改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)のポイントを解説!
―中小企業がとるべきパワハラ防止対策―

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三浦法律事務所弁護士
慶應義塾大学法科大学院法務研究科中退 2016年弁護士登録(東京弁護士会所属)、2016年~18年三宅・今井・池田法律事務所において倒産・事業再生や一般企業法務の経験を積み、2019年1月より現職。
この記事のまとめ

昨今、「ジタハラ」や「コロハラ」といった、新しい類型のハラスメントも耳にするようになりました。しかしながら、多くの人は、「ハラスメント」と言われると、まず「パワーハラスメント」を思い浮かべるでしょう。 実は、ここ数年、パワーハラスメントに関する法整備が進んでいます。
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(通称「労働施策総合推進法」や「パワハラ防止法」と呼ばれています。)が改正されて、企業にパワーハラスメント防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられました。
労働施策総合推進法は、大企業に対しては、既に2020年(令和2年)6月1日から施行されていますが、中小企業に対しても2022年(令和4年)4月1日から、施行が予定されています。
そのため、この記事では、主に中小企業向けに労働施策総合推進法に関する解説と、中小企業がとるべき取組みや措置について解説します。

(※この記事は、2021年10月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)

労働施策総合推進法改正の背景

職場のパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)に関して、厚生労働省が2016(平成28年)年7月から10月にかけて実施した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」 によると、相談窓口への相談内容はパワハラが最多の32.4%であり、過去3年間にパワハラを受けたことがあると回答した労働者は32.5%にのぼっていました。
その一方で、パワハラの予防・解決に向けた取組みを実施していると回答した企業は52.2%と約半数に留まりました。そのため、パワハラ対策は、企業における人事労務管理上の課題となっていました。

また、これまで、セクシャルハラスメント(以下「セクハラ」といいます。)やマタニティハラスメント(以下「マタハラ」といいます。)については、男女雇用機会均等法や育児介護休業法において、雇用管理上必要な措置をとる義務が規定されていましたが、パワハラについては、法令上、明確な規定が設けられていませんでした。

このような状況を踏まえて、2019年(令和元年)6月5日に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、その一部として、労働施策総合推進法の一部改正が行われました。
この改正によって、国は、パワハラについても法律上の明確な定義を設けて、企業にパワハラ防止措置を講じること等を義務付けることを盛り込みました。

法改正の概要

労働施策総合推進法においては、第9章で、「職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」として、主に以下の条項が新設されました。

【引用】
(雇用管理上の措置等)
第30条の2
1 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
3 厚生労働大臣は、前2項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。
4~6 (略)

(国、事業主及び労働者の責務)
第30条の3
1 国は、労働者の就業環境を害する前条第1項に規定する言動を行つてはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「優越的言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない
2 事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない
3 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
4 労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第1項の措置に協力するように努めなければならない

(紛争の解決の促進に関する特例)
第30条の4 
第30条の2第1項及び第2項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、次条から第30条の8までに定めるところによる。

(紛争の解決の援助)
第30条の5 
1 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる
2 第30条の2第2項の規定は、労働者が前項の援助を求めた場合について準用する。

(調停の委任)
第30条の6
1 都道府県労働局長は、第30条の4に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする
2 第30条の2第2項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

法改正における主なポイントは以下のとおりです。この中で、中小企業が対応しなければならないのは、「雇用管理上の措置義務」及び「労働者が事業主に相談をしたこと等を理由とする事業主による不利益の取扱いの禁止」です。

改正ポイント根拠条文
1国、事業主および労働者の責務の明確化第30条の3
2パワーハラスメントの定義第30条の2第1項
3雇用管理上の措置義務第30条の2第1項
4労働者が事業主に相談をしたこと等を理由とする
事業主による不利益の取扱いの禁止
第30条の2第2項
5紛争解決援助・調停、措置義務等の履行確保第30条の5以下

改正法は、企業に対し、「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と規定し、企業に、雇用管理上の措置を講じることを義務付けています(労働施策総合推進法第30条の1第1項)。
また、労働者がパワハラの相談を行ったことや、パワハラの相談への対応に協力した際に、事実を述べたことを理由として、企業が解雇その他の不利益な取扱いを行うことも禁止しています(同法第30条の2第2項)。
これらの2点については、労働施策総合推進法を受けて、厚生労働省が「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号 。以下「パワハラ指針」といいます。)を策定し、公表しています。
そのため、以下では、パワハラ指針も踏まえて、中小企業がとるべき取組みや措置について、解説していきます。

職場におけるパワーハラスメントとは

パワハラの定義

改正された労働施策総合推進法においては、パワハラについて、以下のように定義が明確化されました(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。

「パワーハラスメント」の定義

職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること

パワハラは、簡単にいうと、職場における上下関係を前提とした、いじめや嫌がらせのことですが、ポイントは以下の3点を全て満たすものとなります。

パワハラ認定の要素

① 優越的な関係
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
③ 労働者の就業環境を害すること

優越的な関係とは

パワハラと聞くと、通常は、職務上の地位が上位である上司から部下に対する関係がイメージされるでしょう。しかしながら、パワハラは、必ずしも上司・部下の関係に限らず、部下から上司に対して、同僚間でも生じ得ます。
実際に、パワハラ指針においては、「優越的な関係」について、以下のように示されています。

最近では、「逆パワハラ」や「ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)」等といった言葉も耳にするようになっています。これは、企業がハラスメント対策・防止に注意を払っていること等を利用して、部下から上司に対して行われるハラスメントです。

業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動とは

客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラに該当しません。
ここにいう「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」の具体例として、パワハラ指針では、以下のような言動が示されています。

これらの言動を客観的に判断することはなかなか容易ではありません。
これらの言動の目的や、これらの言動が行われた経緯や状況(例えば、被害者に問題行動があったのか、あったとしてその内容・程度)、業務の内容や性質、被害者の属性(経験年数や年齢、障碍の有無、外国人であるか等)や心身の状況(精神的又は身体的な状況や疾患の有無等)を総合的に見て、判断することになります。

なお、被害者側に問題行動があった場合であっても、被害者の人格を否定するような言動等は、当然「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」であって、パワハラに該当し得ます。

労働者の就業環境を害するとは

就業環境が害される」とは、パワハラ指針において、「労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」と定義されています。

非常に難しい表現ですが、「平均的な労働者の感じ方」からして、仕事をするうえで見過ごすことができない程度の支障が生じたと感じるような言動であるか等を判断することになります。

パワハラの類型

職場におけるパワハラの代表的な言動の類型として、2012年(平成24年)1月30日に厚生労働省が公表した「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」 より、以下の6つの類型が挙げられています。
この6つの類型は、パワハラに関するこれまでの裁判例等も踏まえたものとなっています。

ただし、これらはあくまでも例示であって、個別の事案の状況等によって判断が異なることがあることに留意しましょう。

行為類型具体例
① 身体的な攻撃・殴打、足蹴りをする。
② 精神的な攻撃
(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
・人格を否定するような発言をする。
・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う。
③ 人間関係からの切り離し
(隔離・仲間外し・無視)
・自分の意に沿わない労働者に対して、仕事を外したり、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする。
④ 過大な要求
(業務上、明らかに不必要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
・長期間にわたり、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる。
・必要な教育を行わないまま、到底対応できないレベルの業務を課し、達成できなかったことを叱責する。
⑤ 過小な要求・退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる。
・嫌がらせのために仕事を与えない。
⑥ 個の侵害
(私的なことに過度に立ち入ること)
・職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする。
・性的嗜好や病歴等の機微な個人情報について、労働者の了解を得ずに、他の労働者に暴露する。

中小企業がとるべき取組みや措置

総論

中小企業が、改正された労働施策総合推進法が施行される2022(令和4)年4月1日までに対応しなければならないことは、改正法によって企業に義務付けられた、雇用管理上必要な措置をとる義務への対応です。
改正法は、このような規定の新設をもって、労働者によるパワハラの相談のし易さを確保し、企業におけるパワハラの隠ぺい等を防止しようとしたものと考えられます。

そして、既に解説するとおり、労働施策総合推進法第30条の2第3項では、「雇用管理上必要な措置」(同法第30条の1第1項)及び「事業主が解雇その他の不利益な取扱いを行うことの禁止」(同法第30条の2第2項)につき、厚生労働省は、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針として、パワハラ指針を定めています。

パワハラ指針によると、企業が、雇用管理上講ずべき措置の具体的な内容は、以下のとおりです。

事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

まずは、労働者自身に、どのような言動がパワハラに該当し、パワハラを行った場合にはどのような問題に陥るのか、深く理解してもらうことが重要です。
そのため、パワハラ指針によると、「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」として、具合的には、以下の2点が義務付けられています。

企業は、就業規則等において、以下のような服務規律やパワハラを行った場合には懲戒事由に該当する旨を定めたり、別途「ハラスメント防止規程」を策定したりする等して、企業として、パワハラに対して厳正な処分を行うという考えを明確化することが求められます。
そして、その情報を社内報、社内ネットワークやホームページ等で掲載することが考えられます。

また、社内での研修や講習を行うことで、労働者に対して、企業におけるパワハラに対する方針を周知していくことが必要となります。

相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

パワハラは職場における人間関係の優位性から生じる問題であり、例えば上司から被害を受けた部下は、加害者が上司であるために、周りに相談しづらいものです。
そのため、パワハラ指針によると、「相談に応じて適切に対応するために必要な体制整備」として、具体的には、以下の2点が求められています。

企業は、当該体制を整えるために、相談窓口の制度を設け、担当者を定めることが必要です。
相談窓口については、企業内組織のラインから独立した相談窓口を設けることが望ましく、弁護士等の外部専門家を相談窓口とすることも考えられます。

そのうえで、当該担当者が適切な対応をとれるように、窓口担当者向けにマニュアルを作成し、弁護士等による研修・講習等を実施し、十分な体制を整えるための準備をしておくことが必要になります。
特に、相談窓口においては、被害を受けた労働者が委縮して相談を躊躇してしまうことがないように、現実にパワハラが生じている場合のみならず、その発生のおそれがある場合や、パワハラ該当性が微妙な場合であっても広く相談に応じ、適切な対応を行うことが求められています。

これらのマニュアル作成やハラスメント研修については、弁護士等の専門家の協力を得ることも大切です。

職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

パワハラ指針によると、企業は、労働者からハラスメントに関する相談の申し出が合った場合、それ以上の被害拡大を防ぐために、迅速かつ適切に次の措置を講じることが求められています。

この点、(b)については、例えば、被害者と行為者を配置転換により引き離すことや、行為者への懲戒処分、行為者の謝罪、被害者の労働条件の回復等が考えられます。
しかしながら、誤った措置を講じてしまった場合、社内に噂が立ってしまったり、被害感情が増幅してしまったりして、被害者がより一層職場に居づらくなってしまうこともあります。
いかなる措置を講じるかについても、あらかじめ社内でマニュアルやハラスメント規程を策定しておく等によって、慎重に判断する必要があります。

また、(c)については、職場におけるパワハラの事実が確認できなかった場合であっても行う必要があり、改めて、パワハラ禁止の方針やパワハラ行為者に対する厳正な処分の方針を労働者に周知し、労働者のパワハラに対する意識を啓発するための研修や講習等を行うことが求められます。

その他の措置

パワハラの事実が社内に公になってしまうと、被害者も行為者も職場に居づらくなってしまいます。
そのため、パワハラ指針では、以上で解説する措置の他に、事業者は、以下の2点を遵守することが求められています。

なお、厚生労働省では、「中小企業における職場のパワーハラスメント対策の好事例」も公表しています 。このように、他の中小企業が行っているハラスメント対策も参考にして、自社に合ったハラスメント対策を導入することが大切です。

関連する法改正の状況

パワハラに関する法改正とともに、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法においても、セクハラやマタハラ、パタハラ、ケアハラ等に関する規定が一部改正され、2020(令和2年)年6月1日から施行されています。

特に、男女雇用機会均等法と育児介護休業法いずれにおいても、(a)国、事業主および労働者の責務の明確化や(b)労働者が事業主に相談をしたこと等を理由とする事業主による不利益取扱いの禁止について定められており、男女雇用機会均等法では、さらに(c)他の事業者から雇用管理上の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合に、これに応ずる努力義務まで定められています。
そのため、セクハラやマタハラ等その他のハラスメント対策についても、パワハラ指針に基づいたパワハラ防止対策と同様の対策・措置を講じることが望ましいと言えます。

なお、労働者派遣法も同様に改正されており、派遣事業主も「派遣労働者を雇用する事業主」とみなされ(労働者派遣法第47条の4)、パワーハラスメント防止等に関する事業者責任を負うことが定められているため、注意しましょう。

終わりに

ハラスメントは、労働者の心身に影響を与え十分な能力を発揮することを妨げることはもちろんのこと、企業にとっても、被害者だけでなく周囲の優秀な人材を失ってしまうきっかけになりかねません。
また、パワハラというと、懲戒処分や被害者との民事訴訟(損害賠償請求訴訟)、労災申請等が問題となることが多かったと思います。しかしながら、労働施策総合推進法によって、行政機関が紛争解決のために助言、指導又は勧告を行うこともできるようになり、企業のイメージダウンに繋がりかねません。

このようなハラスメントによるリスクを解消するために、今回の労働施策総合推進法改正を踏まえて、中小企業においても、職場における人間関係や相談体制を見直し、より良い職場環境を構築していくべきです。