育児介護休業法とは?
制度概要・改正の沿革・企業がとるべき対応を
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
-
育児介護休業法とは、労働者が子育て・介護と仕事を両立できるような支援をすることを目的とした法律です。
日本では、少子高齢化が進み、労働人口の減少が進んでいます。他方で、労働者の中には、妊娠や出産、育児、家族の介護等のライフステージにともなって、仕事を退職してしまう方もいます。
こうした事態を防ぐため、育児介護休業法では、労働者が育児や家族の介護を行いやすくするための各種措置を定めています。
この記事では、育児介護休業法に関する基本的事項を分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年8月1日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
- 育児介護休業法…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
目次
育児介護休業法とは
育児介護休業法とは、労働者が子育て・介護と仕事を両立できるような支援をすることを目的とした法律です。
育児介護休業法が制定された背景
日本では少子高齢化が進行しており、今後、要介護者の人口が増える一方で、労働人口が減少することが予想されています。このように、そもそも労働人口が減少してしまう中で、家族の介護を理由として、労働者がやむなく離職してしまうことはさらなる労働人口の減少につながってしまいます。
また、
- 妊娠や出産、育児の必要性から労働者が離職してしまう状態
- 職場でのキャリアを気にするあまり妊娠・出産・育児に抑制的になる状態
も好ましくありません。
企業としても、自社で教育してきた労働者が離職することは好ましくなく、ライフステージに沿って労働者が活躍できる環境を醸成することが、重要な人的資本への投資戦略となります。
このような状況を踏まえて、育児・介護休業等の取得を促進することで子育て・介護と仕事の両立を図るために、育児介護休業法が制定されています。
主要な育児介護休業法改正の沿革
育児介護休業法は、1992(平成4)年4月1日から施行されました。その後、育休・産休の取得促進に向けて、数年おきに頻繁に改正がなされています。
例えば、直近においては、以下のような内容の法改正が行われてきました。
施行年月日 | 改正のポイント |
---|---|
2020(令和2)年6月1日 | ① ハラスメント防止対策に係る国、事業主および労働者の責務の明確化 ② 職場における育児休業等に関するハラスメントについて相談したこと等を理由とする不利益取り扱いの禁止を規定 |
2021(令和3)年3月1日 | 「子の看護休暇」および「介護休暇」につき、時間単位での取得が可能に |
2022(令和4)年4月1日 | ① 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備 ② 妊娠・出産等を申し出た労働者への制度の個別周知・取得以降の確認の措置の義務付け ③ 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和 |
2022(令和4)年10月1日 | ① 産後パパ育休(出生時育児休業)の創設 ② 育児休業の分割取得 |
2023(令和5)年4月1日 | 育児休業取得状況の公表(従業員数1,000人超の企業が対象) |
育児介護休業法で定められている主な制度
育児休業
育児休業とは、労働者が子を養育するために取得できる休業制度です。
育児休業を取得できる期間・回数
育児休業を取得できる期間は、原則として子が1歳に達する日までの連続した期間とされています。
ただし、対象となる子が、保育所等に入所できない等の理由がある場合は1歳6カ月、それでも保育所等に入所できない等の理由がある場合は2歳に達する日まで、育児休業を取得できます。
なお、労働者は、
- 子が1歳に達するまでの期間は原則として2回まで
- 1歳6カ月および2歳までの育児休業は各1回まで
取得できます。
また、父母ともに育児休業を取得する場合は、パパ・ママ育休プラスとして、子が1歳2カ月に達する日までの間の1年間、取得可能とされています(育児介護休業法9条の6)。
育児休業を取得できる労働者
これらの育児休業取得の対象となる労働者は、以下の者を除いた労働者です。
- 適用除外
-
① 日々雇用される者(日雇い労働者)
② 有期労働者のうち、子が1年6カ月(2歳までの育児休業の場合は2歳)に達する日までに労働契約が満了し、更新されないことが明らかな者
③ 労使協定によって除外された者
・入社1年未満の者
・申し出から1年以内(1年6カ月までの育児休業をする者は6カ月以内)内に雇用契約が終了することが明らかな者
・週の所定労働日数が2日以下の者
育児休業の取得方法
育児休業は、労働者が、事業主に対して申し出ることで取得できます。
ただし、希望どおりの期間で取得するためには、以下のとおり、期限があります。
- 1歳までの育児休業:休業開始予定日の1カ月前までに申し出る必要があります
- 1歳から1歳6カ月までの育児休業:休業開始予定日(1歳の誕生日)の2週間前までに申し出る必要があります
【育児休業まとめ】
産後パパ育休(出生時育児休業)
2022年10月1日より、新たに産後パパ育休(出生時育児休業)の制度が創設されました。
産後パパ育休(出生時育児休業)とは、産後休業を取得していない労働者(主に、男性。パパ)が、原則として出生後8週間以内の子を養育するために取得できる休業制度です。
産後パパ育休を取得できる期間・回数
産後パパ育休を取得できる期間・回数は以下のとおりです。
- 取得できる期間:原則、子の出生後8週間以内
- 分割できる回数:子1人につき2回まで
- 休める日数の上限:通算4週間(28日)まで
【産後パパ育休があると… 】
【産後パパ育休がないと… 】
産後パパ育休を取得できる労働者
対象となる労働者は、以下の者を除いた、出生後8週間以内の子を養育する産後休業をしていない労働者です。
- 適用除外
-
① 日々雇用される者
② 有期労働者のうち、申し出時点で、子の出生日又は出産予定日のいずれか遅い方から起算して8週間を経過する日の翌日から6カ月を経過する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかな者
③ 労使協定によって除外された者
・入社1年未満の者
・申し出から8週間以内に雇用契約が終了することが明らかな者
・週の所定労働日数が2日以下の者
産後パパ育休の取得方法
産後パパ育休も、育児休業同様、労働者が事業者へ申し出ることで、取得ができます。
なお、申し出は、原則休業の2週間前までに行う必要があります。
子の看護休暇
子の看護休暇とは、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、1年に5日(子が2人以上の場合は10日)まで、病気・けがをした子の看護または子に予防接種・健康診断を受けさせるために、休暇を取得できる制度です。
子の看護休暇は、1日単位だけではなく、時間単位での取得も可能です。
介護休業
介護休業とは、労働者が要介護状態にある対象家族を介護するため取得できる休業制度です。
介護休業を取得できる期間
介護休業を取得できる期間は、対象家族1人につき、通算93日まで、3回まで分割することが可能とされています。
なお、ここにいう「対象家族」とは、以下のとおりです。
- 介護休業の対象となる家族
-
① 配偶者(事実婚を含む)
② 父母(養父母を含む)
③ 子(法律上の親子関係がある子(養子を含む)のみ)
④ 配偶者の父母
⑤ 祖父母
⑥ 兄弟姉妹
⑦ 孫
介護休業を取得できる労働者
これらの介護休業取得の対象となる労働者は、以下の者を除いた労働者です。
- 適用除外
-
① 日々雇用される者
② 有期労働者のうち、介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6カ月経過する日までに労働契約が満了し、更新されないことが明らかな者
③ 労使協定によって除外された者
・入社1年未満の者
・申し出から93日以内に雇用契約が終了することが明らかな者
・週の所定労働日数が2日以下の者
介護休暇
介護休暇とは、要介護状態にある対象家族の介護等を行う労働者が、1年に5日(対象家族が2人以上の場合は10日)まで、介護等を行うために、休暇を取得できる制度です。
介護休暇も、子の看護休暇と同様に1日単位だけではなく、時間単位での取得が可能です。
育児・介護のための所定外労働・時間外労働・深夜業を制限する制度
所定外労働の制限
育児介護休業法では、育児・介護のための所定外労働の制限が定められています。
具体的には、以下の労働者から、養育または介護するために請求があった場合には、事業主は、当該労働者に所定労働時間(会社が定めた勤務時間)を超えて労働させてはならないとされています(育児介護休業法16条の8第1項、16条の9第1項)。
① 3歳に満たない子を養育する労働者
② 要介護状態にある対象家族を介護する労働者
これらの労働者による請求は、1回の請求につき1カ月以上1年以内の期間とされ、請求回数に制限は設けられていません。ただし、事業主は、事業の正常な運営を妨げる場合には、労働者による請求を拒むことができるとされています。
時間外労働の制限
また、育児介護休業法では、以下の労働者から、養育または介護するために請求があった場合には、事業主は、当該労働者に制限時間(1カ月24時間、1年150時間)を超えて時間外労働をさせてはならないとされています(育児介護休業法17条1項、18条1項)。
① 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者
② 要介護状態にある対象家族を介護する労働者
期間や請求回数については、所定外労働の制限と同様です。
深夜業の制限
育児介護休業法では、育児・介護のための深夜業も制限されています。
具体的には、以下の労働者から養育または介護するために請求があった場合には、事業主は、当該労働者に午後10時から午前5時(深夜)において労働させてはならないとされています(育児介護休業法19条1項、20条1項)。
① 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者
② 要介護状態にある対象家族を介護する労働者
これらの労働者による請求は、1回の請求につき1カ月以上6カ月以内の期間とされ、請求回数に制限は設けられていません。ただし、事業主は、事業の正常な運営を妨げる場合には、労働者による請求を拒むことができます。
所定労働時間の短縮措置等
育児関係
労働者が、育児をしながら働くためには、所定労働時間の短縮も必要となります。
そこで、育児介護休業法では、事業主は、3歳に満たない子を養育する労働者が申し出た場合に、1日の所定労働時間を原則6時間とできる制度(短時間勤務制度)を設けることを義務付けています(育児介護休業法23条1項)。
しかし、事業主は、業務の性質や実施体制からみて短時間勤務制度を講ずることが困難な労働者については、労使協定を締結することにより、代替措置として次のいずれかの措置を講じることができます。
- 代替措置
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① 育児休業に関する制度に準ずる措置
② フレックスタイム制度
③ 始業・就業時刻の繰り上げ、繰り下げ
④ 事業所内保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与
介護関係
介護との関係では、事業主は、要介護状態にある対象家族を介護する労働者に対して、所定労働時間短縮等の措置を講じなければなりません(育児介護休業法23条3項)。
具体的には、事業主は、以下に記載する措置のいずれかの措置を導入する必要があり、また、対象家族1人につき3年の間で2回以上利用できるようにしなければなりません。
- 介護のための所定労働時間短縮等の措置
-
① 所定労働時間を短縮する制度
② フレックスタイム制度
③ 始業・就業時刻の繰り上げ、繰り下げ
④ 労働者が利用する介護サービスの費用の助成その他これに準ずる制度
育児・介護休業等の個別周知
育児休業・介護休業の取得促進のためには、労働者に対する制度周知も重要です。
そこで、育児介護休業法は、事業主に、以下の事項をあらかじめ就業規則に定め、周知する努力義務を定めています(育児介護休業法21条の2)。
特に、事業主には、
- 労働者またはその配偶者が妊娠・出産したことを知った場合
- 家族を介護していることを知った場合
などには、当該労働者に対して、個別に下記事項を周知するよう努める必要があります。
- 労働者に周知する事項
-
① 育児休業および介護休業中の待遇に関する事項
② 育児休業および介護休業後の賃金、配置その他の労働条件に関する事項
③ 子を養育しないこととなったことにより育児休業期間が終了した場合、および対象家族を介護しないこととなったことにより、介護休業期間が終了した場合の労務提供の開始時期に関する事項
④ 介護休業中の社会保険料の支払い方に関する事項
さらに、育児休業との関係では、2022年4月1日に施行された改正によって、労働者が、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た場合に、事業主は当該労働者に育児休業制度等を個別に周知し、取得意向を確認する義務が定められました(育児介護休業法21条1項)。
この義務は努力義務にとどまりませんので、事業主としては、申し出の方法や意向確認の方法について、就業規則で定める等の対応を検討する必要があります。
育児休業を取得しやすい就業環境に向けて事業主が実施すべき措置
就業環境の整備
事業主は、労働者による育児休業や産後パパ育休の申し出が円滑に行われるようするため、次のいずれかの措置を講じなければなりません(育児介護休業法22条1項)。
- 育児休業を取得しやすい環境整備の措置
-
① 育児休業、産後パパ育休に関する研修の実施
② 育児休業、産後パパ育休に関する相談体制の整備
③ 自社の労働者の育児休業、産後パパ育休の取得に関する事例の収集、およびその提供
④ 自社の労働者へ育児休業、産後パパ育休に関する制度、及び育児休業の取得促進に関する方針の周知
また、労働者を転勤させようとする場合には、労働者が育児や介護を行うことが困難とならないように配慮することも必要です(育児介護休業法26条)。
ハラスメントの防止
育児休業や介護休業に関連するハラスメントとして、
があります。産休や育休等の制度を申請・利用することを妨げたり、これらに対して嫌みを言ったりすることはマタハラまたはパタハラに当たります。介護休業に関するケアハラも同様です。
これらのハラスメント防止については、男女雇用機会均等法においても定めがありますが、育児介護休業法においても、上司・同僚からの育児休業・介護休業等に関する言動により労働者の就業環境が害されることがないよう防止措置を講じる義務が課されています(育児介護休業法25条)。
具体的な防止措置については、以下の記事も参照ください。
不利益取り扱いの禁止
事業主は、労働者が育児休業等を取得したことを理由として、解雇その他の不利益取り扱いをしてはなりません。
不利益取り扱いとは、具体的には以下に掲げるものが該当します。
- 禁止される不利益取り扱い
-
① 解雇すること
② 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
③ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
④ 退職または正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと
⑤ 自宅待機を命ずること
⑥ 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限または所定労働時間の短縮措置等を適用すること
⑦ 降格させること
⑧ 減給をすること、または賞与等において不利益な算定を行うこと
⑨ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
⑩ 不利益な配置の変更を行うこと
⑪ 就業環境を害すること
育児休業取得状況の公表
育児介護休業法では、2023年4月1日から、常時雇用する労働者数が1,000人超の事業主に、毎年1回、男性の育児休業等の取得状況の公表が義務付けられました(育児介護休業法22条の2)。
これによって、男性の育児休業の取得が促進されることが期待されます。
まとめ・今後の課題
育児介護休業法の概要を解説しました。大手企業を中心として男女ともに育児休業の取得も進んでいますが、いまだ育児休業・介護休業等の取得が進んでいない企業も存するのが実情です。主な原因としては、周囲に迷惑をかけられないという労働者の心情や取得しづらい雰囲気があること等です。
そのため、企業としては、同法の規制も踏まえて、就業規則を改定し、労働者が育児休業・介護休業等を取得しやすい職場環境を整備することが大切です。
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