就業規則の変更届とは?
提出が必要な場合・提出先・
記載事項・添付書類などを解説!
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- この記事のまとめ
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就業規則の変更届とは、会社(使用者)が就業規則を変更した際に、労働基準監督署へ提出する届出書です。
常時10人以上の労働者を使用する会社が、就業規則における所定の事項を変更した場合、労働基準監督署に変更届を提出する必要があります。その際、労働者側の意見書も併せて添付しなければなりません。
就業規則変更届や意見書の様式は、労働局のウェブサイトなどに掲載されています。会社法のルールや様式の記載事項を踏まえて、漏れなく就業規則変更届などを提出しましょう。
就業規則を変更した際には、変更後の就業規則を労働者に周知する必要があります。また、労働者にとって不利益となる就業規則の変更は、一定の要件を満たさなければ、労働者に対して効力を生じないので注意しましょう。
今回は就業規則の変更届について、提出が必要な場合・提出先・記載事項・添付書類などを解説します。
※この記事は、2023年3月16日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
就業規則の変更届とは
就業規則の変更届とは、会社(使用者)が就業規則を変更した際に、労働基準監督署へ提出する届出書です。
就業規則を変更するときの流れ
就業規則を変更するときの流れは、以下のとおりです。
①変更内容を決定する
就業規則の変更権限を有する決定機関(取締役会が一般的)が、変更内容を決定します。
②労働組合などの意見を聴く
就業規則の変更内容について、労働組合または労働者の過半数代表者の意見を聴きます(労働基準法90条1項)。意見の内容は、意見書にまとめて提出してもらいます。
③労働基準監督署に変更届を提出する
変更内容などを記載した変更届を、労働基準監督署に提出します。労働組合等の意見書の添付が必要です(同法89条)。
④変更後の就業規則を労働者に周知する
作業場への掲示・書面交付・イントラネットへの掲載などの方法で、変更後の就業規則を労働者に周知します(同法106条1項)。
就業規則変更の届出に必要な書類とは
労働基準監督署に就業規則変更の届出を行う際、必要となる書類は以下の2点です。
- 就業規則変更届
- 労働組合などの意見書
各書類の作成方法などについては、「就業規則変更届の様式・記載事項」以降で詳しく解説します。
就業規則の変更届が必要となる場合の要件
就業規則の変更があった際、全ての企業が変更届を提出する義務があるわけではありません。
就業規則の変更届を提出する必要があるのは、以下の2つの要件を満たす場合です(労働基準法89条)。
①常時10人以上の労働者を使用していること
②労働基準法所定の事項を変更したこと
常時10人以上の労働者を使用していること
前提として、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務を負うのは、常時10人以上の労働者を使用する使用者です。この要件は、就業規則を変更したときも同様です。
なお、使用者が労働者を「常時」使用しているかどうかは、雇用契約が常時存続しているか否かによって判断されます。
具体的には、契約社員・パート・アルバイトなどの非正規社員は「常時」使用する労働者に当たりますが、日雇い労働者などは「常時」使用する労働者に当たりません。
また、常時使用する労働者の数は事業場ごとに判断されます。したがって、会社全体で10人以上の労働者を常時使用していても、各店舗・オフィスなどで常時使用している労働者がいずれも9人以下である場合には、就業規則の作成・届出(変更届出を含む)の義務を負いません。
労働基準法所定の事項を変更したこと
労働基準監督署に対して就業規則の変更を届け出る必要があるのは、以下の事項を変更した場合です(労働基準法89条各号)。
①始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関する事項
②賃金(臨時の賃金等を除く)の決定・計算・支払いの方法、賃金(臨時の賃金等を除く)の締め切り・支払い時期、昇給に関する事項
③退職に関する事項(解雇の事由を含む)
④退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払いの方法、退職手当の支払い時期に関する事項
⑤臨時の賃金等(退職手当を除く)、最低賃金額に関する事項
⑥労働者の食費・作業用品その他の負担に関する事項
⑦安全・衛生に関する事項
⑧職業訓練に関する事項
⑨災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
⑩表彰・制裁の種類・程度に関する事項
⑪上記のほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めに関する事項
就業規則変更届の提出先
就業規則変更届の提出先は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。必ずしも会社の本店所在地とは限らない点に注意ください。
就業規則変更届の様式・記載事項
就業規則変更届の様式は、東京労働局のウェブサイトなどに掲載されています。
就業規則変更届には、以下の事項を記載します。
- 就業規則変更届の記載事項
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①主な変更事項
変更した条文の番号(例:第○条第○項)と、変更前後の条文を記載します。②労働保険番号
労災保険に加入した際に付与された労働保険番号を記載します。③事業場名
事業場を特定できるように、会社名などに加えて支店・店舗などの名称も記載します。④所在地・電話番号
事業場の所在地と、届出事務担当者の連絡先を記載します。⑤使用者職氏名
会社代表者の肩書と氏名を記載します(例:代表取締役 ○○)。⑥業種
事業場が行う事業の業種を記載します。⑦労働者数
会社全体で常時使用する労働者数と、事業場において常時使用する労働者数を記載します。⑧名称・住所の変更に関する事項
前回の届出から名称変更があれば旧名称を、住所変更があれば旧住所を記載します。
就業規則変更届には労働者意見書の添付が必要
就業規則変更届には、労働組合などの意見書を添付する必要があります(労働基準法90条2項)。
会社が意見を求めるべき相手方
就業規則の変更について、会社が意見を求めるべき相手は、労働者の過半数で組織する労働組合があるか否かによって異なります(労働基準法90条)。
①労働者の過半数で組織する労働組合がある場合
→その労働組合に意見を求める
②労働者の過半数で組織する労働組合がない場合
→労働者の過半数を代表する者に意見を求める
意見書の様式
労働組合などの意見書についても、就業規則変更届と同様に、東京労働局のウェブサイトなどに掲載されています。
意見書の記載例
意見書には、例えば以下のような内容を記載します。全体として異存がなければ「特に意見はありません」と記載すれば足りますが、何らかの意見がある場合には、その内容をできる限り具体的に記載すべきです。
「今回の改定事項について、特に意見はありません。」
「今回の改定は、従業員にとって有利な内容であるため、特に意見はありません。」
「今回の改定事項について、次のとおり要望します。その他の事項については異存ありません。
……」
会社と労働者の意見が食い違っていても、就業規則の変更は可能
就業規則の変更につき、会社には労働組合などの意見を聴くことが義務付けられているものの、承諾を得ることまでは必須とされていません。
したがって、労働組合などから修正意見が提出されても、それに従って就業規則の変更内容を見直す必要はありません。労働組合などの意見とは異なる内容の就業規則変更も、原則として有効です。
ただし、労働者にとって不利益な内容の変更については、既存の労働者に適用できない可能性があります(詳細は、「不利益変更は無効となる可能性がある」にて解説)。また、労働組合などの意見を無視して就業規則の変更を強行すると、労使関係が悪化するおそれもあるので注意が必要です。
就業規則の変更に関する会社の注意点
就業規則の変更に関しては、会社は以下の2点に十分注意しましょう。
- 変更後の就業規則は労働者への周知が必要
- 不利益変更は無効となる可能性がある
変更後の就業規則は労働者への周知が必要
使用者には、就業規則を労働者に周知する義務があります(労働基準法106条1項)。したがって、就業規則を変更した場合は、変更後の就業規則も労働者に周知させなければなりません。
労働者に対する周知の方法
変更後の就業規則を労働者に周知する際は、以下のいずれかの方法による必要があります(労働基準法施行規則52条の2)。
①常時各作業場の見やすい場所へ掲示するか、備え付ける
②書面を労働者に交付する
③磁気テープなどに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する
(例)イントラネットや会社ウェブサイトの従業員ページへの掲載など
不利益変更は無効となる可能性がある
使用者は、原則として、労働者との合意がない限り、労働者にとって不利益となる就業規則の変更はできません(労働契約法9条)。
したがって、就業規則を労働者の不利益になる条件に変更した場合、その部分は変更後新たに雇用する労働者には適用できるものの、変更前から雇用する既存労働者には適用できない可能性があります。
ただし、後述する要件を満たす場合には、労働条件の不利益変更が例外的に認められます。
不利益変更の具体例
就業規則の変更による労働条件の不利益変更に当たるのは、例えば以下のような場合です。
・手当を廃止する
・年間休日を減らす
・福利厚生を廃止、または不利益に変更する
・労働時間を変更する(短縮であっても、基本給が減る場合は不利益変更に当たる)
・有給休暇の付与日数を減らす
・育児休業の条件を厳しくする
など
不利益変更が認められるための要件
以下の要件をいずれも満たす場合には、例外的に就業規則の変更による労働条件の不利益変更が認められます(労働契約法10条)。
①変更後の就業規則を労働者に周知したこと
②就業規則の変更が、以下の事情に照らして合理的なものであること
・労働者の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合等との交渉の状況
・その他の就業規則の変更に係る事情
③労働契約において、就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分の変更でないこと
一例として、最高裁平成9年2月28日判決の事案では、60歳までの定年延長に伴い55歳以上の労働者の賃金水準を大幅に引き下げる不利益変更が、以下の理由により有効と判示されています。
- 大臣、県知事、労働組合の要請などにより、不可避的な課題として定年延長を行う高度の必要性があったこと
- 定年延長に伴う人件費の増大などの抑制は経営上必要であること
- 中高年齢層労働者の比率が同業他社よりも高く、今後さらなる高齢化の進行が予想され、経営効率や収益力も十分とは言えない状況の中で、従前の定年である55歳以上の賃金水準を見直す高度の必要性があったこと
- 変更後の労働条件は同業他社並みであり、賃金水準は同業他社や社会一般の水準と比較しても、依然としてかなり高いこと
- 労働者にとっても、60歳まで安定した雇用が確保されるという利益があること
- 福利厚生制度の適用延長や拡充、特別融資制度の新設など、労働者側の不利益を緩和する措置が講じられていること
- 労働者の約90%で構成される労働組合との交渉、合意を経て、労働協約を締結した上で行われたものであること
不利益変更が認められない場合の対処法
就業規則の変更による労働条件の不利益変更が認められない場合、既存労働者との関係で当該変更を適用するためには、以下のいずれかの方法による必要があります。
①労働者の個別同意を得る
労働者の同意が得られれば、その労働者との関係では不利益変更を適用できます(労働契約法8条、9条)。
②労働協約を締結する
労働組合との間で労働協約を締結すれば、当該労働組合に所属する労働者に対しては、個別同意がなくても不利益変更を適用できます(労働組合法16条)。
また、事業場において常時使用される同種の労働者の4分の3以上が当該労働協約の適用を受けるに至った場合、他の同種の労働者に対しても、当該労働協約に基づく不利益変更を適用できます(同法17条)。
ただし、労働協約が特定または一部の組合員をわざと不利益に取り扱うことを目的とするなど、労働組合の目的を逸脱して締結された場合には、例外的に不利益変更を適用できない可能性があるので注意が必要です(最高裁平成9年3月27日判決参照)。
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