前に行った場合も、同規制の対象とされることとなりました。
- 事業者が対応すべきこと
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事業者が負う義務を契約前に実施すること
+義務ではない追加的サービスを契約前に行うことも規制対象に!→事業者は、契約の締結前に契約の目的物に作業を行うことはせず、契約締結後に、契約に基づく作業を行う必要があります
②解約料の説明の努力義務
消費者契約法
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(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
第9条2 事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、当該消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠(第12条の4において「算定根拠」という。)の概要を説明するよう努めなければならない。
契約の解除に伴う解除料等については消費者の大きな関心事です。
しかし、改正前の消費者契約法において、解約時の解除料、解約料の説明に関する規定は存在しませんでした。
このような情報の非対称性をなくすために、事業者は、消費者から求められた場合、これらの解除料等の算定の根拠を説明すべきと規定されました。
「算定の根拠」とは、解除料等を設定する際に使用した算定式、考慮事項とそれらを用いた理由、金額の適正性の根拠等を意味します。
なお、改正前においても、解除料等の金額が解除に伴って生じる「平均的な損害」の額を超える場合、超えた部分は無効とされています(9条1項1号)。
- 「平均的な損害」の意味
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「平均的な損害」とは
同一事業者が締結する多数の同種契約事案について、
類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額→具体的には、解除の事由、時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約の解除に伴い、当該事業者に生じる損害の額の平均値を意味するとされる
事業者としては、解除料の算定にあたって、「平均的な損害の額」を念頭に置いておく必要があります。消費者にはその算定根拠を説明すべきとされていますので、説明の準備として算定根拠の整理等を行っておく必要があると考えられます。
③免責の範囲が不明確な条項の無効
消費者契約法
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(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第8条3 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする。
改正前の8条1項2号・4号においても、事業者に故意または重大な過失がある場合における事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項は無効とされています。
しかし、実務では、事業者の損害賠償責任の範囲を限定しつつ、
「法令に反する場合はこの限りではない」
「法令上許容する限り免責されます」
といった、留保文言付きの契約条項が散見されます。
改正によって、損害賠償責任の一部を免除する契約条項は、事業者が軽過失の場合に限り有効であることを明確に記載することが求められています。
- 事業者が対応すべきこと
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免責の範囲が不明確な条項は無効に
+適格消費者団体の差止請求の対象になる→免責の範囲が不明確な条項を用いている事業者は、速やかに条項を変更する必要があります
なお、定型約款の条項が違法である場合に、当該条項を法令に適合するように変更することは、相手方の同意がなくても可能です(民法548条の4第1項1号)。
④事業者の努力義務の拡充
消費者契約法
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(事業者及び消費者の努力)
第3条 事業者は、次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない。
(1) (略)
(2) 消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質に応じ、事業者が知ることができた個々の消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験を総合的に考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供すること。
(3) 民法(明治29年法律第89号)第548条の2第1項に規定する定型取引合意に該当する消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者が同項に規定する定型約款の内容を容易に知り得る状態に置く措置を講じているときを除き、消費者が同法第548条の3第1項に規定する請求を行うために必要な情報を提供すること。
(4) 消費者の求めに応じて、消費者契約により定められた当該消費者が有する解除権の行使に関して必要な情報を提供すること。
2 (略)
改正前の3条1項2号は「消費者の知識及び経験を考慮したうえで」と規定されていました。
しかし、消費者の「年齢」や「心身の状態」も、理解の不十分さを伺わせる手掛かりとなることから、「消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験」という形で追加されています。
事業者はこれらの要素を「総合的に考慮」する必要がありますが、各考慮要素について画一的な基準を設けることは困難であるため、その対応は事業者に任せられています。
また、同条3号は、民法で消費者に認められている定型約款の表示請求権(民法548条の3第1項)の行使を担保するために、必要な情報提供をする努力義務を事業者に課しています。
ただし、この努力義務は、「定型約款の内容を容易に知り得る状態に置く措置」を取っている場合(書面による定型約款の交付等)には課されません。
さらに同条4号では、解除権の存在を知らないために任意解除できない、という消費者被害を減らすために、任意の解除権について情報提供をする努力義務を事業者に課しています。
本条の規定はあくまでも努力義務規定ですので、事業者がこの努力義務を履行していない場合でも、直接的には消費者の解除権に影響を与えないとも考えられます。
一方で、例えば解除権についての条項が非常に複雑に作り込まれている場合などにおいて、消費者契約法10条との関係で「消費者の利益を一方的に害する」と評価された結果、当該の条項が無効となるなどの影響があり得るでしょう。
このように、本条の規定は事業者に具体的な法的義務を課すものではありませんが、消費者保護の観点からは、事業者は本条に係る情報提供に協力することが望ましいと考えられます。
⑤適格消費者団体の要請
(1)消費者契約の内容の開示の要請
消費者契約法
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(消費者契約の条項の開示要請)
第12条の3 適格消費者団体は、事業者又はその代理人が、消費者契約を締結するに際し、不特定かつ多数の消費者との間で第8条から第10条までに規定する消費者契約の条項を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあると疑うに足りる相当の理由があるときは、内閣府令で定めるところにより、その事業者又はその代理人に対し、その理由を示して、当該条項を開示するよう要請することができる。ただし、当該事業者又はその代理人が、当該条項を含む消費者契約の条項をインターネットの利用その他の適切な方法により公表しているときは、この限りでない。
2 事業者又はその代理人は、前項の規定による要請に応じるよう努めなければならない。
適格消費者団体は、事業者に対して差止請求を行う前に、契約条項の確認等の申入れを行いますが、対応は事業者ごとに異なっています。
この対応の違いによって、開示した事業者が差止請求をされ、開示していない事業者が差止請求されないといった不公正な状況が生じています。
このような状況を是正するために、本改正によって、任意の開示要請について根拠規定が設けられました。
(2)損害賠償の額を予定する条項等の開示の要請
消費者契約法
消費者契約法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(損害賠償の額を予定する条項等に関する説明の要請等)
第12条の4 適格消費者団体は、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項におけるこれらを合算した額が第9条第1項第1号に規定する平均的な損害の額を超えると疑うに足りる相当な理由があるときは、内閣府令で定めるところにより、当該条項を定める事業者に対し、その理由を示して、当該条項に係る算定根拠を説明するよう要請することができる。
2 事業者は、前項の算定根拠に営業秘密(不正競争防止法(平成5年法律第47号)第2条第6項に規定する営業秘密をいう。)が含まれる場合その他の正当な理由がある場合を除き、前項の規定による要請に応じるよう努めなければならない。
適格消費者団体は、事業者の定めた解除料等が「平均的な損害の額」(消費者契約法9条1項)を超える場合に、当該条項の不当性に係る差止請求をすることができます。
それに先立ち、適格消費者団体は「平均的な損害の額」の算定根拠等について、事業者に確認の申入れを行いますが、この申入れに対しては、算定根拠等を開示する方向で回答する事業者もいれば、無視する事業者もいて、事業者ごとにその対応は異なります。
この対応の違いによって、開示した事業者は差止請求をされ、開示していない事業者は差止請求されないといった不公正な状況が生じる場合があります。
このような状況を是正するために、本改正によって、任意の開示要請について根拠規定が設けられました。
なお、「平均的な損害の額」の算定においては事業者の営業秘密が含まれる場合があり、このように、説明しないことに「正当な理由」がある場合には、事業者は説明をする必要はありません。
改正によって、適格消費者団体は損害賠償の額を予定する条項等の開示の要請ができることとされましたが、本条はあくまでも努力義務規定ですので、この要請に従うか否かについて、事業者に具体的な法的義務を課すものではありません。
ただ、消費者保護の観点からは、事業者は本条に係る情報提供に協力することが望ましいと考えられます。また、情報提供に協力することで、仮に訴訟になった場合には裁判官の心証に影響を与えることもあり得ると考えられます。
また、この要請に協力するか否かにかかわらず、事業者としては、損害賠償の額を予定する条項等の算定根拠の整理等を行っておく必要があると考えられます。
【2023年10月1日施行】消費者裁判手続特例法改正のポイント
①共通義務確認訴訟の対象範囲の拡大
消費者裁判手続特例法
消費者裁判手続特例法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第3条2 次に掲げる損害については、前項第3号から第5号までに掲げる請求に係る金銭の支払義務についての共通義務確認の訴えを提起することができない。
(1)~(5)(略)
(6) 精神上の苦痛を受けたことによる損害(その額の算定の基礎となる主要な事実関係が相当多数の消費者について共通するものであり、かつ、次のイ又はロのいずれかに該当するものを除く。)
イ 共通義務確認の訴えにおいて一の訴えにより、前項各号に掲げる請求(同項第3号から第5号までに掲げる請求にあっては、精神上の苦痛を受けたことによる損害に係る請求を含まないものに限る。以下このイにおいて「財産的請求」という。)と併せて請求されるものであって、財産的請求と共通する事実上の原因に基づくもの
ロ 事業者の故意によって生じたもの
改正前において、共通義務確認訴訟の対象とできる損害は、財産的損害に限定されており、慰謝料は対象に含まれていませんでした。
本制度の創設時には、濫用的な訴訟提起を防止するという観点から、慰謝料を対象から除いたという背景があります。しかし、実際には本制度の活用事例が著しく少なく、また濫用的な事例も現れていません。
これを踏まえて、制度活用の促進のために、一定の要件の下、慰謝料を共通義務確認訴訟の対象に含めることとされました。
この要件とは、
①共通義務確認の訴えにおいて一の訴えにより、財産的請求と併せて請求されるものであって、財産的請求と共通する事実上の原因に基づくもの
②事業者の故意によって生じたもの
のいずれかに該当する場合です。
本改正によって、例えば、大学の入試で、性別での得点調整がなされていたという事案などにおいて、共通義務確認訴訟の対象となる請求の損害に、慰謝料が含まれることとなると考えられます。
②和解の柔軟化
消費者裁判手続特例法
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第11条 共通義務確認訴訟の当事者は、当該共通義務確認訴訟において、当該共通義務確認の訴えの被告とされた事業者等に当該共通義務確認訴訟の目的である第2条第4号に規定する義務が存することを認める旨の和解をするときは、当該義務に関し、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。
(1) 対象債権及び対象消費者の範囲
(2) 当該義務に係る事実上及び法律上の原因
2 共通義務確認訴訟の当事者は、当該共通義務確認訴訟において、当該共通義務確認訴訟に係る対象債権に係る紛争の解決に関し、当該紛争に係る消費者の当該共通義務確認の訴えの被告とされた事業者等に対する対象債権以外の金銭の支払請求権(以下「和解金債権」という。)が存することを認める旨の和解をするときは、当該和解金債権に関し、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。
(1) 当該和解の目的となる権利又は法律関係の範囲
(2) 和解金債権の額又はその算定方法
(3) 和解金債権を有する消費者(第26条第1項第10号において「和解対象消費者」という。)の範囲
改正前は、共通義務確認訴訟における和解の対象は共通義務の存否だけでした(旧10条)。
しかし、この規定では和解において明らかにすべき事項が不明確で、紛争解決の柔軟性に欠け、紛争の早期解決が困難となっていました。
そのため、改正法では11条1項で、対象債権および対象消費者の範囲(1号)、当該義務に係る事実上および法律上の原因(2号)を明らかにすることとされました。
また、同条2項によって和解の対象の制限を撤廃し、和解金を支払う旨の和解などを可能としました。
③消費者への情報提供方法の拡充
(1)保全開示命令
改正前においても、簡易確定手続きにおける情報開示命令(旧29条1項)が規定されていましたが、迅速に発令されるとはいえず、ケースによっては実効性に乏しいものでした。
そのため、改正法では9条で、共通義務確認訴訟において、
・2条4号に規定する義務が存すること(1号)
・当該文書について、あらかじめ開示がされなければその開示が困難となる事情があること(2号)
が疎明された場合に、裁判所は事業者に対して文書の開示を命令できることとされました。
(2)特定適格消費者団体からの通知
改正前においても、特定適格消費者団体は、対象消費者に対して通知を行うことと規定されていました(旧25条)が、記載事項が多岐にわたり、消費者に理解され難いものとなっていました。
これを改善するために、本改正によって、27条2項各号に規定する内容を記載した場合、通知事項の一部を省略できることになりました。
(3)事業者による通知
改正前においても、特定適格消費者団体は、消費者に通知(旧25条)および公告(旧26条)を行っていましたが、通知を受けた消費者としては特定適格消費者団体の存在を知らないため、通知を見過ごすことが多く、十分な情報提供ができていませんでした。
また、共通義務確認訴訟によって、事業者の消費者に対する共通義務が確認されると、事業者は個々の消費者に対して法的責任を負うこととなります。
そのため、事業者に対して、法的責任を果たすための一定の義務を課すことは合理的であるとして、本改正によって、28条1項で、簡易確定手続の相手方となった事業者には、消費者への通知が義務化されました。
(4)内閣総理大臣による公表
特定適格消費者団体による通知・公告について、消費者は詐欺的な連絡との区別が付かず、その信頼性や真正性を担保できていませんでした。
改正前においても、行政の役割として、内閣総理大臣による公表(旧90条)が規定されていましたが、本改正によって、95条で、特定適格消費者団体による通知・公告の内容を行政庁のウェブサイト等に記載することが定められ、通知・公告の信頼性や真正性を担保しつつ、広く消費者に情報提供できるようになりました。
この記事のまとめ
上記のとおり、消費者契約法および消費者裁判手続特例法の改正は、一定程度事業者に義務を課すこと等によって、より消費者保護を図る内容となっています。事業者としては、改正法を理解した上で、事業体制を整えていく必要があります。
消費者契約法・消費者裁判手続特例法改正の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!
参考文献
・内閣法制局「消費者契約法及び消費者裁判手続特例法の一部を改正する法律案 逐条解説」