但し書きとは?
読み方・本文との関係性・立証責任・
民法や契約書における使用例などを
分かりやすく解説!
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ [法務必携!]ポケット契約用語集~基本編~ |
- この記事のまとめ
-
法令や契約書の条文における「但し書き(ただしがき)」とは、本文で定められた原則に対して例外を定める部分です。
本文と但し書きの結論は反対になるため、立証責任の所在が両者で異なります。
例えば「BがX大学に合格したときは、AはBに対して10万円を支払うものとする。ただし、その年のX大学の入学試験において、志願者に対する合格率が50%以上であったときは、この限りでない。」という契約を締結したとします。
この場合、Bが大学に合格したことについてはBが立証責任を負いますが、その年のX大学の入学試験において、志願者に対する合格率が50%以上であったことについてはAが立証責任を負います。
契約書において但し書きを定める場合は、立証責任が当事者のうちどちらにあるかを意識することが大切です。
この記事では、法律や契約書の条文における但し書きについて、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年12月14日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
法律・契約書の条文における「但し書き」とは|読み方も併せて解説!
法令や契約書の条文における「但し書き(ただしがき)」とは、本文で定められた原則に対して例外を定める部分です。
本文と但し書きの関係性
法律や契約書における条文中の本文と但し書きは、互いに原則と例外の関係にあります。本文と但し書きでは、立証責任の所在が異なる点が重要です。
本文=原則、但し書き=例外
例えば以下のような内容の契約を締結したとします。
(例)
BがX大学に合格したときは、AはBに対して10万円を支払うものとする。
ただし、その年のX大学の入学試験において、志願者に対する合格率が50%以上であったときは、この限りでない。
上記の例において、本文は「BがX大学に合格したときは、AはBに対して10万円を支払うものとする。」という部分です。したがって、BがX大学に合格したときは原則として、AはBに対して10万円を支払わなければなりません。
これに対して、但し書きに当たるのは「ただし、その年のX大学の入学試験において、志願者に対する合格率が50%以上であったときは、この限りでない。」という部分です。
本文と但し書きは立証責任の所在が異なる
法令や契約書における条文中の本文と但し書きでは、立証責任の所在が異なります。
立証責任は、民法などの実体法に定められている要件を基準として、有利な法律効果を主張する側の当事者が負うと解されています(=法律要件分類説)。
前述の例では、本文に記載された「(X大学に合格すれば)Aから10万円もらえる」という法律効果は、Bにとって有利です。したがって、本文における「X大学に合格した」という事実については、Bが立証責任を負います。
これに対して、但し書きに記載された「(その年のX大学の入学試験において、志願者に対する合格率が50%以上であれば)Bに10万円支払わずに済む」という法律効果は、Aにとって有利です。したがって、但し書きにおける「その年のX大学の入学試験において、志願者に対する合格率が50%以上だった」という事実については、Aが立証責任を負います。
上記の例に限らず、本文と但し書きの結論は反対になるため、両者の間では立証責任の所在が常に異なることになります。
民法における但し書きの使用例・条文例
民法では、さまざまな条文において但し書きが用いられています。その一例として、以下の5つを紹介します。
①心裡留保(民法93条1項)
②債務不履行による損害賠償(民法415条1項)
③売買契約の手付(民法557条1項)
④賃貸人の修繕義務(民法606条1項)
⑤賃借人の原状回復義務(民法621条)
民法93条は、心裡留保について定めています。心裡留保とは、真意とは異なる内容の意思表示であって、本人がそれを自覚しているものです。
(心裡留保)
「民法」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 略
同条1項本文において、心裡留保による意思表示は原則として有効である旨が定められています。
その一方で、但し書きでは、相手方が心裡留保であることを知っていたとき、または知ることができたときには、心裡留保による意思表示は無効とする旨の例外を定めています。
債務不履行による損害賠償
民法415条は、債務不履行による損害賠償の要件などを定めています。
(債務不履行による損害賠償)
「民法」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 略
同条1項本文において、債務不履行を起こした債務者に対し、債権者は原則として損害賠償を請求できる旨が定められています。
その一方で、但し書きでは、債務不履行について債務者に帰責性がない場合には、債権者は損害賠償を請求できない旨の例外を定めています。
売買契約の手付
民法557条では、売買契約の手付について定めています。
なお、手付に関する規定は、売買以外の有償契約にも準用されます(民法559条)。
(手付)
民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第557条 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
2 略
同条1項本文では、買主は手付の放棄、売主は手付の倍額償還を行えば、原則として売買契約を解除できる旨が定められています(=手付解除)。
その一方で、但し書きでは、相手方が契約の履行に着手した後は手付解除が認められない旨の例外を定めています。
賃貸人の修繕義務
民法606条では、賃貸借契約における賃貸人の修繕義務などを定めています。
(賃貸人による修繕等)
「民法」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第606条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
2 略
同条1項では、賃貸人が原則として賃貸物の修繕義務を負う旨が定められています。
その一方で、但し書きでは、賃借人の責に帰すべき事由によって必要となった修繕については、賃貸人がその義務を負わない旨の例外を定めています。
賃借人の原状回復義務
民法621条では、賃貸借契約における賃借人の原状回復義務を定めています。
(賃借人の原状回復義務)
「民法」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第621条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
同条本文では、引渡しの後で賃借物に生じた損傷のうち、通常損耗および経年変化を除くものについては、賃貸借契約の終了時において、原則として賃借人が原状回復義務を負う旨が定められています。
その一方で、但し書きでは、損傷について賃借人に帰責性がない場合には、賃借人は損傷の原状回復義務を負わない旨の例外が定められています。
契約書における但し書きの使用例・条文例
契約書においても、契約に関するルールの原則と例外を定める場合には、本文と但し書きによってその内容を表現するのが一般的です。
国土交通省が公表している「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」の条文を参考に、契約書における本文と但し書きの条文例を紹介します。
(一括委任又は一括下請負の禁止)
国土交通省「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」第3条
第○条 受注者は、工事の全部若しくはその主たる部分又は他の部分から独立して機能を発揮する工作物の工事を一括して第三者に委任し、又は請け負わせることはできない。ただし、あらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合は、この限りでない。
上記の条文は、同約款3条の規定をベースとして、同条の注記部分に記載された但し書きを加えたものです。
本文では、工事の受注者による一括委任または一括下請負の発注を原則として禁止しています。
その一方で、但し書きでは、あらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合には、例外的に一括委任または一括下請負の発注ができる旨を定めています。
(第三者の損害)
国土交通省「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」第12条
第○条 施工のため、第三者の生命、身体に危害を及ぼし、財産などに損害を与えたとき又は第三者との間に紛争を生じたときは、受注者はその処理解決に当たる。ただし、発注者の責めに帰すべき事由によるときは、この限りでない。
2 前項に要した費用は受注者の負担とし、工期は延長しない。ただし、発注者の責めに帰すべき事由によって生じたときは、その費用は発注者の負担とし、必要があると認めるときは、受注者は工期の延長を求めることができる。
上記の条文は、同約款12条を引用したものです。
1項本文では、施工に当たって第三者に対して損害を与えたとき、または第三者との間に紛争を生じたときは、原則として受注者がその処理解決に当たる旨が定められています。
その一方で、但し書きでは、第三者の損害または第三者との紛争が発注者の責に帰すべき事由によって生じたときは、受注者は例外的にその処理解決に当たる義務を負わない旨を定めています。
2項本文では、第三者の損害または第三者との紛争に関する処理解決につき、原則としてその費用を受注者負担とし、工期は延長しない旨が定められています。
その一方で、但し書きでは、第三者の損害または第三者との紛争が発注者の責に帰すべき事由によって生じたときは、例外的にその処理解決の費用を発注者負担としたうえで、受注者に工期の延長請求を認める旨を定めています。
但し書きに関する契約書レビュー時の注意点|立証責任の分担を意識する
契約書において但し書きを用いるときは、当事者間の立証責任の分担を意識することが大切です。
本文の事実については、
- 原則的なルールによって利益を受ける側
- 但し書きの事実については例外によって利益を受ける側
が立証責任を負います。
なお、但し書きに記載された事実の立証責任を相手方に転換したい場合は、その事実を本文に記載します。条文作成上の技術の一つとして、覚えておきましょう。
(例)
「BがX大学に合格したときは、AはBに対して10万円を支払うものとする。ただし、その年のX大学の入学試験において、志願者に対する合格率が50%以上であったときは、この限りでない。」
→本文記載の事実についてはB、但し書き記載の事実についてはAが立証責任を負う
「BがX大学に合格し、かつその年のX大学の入学試験において、志願者に対する合格率が50%未満であったときは、AはBに対して10万円を支払うものとする。」
→すべての事実についてBが立証責任を負う
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ [法務必携!]ポケット契約用語集~基本編~ |