懲罰委員会(懲戒委員会)とは?
役割・設置のメリット・設置時の手続き・
運営上の注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「懲罰委員会(懲戒委員会)」とは、企業などの組織において、従業員などの構成員に対する懲罰の可否や内容を審議・決定する委員会です。企業に設置された懲罰委員会は、主に従業員に対する懲戒処分について審議を行います。
懲罰委員会の役割は、従業員に対する懲戒処分の可否や内容を、適正な手続きによって審議および決定することです。経営者の独断専行で決定するようなケースに比べると、懲罰委員会において適切に審議が行われていれば、懲戒処分が違法・無効と判断されるリスクが低くなります。
懲罰委員会を設置する際には、懲罰委員会運営規程を作成した上で、委員を選任する必要があります。
懲罰委員会の委員には、経営陣に加えて、法務やコンプライアンスについて知見を有する従業員などを含めましょう。審議の客観性を確保する観点からは、外部弁護士などの第三者を委員に選任することも考えられます。懲罰委員会の運営に当たっては、後に懲戒処分の有効性が争われる可能性を念頭に置くべきです。具体的には、懲戒対象者に対して弁明の機会を与えること、利害関係のある委員を審議から外すこと、懲戒処分の適法性を説明できるようにすること、議事録を作成することなどが重要になります。
この記事では懲罰委員会(懲戒委員会)について、役割・設置のメリット・設置時の手続き・運営上の注意点などを解説します。
※この記事は、2024年11月14日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
懲罰委員会(懲戒委員会)とは
「懲罰委員会(懲戒委員会)」とは、企業などの組織において、従業員などの構成員に対する懲罰の可否や内容を審議・決定する委員会です。企業に設置された懲罰委員会は、主に従業員に対する懲戒処分について審議を行います。
懲戒処分とは
「懲戒処分」とは、就業規則に違反した従業員に対して、企業が制裁を課す処分です。具体的な懲戒処分の内容は企業によって異なりますが、主に以下のような懲戒処分が行われています。
懲罰委員会の役割
懲罰委員会の役割は、従業員に対する懲戒処分の可否や内容を、適正な手続きによって審議および決定することです。
役員や上司などの一存で懲戒処分を行うと、従業員の行為の態様や性質に比べて、不当に重い懲戒処分がなされてしまいがちです。また、懲戒手続きが不透明になってしまう点も問題と言えます。
懲罰委員会がきちんと機能すれば、適正な手続きに則って懲戒処分の可否や内容を決定することができます。
懲罰委員会を設置するメリット
経営者の独断専行で決定するようなケースに比べると、懲罰委員会において適切に審議が行われていれば、懲戒処分が違法・無効と判断されるリスクが低くなります。
懲戒処分に関して検討すべき事情の見落としを防げるとともに、適切に検討が行われた事実そのものが、懲戒処分の合理性を裏付けることになるためです。
懲戒処分が無効と判断されると、企業は従業員を復職させたり、多額の未払い賃金の支払いを強いられたりするなど、大きな不利益を被ってしまいます。このようなリスクを軽減できる点は、懲罰委員会を設定することの重要なメリットと言えるでしょう。
懲罰委員会を設置する際に必要な対応
懲罰委員会を設置する際には、運営規程を作成した上で、懲罰委員会の委員を選任する必要があります。
懲罰委員会運営規程を作成する|主な規定事項を紹介
懲罰委員会の運営に関しては、基本的なルールを定めた運営規程を作成しておきましょう。
懲罰委員会運営規程に定めるべき主な事項は、以下のとおりです。
(a) 懲罰委員会の構成
(b) 委員長や委員などの職務
(c) 委員会の招集・開催
(d) 懲罰委員会への諮問
(e) 意見聴取等
(f) 定めのない事項の取り扱い
(g) 規程の変更手続き
懲罰委員会の構成
委員長・副委員長・委員など、懲罰委員会のメンバー構成や選任方法などを定めます。
(例)
第○条(懲罰委員会の構成)
1. 委員会の構成は、以下のとおりとする。
(1)委員長 1人
(2)副委員長 ○人
(3)委員 ○人以内
2. 委員長、副委員長および委員は、役員または従業員のうちから、その都度社長が任命する。
委員長や委員などの職務
懲罰委員会のメンバーが行うべき職務の内容を定めます。
(例)
第○条(職務)
1. 委員長は、懲罰委員会の会務を総理し、懲罰委員会を代表する。
2. 副委員長は、委員長を補佐し、委員長に事故があるときはその職務を代理する。
3. 委員は、従業員の服務規律および秩序維持、ならびに従業員の懲戒処分に関する事項について、必要な事情調査および審議を行う。
委員会の招集・開催要件
懲罰委員会を開催する際の招集手続きや要件などを定めます。
(例)
第○条(委員会の招集・開催要件)
1. 懲罰委員会は、委員長が招集し、議長は委員長が担当する。
2. 懲罰委員会の会議は、委員長または副委員長のいずれかを含む委員○名以上の出席がなければ、開くことができない。
懲罰委員会への諮問
懲戒事由に該当する疑いがある者について、懲罰委員会に処分の適否等を諮問すべき旨を定めます。懲罰委員会を経ることなく、社長などが独断で懲戒処分を行うことを防止する意図があります。
(例)
第○条(懲罰委員会への諮問)
1. 社長は、就業規則の懲戒事由に該当することが疑われる従業員があるときは、次の事項を明記した文書を添えて、懲罰委員会に諮問しなければならない。
(1)当該従業員の氏名および所属部署
(2)懲戒事由に該当することが疑われる行為(以下「懲戒被疑行為」という。)の内容
(3)懲戒被疑行為が該当することが疑われる就業規則の条項
(4)諮問事項
(5)当該従業員の所属部署の責任者の意見
2. 前項に基づいて諮問すべき事項は、次のとおりとする。
(1)懲戒被疑行為に関する事実関係の調査
(2)懲戒処分を行うことの適否
(3)行うべき懲戒処分の種類
(4)その他、社長が必要と認める事項
意見聴取等
懲罰委員会における審議事項について、関係する職員から意見を聴いたり、資料を提出させたりすることができる旨を定めます。
(例)
第○条(意見聴取等)
委員長は、必要に応じて懲戒被疑行為に関係すると思われる役員または従業員に対し、懲罰委員会への出席を求め、説明もしくは意見を聴き、または資料の提出を求めることができる。
定めのない事項の取り扱い
運営規程に定めがない事項のうち、懲罰委員会の運営に関して必要なものについて、どのように決定するかを定めます。
(例)
第○条(本規程に定めがない事項)
本規程に定めがない事項のうち、懲罰委員会の運営に関して必要なものについては、委員長が定める。
規程の変更手続き
運営規程を変更する際の手続きを定めます。
(例)
第○条(変更)
本規程の変更は、取締役会の決議によって行う。
懲罰委員会の委員を選任する|誰が適任か?
懲罰委員会の委員(委員長・副委員長を含む)には、従業員に対する懲戒処分の適否について、公正な審議と判断ができると思われる人材を選任しましょう。経営陣も委員として参加すべきですが、それだけでなく、内外の人材をバランスよく選任することが望ましいと思われます。
例えば、以下のような人材を懲罰委員会の委員に選任するのがよいでしょう。
(a) 経営陣
懲戒処分を行うかどうかは経営判断事項なので、経営陣(取締役)のうち何人かは懲罰委員会に参加しましょう。
(b) 法務部長(または法務担当者)
法律上の規制を踏まえた上で、懲戒処分の適否について意見を述べてもらうため、法務部長などの法務担当者を委員に選任するとよいでしょう。
(c) コンプライアンス部長(またはコンプライアンス担当者)
法務部から独立したコンプライアンス部を設置している場合は、法律の枠を超えた観点からも意見を述べてもらうため、コンプライアンス部長などのコンプライアンス担当者を委員に選任しましょう。
(d) 外部弁護士
懲戒処分の適否の判断について客観性を確保するためには、外部人材を委員として参加させることが効果的です。その場合は、懲戒処分に関して法的知見を有する外部弁護士などが候補者となります。
懲罰委員会の運営に関する注意点
企業が懲罰委員会を運営するに当たっては、特に以下の各点に注意しましょう。
① 懲戒対象者に対しては、弁明の機会を与える
② 懲戒対象者と利害関係のある委員は、審議から外す
③ 懲戒処分を行う場合は、適法性を十分説明できるようにする
④ 懲罰委員会の議事については、必ず議事録を作成する
懲戒対象者に対しては、弁明の機会を与える
懲戒処分について審議を行う従業員には、必ず弁明の機会を与えましょう。
従業員の弁明を聴くことによって、新たな事情が判明することもあります。それをきっかけとして調査を深めれば、重要な事実を見落としたまま、不適切な形で懲戒処分を行ってしまうような事態を防ぐことができます。
また、裁判所が懲戒処分の有効性を判断する際には、手続きが適正に行われたかどうかも重要な考慮要素となります。従業員に対して弁明の機会を与えれば、そのこと自体が適正手続きを確保したことの裏付けとなり、懲戒処分が無効と判断されるリスクを軽減できます。
懲戒対象者と利害関係のある委員は、審議から外す
懲罰委員会においては、従業員に対する懲戒処分の適否や種類を、公平な視点で審議しなければなりません。
公平な審議を確保するためには、懲戒対象の従業員との間で利害関係のある委員は、審議から外すことが望ましいです。例えば、懲戒対象者と親しい従業員や、懲戒対象者と同じ部署の上司などは、委員であっても懲罰委員会の審議から外しましょう。
懲戒処分を行う場合は、適法性を十分説明できるようにする
従業員に対して懲戒処分を行う際には、以下の要件をすべて満たさなければなりません。
- 懲戒処分の要件
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・従業員の行為が、就業規則上の懲戒事由に該当すること
・就業規則において明記されている種類の懲戒処分を行うこと
(例)「出勤停止」が就業規則上明記されていないのに、出勤停止処分を行うことはできない・従業員の行為の性質や態様などに照らして、懲戒処分を行う客観的合理的理由があり、かつ懲戒処分を行うことが社会通念上相当であること
上記の要件を満たしていない懲戒処分は、無効です。従業員に懲戒処分の無効を主張されると、深刻なトラブルに発展するおそれがあります。
懲罰委員会においては、上記の要件を念頭に置いたうえで、懲戒処分の適否や種類を適切に審議・判断しなければなりません。また、実際に懲戒処分を行う場合は、懲戒処分が適法と言える根拠を十分に説明できるようにしておくことが大切です。
懲罰委員会の議事については、必ず議事録を作成する
会社から懲戒処分を受けた従業員が、それに反発して懲戒処分の無効を主張してくるケースはよくあります。
会社としては、従業員とのトラブルに備えて、懲罰委員会の議事について必ず議事録を作成しておくべきです。議事録が残っていれば、どのような理由で懲戒処分が行われたのか、およびその理由の妥当性などについてきちんと説明することができます。
懲罰委員会の議事録には、主に以下の事項を記載しておきましょう。
- 懲罰委員会議事録の主な記載事項
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・懲罰委員会の開催日時
・懲罰委員会の参加者(委員等のほか、意見を聴くために呼ばれた役員や従業員などを含む)
・審議事項(懲戒処分の対象者、対象行為など)
・判断の内容(懲戒処分の適否、種類など。多数決の場合は票数なども記載する)
・判断に至った理由(懲戒処分の要件を踏まえて記載する)
など
特に懲戒処分を行う場合は、判断に至った理由を丁寧に記載することが大切です。懲戒処分の要件を踏まえて、その適法性を十分に裏付けることができる理由を記載しましょう。
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