念書とは?
契約書や誓約書との違い・
テンプレート・作成方法などを解説!

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この記事のまとめ

「念書」とは、作成者が何らかの事項を提出先に約束する書面です。「誓約書」などと呼ばれることもあります。約束の内容を明確化・証拠化するとともに、作成者に対して心理的なプレッシャーを与え、義務の履行を促すなどの目的で作成されます。

念書は一般的に、一方当事者のみが作成者となります。そのため、双方当事者の合意によって締結される契約書合意書覚書などとは性質が異なる書面です。

念書の提出を求める際には、約束の内容が明確になっているか、公序良俗に反する内容でないかなどを確認しておきましょう。

この記事では「念書」について、契約書等の似ている書面との違い、テンプレート、作成方法などを解説します。

ヒー

念書というと、借金返済の際に提出するイメージがありますね。

ムートン

そうですね。念書と同様の意味を持つ言葉に「誓約書」がありますが、個人間のやりとりでは「念書」、企業間のやりとりでは「誓約書」とされることが多いようです。

(※この記事は、2022年3月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。) 

念書とは?

念書とは、約束した事項を記載して相手に提出する書面のことです。

念書という言葉からイメージされることが多いのは、借金の返済を約束するケースなどでしょう。知人間で特に契約書などを作成せずに金銭の貸借が行われたものの、返済が滞ってしまった場合に、「借りている○○万円を返します」という約束を書面に残しておくことがあります。この書面が「念書」です。

借金返済に限らず、作成者が何らかの事項を提出先に約束する内容であれば、「念書」の一種と捉えることができます。

念書とその他書面(誓約書・契約書など)との違い

念書と同じく、当事者間での約束事を記載する法的な書面として、「契約書」「合意書」「覚書」「同意書」「誓約書」などがあります。

これらの書面と念書は、どのような点が共通しており、どのような点が異なるのでしょうか。

契約書・合意書・覚書との違い

契約書・合意書・覚書は、いずれも締結当事者の間における合意事項を記載した書面です。名称が異なるだけで、合意書面としての法的効力に差はありません。

念書は、作成者が提出先に対して一方的に義務を負う内容の書面です。これに対して、契約書・合意書・覚書は、双方向の義務を発生させる書面である点に違いがあります。

同意書との違い

同意書は、作成者が提出先に対して、何らかの事項について同意する旨を表明する内容の書面です。

同意書は念書と同様に、作成者の一方的な意思表示を記載した書面になります。ただし意思表示の内容としては、念書が作成者の「約束」を記載したものであるのに対して、同意書は作成者の「同意」を内容とする点が異なります。

また、同意書は原則として、作成者に対して何らかの義務を課すものではありません。この点、作成者が何らかの義務を負うことを内容とする念書とは違いがあります。

同意書は、法令契約等に基づき作成者の同意が必要とされる行為を、提出先がする必要性が生じた場合(例:個人情報の取得・医療行為など)に作成されるケースが多いです。

誓約書との違い

誓約書は、作成者が提出先に対して何らかの事項を誓約(=約束)する内容の書面です。

念書と誓約書は、名称が異なるだけで、書面としての法的な機能に差はありません。いずれも作成者が提出先に対して約束をし、それに伴う義務を負担することを目的としています。

名称の使い分け方にルールはありませんが、フォーマルな書面(提出先が企業の場合など)では「誓約書」、プライベートな書面(個人間の借金の場合など)では「念書」が使われることが多い傾向にあります。

念書が必要となるケース

念書はほとんどの場合、権利を有する側(提出先)が義務を負う側(作成者)に対して要請して作成されます。その背景には、作成者による義務履行が不確実となった、実際に債務不履行が発生したなどの事情が存在することが一般的です。

具体的には、提出先の側に以下のいずれかのニーズがある場合には、作成者に対して念書の提出を求めるべきでしょう。

約束の内容を証拠化したい場合

契約書を作成せずにお金を貸した場合など、約束の内容に関する証拠が乏しい場合には、念書を作成して約束を証拠化しておくことが有効になります。

約束の証拠を何も残しておかないと、実際にトラブルに発展した場合に、権利を有する側が不利益を被るおそれがあります。例えば契約書なしで貸したお金の返済が滞った場合、相手は「お金を借りた覚えはない」などとしらを切るかもしれません。

念書の作成には、作成者が義務を負っていることを証拠として残し、裁判などへ発展した際に言い逃れができないようにしておく意味合いがあります。

心理的なプレッシャーを与え、義務の履行を促したい場合

念書を提出させることには、作成者に心理的なプレッシャーを与え、自発的に義務を履行するように促す効果も期待されます。

一般的に人間は、自分でした約束を破ることには躊躇を覚えるものです。念書の提出により、義務の履行を改めて約束させることで、作成者の良心に訴え、自発的に義務が履行される可能性が高まると考えられます。

また、念書を提出したことにより、裁判において義務の存在を認定されることが確実となります。結局裁判に発展したら負けてしまうのであれば、その前の段階で義務を履行しておこうという思考が働くことにもつながるでしょう。

(公正証書化する場合)強制執行をスムーズに申し立てたい場合

相手が義務を履行しないのではないかという疑念が強い場合には、強制執行を見据えて、念書を公正証書化しておくことも考えられます。

公正証書とは、公証役場において公証人が作成する公文書です。公正証書の中で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述(強制執行認諾文言)を記載しておくと、債務不履行が発生した際に、裁判などを経ることなく強制執行を申し立てることができます。

約束が破られた際に、強制執行をスムーズに申し立てたい場合には、公正証書の形で念書を作成することも検討するとよいでしょう。

念書の法的効力

念書が法的な義務を内容とし、かつ作成者の真の意思によって作成されたものであれば、念書の内容は作成者を法的に拘束し、訴訟等における証拠として用いることもできます。 また、前述のとおり、公正証書化したうえで強制執行認諾文言を記載しておけば、訴訟を経ることなく強制執行を申し立てることも可能です。

ただし、以下に挙げる場合等には、念書が無効・取消しとなってしまう可能性があるので注意が必要です。

念書が無効・取消しとなる場合の例

(念書が無効となる場合)
✅  念書の内容が公序良俗に反する場合(民法90条)
(例)借金を返せない場合は結婚する義務を負う
✅  念書の内容が強行法規に違反する場合
(例)借金を返せない場合は、店で1か月間ただ働きをする(労働基準法違反)
✅  念書の作成時点で、作成者に意思能力がない場合(民法3条の2)
✅  念書の内容が不明確な場合

(念書が取り消される場合)
✅  錯誤によって念書が作成された場合(民法95条1項)
✅  詐欺・強迫によって念書が作成された場合(民法96条1項)
✅  未成年者が念書の作成者となるケースで、法定代理人の同意がない場合(民法5条2項)

念書の作成方法|テンプレートと併せてポイントを紹介

念書の具体的な内容はケースバイケースですが、作成の様式についてはある程度の目安があります。以下では念書のテンプレートに沿って、記載事項のポイントを見ていきましょう。

念書

〇年〇月〇日

B  様(御中)

【作成者Aの署名・押印】

AはBに対して、以下の事項を確認及び約束します。

1. Aは、△年△月△日にBから金30万円を借りたこと。
2. 本書作成日において、前項に定める借入金のうち、20万円が返済未了であること。
3. AはBに対して、前項に定める借入金の返済未了分20万円全額を、□月□月□日までに一括で返済すること。
4. 前項の返済は、下記の口座宛に振り込む方法で行うこと。
【公正証書化する場合】
5. 第3項に定める返済が遅延した場合、Aは直ちに強制執行に服すること。



       金融機関名:〇〇銀行○○支店
       口座種別:普通
       口座番号:〇〇〇〇〇〇〇
       口座名義人:B

以上

表題・日付・提出先の氏名(名称)を記載する

まずは基本的な事項として、冒頭に表題・日付・提出先の氏名(名称)を記載します。

なお表題については、単に「念書」としてもよいですし、「借入金の返済に関する念書」などと具体的に記載しても構いません。

約束の内容を条文にまとめて記載する

次に、念書によって約束する事項の内容を、条文にまとめて記載します。

例えば借金の返済に関する念書であれば、上記テンプレートに記載しているように、以下の事項を盛り込んでおくとよいでしょう。

約束の内容に応じて、取り決めておくべき事柄を網羅的に記載することが大切です。

作成者が署名・押印等を行う

念書が作成者の真の意思によって作成されたことを示すため、作成者が署名・押印を行います。署名・押印の場所はどこでも構いませんが、提出先の氏名(名称)の下部か、末尾のいずれかに署名欄を設けることが多いです。

なお、作成者の名前をあらかじめ印字しておき、押印のみを行う「記名押印方式」や、サインのみを行う「サイン方式」でも構いません。

念書を作成する際の注意点

念書を作成する際には、法的効力の確保・義務履行の確保・印紙税法などの観点から、以下の各点に注意する必要があります。

約束の内容が明確であるかを確認する

念書の内容が不明確な場合、念書全体が無効となってしまうおそれがあります(明確性の原則)。そのため、念書の条文は明確な文言で記載しなければなりません。

明確な条文を作成するためには、「5W1H」を意識することが効果的です。

念書の5W1H

✅  who(誰が誰に対して義務を履行すべきか)
✅  when(義務を履行すべき時期)
✅  where(義務の履行場所、振込等の場合は省略する場合もある)
✅  what(履行すべき義務の内容)
✅  why(義務の発生根拠)
✅  how(義務の履行方法)

また、条文の意味が2通り以上に解釈されないように、注意深く条文を作成することも大切になります。

約束の内容が公序良俗に反しないかを確認する

義務を履行しようとしない相手に対する怒りから、念書において相手に過剰な義務を課そうとするケースがたまに見受けられます。しかし、念書による約束の内容が公序良俗に反する場合は、その約束が無効となってしまうので要注意です(民法90条)。

例えば、義務を履行しなかった場合に「愛人になる」「結婚する」「奴隷になる」といった時代錯誤的な内容の合意が、公序良俗違反に当たることは分かりやすいでしょう。また、義務を履行できないならば反社会的活動(犯罪など)に加担するよう求めることも、やはり公序良俗違反に該当します。

ほとんどの方にとっては心配ないと思いますが、上記のような公序良俗違反に該当する約束を、念書によって押し付けることがないようにご注意ください。

約束が履行されるかどうかの見込みを確認する

念書によって義務の履行を約束させたとしても、相手がその義務を実際に履行できるかどうかは別問題です。債権回収の際には、債務者の義務内容を明確化することに加えて、債権回収の具体的な見通しを立てることも重要になります。

例えば、「借金100万円を明日までに返す」という約束をさせても、現時点で相手が100万円を持っていないのであれば、借金回収の見込みは薄いでしょう。無理なスケジュールを債務者に押し付けてしまうと、約束どおり義務が履行される可能性は低くなってしまいます。

円滑な債権回収を図るためには、念書の内容を話し合う段階で、債務者にとって無理のない範囲で義務の履行計画を調整するのがよいでしょう。債務者が自発的に義務を履行すれば、債権者としても訴訟などの手間が省けるメリットがあります。

念書に印紙が必要かどうかを確認する

念書に記載された約束の内容によっては、念書が印紙税の課税文書に該当することがあります。

例えば、お金の貸し借り(金銭消費貸借)に関する契約書は、印紙税の課税文書です。
既に金銭消費貸借契約書を作成している場合には、契約金額を変更する場合等を除き、念書に収入印紙を貼付する必要はありません。これに対して、金銭消費貸借契約書が従前存在しない場合には、念書に収入印紙を貼付する必要があります。

貼付すべき収入印紙の金額は、約束の内容や契約金額によって異なります。詳細は国税庁のウェブサイトをご参照ください。

この記事のまとめ

念書の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

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参考文献

・国税庁サイト「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」

・国税庁サイト「No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで」