労働法とは?
労働法の一覧(種類)・
知っておくべきルールを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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「労働法」とは、使用者(雇う側)と労働者(雇われる側)の関係性を定める法令の総称です。
使用者に対する労働者の立場が弱くなりがちなことを踏まえて、労働法では労働者保護の観点から様々なルールが定められています。
主要な労働法としては、「労働三法」と呼ばれる労働基準法・労働組合法・労働関係調整法のほか、労働契約法などが挙げられます。
特に会社の人事担当者・法務担当者は、各労働法のルールに習熟してコンプライアンス強化に努めることが大切です。
今回は労働法について、労働法の一覧(種類)や、知っておくべきルールなどを解説します。
※この記事は、2022年8月4日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
労働法とは
「労働法」とは、使用者(雇う側)と労働者(雇われる側)の関係性を規律する法令の総称です。
- 使用者とは
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使用者とは、一般的には、労働者を雇用する者(会社など)のことを指します。
ただし、使用者の定義は法令によって少し異なりますので、注意が必要です。✅ 労働契約法2条2項における使用者
使用する労働者に対して賃金を支払う者✅ 労働基準法10条における使用者
①事業主(例:経営者など)
②事業主のために行為をする全ての者(例:役員・管理職など)
労働法の役割
労動者の立場は、使用者に比べると弱くなってしまう傾向にあります。組織である使用者に対して、労動者は個人であり、かつ生活収入を使用者から支払われる給与に依存しているケースが大半だからです。
立場の弱い労動者は、劣悪な労働条件を押し付けられるなど、使用者から搾取されてしまうおそれがあります。そこで、労動者を保護するための様々なルールを設けて、使用者・労動者間の力関係を是正することが、労働法の主な役割です。
労働法が適用される「労働者」とは
労働法は、使用者と労動者の契約関係について適用されます。
「労動者」とは、使用者の指揮命令下で働く者です。指揮命令下にある以上、労動者は原則として、使用者の合理的な業務命令や配置転換命令などに従わなければなりません。
これに対して、会社と対等な立場で契約を締結する者は「労動者」に該当しません。例えば
などは、原則として労動者ではありません。
労動者でない者は、会社から業務のやり方や時間配分などについて、具体的な指示を受けない立場にあります。会社と対等な立場にあるため、業務のやり方や時間配分は自分で決められるのです。
なお、労動者かどうかは実際の業務がどのように行われているかという実態から判断されます。例えば業務委託を受けるフリーランスであっても、会社から業務のやり方や時間配分などの具体的な指示を受けている場合には、労動者と判断される可能性があります。
労働法に当たる法律の種類
「労働法」という一つの法律があるわけではなく、実際には様々な法律が個別にルールを定め、全体として「労働法」を構成しています。
労働法に当たる主な法律としては、以下の例が挙げられます。
労働基準法
労働基準法は、労動者が働く条件についての最低基準を定める法律です。
などに関するルールが定められています。
労働基準法の遵守状況については、労働基準監督署が監督しており、違反した使用者に対しては刑事罰が科されることもあります。
労働組合法
労働組合法は、労動者の団結・団体行動(=労働組合などの結成)を認め、使用者と対等な立場で交渉ができるよう調整することを目的とした法律です。
日本国憲法28条では、労働者の権利として以下3つの権利(労働三権)が認められています。
- 労働三権
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①団結権|労働者が労働組合を結成する権利
②団体交渉権|労働者が使用者(会社)と団体交渉する権利
③団体行動権|労働者が要求実現のために団体で行動する権利
労働組合法は、これら労働三権を具体的に保障するため、労働組合の権利保護に関するルールなどを定めています。
労働関係調整法
労働関係調整法は、主に労働争議(ストライキ・ロックアウトなど)の予防・解決を目的とする法律です。
大規模な労働争議が発生し、社会生活に大きな影響が生じることが懸念される場合に行われる、労働委員会の裁定に関する手続・ルールなどを定めています。
なお、労働基準法・労働組合法・労働関係調整法の3つを併せて「労働三法」と呼ぶことがあります。
労働契約法
労働契約法は、使用者・労動者間で締結される労働契約に関するルールを定める法律です。
などを定めています。
使用者側が、一方的に労働契約の内容を変更したり、不当な懲戒処分・解雇などをしたりしないよう制限し、労動者の地位を安定化することが労働契約法の主な目的です。
その他
上記以外に、以下の法律が労働法の例として挙げられます。
労働基準法とは|知っておくべき主なルール
労働基準法は、使用者と労働者の間でもっとも頻繁に問題となる法律であり、労働条件に関して、以下のとおり多岐にわたるルールが定められています。
労働条件の明示に関するルール
使用者は、労働契約を締結するに当たって、労動者に対して労働条件を明示しなければなりません(労働基準法15条1項)。
労働条件を明示する際は、実務上、以下のような対応を行うことが多いです。
なお、労働条件を明示する際は、原則「書面」で作成して労働者へ交付する必要があります。ただし労働者側が希望すればメール・SNSなどでの交付も可能です。その場合、印刷などによって書面として出力できるような形で交付する必要があります(労働基準法施行規則5条1項、4項)。
労働条件の明示が求められる事項
労働者に明示する労働条件については、
があります。
- 絶対的記載事項
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✅ 労働契約の期間
✅ 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
✅ 就業の場所・従事すべき業務の内容
✅ 始業・終業の時刻、休憩・休日などに関する事項
✅ 賃金の決定方法、昇給などに関する事項
✅ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
- 相対的記載事項
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✅ 退職手当に関する事項
✅ 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与などに関する事項
✅ 労働者に負担させるべき食費・作業用品その他に関する事項
✅ 安全・衛生に関する事項
✅ 職業訓練に関する事項
✅ 災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
✅ 表彰・制裁に関する事項
✅ 休職に関する事項
2024年4月1日以降は、改正により絶対的記載事項に以下の内容が追加されます。
- 2024年4月1日以降、絶対的記載事項に追加される事項
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✅ 就業場所・業務の変更の範囲
有期雇用の労働者に対しては以下の内容も明示する必要があります。
- 2024年4月1日以降、有期雇用労働者への明示に追加される事項
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✅ 更新上限の有無と内容
✅ 無期転換の申込機会(無期転換申込権が発生する更新のタイミングごと)
✅ 無期転換後の労働条件(同上)
解雇の予告に関するルール
使用者が労動者を解雇する場合、30日以上前に予告しなければなりません(労働基準法20条1項本文)。
予告期間を短縮する場合には、短縮した日数分の平均賃金を「解雇予告手当」として支払う必要があります(同項ただし書、同条2項)。
賃金支払いの5原則
使用者の労動者に対する賃金の支払については、以下の5つの原則が定められています(労働基準法24条1項、2項)。
労働時間・休憩・休日に関するルール
過酷な長時間労働を避け、労動者の健康を維持するために、労働時間・休憩・休日について以下のルールが設けられています。
なお、法定労働時間と法定休日の規制については、労使協定(36協定)を締結すれば例外が認められます(同法36条1項)。
ただし36協定を締結する場合も、時間外労働は原則として月45時間・年360時間に制限されるなど(同条4項)、過度の長時間労働を抑制するルールが設けられています。
残業代に関するルール
時間外労働・休日労働・深夜労働については、使用者に割増賃金の支払が義務付けられています(労働基準法37条)。
有給休暇に関するルール
雇用開始から6か月以上継続勤務し、かつ全労働日の8割以上出勤した労動者には、継続勤務年数に応じた日数の有給休暇が付与されます(労働基準法39条)。
有給休暇を付与しなければならないというルールは、正社員のみならず、パートタイム労働者などの所定労働日数が少ない労働者についても適用されます。ただし、勤務時間や勤務日数等に応じ付与される日数は変動します。
有給休暇は、原則として労動者が自由に時季を定めて取得できます(ただし、事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者による時季変更が認められることがあります。同条5項)。
なお、年10日以上有給休暇が付与される労働者については、年5日の有給休暇を労働者に取得させることが使用者の義務となる点に注意が必要です。
就業規則に関するルール
常時10人以上の労動者を使用する使用者は、以下の事項を定めた就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられます(労働基準法89条)。
就業規則にも、絶対的記載事項と相対的記載事項があります。
- 絶対的記載事項
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✅ 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交代制勤務(就業時転換)に関する事項
✅ 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定・計算・支払の方法、締切り、支払時期、昇給に関する事項
✅ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
- 相対的記載事項
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✅ 退職手当に関する事項
✅ 臨時の賃金等(退職手当を除く)・最低賃金額に関する事項
✅ 労働者の食費・作業用品その他の負担に関する事項
✅ 安全・衛生に関する事項
✅ 職業訓練に関する事項
✅ 災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
✅ 表彰・制裁の種類・程度に関する事項
✅ そのほか、事業場の全労働者に適用される事項
なお、就業規則で減給の制裁を定める場合には、以下2つの条件を守らないといけません。(労働基準法91条)
労動者への周知に関するルール
使用者は、以下の事項を労動者に周知しなければなりません(労働基準法106条1項)。
周知の方法は、以下のいずれかとされています(労働基準法施行規則52条の2)。
労働組合法とは|知っておくべき主なルール
労働組合法における重要な規制は、「不当労働行為」と「労働協約」に関するルールです。
不当労働行為に関するルール
「不当労働行為」とは、労動者の団体行動を不当に妨げるものとして禁止されている使用者の行為です。
具体的には、以下の行為が不当労働行為に該当します(労働組合法7条)。
- 不当労働行為
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✅ 労働組合員であること・労働組合への加入・労働組合の結成・正当な組合活動をしたことを理由に、労動者に対して不利益な取扱いをすること
✅ 労働組合への不加入・脱退を雇用条件とすること
✅ 労働組合との団体交渉を正当な理由なく拒むこと
✅ 労働組合の結成・運営を支配し、又はこれらに介入すること
✅ 労働組合の運営経費の支払につき、経理上の援助を与えること
✅ 労働委員会に申立てをしたことを理由に、労動者に対して不利益な取扱いをすること
労働協約に関するルール
「労働協約」とは、使用者と労働組合の間で締結される契約です。一方、前述のとおり、労働契約は、使用者と労働者の間で締結される契約です。
労働組合法では、労働協約が労働契約に優先する旨(同法16条)などが定められています。
労働契約法とは|知っておくべき主なルール
労働契約法の中では、特に使用者主導による労働契約の終了(解雇)を制限する規制が重要です。
労働契約の原則に関するルール
労働契約法3条では、労働契約に関する以下の原則を定めています。
✅ 合意原則
✅ 均衡考慮の原則
✅ 仕事と生活の調和の原則
✅ 信義誠実の原則・権利濫用の禁止
合意原則
「合意原則」とは、労働者・使用者が対等の立場における合意に基づき、労働契約を締結・変更すべきとする原則です(労働契約法3条1項)。
労働者と使用者の間では、労働者の方が弱い立場に置かれるケースが多いと考えられます。
労働者は、収入の全部又は大半を賃金に依存することが多いため、使用者の言うことを聞かざるを得ない状況に追い込まれやすいです。これに対して使用者は、労働者が辞めたら他の労働者を採用すればよいので、労働者側の言い分を聞き入れる動機が生まれにくい面があります。結果的に、労働者にとって不利益な労働契約が締結され、使用者が労働者を搾取する構図が発生しがちです。
こうした労働者・使用者間の格差を是正することは、労働法に通ずる基本的な考え方といえます。労働契約法でも合意原則として、労使が対等の立場で労働契約を締結すべき旨が明記されています。
また、労働契約の締結・変更には労使の「合意」が必要とされている点も、合意原則におけるポイントの一つです。例えば、使用者が労働者に対して一方的に労働を命じたり、労働者の同意がないにもかかわらず、使用者が勝手に労働条件を変更したりすることは、原則として認められません。
均衡考慮の原則
「均衡考慮の原則」とは、労働者・使用者が就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ労働契約を締結・変更すべきとする原則です(労働契約法3条2項)。
均衡考慮の原則における「均衡」とは、同じ事業場で勤務している他の労働者との待遇バランスを意味します。つまり、同じ事業場における労働者の待遇は、「就業の実態」に応じてバランスの取れた内容にしなければならないということです。
「就業の実態」には、業務の内容や責任の重さ、配置転換の有無などが含まれます。
その一方で、「正社員」「契約社員」「パート」「アルバイト」などは雇用形態又は肩書に過ぎないため、「就業の実態」には含まれません。労働者の待遇は肩書などではなく、あくまでも実質的な業務の内容などに応じて決めなければならないのです。
均衡考慮の原則に照らすと、例えばそれほど業務内容や責任の差がない労働者の間で、あまりにも大きな待遇差を設けることは不適切となります。正社員並みの働きをしている契約社員に対して、「正社員ではないから」というだけの理由で待遇を低く抑えることなども、同様に不適切です。
均衡考慮の原則は、パートタイム・有期雇用労働法や労働者派遣法に定められる「同一労働同一賃金」などによって具体化されています。
仕事と生活の調和の原則
「仕事と生活の調和の原則」とは、労働者・使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ、労働契約を締結・変更すべきとする原則です(労働契約法3条3項)。
「仕事と生活の調和」は、近年では「ワークライフバランス」と称されることが多くなっています。
あまりにも労働時間の長い「仕事一辺倒」では、労働者の生産性が低下し、心身の健康を害してしまうことになりかねません。このような事態は、労働者・使用者の双方にとって良くないことです。
仕事と生活の調和の原則に基づき、労働契約を締結する際には、労働者が十分リフレッシュできるだけの余裕が生まれるように、労働条件を調整する必要があります。例えば、労働時間を合理的な水準に制限する、十分な休憩や休暇を与えるなどの対応が求められます。
なお、労働条件に関して最低限守るべきルールは、労働基準法によって定められています。労働時間の制限、休憩や休日、残業代に関するルールなどが、労働基準法の基本的な内容です。
各企業においては、労働基準法のルールを守ることは当然として、労働者の「仕事と生活の調和」を実現するため、個々の事情に応じた配慮を行うことが要求されます。
信義誠実の原則・権利濫用禁止の原則
「信義誠実の原則」とは、労働者と使用者が互いに労働契約を遵守するとともに、信義に従って誠実に権利を行使し、義務を履行しなければならないとする原則です(労働契約法3条4項)。
「権利濫用禁止の原則」とは、労働者と使用者はそれぞれ、労働契約に基づく権利を濫用してはならないとする原則です(同条5項)。
信義誠実の原則と権利濫用禁止の原則は、いずれも民法の基本原則(民法1条2項、3項)を再確認するものです。いずれも抽象的な原則なので、適用の有無は個別の事情に応じて判断されます。例えば以下のような行為について、信義誠実の原則・権利濫用禁止の原則が問題になることがあります。
- 信義誠実の原則に違反する行為の例
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✅ 解雇について長期間異議を述べなかったにもかかわらず、突然解雇無効を主張する行為
✅ 病気で長期間欠勤する場合に、欠勤理由の概要を伝えない行為
- 権利濫用に当たる行為の例
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✅ 懲戒事由に該当する行為の内容・性質に鑑みて、重すぎる懲戒処分(懲戒解雇など)をする行為
✅ 内定を出す前に調べればわかる事情を理由として、一方的に内定を取り消す行為
内定期間中の権利義務関係に関するルール
正式な入社(労働契約の開始)前に出す「内定」については、法律上の明文はありませんが、判例法理によってルールが形成されています。
内定期間中の権利義務関係とは
「内定」は判例上、「始期付解約権留保付労働契約」の締結であると解されています(最高裁昭和54年7月20日判決)。
✅ 始期付
→将来のある時点から労働契約が開始すること
✅ 解約権留保付
→使用者側が解約権を留保していること
つまり、内定の時点で労働契約が成立しているということです。具体的には、内定者側の応募や採用試験の受験が「申込み」、使用者側の内定通知が「承諾」に当たり、これらが揃った段階で労働契約が成立します。
内定期間中は、実際に内定者が労働を行うことはなく、使用者が内定者に対して賃金を支払うこともありません。しかし、労働契約は成立しているため、契約に基づく権利義務は一部発生します。
例えば内定者は、使用者が定める服務規程のうち、内定期間にも適用し得るものには従う必要があります。使用者が実施する研修についても、場合によっては参加が義務付けられることがあります。
一方、使用者側の立場で重要になるのは、内定取消し(=解約権の行使)について、解雇に準じた制限が適用される点です。この点は、次の項目で解説します。
内定取消し・内々定取消しについて
内定期間中は、使用者側に労働契約の解約権が留保された状態です。しかし、内定者が他の企業への就職機会を放棄することを考慮すると、使用者側による解約権の行使を自由に認めてしまうと、内定者にとって酷な事態を招きかねません。
内定の時点で労働契約が成立している以上、内定取消しには解雇権濫用の法理(労働契約法16条)が適用されます。したがって、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない内定取消しは違法・無効です。
最高裁昭和54年7月20日判決では、採用内定を適法に取り消すには、以下の要件を満たす必要があると判示されています。この判示は、解雇権濫用の法理を念頭に置いたものと考えられます。
- 内定取消しの要件
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①採用内定の取消事由が、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であること
②当該取消事由によって採用内定を取り消すことが、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できること
以下に挙げるのは、内定取消しが認められる場合・認められない場合の一例です。
- 内定取消しが認められる場合の例
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✅ 採用面接の時点では把握し得ない、重大な学歴・職歴の詐称が発覚した場合
✅ 内定者が重大な犯罪行為をした場合
✅ 内定者が学校を卒業できなかった場合
✅ 採用内定後に会社の経営が大きく傾き、内定取消しがやむを得ない場合
など
- 内定取消しが認められない場合の例
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✅ 内定者の性格が想像していたよりもネガティブだった場合
✅ 採用面接で聞いていた内容とは異なる経歴が発覚したが、重大なものではない場合
など
なお、未だ採用活動の中途段階で、労働契約の成立には至っていないものの、大筋で採用を決定することを「内々定」と呼ぶ場合があります。
内々定の段階であっても、内々定者の側に採用の期待が高い事情がある場合には、内々定取消しについて不法行為が成立する可能性があります(福岡高裁平成23年3月10日判決)。
試用期間に関するルール
研修の実施や配属先の見極めなどを目的として、労働契約の開始後一定期間を「試用期間」とするケースがあります。試用期間を設定する場合、労働契約を締結するに当たり、使用者はその旨を労働者に明示しなければなりません。
試用期間について、法律上の明確なルールはありません。しかし、あまりにも長期間の使用期間を定めることは、労働者の地位を不安定にするため、公序良俗(民法90条)に反し許されないと解されています。一般的には2~3か月程度、長くても半年程度の試用期間が設定されるケースが多いです。
なお、試用期間の延長には労働者側の同意が必要であり、使用者が一方的に試用期間を延長することはできません。
試用期間中の労働者と使用者の間には労働契約が存在しますが、使用者側に解約権が留保されている状態と解されます(最高裁昭和48年12月12日判決)。ただし、解約権の行使(=解雇)に当たっては解雇権濫用の法理が適用されるため、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は違法・無効となります(労働契約法16条)。
懲戒権・解雇権の濫用に関するルール
使用者による懲戒処分や解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は権利濫用として無効となります(労働契約法15条、16条)。
特に、不当解雇を制限する上記のルールは「解雇権濫用の法理」と呼ばれ、労動者の地位の安定化に大きく寄与しています。
有期労働契約の無期転換ルール
派遣社員など、期間に定めのある労働契約(有期労働契約)で働く労動者(有期雇用労働者)の地位は、無期限で雇用される労働者に比べると不安定になりがちです。
そこで、有期雇用労動者の地位を安定化させるため、労働契約法18条では「無期転換ルール」を定めています。
- 無期転換ルールとは
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同一の使用者との間で、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みによって無期労働契約に転換されるルール
「雇止め法理」に関するルール
雇止め法理とは、一定の条件満たした場合に、使用者側の雇止めを無効にするというルールです。
本来、有期労働契約の期間満了時に、契約を更新するかどうかは当事者の自由です。しかし労働契約法19条では、有期雇用労働者の地位を安定化させるため、使用者による労働契約の更新拒絶(雇止め)を制限しています。
具体的には、以下のいずれかに該当する有期労働契約の更新が労動者から申し込まれた場合、かつ雇止めに合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合には、有期労働契約が更新されたものとみなされます。
この記事のまとめ
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参考文献
福島県ウェブサイト「個別Q&A4-(1)賃金支払いの5原則」
厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
厚生労働省ウェブサイト「年次有給休暇とはどのような制度ですか。パートタイム労働者でも有給があると聞きましたが、本当ですか。」
企業人事労務研究会(著)『企業労働法実務入門【書式編】』日本リーダーズ協会、2016年
企業人事労務研究会(著)『【改訂版】企業労働法実務入門 はじめての人事労務担当者からエキスパートへ』日本リーダーズ協会、2019年