スポットワーク契約とは?
労働者派遣との違い・利用企業の注意点・
対応などを分かりやすく解説!

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弁護士法人高井・岡芹法律事務所弁護士
2022年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。人事・労務、企業法務一般(株主総会、CSR、その他会社経営一般)、M&A、訴訟・紛争解決等などを取り扱う。
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この記事のまとめ

スポットワークとは、一般に短時間・短期間で行う仕事を指し、利用企業スポットワーカー双方にとってのメリットから、近年利用が広がっています。

スポットワーカーが利用企業の指揮命令下で働く場合、このようなスポットワーク契約は労働契約に当たると考えられるため、適用される規制ルール(労働条件明示義務や就業規則の確認等)を漏れなく行うよう注意が必要です。
また、スポットワークマッチングサービス経由で採用する場合、当該サービスが本人確認などを行う場合もありますが、労働契約上の使用者はあくまで利用企業のため、賃金の支払いが確実されていることの確認や外国人就労者の就労資格の確認などは利用企業により行う必要があります。

この記事では「スポットワーク契約」について、その業務形態特有の注意点も含め、分かりやすく解説します。

ヒー

現場から「人手が足りない日はスポットワーカーを入れたい」と相談がありました。今まで利用したことがないのですが、法的な注意点はありますか?

ムートン

スポットワーク契約には、自社の就業規則がスポットワーカーを想定したものとなっているか、現場の理解が十分かなど、いくつか注意点があります。見ていきましょう。

※この記事は、2024年9月13日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名等を次のように記載しています。

  • 労災保険法…労働者災害補償保険法
  • 労基法…労働基準法

スポットワーク契約とは

スポットワークの定義|単発バイト・スポットバイト・スキマバイトなど

スポットワークについて法律上の定義はありませんが、一般に短時間・短期間で行う仕事を指して使われており、単発バイトスポットバイトスキマバイトと呼ばれることもあります。

スポットワーク契約の特徴|メリット・デメリット

スポットワーカーを利用する企業のメリットとしては、以下などが挙げられます。

① 急な欠員や繁忙期の増員などにおいて柔軟に人員採用し得ること
② 同意により、スポットワークから長期雇用へ切り替えることも可能なこと
③ ②の場合、働きぶりを見てから判断できるため、労使双方のミスマッチが生じにくいこと

一方、利用企業のデメリットとしては、以下が考えられます。

① マッチングサービスの利用などにより面接を経ずに採用した場合、スポットワーク当日のミスマッチが生じ得ること
② 短時間・短期間での就労という性質上、業務内容を伝える方法や業務引き継ぎについては、マニュアルやオペレーションに工夫が求められること

スポットワーカー側のメリットとしては、以下などが挙げられます。

① 単発での申し込み・就労が可能なため、自分が働きたいタイミングや体調に合わせて働けること
② スポットワークマッチングサービスを利用する場合、面接などを経ずにオンラインでの申込みのみで採用される場合もあること(手続きの簡便さ)

このような利用企業・スポットワーカーそれぞれにとってのメリットから、近年スポットワークという働き方が広がりつつあります。

スポットワーク契約の法的性質

スポットワーク契約は原則として労働契約に当たる

アルバイトとして一般に想定されるように、スポットワーカーが他の社員の指揮命令下で働くような業務形態の場合、利用企業と労働者の間には指揮命令関係があるため、このようなスポットワーク契約は労働契約に当たると考えられます。

本記事でも、このような労働契約としての就業形態を、典型的な「スポットワーク」と想定して解説します。

業務委託契約(ギグワークなど)との違い

一方、フードデリバリー業務などが代表的ないわゆるギグワークについては、利用企業と労働者の間に指揮命令関係がない場合もあり、労働契約ではなく業務委託契約に当たり得ます。

労働者派遣契約(日雇派遣など)との違い

労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない」と定義されています(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律2条1号)。

ムートン

なお、労働者派遣のうち、日雇派遣は2012年の労働者派遣法改正により、原則禁止となっています。

利用企業が求人を掲載し、それに対してワーカーが申し込むようないわゆるスポットワークのマッチングサービスは、そのサービスはあくまで求人のマッチング(紹介)を行うものであり、労働契約自体は利用企業とスポットワーカーの間で成立するため、労働者派遣契約には当たりません。

ヒー

マッチングサービスは労働者を紹介・派遣するのではなく、利用企業が直接求人をするという仕組みなんですね。

賃金支払5原則との関係

労働基準法は、賃金が全額きちんと労働者に支払われるように、原則として賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないと定めています(賃金支払5原則。労基法24条1項・2項)。

スポットワークマッチングサービスにおいては、多くの場合、スポットワーカーへの賃金の支払いを、当該サービスの立替払いにより行う場合があるため、上記原則の違反を懸念する声もありました。

この点に関し、アルバイトマッチングサービス「Timee」を運営する株式会社タイミーが、2020年2月、「グレーゾーン解消制度」により、同社のサービスの支払方法が上記賃金直接払いの原則および賃金毎月一回以上一定期日払いの原則に反しないか、厚生労働省に照会しました。

厚生労働省は、以下のように回答しています。

直接払いの原則について、「第三者が賃金の支払を受託してその支払に関与した場合であっても、賃金が労働者の手に渡るまで使用者の賃金支払義務が消滅しない場合には、これに抵触しない。」
賃金毎月一回以上一定期日払いの原則について、「使用者が支払受託者に賃金の支払を委託すれば労働基準法第24条の義務が免責されるという性質のものではなく、所定支払期日に賃金の全額が現実に支払われなかった場合については、使用者が同条の違反に問われることとなるため、使用者は支払受託者における賃金の支払状況を確認するなど所要の措置を講ずる必要があること、及び照会者〔筆者注:株式会社タイミーを指す〕から労働者への支払に際しては、当該支払が賃金の支払であること(複数の使用者からの賃金が存する場合には、その内訳を含む。)が明らかとなるような表示ないし通知をすることが望ましい。 この点、照会者のサービスは、労働者及び照会者が、労働者の既往の労働に対応する賃金の額を管理、把握しており、他方、使用者は、この額及び照会者による支払状況を把握できるようになっていること、また、照会者を通じて労働者に対して支払われる賃金は、同サービスのアプリ上及び支払(振込)結果により、どの使用者との間での賃金か、及び金額の内訳がわかるようになっており、使用者からの賃金の支払であることが明確になっていることから、かかるサービスは、労働基準法第24条に違反するものではない。」

引用元|厚生労働省「確認の求めに対する回答の内容の公表」(令和2年3月27日)

この回答のうち、「所定支払期日に賃金の全額が現実に支払われなかった場合については、使用者が同条の違反に問われることとなるため、使用者は支払受託者における賃金の支払状況を確認するなど所要の措置を講ずる必要がある」という部分については、支払期日に賃金が支払われなかった場合には利用企業が労基法違反を問われることを前提に、マッチングサービスが構築するシステムなどによりスポットワーカーに賃金支払いが確実にされていることを確認するのが望ましいと示唆しているといえます。

スポットワーク契約締結時・締結後の利用企業側の注意点

就業規則適用の有無

労働基準法は、常時10人以上の労働者を使用する使用者について、一定事項の就業規則作成・届出義務を定めています(労基法89条)。

正社員やアルバイトなど従業員の種別がある場合、それぞれに適用される就業規則を別々に作成することは差し支えありませんが、一部の労働者への適用を除外しながら、その労働者に適用される就業規則を整備していない場合には同条違反になります。そして、適用除外や特例などの規定が設けられていない場合、その就業規則がスポットワーカーなどアルバイトにも適用される可能性もあります。

そのため、利用企業としては、現在整備されている就業規則が、以下の要件を満たしているか確認する必要があります。

✅ 就業規則作成・届出義務に違反していないか
✅ スポットワーカーを含む各労働者の労働条件が就業規則の適用内容と齟齬がないか

労働条件明示義務

労働契約の使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示する義務があり、当該明示は原則として書面交付(労働者が希望した場合はFAXや電子メール等の送信)により行います。スポットワーカーに対しても、利用企業には労働条件明示義務がありますので、適切な内容・方法で明示するようにしましょう。

事前本人確認の必要性

スポットワークマッチングサービスを利用してスポットワーカーを採用する場合には、本人確認は当該サービスが必要書類の確認などにより行うことが多く、利用企業は本人確認を行わないことも少なくありません。当該サービスが利用規約などにより、他者になりすまして労働することを禁止していることは前提としてありますが、特にドライバー業務を担当させる場合などには、利用企業も運転免許証の確認により、本人確認も合わせて行うことが望ましいといえます。

秘密保持義務を負ってもらうには

スポットワーカーに勤務してもらうに当たり、機密情報を取り扱うことが想定される場合には、秘密保持契約(NDA)を締結することが考えられます。契約締結に当たっては、秘密保持義務の内容を明確にするためにも、口頭ではなく書面で取得し、必要に応じて口頭でも説明することが望ましいといえます。

スポットワークマッチングサービスのシステム上可能な場合には、募集要項等に、「秘密保持契約の締結をお願いしています」などと明記しておくと、マッチング後のトラブルを防ぐことに効果的だと考えられます。

スポットワーカーが外国人の場合の注意点

外国人の方は、出入国管理及び難民認定法で定められる在留資格の範囲内で、国内での就労が認められています。そのため、スポットワーカーが外国人の場合、利用企業は在留カード等により、当該就労が可能であることを確認すべきといえます。
例えば、不法就労者と知らずに外国人を雇用した場合であっても、在留カードの確認を怠ったなどの過失があった場合、利用企業が処罰の対象になる可能性があります。

労災保険適用の有無

パート、アルバイト等の就労形態に関わらず、使用者との間に雇用契約があり、賃金を得ていれば、業務または通勤により負傷した場合などは、一般の労働者と同様に労災保険が適用されます(労災保険法上の「労働者」は労働基準法上の「労働者」(労基法9条)と一致する)。

現場で事故が起こった場合は、まずは被害を拡大しないために現場対応を行ったうえ、事故の内容を記録し、後に労災申請への協力が求められた場合には適切に対応するようにしましょう。

労働時間把握

使用者は、自らの事業場における労働時間と、労働者から申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間とを通算し、通算の結果、1週40時間、1日8時間を超える労働(法定時間外労働)に該当する場合、36協定による労働時間の延長や割増賃金の支払いが必要です。

スポットワークマッチングサービスでは、法定時間外労働が生じることを避けるため、同サービス内での求人申込みに1日・1週間単位での制限を設けているものもありますが、本業がある者や複数のマッチングサービスを利用する者については、通算の結果、法定労働時間を超えて労働する場合も考えられます。

厚生労働省の解説資料では、「他の事業場での労働時間について、労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は不要」とされていますが(厚生労働省「副業・兼業における労働時間の通算について」)、申告等により他の事業場での労働時間を把握した場合には通算やそれに基づく対応が必要と考えられます。

源泉徴収・年末調整の要否

日雇い労働者であるスポットワーカーについては、継続して2カ月を超えて支払う場合を除き、日額表の丙欄が適用され、1日当たりの給与が9300円未満の場合には源泉徴収は不要です。残業等により日給が9300円以上になった場合には源泉徴収を行う必要があります

また、継続して同一の雇用主に雇用されないため、原則として年末調整も不要です(日額表の丙欄適用者)。

参考:
国税庁ウェブサイト「No.2514 パートやアルバイトの源泉徴収」

個人情報管理

スポットワークマッチングサービスを利用してスポットワーカーを採用する場合には、スポットワーカーが当該サービスに登録した情報が、当該サービスにより利用企業に共有されるという流れが想定されます。利用企業としては提供された個人情報は注意して取り扱い、利用目的の範囲内でのみ利用し、当日のスポットワーク終了後も適切に管理するようにしましょう。

ムートン

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