契約書における「甲乙」とは?
意味・優劣があるか・使い方・読み方・
例文などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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契約書では、当事者を「甲」や「乙」と表すことがあります。
「甲」「乙」を用いて契約当事者を表記すれば、長い名称を繰り返して記載する必要がなくなり、条文の適用対象が明確になるメリットがあります。
契約当事者のうち、どちらを「甲」として、どちらを「乙」とすべきかについて明確なルールはありません。
一方、慣習的な使い方としては、
・契約の種類に応じた慣例に従う場合
・民法の条文を基準として決める場合
・立場が上の方を「甲」とする場合
・ドラフトの作成者を「乙」として相手方を「甲」とする場合
などがあります。この記事では、契約書における当事者の表記方法である「甲」「乙」について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年12月21日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
契約書における「甲乙」とは|読み方・例文も含め解説!
契約書では、当事者を「甲(こう)」や「乙(おつ)」と表すことがあります。
- 例文
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○○株式会社(以下「甲」という。)と△△株式会社(以下「乙」という。)は、以下のとおり○○契約を締結する。
甲乙の「基本的な使い方」と「よくある疑問」
契約書における「甲」「乙」の使い方について、基本的な考え方やよくある疑問への回答をまとめました。
前提|使い方に関する法律上のルールはない
契約書において「甲」「乙」をどのように使うかについて、法律上のルールはありません。
したがって、どちらの当事者を「甲」とし、どちらの当事者を「乙」とするかは、契約ごとに自由に決められます。
よくある疑問1|甲乙に優劣はある?
A.契約書における「甲」「乙」の間に優劣はありません。
「甲乙つけがたい」という慣用句のように、一般的には「甲」が優位、「乙」が劣位とされることが多いですが、契約書においてはそのような差はありません。いずれも当事者を便宜上言い換えただけの表現です。
よくある疑問2|契約当事者のうち、どちらを「甲」とすべき?
A.契約書における「甲」「乙」の間に優劣はありませんが、実務上は以下のような慣例によって「甲」「乙」の振り分けが決まることがあります。
①契約の種類に応じた慣例に従う
契約の種類によっては、「甲」「乙」の振り分け方がおおむね決まっているものもあります。
ただし、このような慣例は絶対的なものではなく、会社によっては反対に振り分けているケースもあります。
②民法の条文を基準として決める
民法の条文における規定ぶりに沿って、先に記載されている方を甲、後に記載されている方を乙とすることも考えられます。
例えば賃貸借については以下のように、賃貸人が先、賃借人が後に規定されています。この規定に沿うならば、賃貸人を甲、賃借人を乙と定めるのがよいでしょう。
(賃貸借)
「民法」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
③立場が上の方を「甲」とする
一般用語としての「甲」「乙」の区別(例:甲乙つけがたい)や、甲が先に記載されることを踏まえて、当事者のうち立場が上の方を「甲」とするケースもあります。
④ドラフトの作成者を「乙」、相手方を「甲」とする
契約書のドラフトの作成者が、相手方に対して敬意を表する意味で、相手方を甲、作成者を乙とすることがあります。
よくある疑問3|3人以上の場合はどうする?
A.契約当事者が3人以上の場合は、以下の順序で代名詞を用いるのが一般的です。
- 甲
- 乙
- 丙
- 丁
- 戊
- 己
- 庚
- 辛
- 壬
- 癸
(例)
○○株式会社(以下「甲」という。)、△△株式会社(以下「乙」という。)、□□株式会社(以下「丙」という。)および××株式会社(以下「丁」という。)は、以下のとおり○○契約を締結する。
契約書において「甲」「乙」を用いるメリット・デメリット
契約書において「甲」「乙」を用いることには、主に以下のメリットおよびデメリットがあります。
メリット1|長い名称を繰り返し記載しなくてよい
デメリット1|主体が分かりにくく、取り違えるリスクが高まる
デメリット2|契約書になじみない人にとっては読みにくい
メリット1|長い名称を繰り返し記載しなくてよい
当事者の名称を「甲」「乙」と略すことによって、長い名称を繰り返し記載しなくてよくなり、契約書の条文がすっきりするメリットがあります。
- 甲・乙を用いない場合
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特許出願の手続きに要する費用(手数料、弁護士費用および弁理士費用を含むが、これらに限らない。)は、ゴールデンウィーク株式会社とシルバーウィーク株式会社がそれぞれ権利の持分比率に従って負担する。ゴールデンウィーク株式会社およびシルバーウィーク株式会社のいずれかが当該費用を支出した場合の精算方法は、ゴールデンウィーク株式会社とシルバーウィーク株式会社の間の協議によって別途定める。
※「ゴールデンウィーク株式会社」と「シルバーウィーク株式会社」は、いずれも架空の会社名です。
- 甲・乙を用いる場合
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特許出願の手続きに要する費用(手数料、弁護士費用および弁理士費用を含むが、これらに限らない。)は、甲乙それぞれ第○条に定める権利の持分比率に従って負担する。甲および乙のいずれかが当該費用を支出した場合の精算方法は、甲乙間の協議によって別途定める。
上記は、特許出願の手続きに要する費用の負担割合について定めた条文例です。
当事者は「ゴールデンウィーク株式会社」と「シルバーウィーク株式会社」という、いずれも比較的長い会社名です。甲・乙を用いない場合は、長い会社名が何度も登場し、条文全体が読みにくくなっています。
デメリット1|主体が分かりにくく、取り違えるリスクが高まる
「甲」「乙」は、その表記を見ただけではどちらの当事者を指しているのか分かりません。「甲」「乙」がどちらの当事者を指しているのかを知るためには、契約書の冒頭に記載された定義などを確認する必要があります。
契約書を読み進めていくうちに、「甲」「乙」がどちらの当事者を指しているのか混乱してしまうケースもよくあります。「甲」「乙」を取り違えて、逆に理解したまま対応してしまうことも少なくありません。
デメリット2|契約書になじみない人にとっては読みにくい
契約書に慣れている人にとっては、当事者の名称を直接記載するよりも、「甲」「乙」などの代名詞を使って表記した方が読みやすいことが多いです。
その一方で、契約書にあまり慣れていない人にとっては、「甲」「乙」などの代名詞を使った契約書はかえって読みにくいことがあります。「甲」「乙」などの表記を見ただけでは、どちらの当事者を指しているのか一目では分からないからです。
契約当事者を「甲」「乙」以外で表すケース
契約当事者は、「甲」「乙」以外の表記を用いて表すこともできます。以下の3つの表記方法について、例文とともに解説します。
①当事者の略称で表記する
②契約上の立場で表記する
③英文契約書における契約当事者の表記
当事者の略称で表記する
「甲」「乙」の代わりに、当事者の略称を用いて表記する方法もあります。
(例)
ゴールデンウィーク株式会社(以下「GW」という。)とシルバーウィーク株式会社(以下「SW」という。)は、以下のとおり○○契約を締結する。
当事者の略称で表記する方法は、条文を見れば一目でどちらの当事者を表しているのが分かりやすいのが大きなメリットです。
これに対して、当事者によって略称を変える必要があるので、ひな形において用いるのは難しいでしょう。単発の契約であれば、当事者の略称による表記を用いることも有力な選択肢です。
契約上の立場で表記する
契約上の立場を当事者の呼称とする方法もあります。汎用的な表記方法であり、ひな形に用いるのにも適しています。
契約当事者のうち、どちらを指しているのかが一目で分かりやすい点も大きなメリットです。
契約(および利用規約)の種類ごとに例文を紹介するので、ドラフト作成時の参考にしてください。
- 売買契約書の場合
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○○株式会社(以下「売主」という。)と○○株式会社(以下「買主」という。)は、以下のとおり売買契約を締結する。
- 金銭消費貸借契約書の場合
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○○株式会社(以下「貸主」という。)と○○株式会社(以下「借主」という。)は、以下のとおり金銭消費貸借契約を締結する。
※「貸付人」「借入人」という表記を用いることもあります。
- 賃貸借契約書の場合
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○○株式会社(以下「賃貸人」という。)と○○株式会社(以下「賃借人」という。)は、以下のとおり売買契約を締結する。
※「貸主」「借主」という表記を用いることもあります。
- 業務委託契約書の場合
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○○株式会社(以下「委託者」という。)と○○株式会社(以下「受託者」という。)は、以下のとおり業務委託契約を締結する。
- 雇用契約書の場合
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○○株式会社(以下「使用者」という。)と○○(以下「労働者」という。)は、以下のとおり雇用契約を締結する。
- サービス利用規約の場合
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本利用規約は、○○株式会社(以下「当社」といいます。)の提供する○○のサービスをご利用になる全ての方(以下「お客さま」といいます。)に共通して適用されます。
英文契約書における契約当事者の表記
英文契約書でも、和文の契約書と同様に、当事者は代名詞で表記するのが一般的です。英文契約書の場合は、契約上の立場で当事者を表記するケースが多くなっています。
- 売買契約書(Sale and Purchase Agreement)の場合
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This Sale and Purchase Agreement (this “Agreement”) is hereby entered into on this 1st day of December 2023 by [売主の名称] (“Seller”) and [買主の名称] (“Purchaser”).
訳:この売買契約書は、2023年12月1日付で、○○(売主)と△△(買主)の間で締結された。
- 金銭消費貸借契約書(Loan Agreement)の場合
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This Loan Agreement (this “Agreement”) is hereby entered into on this 1st day of December 2023 by [貸主の名称] (“Lender”) and [借主の名称] (“Borrower”).
訳:この金銭消費貸借契約書は、2023年12月1日付で、○○(貸主)と△△(借主)の間で締結された。
- 賃貸借契約書(Lease Agreement)の場合
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This Lease Agreement (this “Agreement”) is hereby entered into on this 1st day of December 2023 by [賃貸人の名称] (“Lessor”) and [賃借人の名称] (“Lessee”).
訳:この賃貸借契約書は、2023年12月1日付で、○○(賃貸人)と△△(賃借人)の間で締結された。
- 業務委託契約書(Outsourcing Agreement)の場合
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This Outsourcing Agreement (this “Agreement”) is hereby entered into on this 1st day of December 2023 by [委託者の名称] (“Entrustor”) and [受託者の名称] (“Entrustee”).
訳:この業務委託契約書は、2023年12月1日付で、○○(委託者)と△△(受託者)の間で締結された。
- 雇用契約書(Employment Agreement)の場合
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This Employment Agreement (this “Agreement”) is hereby entered into on this 1st day of December 2023 by [使用者の名称] (“Employer”) and [労働者の名称] (“Employee”).
訳:この業務委託契約書は、2023年12月1日付で、○○(使用者)と△△(労働者)の間で締結された。
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