履行とは?
読み方・例文・効果・民法における
債務不履行(契約不履行)の取り扱いなどを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「履行」とは、法律上の義務(=債務)に従い、自身に義務付けられた行動をすることをいいます。
例えば
・ 借りたお金を返す
・ 買主が売主に売買代金を支払う
・ 売主が買主に売買の目的物を交付する
行為が債務の履行に当たります。債務が履行されないことを、「債務不履行」と呼ばれます。自らの責に帰すべき事由によって債務不履行を起こした者は、債権者に生じた損害を賠償しなければなりません。また、債権者に契約を解除された場合には、原則として原状回復義務を負います。
契約の相手方が債務を履行しない場合には、内容証明郵便などによって履行を催告することが考えられます。また、訴訟などを通じて債務名義を取得すれば、裁判所に強制執行を申し立てることも可能です。
この記事では債務の「履行」について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2024年2月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
履行とは|分かりやすく解説!
「履行」とは、法律上の義務(=債務)に従い、自身に義務付けられた行動をすることをいいます。
債務の履行の例
債務の履行に当たるものとしては、以下の例が挙げられます。
・借りたお金を返す
→金銭消費貸借契約の借主としての債務の履行
・売主に対して売買代金を支払う
→売買契約の買主としての債務の履行
・買主に対して売買の目的物を交付する
→売買契約の売主としての債務の履行
債務の履行の効果
債務が履行されると、その債務は消滅します。
例えば、金銭消費貸借契約の借主が借金を完済した場合、その借主は貸主に対して、それ以上お金を返す義務を負いません。
債務不履行(契約不履行)とは
債務が履行されないことは「債務不履行」と呼ばれます。債務不履行は、以下の4種類に大別されます。
① 履行遅滞
② 履行不能
③ 履行拒絶
④ その他の債務不履行
履行遅滞
「履行遅滞」とは、期限までに債務を履行しないことをいいます。
債務については、
- 確定期限が定められている場合
- 不確定期限が定められている場合
- 期限の定めがない場合
の3パターンがあります。
- 確定期限:特定の日時に到来することが確定している期限(例:「2024年2月22日までに~する」と定められている場合
- 不確定期限:将来的に到来することが確実なものの、その時期は確定していない期限(例:「本人死亡の時に~する」と定められている場合)
各パターンにおいて、履行遅滞に陥る時期は以下のとおりです。
確定期限が定められている場合 | その期限が到来した時(民法412条1項) |
不確定期限が定められている場合 | 以下のいずれか早い時(同条2項) ・期限が到来した後に、債務者が債権者から履行の請求を受けた時 ・期限が到来したことを債務者が知った時 |
期限の定めがない場合 | 債務者が債権者から履行の請求を受けた時(同条3項) |
履行不能
「履行不能」とは、債務の履行ができないことをいいます。
債務が履行不能であるか否かは、契約その他の債務の発生原因や、取引上の社会通念に照らして判断されます(民法412条の2第1項)。また、契約成立の当時から債務の履行が不能だった場合も、後発的な不能と同様に「履行不能」として取り扱われます(同条2項)。
なお、履行遅滞または受領遅滞(=債権者が債務の履行を拒んでいること、または債権者が債務の履行を受領できないこと)に陥っている債務が、当事者双方の責めに帰することができない事由によって履行不能となった場合、その履行不能は、以下の者の責めに帰すべき事由によるものとみなされます(民法413条の2)。
履行遅滞中:債務者
受領遅滞中:債権者
履行拒絶
「履行拒絶」とは、債務者が、債務の履行を拒絶する意思を明確に示すことをいいます。債務者によって履行拒絶がなされた場合、債権者は直ちに契約を無催告解除できます(民法542条1項2号、2項2号)。
その他の債務不履行(例:不完全履行)
履行遅滞・履行不能・履行拒絶のいずれにも該当しなくても、契約に従った債務の履行がなされなかった場合は債務不履行に当たります。
(例)
・引き渡された目的物の種類が契約で定められたものと異なる
・引き渡された目的物の品質が契約に適合していない
・引き渡された目的物の数量が不足している
など
債務不履行を起こした者が負う法的責任
債務不履行を起こした債務者は、債権者に対して以下の法的責任を負います。
① 債務不履行に基づく損害賠償責任
② 契約の解除に基づく原状回復義務
債務不履行に基づく損害賠償責任
債務不履行によって債権者に生じた損害は、債務者が債権者に対して賠償する義務を負います(民法415条1項本文)。
ただし例外的に、債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして、債務不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、損害賠償責任が発生しません(同項但し書き)。
金銭債務が不履行となった場合は、遅延損害金が発生
金銭の給付を目的とする債務の不履行については、原則として法定利率(=年3%)による「遅延損害金」が発生します。ただし、契約によって法定利率を超える約定利率が定められている場合には、約定利率に従います(民法419条1項)。
金銭債務の遅延損害金については、債権者は損害の証明を必要としません(同条2項)。また、債務者には不可抗力の抗弁(反論)が認められません(同条3項)。
契約の解除に基づく原状回復義務
契約上の債務が不履行となった場合、債権者は債務者に対して履行を催告し、相当の期間内に履行がないときは契約を解除できます(民法541条)。また、履行不能や履行拒絶などの場合には、催告なくして契約を解除することも認められています(=無催告解除、民法542条)。
契約が解除された場合、当事者は互いに原状回復義務を負います。例えば、賃料不払いによって賃貸借契約が解除された場合、借主は賃借物を原状に回復させた上で、貸主に返還しなければなりません。
契約の相手方が債務を履行しない場合の対処法
契約の相手方が債務を履行しない場合には、以下のいずれかの方法で対処しましょう。
① 損害賠償を請求する
② 契約を解除する
③ 履行の追完を請求する
④ 代金の減額を請求する
⑤ 強制執行を申し立てる
損害賠償を請求する
債務不履行によって債権者に生じた損害については、債務者に対して損害賠償を請求できます(民法415条1項)。
実際に生じた損害額を漏れなく積算した上で、債務者に対して内容証明郵便等で請求書を送付しましょう。
契約を解除する
債務不履行の発生後、債務者に対して履行の催告をし、相当の期間内に履行がないときは契約を解除できます。また、履行不能や履行拒絶などの場合には無催告解除も認められます。
ただし、債務不履行が軽微であるときは、契約の解除が認められない点にご注意ください。
履行の追完を請求する
契約上の債務の履行が不完全である場合は、改めて完全な履行を請求しましょう(=履行の追完請求、民法562条1項)。
例えば、
- 目的物の種類が間違っているなら交換を求める
- 壊れているなら修理を求める
- 数量が足りないなら不足分の送付を求める
などの請求が考えられます。
代金の減額を請求する
履行の追完を請求した後、相当の期間内に履行の追完がないときは、契約への不適合の程度に応じて代金の減額を請求できます(民法563条1項)。
また、履行の追完が不能であるときや、債務者が履行の追完を明確に拒絶した場合などには、催告なくして代金の減額を請求可能です(同条2項)。
強制執行を申し立てる
債権者が損害賠償・原状回復・履行の追完・代金の減額などに応じない場合は、債務名義を取得した上で、裁判所に強制執行を申し立てましょう。
- 債務名義とは
-
強制執行によって実現されるべき債権の存在および範囲を公的に証明した文書
例:
・確定判決
・仮執行宣言付判決
・仮差押命令、仮処分命令
・仮執行宣言付支払督促
・強制執行認諾文言が記載された公正証書
・和解調書
・調停調書
など
強制執行が開始すれば、債務者の財産を差し押さえた上で換価し、債権の弁済に充てることができます。
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