水増し請求とは?
下請代金やキックバックにまつわる事例・
仕組み・法的責任・見抜くための対策
などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

水増し請求」とは、本来の請求金額に不正に上乗せして支払いを請求することをいいます。

水増し請求が意図的に行われた場合は、詐欺罪が成立します。また、水増し請求によって請求者が得た利益については、不当利得返還請求および不法行為に基づく損害賠償請求の対象です。

水増し請求を見抜くためには、発注内容と請求書を逐一照合することが大切です。その際には、複数の経理担当者がダブルチェックを行うことが望ましいでしょう。また、過去に不正が発覚した委託先との間では、再発防止のために取引を打ち切ることも検討すべきです。

水増し請求が疑われる場合には、まず相手方に計算根拠を確認しましょう。相手方の勘違いやコミュニケーションのミスに過ぎない可能性もありますので、最初から水増し請求と決めつけず、冷静に対応すべきです。

悪質な水増し請求であると判断した場合は、
・委託先との契約解除
・従業員に対する懲戒処分
・警察に対する被害届の提出
を検討しましょう。

この記事では水増し請求について、基本から分かりやすく解説します。

ヒー

水増し請求を防止するにはどうしたらいいんでしょうか。

ムートン

コンプライアンス研修で水増し請求が犯罪行為であることを改めて伝えたり、そもそも水増し請求できない仕組みにしたりするのが有効だと思います。

※この記事は、2024年2月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

水増し請求とは

水増し請求」とは、本来の請求金額に不正に上乗せして支払いを請求することをいいます。

不正会計・不正請求の一種である水増し請求を行うことは、コンプライアンスの観点から厳禁です。

水増し請求のよくある事例|仕組みも含めて解説!

水増し請求のよくあるパターンとしては、以下の例が挙げられます。

事例1|下請代金の水増し請求
事例2|キックバックを貰うための水増し請求
事例3|経費の水増し請求
事例4|顧客に対する水増し請求

事例1|下請代金の水増し請求

親事業者と下請事業者の間の取引では、下請事業者が下請代金を水増し請求する例がよく見られます。

例えば、

  • かかっていない経費を上乗せして請求する
  • 実際には行っていない作業の報酬を請求する

といったケースが、下請代金の水増し請求の典型例です。

特に親事業者が多数の下請事業者と取引しているケースでは、「うちが少しぐらい水増し請求してもバレないだろう……」などと考えた下請事業者によって、水増し請求が行われることがあります。

事例2|キックバックを貰うための水増し請求

取引担当者同士で共謀して、キックバックを分け合うために水増し請求を行うケースがあります。

キックバックとは

キックバックとは、謝礼目的で授受される金銭のことをいいます。キックバックは、全てが違法なわけではなく、適法なケースもあります。

■適法なケースの例
自社の商品を取り扱ってくれる販売店に対し、より販売を促進するため、一定の条件を満たした場合に「謝礼金」を渡す

ムートン

しかし当然ながら、キックバックが違法なケースもあります。

例えばA社がB社に対して、100万円を請求すべきところ、実際には150万円を請求します。本来であればB社の取引担当者が誤りを指摘すべきです。しかし、B社の取引担当者YはA社の取引担当者Xと共謀し、それぞれ25万円のキックバックを分け合う約束をしていました。

その結果、A社には100万円のみが入金され、XとYはそれぞれ個人的に25万円のキックバックを得て、私腹を肥やしました。なおA社では、B社に対して100万円を請求したという虚偽の請求書をXが作成・保存し、証拠隠滅を図りました。

上記のようなケースが、キックバックを貰うための水増し請求の典型例です。

事例3|経費の水増し請求

従業員が会社に対して経費を請求する際に、その金額を水増しする例があります。
例えばプライベートで利用したタクシーの料金を請求する、乗っていない電車の料金を請求するなどのパターンが挙げられます。

事例4|顧客に対する水増し請求

事業者が消費者である顧客に対して、サービス料金などをこっそり水増し請求する例もあります。

消費者は、事業者が実際にどのようなサービスを提供しているのか、その全てを把握できない場合があります。事業者は多くの情報を持っているのに対して、一般消費者が持つ情報は乏しいからです。

ムートン

これを「情報の非対称性」といいます。

情報の非対称性を悪用して、事業者が実際には提供していないサービスの料金を請求するケースは、水増し請求の典型例です。さらに悪質な例では、事業者自ら顧客の物を壊すなどして、追加サービスが必要となった旨を顧客に伝え、その料金を請求するといったケースも存在します。

水増し請求をした際に問われる法的責任

水増し請求をした事業者や、水増し請求について共謀を行った事業者は、以下の法的責任を負うことになります。

法的責任1|刑法上の犯罪(詐欺罪や背任罪)に該当する
法的責任2|不当利得に基づく返済義務が生じる
法的責任3|不法行為に基づく損害賠償義務が生じる

法的責任1|刑法上の犯罪(詐欺罪や背任罪)に該当する

本来の金額よりも水増しして請求をする行為は、相手方に対する欺罔行為(=だます行為)であり、詐欺罪に該当することがあります(刑法246条1項)。詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。

また、金額を水増しされていることを知りつつ請求どおりに支払った場合などには、会社に対する背任罪が成立します(刑法247条)。背任罪の法定刑は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

法的責任2|不当利得に基づく返済義務が生じる

水増し請求によって得た金銭については、不当利得に当たります。

不当利得とは

不当利得とは、法律上の正当な理由や権利もなく、他人の財産などに損失を与えることによって得た利益のことです(民法703条)。不当利得によって得た金銭は返還しなければなりません。

水増し請求においては、水増し分の金銭を返還しなければなりません。

なお、故意に水増し請求を行った者は「悪意の受益者」に当たるため、水増し分全額に利息を付して返還する義務を負います(民法704条)。

法的責任3|不法行為に基づく損害賠償義務が生じる

故意に水増し請求を行い、それに応じて相手方が金銭を支払った場合には、相手方に対して不法行為に基づく損害賠償義務を負います(民法709条)。

また、水増し請求について請求者と共謀した者も共同不法行為者に当たり、被害者である相手方に対して、請求者と連帯して損害を賠償しなければなりません(民法719条)。

なお、不当利得と不法行為が両方成立する場合は、支払者はいずれかまたは両方に基づいて金銭の支払いを請求できます。ただし、二重取りは認められません。

水増し請求を見抜くための対策

水増し請求を見抜くためには、平時から以下の対策を心がけましょう。

対策1|発注内容と請求書を照合する
対策2|複数の経理担当者が確認する
対策3|不正が判明した委託先との取引を打ち切る
対策4|従業員に対してコンプライアンス研修を行う

対策1|発注内容と請求書を照合する

取引先から請求書を受領した際には、必ず発注内容請求書の内容照合して、問題ないかどうかを確認しましょう。

ムートン

もし発注内容と請求書の内容がずれていれば、直ちに取引先に関して確認を求めるべきです。

対策2|複数の経理担当者が確認する

請求書の確認は、複数の経理担当者が行いましょう。ダブルチェックを徹底すれば、不適切な水増し請求を見抜くことにつながります。

対策3|不正が判明した委託先との取引を打ち切る

故意に不正な水増し請求を行ってきた取引先との間では、取引の打ち切りも検討すべきです。

勘違いや認識のズレなどによる誤請求であれば、その他の部分で信頼できる限り、取引を継続することに支障はないでしょう。しかし、故意の不正請求はきわめて悪質な行為であり、その一事だけで取引先に対する信頼が帳消しになると言っても過言ではありません。

故意の不正請求は、一度だけでなく二度、三度と繰り返されるおそれがあります。すぐに取引先を変更することが難しいとしても、新たな取引先探しへと着手して、できる限り早期の変更を目指しましょう。

対策4|従業員に対してコンプライアンス研修を行う

水増し請求は、従業員が取引先と共謀して行われることもあります。

従業員が加担する水増し請求を防ぐためには、違法な不正行為であるということを正しく認識させるべきです。

従業員のコンプライアンス意識を高めるためには、定期的にコンプライアンス研修を行うことが効果的です。

水増し請求を受けた場合の対処法

実際に取引先等から水増し請求を受けた場合には、以下の方法で対処しましょう。

対処法1|相手方に計算根拠を確認する
対処法2|契約の解除等を検討する
対処法3|従業員による不正があった場合は、懲戒処分を検討する
対処法4|悪質な場合は警察に被害届を提出する

対処法1|相手方に計算根拠を確認する

発注内容と請求の内容に矛盾があると思われる場合は、相手方に計算根拠を確認しましょう。

ムートン

故意ではなく勘違いや認識のズレが原因の可能性もあるので、まずは過度に相手方を責め立てるのではなく、冷静に確認を求めるべきです。

相手方が、自らの認識に従って合理的と思われる計算根拠を示してきた場合には、前提となる認識が間違っているか、またはコミュニケーションミスが生じていた可能性があります。

過去の連絡内容などを確認して、勘違いや認識のズレの解消に努めましょう。また、今後同じようなミスが生じないように、連絡方法などを工夫することも大切です。

これに対して、相手方が不合理な弁解に終始した場合は、故意による水増し請求の可能性が高いと考えられます。この場合は、直ちに正しい内容による請求書の発行を求めましょう。

対処法2|契約解除などを検討する

相手方が故意に水増し請求を行ったと考えられる場合は、契約解除などを検討しましょう。

契約を解除する際には、契約上の解除事由に該当する必要があります。例えば「信頼関係を損なう行為」などの解除事由が定められている場合は、それを根拠に契約を解除することが考えられます。

直ちに契約を解除することができない場合は、契約期間の満了まで待って更新しない対応を検討しましょう。月々の発注量が契約上決まっていなければ、期間満了までの間は発注しないか、または発注量を絞ることも考えられます。

なお、契約解除によって自社が何らかの損害を被った場合は、契約上の規定に基づいて損害賠償を請求可能です。契約解除と併せて、損害賠償請求ができるかどうかも検討しましょう。

対処法3|従業員による不正があった場合は、懲戒処分を検討する

水増し請求に従業員が加担した場合には、懲戒処分を検討しましょう。

懲戒処分を行う際には、懲戒権の濫用(労働契約法15条)や解雇権の濫用(同法16条)に当たらないように注意が必要です。

ムートン

従業員の行為の性質や態様に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は無効となってしまいます。

懲戒処分の判断に当たって、水増し請求の悪質性を検討する際には、主に以下の要素に着目しましょう。

・水増しされた金額の大きさ
・水増し請求の頻度(常習性)
・従業員が果たした役割の重要性
・会社の業務や財務に与えた悪影響の大きさ
など

懲戒処分を行う際には、あらかじめ事実関係を正しく把握することが大切です。請求書やメールなどの資料を精査することに加え、関係者に対するヒアリングも行って、水増し請求が行われた経緯の全体像を把握しましょう。

また、従業員に対して弁明の機会を付与することも重要です。弁明の機会の付与も含めて、きちんとした手続きを踏んで懲戒処分を行えば、後にそれが無効と判断されるリスクが低くなります。

対処法4|悪質な場合は警察に被害届を提出する

水増し請求が悪質である場合は、

  • 請求してきた取引先
  • その担当者
  • 共謀等によって関与した従業員

につき、被害届の提出刑事告訴を検討しましょう。

水増し請求は、詐欺罪や背任罪が成立し得る不正行為です。水増し請求に加担した者には厳正に対処する会社の姿勢を見せることで、今後に向けた抑止力も期待できます。

特に従業員に対しては、不正は絶対に許さないという会社のメッセージが伝わり、コンプライアンス意識の向上につながるでしょう。

ムートン

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