アウティングとは?
意味・事例・カミングアウトとの違い・
問題点・行為者の法的責任などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「アウティング」とは、LGBTQの性的指向や性自認を、本人の了解を得ることなく勝手に暴露する行為です(なお、「LGBTQ」とは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クエスチョニング(またはクィア)をまとめた略称で、性的マイノリティ全般を指しています)。
アウティングはプライバシー権の侵害に当たるほか、周囲や世間の差別的な言動を誘発し、被害者に深刻な精神的ダメージを与え得るため、不適切な行為といえます。また、被害者がイスラム圏など、同性愛が法律で禁止されている地域の国籍者である場合には、アウティングをきっかけに被害者が処罰されてしまうケースもあります。
アウティングをした人は、被害者に対して損害賠償責任を負うほか、名誉毀損罪や侮辱罪で処罰される可能性があります。
従業員が社内でアウティングをした場合に、会社が何らの調査や処分などを行わずに放置していると、男女雇用機会均等法違反による勧告や公表処分の対象になり得るので注意が必要です。また、アウティングが発生した事実が世間に広まると、会社の社会的評判が低下することも懸念されます。
会社としては、従業員によるアウティングが判明したら、一刻も早く被害者のケアに着手するとともに、アウティングをした従業員に対する懲戒処分を検討すべきです。
この記事ではアウティングについて、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2024年5月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 男女雇用機会均等法…雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
目次
アウティングとは
「アウティング」とは、LGBTQの性的指向や性自認を、本人の了解を得ることなく勝手に暴露する行為です。
【イメージ】
LGBTQとは
「LGBTQ」とは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クエスチョニング(またはクィア)をまとめた略称で、性的マイノリティ(性的少数者)全般を指しています。
- LGBTQの分類
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・レズビアン(Lesbian=女性を恋愛対象とする女性)
・ゲイ(Gay=男性を恋愛対象とする男性)
・バイセクシュアル(Bisexual=両性を恋愛対象とする人)
・トランスジェンダー(Transgender=生物学的な性と性自認が一致していない人)
・クエスチョニング(Questioning=性的指向や性自認が定まっていない人)
・クィア(Queer=レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーには当てはまらない性的少数者)
LGBTQであることを、本人の了解を得ることなく勝手に暴露する行為が「アウティング」に当たります。
アウティングとSOGIハラの関係性
アウティングは、性的指向や性自認に関連して行われる嫌がらせを意味する「SOGIハラ」の一種です。
SOGIハラに当たる行為としては、以下の例が挙げられます。
- SOGIハラに当たる行為の例
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・アウティング
・性的指向または性自認を理由とするいじめ、無視、暴力
・性的指向または性自認に対する差別的な言動、嘲笑、呼称
・性的指向または性自認を理由とする不当な異動、解雇、入学拒否、転校強制
・望まない性別での生活の強要
アウティングとカミングアウトの違い
LGBTQの人が、自ら性的指向や性自認を他者に開示することを「カミングアウト」といいます。
これに対してアウティングは、LGBTQの人の性的指向や性自認を、本人の了解を得ることなく、勝手に他人が暴露する行為です。
カミングアウトは本人が自発的に行うものであるため、特に法的な問題は生じません。しかしアウティングは、本人の意思に反するものであるため、法的なトラブルに発展するおそれがあります。
実際に起きたアウティング事例
- 事件の流れ
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①ゲイの学生Aが、学生Bに恋愛感情を告白
②Bは、友人ら7人のグループメッセージにおいて、Aがゲイであることを暴露(=アウティング)
③Bによるアウティングをきっかけとして、Aはパニック障害を発症するなど心身に変調をきたすようになり、パニック発作を起こした末に、大学構内の建物6階のベランダから転落して死亡
Aの遺族は、Bと一橋大学を被告として損害賠償請求訴訟を提起しました。
最終的に、Aの遺族とBは和解し、一橋大学に対する請求は棄却されました。
しかし、東京高裁が判決理由においてアウティングの違法性に言及するなど、アウティングを含むLGBTQへの差別的行為が許されないことを浮き彫りにする事件となりました。
アウティングの問題点
アウティングが不適切な行為とされるのは、主に以下の理由によります。
① プライバシー権の侵害に当たる
② 周囲や世間の差別的な言動を誘発し得る
③ アウティングの被害者が処罰されるケースもある|イスラム圏など
プライバシー権の侵害に当たる
プライバシー権とは、「他人から干渉・侵害を受けない権利」や「自己の情報をコントロールする権利」をいいます。
性的指向や性自認は、私生活上の事実であり、かつ一般的に公開を欲しない事柄といえます。したがって、性的指向や性自認はプライバシー権による保護の対象です。
本人が性的指向や性自認を自らカミングアウトすることは問題ありません。しかし、他人が勝手に性的指向や性自認を暴露することは、プライバシー権の侵害に当たります。
周囲や世間の差別的な言動を誘発し得る
アウティングによってLGBTQである事実が広まると、
- 周囲の人々から遠ざけられる
- 全く無関係の他人から嘲笑する
など、本人に対する差別的な言動を誘発する可能性があります。
こうした状況が生じることを危惧して、自らの性的指向や性自認を秘密にしている方が少なくありません。
アウティングの被害者が処罰されるケースもある|イスラム圏など
日本では、性的指向や性自認は思想・良心の自由(憲法19条)などによって保障されています。どのような性的指向や性自認を有していたとしても、それだけで処罰されることはありません。
しかし、世界には同性愛を禁止するなど、単にLGBTQであるというだけで処罰される地域もあります。例えば、イスラム圏の一部の国々がその代表例です。
アウティングの被害者が、LGBTQを禁止している地域の出身である場合、アウティングをきっかけとしてLGBTQであることが知られてしまい、処罰されるおそれがあります。
アウティングをしてしまった人が負う法的責任
LGBTQである本人の了解を得ることなくアウティングをした人は、以下の法的責任を負うことがあります。
① 民事上の責任|損害賠償
② 刑事上の責任|名誉毀損罪
民事上の責任|損害賠償
アウティングによってLGBTQ当事者に精神的損害を与えた者には、不法行為に基づき、被害者に対する損害賠償責任を負います。
また、アウティングに起因する精神疾患を治療した場合の治療費や、仕事を休まざるを得なかった期間の賃金(=休業損害)なども、損害賠償の対象となることがあります。
刑事上の責任|名誉毀損罪
LGBTQ当事者に対して、アウティングとともに本人の社会的評価を下げるような差別的な言動などを行った者は、名誉毀損罪(刑法230条)で処罰されることがあります。
名誉毀損罪の法定刑は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。
社内におけるアウティングを放置した場合に会社が負うリスク
LGBTQである従業員について、ほかの従業員がアウティングを行った場合には、会社は厳正な対応をとらなければなりません。
社内におけるアウティングを放置すると、会社は以下のリスクを負うことになってしまいます。
① 男女雇用機会均等法違反による勧告・公表
② 安全配慮義務違反・使用者責任に基づく損害賠償
③ 内部リーク等による社会的評判の低下
リスク1|男女雇用機会均等法違反による勧告・公表
事業主は、職場におけるセクシュアル・ハラスメントを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じる義務を負います(男女雇用機会均等法11条1項)。
会社が社内におけるアウティングを放置すると、厚生労働大臣による勧告を受ける可能性があります(同法29条)。勧告に従わないと、その旨が公表されるおそれがあるので注意が必要です(同法30条)。
リスク2|損害賠償
アウティングを含む、LGBTQの従業員に対する差別的な言動につき、会社が適切な予防措置や対応を行わなかった場合には、会社の
- 安全配慮義務違反(労働契約法5条)
- 使用者責任(民法715条1項)
が認められることがあります。この場合、会社は被害者に生じた損害を賠償しなければなりません。
リスク3|社会的評判の低下
社内においてアウティングが行われたことは、SNSを通じた内部リークなどによって、その事実が社会に広まる可能性があります。
アウティングは不適切な行為であるところ、社内におけるアウティングを漫然と放置していることが社会に広まれば、企業としてのイメージは失墜してしまうでしょう。その結果、売上が大幅に低下したり、新規人材の採用が困難になったりするおそれがあります。
従業員がアウティングをした場合に会社がとるべき対応
従業員によるアウティングが判明したときは、会社は速やかに以下の対応をとりましょう。
① 被害者のケア
② アウティングをした従業員に対する懲戒処分
③ プレスリリース等による状況説明
会社がとるべき対応1|被害者のケア
アウティングの被害者に対しては、会社はその心情に寄り添って丁寧にケアをすることが求められます。
被害者が健康な状態に復帰して仕事に取り組めるように、会社として最大限のサポートを行いましょう。
具体的には、以下のような対応を行うことが考えられます。被害者の要望や状態を把握した上で、どのような対応を行うかを適切に判断しましょう。
- 被害者に対するケアの具体例
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・配置転換を行い、アウティングをした者やそれを聞いた者から被害者を引き離す
・LGBTQに対する十分な理解を有する相談員が、定期的に話を聞く
・精神科医を紹介してカウンセリングや治療を受けさせる
など
会社がとるべき対応2|アウティングをした従業員に対する懲戒処分
アウティングをした従業員に対しては、懲戒処分を行うことを検討すべきです。厳しい懲戒処分を行えば、LGBTQに対する差別的な言動を認めないというメッセージを社内に発信できます。
懲戒処分とは |
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従業員が職場規律・企業秩序に違反したことに対する制裁として行われる不利益処分 |
懲戒処分を行う際には、就業規則上の懲戒事由に該当することが必要です。アウティングが懲戒事由に該当するかどうか、就業規則上の根拠規定をチェックしましょう。
また、労働者の行為の性質・態様等に照らして、重すぎる懲戒処分は無効となります(労働契約法15条)。アウティングだけを理由に懲戒解雇などの重い懲戒処分を行うと、無効となる可能性が高いでしょう。
- アウティングによって被害者がどの程度のダメージを受けたのか
- アウティング以外にも不適切な言動が見られるか
などの事情を総合的に考慮して、懲戒処分の内容を慎重に検討することが大切です。
会社がとるべき対応3|プレスリリース等による状況説明
社内でアウティングが行われたことがすでに社会へ広まり、SNSでの炎上などを引き起こしてしまった場合は、会社として速やかかつ適切に説明責任を果たさなければなりません。
企業としては、事実関係を速やかに調査した上で、把握できた事実や実施した調査の内容などを説明することが求められます。ステークホルダーを安心させるためにも、プレスリリースなどを活用してこまめに対応状況を発信し、企業としての評判の失墜を防ぎましょう。
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