取締役会議事録とは?
作成方法(書き方)・記載例・押印義務・
電子署名のルールなど会社法を踏まえ解説!

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東京八丁堀法律事務所弁護士
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この記事のまとめ

取締役会議事録とは、会社法によって作成が義務付けられている法定文書です。

その記載内容や作成方法についても、会社法に定めがあり、取締役会の日から10年間、会社の本店に保管しておかねばなりません(会社法371条1項)。

取締役会議事録を適法に作成・保管などをしておかなければ、取締役が民事・刑事の両面で責任を負うリスクもありますので、必要な事項を漏らさず記載して作成し、管理しなければなりません。

この記事では、通常の取締役会議事録の記載例だけではなく、決議の省略(書面決議、みなし決議)や報告の省略(書面報告)の場合の記載例も紹介しながら、取締役会議事録の作成方法や記載事項を説明します。

ヒー

取締役会議事録の作成方法についても、会社法がルールを定めているんですね。

ムートン

そうですよ。取締役会は会社運営に当たり、非常に重要な事項の報告・決定がなされる場ですから、議事録に何を記載すべきかといったルールが会社法に定められているのです。

※この記事は、2022年3月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

取締役会議事録とは

取締役会議事録とは、会社法によって作成が義務付けられている法定文書です(会社法369条3項)。

その記載内容や作成方法についても、会社法に定めがあります。

取締役会議事録を適法に作成・保管などをしておかなければ、取締役が民事・刑事の両面で責任を負うリスクもありますので、必要な事項を漏らさず記載して作成し、管理しなければなりません。

取締役会議事録を作成する意義

取締役会議事録には、主に2つの意義があります。

①議事内容・結果の明確化
②取締役会の意思決定の証拠化

①議事内容・結果の明確化

取締役会における議事内容やその結果が記録されることで、意思決定の内容について取締役会に参加した者の認識の齟齬をなくすことができます。

また、記録として保存されることで、過去や将来の取締役会の意思決定の内容についても明確になり、長期的な会社運営に資するものとなります。

②取締役会の意思決定の証拠化

取締役会議事録には、出席取締役全員の署名または記名捺印が必要とされています(会社法369条3項、393条2項)。

また、取締役会決議に参加した取締役は、議事録に異議をとどめない場合は決議に賛成したと推定されます(369条4項)。

したがって、取締役会議事録は、取締役会の意思決定(決議)が問題となった場合に、当該意思決定に関与した取締役の責任追及(会社法423条1項の任務懈怠責任など)の証拠として重要な機能を果たします。

取締役会議事録の様式・形式

取締役会議事録は、「書面」または「電磁的記録」で作成しなければならないと定められています(会社法371条1項、会社法施行規則101条2項)

【会社法施行規則】
(取締役会の議事録)
101条 法369条第3項の規定による取締役会の議事録の作成については、この条の定めるところによる。
2 取締役会の議事録は、書面又は電磁的記録をもって作成しなければならない。
(略)

「会社法施行規則」e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

書面による作成

書面」による作成は、文字通り紙で作成することをいい、実務上は紙で作成し、これに取締役・監査役の署名または記名押印をしている会社が多くあります。

どのような紙であればよいかという点について特に定めはありません。

取締役会議事録は10年間本店に保管せねばなりませんので極端に弱い素材ですと問題ですが、通常はA4サイズのコピー用紙で作成することで問題ありません。

電磁的記録による作成(電子議事録)

電磁的記録」による作成とは、いわゆる電子データによる作成をいい、一般的に「電子議事録」と呼ばれます。

法令上は、「磁気ディスクその他これに準ずる方法により一定の情報を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに情報を記録したもの」(会社法26条2項、会社法施行規則224条)と規定されています。

実務上は、Wordなどで作成した文書を、PDFなどの内容改変ができないファイル形式に変換して作成し、取締役や監査役から電子署名をしてもらうという流れで作成されています。

電子議事録は、紙媒体での保管や印鑑による押印などが不要となり、保管場所や議事録を紛失するリスクがなくなるといったメリットがあります。

しかし、電子署名を利用するための手数料などのコストがかり、また、電子議事録のデータのコピーが容易であるため流出するといった管理のリスクがあるため、本記事執筆時点で導入している会社はまだ多くありません。

取締役会議事録に記載すべき事項とは

取締役会議事録には、「取締役会の議事の経過およびその結果」を記載しなければならないと定められています(会社法施行規則101条3項4号)

ムートン

具体的には、以下の情報を記載します。

① 標題

標題は法令上記載を求められるものではありませんが、「取締役会議事録」や、「第●会取締役会議事録」といった標題をつけるのが一般的です。

② 開催日時

取締役会の開催日時を記載する必要があります(会社法施行規則101条3項1号)。

③ 開催場所

取締役会が開催された場所を記載する必要があります(会社法施行規則101条3項1号)。

④ 出席者

取締役・監査役

取締役と監査役には、取締役会への出席義務があります(監査役について、会社法383条)。

出席した取締役・監査役は、取締役会議事録への署名または記名押印する義務がありますので、氏名を議事録に記載する必要はありませんが、取締役会の定足要件(原則として議決に参加できる取締役の過半数。会社法369条1項)を満たしていることを明確にするため、出席した取締役の総数氏名を記載するのが通常です。

執行役・会計参与・会計監査人・株主

取締役会に出席した執行役・会計参与・会計監査人・株主がいる場合は、その氏名を取締役議事録に記載する必要があります(会社法施行規則101条3項7号)。

特別利害取締役

取締役会の決議事項について、「特別の利害関係を有する取締役」がいる場合は、その氏名を記載する必要があります(会社法施行規則101条3項5号)。

⑤ 議長

取締役会において議長の設置は必須ではないですが、議長がいる場合は氏名を記載しなければなりません(会社法施行規則101条3項8号)。

多くの会社では、定款において代表取締役を取締役会の議長とすると定められています。

⑥ 議事の経過の要領・結果

取締役会議事録には、「取締役会の議事の経過の要領およびその結果」を記載する必要があります(会社法施行規則101条3項4号)。

議事の経過については、全てのやり取りを記載する必要はなく、その要領で足ります。一般的には、以下の事項が記載されますので紹介します。

(a) 開会と閉会の宣言

議事の経過を示す事項として、議長による開会宣言と閉会宣言が記載されます。

(b) 取締役会への報告事項

各取締役から報告される事項が記載されます。

報告事項はさまざまですが、以下のとおり、会社法の定めに基づいてなされた報告・意見については、その概要を必ず記載しなければなりません(会社法施行規則101条3項6号)。

  • 競業取引、利益相反取引をした取締役の報告(同号イ)
  • 取締役会の招集を請求した株主の意見(同号ロ)
  • 計算関係書類の承認のための取締役会に出席した会計参与の意見(同号ハ)
  • 取締役の不正行為、法令・定款違反等があるとの監査役の報告(同号ニ)
  • 監査役が必要と認めて述べた意見(同法ホ)
  • 取締役の不正行為、法令・定款違反等があるとの監査等委員の報告(同号へ)
  • 取締役の不正行為、法令・定款違反等があるとの監査委員の報告(同号ト)
  • 補償契約に基づく補償をした取締役等による報告(同号チ)

(c) 取締役会の決議事項の採決結果

取締役会の決議事項とは、取締役会で決定(決議)しなければならないと法令で定められている事項をいいます。

取締役会の決議事項については、取締役会において賛否が取られますが、その採決結果を議事録に明確に記載する必要があります。

会社法362条4項では、以下の事項が決議事項とされており、これらに関する決議がなされた場合はその採決結果を記載しましょう。

  1. 重要な財産の処分および譲受け(1号)
  2. 多額の借財(2号)
  3. 支配人その他の重要な使用人の選任および解任(3号)
  4. 支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止(4号)
  5. 募集社債に関する重要な事項(5号)
  6. 内部統制システムの整備に関する事項(6号)
  7. 定款の定めに基づく役員等の責任免除(7号)   
  8. その他の重要な業務執行(柱書)

取締役会議事録を作成すべき時期

取締役会議事録をいつまでに作成しなければならないかについて、法令上の定めはありません。

実務上は、作成日を取締役会の開催日と同日にしているケースが多いです。

記名押印・電子署名のルール

取締役会議事録が紙媒体で作成される場合、出席した取締役・監査役は「署名」または「記名押印」をしなければなりません(会社法369条3項)。

「署名」とは、自身の氏名を自筆(手書きで記載)することをいいます。

「記名押印」とは、自筆以外の方法で記載された氏名(Wordソフトなどで氏名が記入された印刷物など)の横に印鑑を押すことをいいます。

実務上は、記名押印の方法が選ばれることが多く、印鑑は認印でも構いません。

取締役会議事録が電磁的記録で作成される場合(電子議事録の場合)は、出席した取締役・監査役は電子署名をしなければなりません(会社法369条4項、会社法施行規則225条1項6号)。

取締役会議事録の記載例①|実開催される場合

上記で説明した取締役会議事録の記載例(実開催される場合)を紹介します。

第●会取締役会議事録

1.日 時 2023年●月●日(●曜日)
    開会:14時55分
    閉会:16時50分

2.場 所 東京都●●区●丁目●番●号
    株式会社●● 本店会議室

3.出席者   取締役総数 7名、出席取締役数 7名
      A、B、C、D、E、F、G
      監査役総数3名、出席監査役数3名
      H、I、J

4.議長    A代表取締役(定款●条)

5.議事の経過の要領及び結果
A代表取締役が議長となって開会を宣言し、下記事項について審議した。
 (1) 報告事項
   第1号報告 ●年●月度業務執状況の報告の件
議長がB取締役、C取締役、D取締役及びE取締役を指名し、各取締役から●年●月度の担当部門における業務執行状況について、添付資料●に基づき詳細に報告された。
  第2号報告 ……

(2) 決議事項
  第1号議案 ●年度予算の件
議長がB取締役を指名し、B取締役から●年度の予算案について添付資料●に基づき説明が行われた。いかの質疑応答があった後、満場一致で承認可決された。
   F取締役より……と質問がされ、B取締役から……と回答があった。
  第2号議案 ……

以上をもって議事を全て終了したので、議長は●時●分に閉会を宣言した。

上記議事の経過の要領および結果を明確にするため、本議事録を作成し、出席取締役および監査役は次に記名押印する。

●年●月●日

東京都●●区●丁目●番●号
株式会社 ●● 取締役会

議 長     代表取締役社長   A   ○印
       取 締 役  B   ○印
       取 締 役  C   ○印 
       取 締 役  D   ○印
       取 締 役  E   ○印
       取 締 役  F   ○印
       取 締 役  G   ○印
       監 査 役  H   ○印
       監 査 役  I   ○印
       監 査 役  J   ○印

Web会議、電話会議のシステムを利用して開催する場合

取締役会には、Web会議(Zoomなど)やテレビ会議、電話会議システムを用いてリモートにて出席することも可能です。

この場合、以下①②を取締役議事録に記載する必要があります。

① リモートの出席者が出席した方法(Web会議、テレビ会議、電話会議。会社法施行規則101条3項1号かっこ書)
  ※リモート出席者の参加場所(自宅など)を記載する必要はありません。

② 出席者全員で協議・意見交換ができる状態であったこと、つまり、出席者の音声と画像が即時にほかの取締役に伝わり、適時的確な意見表明が互いにできる仕組みであると確認したこと(法務省1996年4月19日付「規制緩和等に関する意見・要望のうち、現行制度・運用を維持するものの理由等の公表について」)

 
3.     場 所         東京都●●区●丁目●番●号
         株式会社●● 本店会議室
 
4.     出席者       取締役総数  7名、出席取締役数 7名
          A、B、C、D、E、F、G
         (F、GはWEB会議によって出席)
監査役総数3名、出席監査役数3名
H、I、J
 
5.    議事の経過の要領及び結果議事の経過の要領及び結果
 A代表取締役が議長となり、本日の取締役会はWeb会議システムを利用して開催する旨を宣言した。
 Web会議システムは、出席者の音声・画像が即時に他の出席者に伝わり、全ての出席者が適時・的確に質疑応答・意見表明ができる状態であること確認がされた上で、下記事項について審議して議事を進行した。
 

取締役会議事録の記載例②|書面決議(みなし決議)の場合

取締役会の書面決議とは、定款の定めに基づいて取締役が提案を行った場合において、議決に加わることのできる取締役全員が書面・電磁的記録(メールなど)で同意の意思表示をしたときは、取締役会決議があったとみなされる制度です(会社法370条)。

実務上、「みなし決議」と呼ばれることもあります。

書面決議は、取締役会を開催して採決を取るという手続きを踏まずに取締役会決議ができるというメリットがあるため、実務上も広く行われています。

この場合、取締役会議事録には以下の事項を記載する必要があります(会社法施行規則101条4項1号)。

① 取締役会決議があったとみなされた事項の内容
② 提案した取締役の氏名
③ 取締役会の決議があったものとみなされた日
④ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

取締役会議事録

 
1.      取締役会の決議があったとみなされた日         ●年●月●日
2.      取締役会の決議があったとみなされた事項の提案をした取締役    B
3.      議事録の作榮に係る職務を行った取締役         代表取締役A
 
 
 
4.      決議の目的である事項
 第1号議案  臨時株主総会招集の件
 ……
 第2号議案  臨時株主総会の目的事項決定の件
 ……
                          以上
 
●年●月●日、取締役Bが取締役及び監査役の全員に対して上記取締役会の目的である事項について提案書を発し、当該提案について、●年●月●日、取締役の全員から書面により同意の意思表示を得たので、会社法370条に基づき、当該提案を可決する旨の取締役決議があったものとみなされた。
なお、当該提案に対して監査役は異議を述べていない。
 
 上記のとおり、取締役決議の省略を行ったので、取締役会決議があったものとみなされた事項を明確にするため、会社法370条および会社法施行規則101条4項1号の規定に基づき本議事録を作成し、議事録の作成に係る職務を行った取締役がこれに記名押印する。
  
●年●月●日
               東京都●●区●●丁目●番●号
               株式会社●●
               代表取締役   A  印
 

取締役会議事録の記載例④|書面報告の場合

取締役会の書面報告とは、取締役などが取締役・監査役の全員に対して、取締役会に報告すべき事項(報告事項)を通知したときは、当該事項について取締役会への報告を省略できる制度です(会社法372条1項)。

ただし、業務執行取締役は、3カ月に1回以上自己の職務の執行状況を取締役会に報告しなければならず、この報告については書面報告による報告の省略はできません(会社法363条2項、372条2項)。

実務上も、この職務執行報告の必要があるため、取締役会を3カ月に1回は実開催しなければなりません。

取締役会への報告事項のうち、会社法の定めに基づいてなされた報告・意見については、その概要を必ず取締役会議事録へ記載しなければなりません(会社法施行規則101条3項6号)。

書面報告の場合の取締役会議事録には、以下の事項を記載する必要があります(会社法施行規則101条4項2号)。

①取締役会への報告を要しないものとされた事項の内容
②取締役会への報告を要しないものとされた日 ※全員に報告事項が通知された日
③議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

取締役会議事録

 
1.      取締役会への報告を要しないものとされた事項
……
2.      取締役会への報告を要しないものとされた日    ●年●月●日
3.      議事録の作成に係る職務を行った取締役      代表取締役 A
 
上記のとおり、会社法372条1項の規定により、取締役および監査役の全員に対して取締役会に報告すべき事項の通知がされたので、これを証するため、本議事録を作成し、議事録の作成に係る職務を行った取締役がこれに記名押印する。
 
●年●月●日
               東京都●●区●●丁目●番●号
               株式会社●●
               代表取締役   A  印
 

取締役会議事録の保管(備え置き)と閲覧・謄写請求

取締役会議事録は、取締役会の日から10年間、会社の本店に保管しなければなりません(会社法371条1項)。

株主は、権利行使のために必要があるときは、会社の営業時間中はいつでも取締役会議事録の閲覧・謄写ができます(会社法371条2項)。

ただし、会社の機関設計が以下3つのいずれかに該当する場合は、閲覧・謄写をするためには裁判所の許可を得なければなりません(会社法371条3項・5項)。

  • 監査役(会)設置会社
  • 監査等委員会設置会社
  • 指名委員会等設置会社

会社の債権者も、役員などの責任を追及するために必要があるときには、裁判所の許可を得て、取締役会議事録の閲覧・当社の請求ができます(会社法371条4項)。

取締役会議事録に関する罰則

取締役会議事録に関しては、民事上の責任だけではなく、刑事罰も定められていますので、適切に作成・保管などの対応をとることが必要です。

民事上の責任

取締役会議事録に記載すべき事項を記載しない場合、虚偽の記載をした場合、議事録自体を作成しなかった場合、保管しなかった場合、議事録の閲覧・謄写の請求に応じなかった場合、代表取締役などは以下のような過料の制裁や任務懈怠責任を負うというリスクがあります。

  • 100万円以下の過料の制裁(会社法976条4号・7号)
  • 会社や第三者から任務懈怠責任(会社法423条1項、429条1項)

刑事上の責任

虚偽の事実が記載された取締役会議事録を用いて登記申請がなされ、不実の登記がなされた場合には、公正証書原本不実記載等罪(刑法157条1項)に該当します。

ムートン

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