M&Aに関する契約とは?
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この記事のまとめ

「M&Aとは何か」「M&Aで締結する契約」について解説!

近年、日本でも増加傾向にある「M&A」。
M&Aは、企業の経営、事業への影響が大きいため、その内容やプロセス、手法について正しく理解しておく必要がありますが、その実態は非常に複雑です。

この記事では、M&Aの代表的な手法やプロセス、その中で締結される契約について解説します。

ヒー

M&Aとひとくちで言っても、様々な手法がありますよね。

ムートン

そうですね。それぞれの手法によってとるべきプロセスも違い、また、締結する契約も変わってきます。したがって、何を目的としたM&Aであるのか、明確に戦略を立てて動いていくことが重要です。

(※この記事は、2021年6月30日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)

M&Aとは

M&Aとは、企業などまたはその事業の全部もしくは一部の移転を伴う取引全般をいいます。複数の会社が合併したり、ある会社が他の会社を買い取ることなどがこれに含まれます。

M&Aは、英語で「Mergers-and-Acquisitions」といい、その頭文字をとって「M&A」と呼ばれます。日本語に訳すと「合併と買収」ですが、「M&A」と呼ばれるのが一般的です。

日本におけるM&Aの案件数は、国内企業間の案件を中心に、ここ10年間ほどで大きく増加しています。2020年は新型コロナウイルス感染症の影響も考えられ 案件数は減少していますが、2011年から右肩上がりで件数が増加し、M&Aが日本においても珍しい取引ではなくなってきています。

中小企業庁「2021年版中小企業白書」 第2部第3章第2節 M&Aを通じた経営資源の有効活用

M&Aの手法

M&Aには、様々な手法が存在し、それぞれ手続や法的な効果も異なります。

したがって、それぞれの手法について理解した上で、M&Aの手法として何を選択するかを決定する必要があります。

M&Aの代表的な手法として挙げられるものは、以下のとおりです。

M&Aの代表的な手法
株式譲渡買収先の会社の株式の全部または一部を取得することによって、その会社の支配権を取得するものです。
株式譲渡は、あくまで株式の売買契約であるため、他のM&Aの手法と比較しても手続が簡易なM&A手法ということができます。
事業譲渡会社が他の会社に事業の全部または一部を譲渡する行為をいいます。
事業譲渡では、当事者間の契約において、譲渡対象となる債権・債務、会社設備や人材、のれんといった会社の資産価値まで、譲渡対象を比較的自由に選別することができます。
会社分割会社がその営む事業について有する権利義務の全部または一部を分割し、他の会社に承継させる行為をいいます。
会社分割の中でも、ある会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を他の会社に承継させる手続を「吸収分割」といい、一または二以上の会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割により新たに設立する会社に承継させる手続を「新設分割」といいます。
合併2つ以上の会社が契約を締結し、一方の会社が解散し、解散した会社が有する権利義務の全部を、合併後存続する会社に包括的に承継させる「吸収合併」と、二以上の会社の全部が合併により消滅し、消滅する会社が有する権利義務すべてを、合併により新たに設立される会社に包括的に承継させる「新設合併」があります。
株式交換株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社などに取得させる行為をいいます。
グループ内の子会社再編などの場面で利用されることが多いです。
株式移転一又は二以上の株式会社が、その発行済株式の全部を、新たに設立する株式会社に取得させる行為をいいます。
持株会社(いわゆるホールディングス)の創設や他の企業との経営統合などの場面で利用されることが多いです。
株式交付買収会社である株式会社が、相手方の株式会社を子会社とするために、自社株式を相手方の株式会社の株主に対して交付する行為をいいます。
完全子会社化を予定していない場合でも、他の株式会社を子会社とすることができる制度であり、2021年3月に施行された会社法改正で新設された制度です。

経営・事業戦略に基づいた「目的」を明確にし、それに応じた適切な手法を選択することが重要です。

M&Aのプロセス

M&Aは、以下のようなプロセスで進むことが一般的です。

M&Aのプロセス

①M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーへの相談
秘密保持契約の締結
③(場合により)トップ面談など交渉
④(場合により)基本合意書の締結
⑤デューデリジェンス(DD)の実施
⑥最終契約の締結

以下、それぞれのプロセスについて説明していきます。

M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーへの相談

M&Aを検討する場合、まずは相手方企業の選定や企業価値の算定を適切に行うことが重要です。しかし、自社内部にM&Aに関する専門部署を持つ場合を除き、外部のM&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーなどに対して、相手企業選定に必要な情報の収集などを依頼することが一般的です。

M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーの役割としては、相手方企業の選定、M&A手法の選択・提案、交渉支援から最終契約、クロージングに至るまで全般的なアドバイスの提供などがあります。

秘密保持契約の締結

M&Aは、互いに相手方企業の財務状況や経営状況を理解した上で実施する必要があるため、そのプロセスの中で相手方企業に対して自社の重要な情報を開示することや相手方企業の重要な情報の開示を受ける必要があります。

特に、買収される側の会社や売主は、買主によるM&A検討のために、財務諸表や経営計画、取引先に関する情報など等の重要な内部情報を買主に開示することになるため、開示した秘密情報が、第三者に漏えいすることによる不利益を予防する観点から、情報開示に先立ち、秘密保持契約を締結することが極めて重要です。

また、買主の立場からすると、M&Aを検討していること自体が他社に漏れると、競合他社が相手方企業に対してより良い条件を提示してM&Aを提案してくるおそれもあります。そのため、M&Aの検討をしている事実自体も秘密情報として保護する必要があります。

(場合により)トップ面談など

相手方企業の候補が決まると、ケースバイケースですが、双方の企業の経営者や担当者間で基本的な条件を決定するために面談が行われることがあります。

このトップ面談などでは、相手方企業の経営理念や、M&A実施後の展望や事業のシナジーなどについてお互いに確認し、相互理解を深めることが一つの目的となることが多いです。

(場合により)基本合意書の締結

上記の段階を経てM&Aプロセスを進めることになった場合、ケースバイケースですが、当事者間で基本合意書を取り交わすこともあります。

基本合意書は、最終契約に先立ち、その時点までに当事者間で了解した事項、具体的にはM&Aに伴う対価、M&Aに用いる手法やスケジュールなど等の基本的事項を定め、M&Aの実施に向けて当事者間での認識を確認させるために締結する合意書です。

ただ、その後に続くデューデリジェンス(DD)の結果を踏まえて、これら基本的事項も変更されることがあるため、一部の定め(独占交渉権、秘密保持など等)を除き、法的拘束力は持たせないケースが一般的です。

なお、上場会社など等が基本合意書を締結する場合、法的拘束力の有無や合意内容により、金融商品取引所規則に基づく適時開示を行わなければならない場合もあるため、十分な考慮が必要です。

デューデリジェンス(DD)の実施

(場合により)基本合意書を締結した後は、買主が、相手方企業に対してデューデリジェンス(以下「DD」といいます。)を実施することが一般的です。

DDとは、買主が、相手方企業の事業、会計、税務、法務など、相手方の事業に関して広範な調査を行う手続をいいます。DDにより、買主は、相手方企業の会社価値を正しく算定し、M&A後のシナジーなどを確認するとともに、相手方企業の抱えるリスクなどを予め確認することになります。

最終契約の締結

DDを経て、当事者がM&Aを実施する意思を固めると、最終契約の締結を行います。最終契約では、DDの結果も考慮し、M&A取引に係る対価、前提条件、誓約事項、表明保証条項など等の諸条件を確定的に合意することになります。

最終契約の具体的な内容は、選択するM&Aの手法によって異なります。

M&Aに関する契約書の種類

M&Aでは、上記で解説したM&Aのプロセスの各段階によって、それぞれ関係者との契約が発生します。

M&Aは通常の事業活動における取引と比較すると、取引の当事者の事業、資産、などに与える影響が大きく、広い範囲の関係者に影響を及ぼすいことから、契約内容が詳細かつ複雑になりやすいといえます。

また、M&Aに関する契約は、用いる手法や、当事者である会社の規模、事業内容、保有する資産、抱えている問題などに応じて、ケースバイケースで、記載すべき内容が異なってきます。

したがって、M&Aに関する契約の作成・審査、相手方との交渉、締結は、難易度が高いといえるため、外部の専門家(弁護士、M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーなど)に協力を要請する場合が多いです。

ここでは、M&Aに関する主な契約の種類と具体的な条項について紹介します。

アドバイザリー契約

契約当事者

・M&Aを検討する当事者
・M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザー

M&Aのプロセスにおいて、M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーへの相談を行う際に締結する契約です。

アドバイザリー契約では、主に以下のような事項について定めるのが一般的です。

アドバイザリー業務の範囲M&Aにおいて発生する業務は、情報の収集、相手企業の選定、買収スキーム立案、最終契約、クロージングと多岐にわたるため、そのうち何をM&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーへ委託するか、アドバイザリー業務の範囲を定める必要があります。
報酬着手金・成功報酬、タイムチャージなどの報酬体系がありますので、報酬体系、成功報酬の算定方法などを定めます。

・着手金、成功報酬
・タイムチャージ

なお、報酬について着手金・成功報酬制を採用する場合には、「レーマン方式」によって報酬額を決定するのが一般的です。

レーマン方式とは、取引金額のレンジごとに報酬の料率を定める方式です。取引金額が高額となるに連れて、報酬の料率は低くなっていきます。以下の表は、レーマン方式による報酬テーブルの例です。

取引金額報酬の料率
5億円以下の部分5%
5億円超10億円以下の部分4%
10億円超50億円以下の部分3%
50億円超100億円以下の部分2%
100億円超の部分1%

上記のテーブルに従って成功報酬を決める場合、たとえば取引金額が30億円であれば、成功報酬額は以下のように計算されます。

成功報酬額
=5億円×5%+5億円×4%+20億円×3%
=1億500万円

なお、「取引金額」をどのように定義するかは、レーマン方式による報酬計算を定めるM&A契約において規定することになります。当事者間で疑義が生じないように、何をもって取引金額とするかを明確化しておきましょう。

秘密保持契約

契約当事者

・M&Aを検討する当事者

M&A取引を検討している当事者同士が最初に締結する契約が、秘密保持契約になることが多いです。秘密保持契約は、当該M&Aが入札形式で進む場合、応札希望者が一方的に差し出す誓約書形式で締結されることもあります。

秘密保持契約では、主に以下のような事項について定めるのが一般的です。

対象となる秘密情報の範囲M&A検討のために相手方に開示する情報は、財務諸表や経営計画、取引先に関する情報などの重要な内部情報であるため、どの範囲の情報を秘密として取り扱うか確認しておく必要があります。一般的には、その機密性の高さから、当事者間で開示される情報の一切を秘密情報の対象とすることが多いです。
また、交渉の存在及び内容も秘密情報の対象とすることが多いです。M&Aを検討していること自体が他社に漏れると、競合他社が相手方企業に対してより良い条件を提示してM&Aを提案してくるおそれもあります。
秘密保持義務の内容秘密保持義務の内容として、秘密情報の目的外使用の禁止と第三者への開示の禁止を定めることが多いです。
第三者への開示については、DDを見越して、関連会社の役職員、弁護士・公認会計士などのアドバイザーなどに対しては例外的に開示できると定めることも多いです。
また、法令などに基づき開示を要求される場合は、例外的に必要な範囲で開示できると定めることも多いです。
契約の有効期間秘密保持義務を期間なく負わせるのは難しいため、契約や秘密保持義務の有効期間を定めることになります。当該案件の交渉期間や情報の陳腐化の観点から適切な有効期間を設定する必要があります。
情報の返還・破棄情報の漏えいを防止するという観点から、契約終了時または開示当事者が請求した時点で受領していた秘密情報を相手方に返還するか、または破棄するといった義務を定めておくことも重要になります。

秘密保持契約については、以下の関連記事で解説しています。

基本合意書

契約当事者

・基本的にはM&Aを検討する当事者
・M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザー

M&Aを検討している当事者同士が、最終契約に先立ち、その交渉段階において当事者間で了解した事項を確認し、合意する目的で、基本合意書(Memorandum of Understanding(MOU))という契約を締結することがあります。

また、基本合意書と同様の内容を買主が意向表明書(Letter of Intent(LOI))として売主に提示したり、覚書として交わす場合もあります。

基本合意書では、主に以下のような事項について定めるのが一般的です。

取引内容および日程当該時点における想定されるM&Aの対価、クロージングまでの日程などを定めます。これらの定めは、あくまでその時点における当事者の認識として、法的な拘束力はないものであることが多いです。
独占交渉権M&A取引の検討には時間と費用がかかるため、買主としては、売主が自社以外との交渉を行わないよう要求をしたいと考えます。そのため、買主としては、独占交渉権を設定したいと考えます。
他方で、売主はなるべく有利な条件を引き出したいことから、競合関係を作り競争させたいと考えますので、独占交渉権条項を設けるか否かは、取引の内容や両者の力関係によって変わります。
また、独占交渉権を設定する際には、買主が独占交渉をすることができる独占交渉期間を設定することになります。
DDへの協力買主としては、DDを効率的に行うべく、売主および対象会社の協力を得たいと考えます。したがって、DDの協力義務を基本合意書に定めることがあります。
採用するM&A手法採用するM&A手法がすでに決まっている場合には、その種類・内容を記載します。
たとえば、株式譲渡であれば株式の種類・数、事業譲渡であれば譲渡の対象とする事業・資産・負債・契約などの概要を記載しておきましょう。ただし、基本合意書の段階では暫定的な記載でも構いません。
譲渡価格当事者間で譲渡価格について大筋で合意していれば、その金額を記載します。
ただし、譲渡価格は今後のDDの結果などによって変動することが想定されるため、ある程度幅を持たせた記載とするケースが多いです。
(例)20億円~23億円
取引条件のうち、大筋で合意したもの譲渡価格以外の取引条件についても、当事者間で暫定的な合意に達したものがあれば、基本合意書に記載しておきましょう。
ただし、後日のDDの結果を踏まえて、最終契約の段階では加除修正が行われる場合もあります。
(例)クロージングの前提条件・表明保証・遵守事項など
有効期間 DDや最終契約の締結に向けた交渉に要する期間を考慮して、基本合意書の有効期間は、ある程度余裕を持たせる形で設定しておきましょう。
秘密保持義務M&A取引に関する情報が第三者に流出すると、取引が破談に追い込まれてしまうリスクが高まってしまいます。そのため、当事者間でやり取りする情報に加えて、M&A取引を検討している事実そのものも秘密情報として、相手方に無断で第三者に開示してはならない旨を定めておきましょう。
準拠法・合意管轄当事者のいずれかがグローバル企業の場合は、契約解釈に用いる準拠法を定めておきましょう。
また、万が一基本合意書に関するトラブルが生じ、当事者間で訴訟に発展するケースに備えて、第一審の専属的合意管轄裁判所を定めておくのが一般的です。

最終契約

DDを経て、当事者がM&Aを実施する意思を固めると、最終契約の締結を行います。
最終契約では、DDの結果も考慮し、M&A取引に係る対価、前提条件、誓約事項、表明保証条項などの諸条件について確定させる合意を行います。

最終契約の具体的な内容は、選択するM&A手法によって異なります。
ここでは、代表的な手法である株式譲渡契約について紹介します。

株式譲渡契約

契約当事者

・対象会社の株式を譲渡する売主
・対象会社の株式を買い受ける買主

株式譲渡契約では、以下のような事項について定めるのが一般的です。

譲渡の合意譲渡の合意は、売主が対象会社の株式を買主に譲渡し、買主がこれを譲り受けることを合意する定めです。
譲渡価格譲渡価格を明確に定める必要があります。
譲渡価格は、企業価値の変動などに伴って最終契約締結後クロージング前に価格調整を行うこともあるため、価格調整条項を定めることもあります。
取引の実行(クロージング)取引の実行(クロージング)に際して行われる各行為について定めます。
具体的には、株式の譲渡(移転)と株式譲渡代金の支払い、その日時と場所、手続きなどについて定めます。
取引実行条件(前提条件)取引を実行するための前提条件を定めます。この前提条件が充足された場合にのみ、取引が実行されることになります。
買主の前提条件、売主の前提条件をそれぞれ定めることが多く、各々の表明保証がクロージング日において正確であること、各々がクロージング日までに義務を履行していること、などを前提条件として定めます。
表明保証表明保証は、契約当事者の一方が、他方に対して、契約に関連して、一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する定めです。
株式譲渡契約における表明保証する重要な内容としては、売主による対象会社の財務状態など対象会社の企業価値そのものに影響を与える事項が中心となります。
誓約譲渡代金の支払義務、及び株式の譲渡(移転)義務という、契約の主たる義務以外の付随的な義務を定めます。
具体的には、対象会社が譲渡制限会社である場合の譲渡承認手続を行う義務、株式譲渡のため法令上必要となる手続きを行う義務などを定めます。クロージング前後に分けて誓約事項が定められることもあります。

この記事のまとめ

M&Aと契約の記事は以上です。

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参考文献

森・濱田松本法律事務所「M&A法大系」有斐閣

藤原総一郎「M&Aの契約実務第2版」中央経済社

阿部・井窪・片山法律事務所「契約書作成の実務と書式第2版」有斐閣

木俣貴光「企業買収の実務プロセス〈第2版〉」中央経済社