協定書とは?
契約書や覚書との違い・ひな形・書き方・締結例などを解説!
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- この記事のまとめ
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「協定書」とは、締結当事者が何らかの事項について合意する内容の書面です。
協定書の法的な性質は、基本的に「契約書」や「覚書」などと同じであり、名称は当事者が自由に決められます。ただし、労働基準法に基づき締結が必要とされている「労使協定」は、法令の文言に揃えて「協定書」という名称にするのが一般的です。
協定書を作成する際には、当事者間の合意内容が明確になっているか、自分(自社)にとって不当に不利な内容でないか、公序良俗に反する内容でないかなどのポイントを確認しておきましょう。また、法令によって締結が義務付けられている協定書については、法令上の要件が漏れていないかどうかを確認することも大切です。
この記事では「協定書」について、契約書や覚書などとの違い、締結例、テンプレート、作成方法などを解説します。
※この記事は、2022年4月21日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
協定書とは
「協定書」とは、締結当事者が何らかの事項について合意する内容の書面です。今後取引を行ううえでのルールを定めるために、取引当事者の間で協定書を締結することがあります。
協定書を作成する主な目的
今後実施する事業などについて、約束事を明確化する
複数の事業者が共同で一つの事業に取り組む場合、当事者間の役割分担や、収益・コストの配分方法などを決めておく必要があります。
事業を円滑に実施するためには、これらの点について当事者間で合意を形成し、合意内容を書面にまとめておくことが大切です。協定書には、今後実施する事業に関与する当事者間において、合意した約束事を明確化する役割があります。
当事者間でトラブルが発生した際に、合意内容の証拠として用いる
協定書を締結することには、万が一当事者間でトラブルが発生した場合に、その対処に関するルールを定めておく目的も含まれます。
協定書が作成されていないと、合意内容について、当事者間で「言った言わない」の水掛け論が生じるおそれがあります。仮に訴訟に発展した場合、複雑な立証が必要になってしまい、紛争が長期化する事態になりかねません。
協定書があれば、合意内容は協定書に全て記載されているので、その内容に依拠して紛争を処理することができます。規定内容を巡って多少解釈の争いが生じるかもしれませんが、協定書がない場合に比べれば、円滑・迅速に紛争を解決できる可能性が高まります。
協定書の締結が法令上必要な場合もある
法令によって協定書の締結が義務付けられている場合もあります。この場合、法令で要求されている内容を盛り込んだうえで、協定書を締結することが必須となります。
法令によって締結が義務付けられている協定書の典型例は、労働基準法に基づく「労使協定」です。どのような労使協定の締結が義務付けられているのかについては、後で解説します。
協定書とその他の類似書面の違い
協定書と同じく法的効力を有する書面は、「契約書」「合意書」「覚書」「同意書」「誓約書」「念書」など、様々な種類があります。協定書と比較した場合に、各書面がどのような性質を有しているのかを確認しておきましょう。
契約書・合意書・覚書との違い
「契約書」「合意書」「覚書」の法的性質は、協定書と基本的に同じです。いずれも締結当事者の間で、何らかの事項について合意する内容の書面を意味します。
合意書面にどのような名称を付すかは、当事者の自由です。ただし、法令によって「協定」の締結が義務付けられている場合には、法令の文言に合わせて「協定書」という名称を付すのが一般的です。
合意書・覚書については、以下の記事で詳しく解説しています。必要に応じてご参照ください。
同意書との違い
「同意書」は協定書とは異なり、提出者である一方当事者が、提出先である他方当事者に対して、何らかの事項について同意を表明する内容の書面です。「承諾書」という名称で作成されることもありますが、同意書であっても承諾書であっても、内容は基本的に同じです。
個人情報の第三者提供を行う場合や、未成年者と契約を締結する場合、再委託について相手方の同意が要求されている場合など、法令・契約によって同意が要求されている場合に、同意書が作成・提出されます。
同意書については、以下の記事で詳しく解説しています。必要に応じてご参照ください。
誓約書・念書との違い
「誓約書」「念書」も、同意書と同様に、一方当事者が他方当事者に対して提出する書面です。複数の当事者が締結する協定書とは、書面としての性質は全く異なります。
ただし誓約書・念書は、提出者である一方当事者が、提出先である他方当事者に対して、何らかの事項を約束(誓約)する内容の書面です。したがって誓約書・念書は、単に同意を表明するだけの同意書とも異なる性質の書面と言えます。
誓約書・念書については、以下の記事で詳しく解説しています。必要に応じてご参照ください。
労働基準法に基づき締結が必要な「労使協定」とは
労働基準法では、労働者の権利を害するおそれのある制度・取扱い等を導入する際に、使用者と労働組合(又は労働者の過半数代表者)を当事者とする「労使協定」の締結を義務付けています。
労働基準法に基づき、労使協定の締結が義務付けられている場合の例は、以下のとおりです。
- 労使協定の締結が必要な場合の例
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✅ 使用者が委託を受けて、労働者の貯蓄金を管理する場合(労働基準法18条2項)
✅ 賃金の一部を控除して支払う場合(同法24条1項)
✅ 変形労働時間制を導入する場合(同法32条の2第1項、32条の4第1項)
✅ フレックスタイム制を導入する場合(同法32条の3第1項)
✅ 日ごとの業務に著しい繁閑の差が生ずる一定の事業につき、所定労働時間を1日8時間超10時間以下とする場合(同法32条の5第1項)
✅ 休憩時間を一斉付与せず、個別に与える場合(同法34条2項)
✅ 労働者に時間外労働・休日労働をさせる場合(同法36条1項)
✅ 割増賃金の支払に代えて、労働者に代替休暇を付与する場合(同法37条3項)
✅ 事業場外みなし労働時間制につき、所定労働時間とは異なるみなし労働時間を定める場合(同法38条の2第2項)
✅ 専門業務型裁量労働制を導入する場合(同法38条の3第1項)
✅ 企画業務型裁量労働制を導入する場合(同法38条の4第1項)
✅ 時間単位の有給休暇を取得する制度を導入する場合(同法39条4項)
✅ 年次有給休暇のうち5日を超える部分につき、あらかじめ与える時季を指定する場合(同条6項)
36協定書に規定すべき必要事項
労働基準法に基づく労使協定として最も広く知られているのが、時間外労働及び休日労働についてのルールを定める「36協定」(労働基準法36条1項)です。36協定書には、労働組合等と使用者が協議によって以下の事項を合意し、その内容を明記しておく必要があります(同条2項、労働基準法施行規則17条1項)。
協定書の書き方|ひな形(テンプレート)と併せて紹介
協定書の内容は、想定されている取引や法律関係に応じて、オーダーメイドで取り決める必要があります。そのため、汎用性の高いテンプレートを作成することは困難ですが、以下では基本的な体裁の部分に絞って、協定書の作成方法をご紹介します。
●●に関する協定書
株式会社●●(以下「甲」という)と▲▲株式会社(以下「乙」という)は、●年●月●日付で下記のとおり「●●に関する協定書」を締結する。
第1条(●)
……
本協定書の成立を証するため、本書2通を作成し、当事者双方署名又は記名押印の上、各1通を保有する。
●年●月●日
甲 東京都●●
株式会社●●
代表取締役 ●● 印
乙 東京都●●
▲▲株式会社
代表取締役 ●● 印
表題を記載する
まず冒頭に、協定書の表題を記載します。単に「協定書」と記載するのではなく、取引の内容が一見してわかるようにしておく方がよいでしょう。
- 協定書の表題の例
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✅ ●●取引に関する協定書
✅ 時間外労働及び休日労働に関する労使協定書
など
前文を記載する
表題の直後に、前文(鏡文、鑑文)を記載します。前文は、協定書の基本的な事項を端的に要約し、一目で把握できるように記載する必要があります。
- 協定書の前文に記載すべき事項
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✅ 当事者の氏名又は名称(条文中で使えるように、「甲」「乙」などと凡例化しておく)
✅ 協定書の締結日
✅ 協定書を締結する目的(簡単に、省略してもよい)
✅ 原契約がある場合は、原契約を特定できる事項
(例)甲乙間の●年●月●日付「●●契約書」(その後の変更等を含む)
など
合意内容を条文化して記載する
メインとなる本文では、「第1条」「第2条」……と条文番号を付して、協定書による合意内容を漏れなく記載します。規定すべき内容はケースバイケースで異なりますが、例えば取引に関する協定書であれば、最低限以下の内容を定めておきましょう。
- 取引に関する協定書に規定すべき事項
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✅ 想定されている取引の内容
✅ 当事者の義務の内容、履行期限、履行方法
✅ 協定書の解約・解除に関する事項
✅ 規定されていない事項は原契約に従う旨(原契約がある場合)
✅ 裁判管轄
など
また、労働基準法に基づく労使協定書など、法令の規定に基づいて締結される協定書の場合は、法廷記載事項をカバーすることが必要です。
署名欄を作成し、当事者が署名・押印等を行う
協定書の末尾には、以下の事項が記載された署名欄を作成して、当事者全員が署名捺印(又は記名押印)を行います。
- 署名欄に記載すべき事項
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✅ 当事者の住所
✅ 当事者の氏名又は名称
✅ 法人の場合は、契約締結権限者(通常は代表者)の肩書と氏名
✅ 当事者の押印
✅ 協定書の作成通数と保管者、締結方式
(例)本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、当事者双方署名又は記名押印の上、各1通を保有する。
協定書を締結する際の注意点
協定書を締結する際には、自社に不当な不利益が及んだり、内容の不備によってトラブルが生じたりする事態を防ぐため、以下のポイントに留意して事前のレビューを行いましょう。
合意内容が明確な条文で記載されていることを確認する
協定書に記載された合意内容が不明確な場合、文言解釈などを巡って、当事者間でトラブルになってしまうおそれがあります。
条文の日本語が不自然でないか、接続詞は正しく用いられているか、二通り以上の意味に解釈できてしまう文言はないかなどを確認して、疑義のない明確な条文に整えましょう。
自分(自社)にとって不当に不利な条項が含まれていないことを確認する
特に相手方が協定書のひな形を作成した場合には、自分(自社)にとって不当に不利な条項が含まれている可能性が高いです。
民法の規定や契約実務の相場などに照らして、自分(自社)にとって不当に不利な条項があれば、相手方に対して修正を求めましょう。契約交渉の相場観がわからない場合は、弁護士にアドバイスを求めることをお勧めいたします。
合意内容が公序良俗や強行規定に反しないことを確認する
協定書の条文のうち、公序良俗に反する内容を含むものは無効となります(民法90条)。また、法律上の強行規定(契約等により変更できず、強制的に適用される規定)に反する条文も、同様に無効となってしまいます。
協定書の文言が無効になってしまうと、当事者間の合意内容が修正され、予期せぬ事態を招いてしまいかねません。法令に対する正しい理解の下、公序良俗違反・強行規定違反の条文が含まれない形に協定書を調整しましょう。
法令上規定が必要な内容が漏れていないことを確認する
法令によって締結が求められる協定書には、法令上必要な規定を盛り込まなければなりません。一部でも必要な規定が漏れていると、法令違反に該当するので要注意です。
法令上の記載事項に漏れがないように、法令の条文と一つずつ対照しながら確認しましょう。さらにできる限り、複数名によるダブルチェック・トリプルチェックを行うことが推奨されます。
この記事のまとめ
協定書の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!
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