嘱託とは?
契約社員などとの違い・メリット・
労働条件や雇い止めのルールなどを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「嘱託(嘱託社員)」とは、正社員とは異なる契約に基づいて勤務する労働者です。
定年後に再雇用される労働者や、専門的な業務に従事するために期間限定で雇用される労働者などが「嘱託社員」と呼ばれることがあります。ただし、嘱託社員の法律上の定義はなく、「契約社員」や「パート」との区別は曖昧です。
嘱託社員の人件費は、正社員よりも低く抑えられる傾向にあります。ただし、有給休暇や社会保険への加入義務は嘱託社員についても生じるほか、「同一労働同一賃金」によって、正社員との間の不合理な待遇差は違法となる点に注意が必要です。
嘱託社員は、契約期間が満了すれば原則として雇い止めが認められるため、企業にとっては人件費を調整しやすいメリットがあります。ただし、労働契約法で定められた「無期転換ルール」と「雇い止め法理」により、嘱託社員の雇い止めが制限される場合がある点にご注意ください。
この記事では嘱託社員について、契約社員などとの違いや、労働条件・雇い止めに関するルールなどを解説します。
※この記事は、2023年9月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 高年齢者雇用安定法…高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
- パートタイム・有期雇用労働法…短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
目次
嘱託(嘱託社員)とは
「嘱託(嘱託社員)」とは、正社員とは異なる契約に基づいて勤務する労働者をいいます。定年後に再雇用される労働者や、専門的な業務に従事するために期間限定で雇用される労働者などが「嘱託社員」と呼ばれることがあります。
嘱託社員と再雇用
「嘱託社員」について法的な定義はありませんが、一般的には、定年後に再雇用される労働者を「嘱託社員」と呼ぶことが多いです。
高年齢者雇用安定法に基づき、事業主は雇用する労働者の定年を60歳以上としなければなりません(同法8条)。
また、60歳以上64歳以下の労働者については、以下のいずれかの雇用確保措置を講じることが義務付けられます(同法9条)。
- 60歳以上64歳以下の労働者の雇用確保措置
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① 定年の引き上げ
② 継続雇用制度(=定年後も希望者を引き続き雇用する制度)の導入
③ 定年の廃止
さらに、65歳以上69歳以下の労働者については、以下のいずれかの就業確保措置を講じることが努力義務とされています(同法10条の2)。
- 65歳以上69歳以下の労働者の就業確保措置
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① 定年の引き上げ
② 継続雇用制度の導入
③ 定年の廃止
④ フリーランス化の支援(退職した高年齢労働者に対して仕事を発注する)
⑤ 社会貢献事業への就業確保(事業主等が運営する社会貢献事業への就業機会を与える)
多くの企業では、雇用確保措置または就業確保措置に当たる「継続雇用制度」として、定年に達した労働者のうち、希望者を「嘱託社員」として引き続き雇用しています。
再雇用以外の嘱託社員の例
「嘱託社員」と呼ばれるのは、定年後も再雇用されている労働者に限りません。
例えば以下のような労働者も、「嘱託社員」と呼ばれることがあります。
・専門的な業務に従事するために、期間限定で雇用される労働者
・期間限定のプロジェクトに関する業務に従事させるため、プロジェクト単位で雇用される労働者
など
嘱託社員と他の雇用形態の違い
労働者の雇用形態には、嘱託社員のほかに「正社員」「契約社員」「パート」「アルバイト」などさまざまなパターンがあります。
嘱託社員とその他の雇用形態の違いは、以下のとおりです(重なり合う場合もあります)。
嘱託社員と正社員の違い
「正社員」とは、期間の定めのない雇用契約を締結している労働者をいいます。
嘱託社員の雇用契約は、期間限定であるのが一般的です。したがって、契約期間が満了すれば、原則として会社は雇用契約の更新を拒絶できます。これを「雇い止め」といいます。
一方正社員は、雇用契約に期間の定めがないため、会社は期間満了によって雇用契約を終了させることができません。正社員の雇用契約が終了するのは、労働者が自主的に退職した場合、会社が労働者を適法に解雇した場合、および労働者が死亡した場合です。
解雇の要件は非常に厳しいため、会社は正社員を容易に解雇できません。そのため、正社員は嘱託社員に比べて、労働者としての地位が安定しているといえます。
なお、正社員と嘱託社員の間で不合理な待遇差を設けることは、「同一労働同一賃金」に反し違法です(パートタイム・有期雇用労働法8条・9条)。あくまでも、業務内容・責任の程度・配置転換の範囲などを考慮して、合理的な範囲内の待遇差が認められるにとどまります。
嘱託社員と契約社員の違い
「契約社員」は法律上定義されていませんが、期間の定めがある雇用契約を締結している労働者を意味するのが一般的です。
嘱託社員は通常、会社との間で期間の定めがある雇用契約を締結しています。そのため、嘱託社員は契約社員の一種です。
契約社員の中でも、定年後に再雇用される労働者や、専門的な業務に従事するために期間限定で雇用される労働者などを特に「嘱託社員」と呼ぶことがあります。労働者をどのように呼称するかは、会社によって異なるところです。
嘱託社員とパート・アルバイトの違い
「パート」とは、正社員よりも労働時間が短く、シフト制で働く労働者を意味するのが一般的です。また、労働時間が特に短い労働者や、学生やフリーターなどである労働者は「アルバイト」と呼ぶことがあります。
嘱託社員も、シフト制で働いている場合にはパートに近い働き方となります。労働時間が非常に短ければ、アルバイトに近い働き方になることもあります。
一方、フルタイムで働く嘱託社員は、パートとは異なる働き方といえるでしょう。
このように、嘱託社員の労働の実態は多様であるため、パート・アルバイトとの区別は必ずしも明確ではありません。
定年後に嘱託社員として働くメリット
定年に達した後、再雇用により嘱託社員として働くことには、主に以下のメリットがあります。
① 労働日・労働時間を調整しやすい
正社員とは異なり、嘱託社員は労働日を減らす、労働時間を短くするなどの調整がしやすい特徴があります。老後は働きつつもゆったり過ごしたいと考えている場合は、嘱託社員としての再雇用を選択すれば、ワークライフバランスを確保しやすくなるでしょう。
② 継続雇用であれば有給休暇を繰り越せる
定年前に消化しきれなかった有給休暇は、嘱託社員として継続雇用されれば、付与後2年間に限り繰り越すことができます。また、継続勤務期間も再雇用の前後で通算されるため、年間最大20日の有給休暇が引き続き付与されます。
③ 継続して社会保険に加入できる
嘱託社員としての雇用期間中は、引き続き社会保険に加入できます。社会保険料の半分は会社負担で、将来受給できる年金が増えます。
④ 賃金が75%未満に減少する場合、雇用保険から給付を受けられる
60歳時点の賃金と比較して、60歳以後の賃金がその75%未満となっている場合は、65歳に達するまで「高年齢雇用継続基本給付金」を受給できます(雇用保険の被保険者期間が5年以上ある方に限ります)。
嘱託社員の労働条件に関する企業の注意点
嘱託社員を雇用する企業は、労働条件について以下の各点にご注意ください。
① 同一労働同一賃金に要注意
② 有給休暇は勤務日数に応じて付与
③ 嘱託社員も社会保険・雇用保険・労災保険への加入義務あり
同一労働同一賃金に要注意
短時間労働者・有期雇用労働者と通常の労働者(=正社員)の間で、不合理な待遇差を設けることは認められません(パートタイム・有期雇用労働法8条・9条)。これを「同一労働同一賃金」といいます。
嘱託社員も、短時間労働者もしくは有期雇用労働者(またはその両方)に該当するため、同一労働同一賃金が適用されます。嘱託社員の賃金などの待遇は低く抑えられることが多いですが、同一労働同一賃金に違反しないかどうか検討しなければなりません。
認められる待遇差・認められない待遇差
労働者の業務の内容や、業務に伴う責任の程度、配置転換の範囲などを考慮して、正社員と嘱託社員の間で合理的な待遇差を設けることは認められます。
- 認められる待遇差の例
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・嘱託社員の労働時間は正社員より短いので、その分賃金を低く抑えている。
・嘱託社員に任せる業務は、正社員と比べると単純なものが多いので、その分賃金を低く抑えている。
・正社員は業務上のミスが昇進などに影響するが、嘱託社員にはミスの責任を負わせないようにしているので、その分賃金を低く抑えている。
・正社員は転勤があるが、嘱託社員は転勤がないので、その分賃金を低く抑えている。
これに対して、正社員と同程度の貢献をしているにもかかわらず、「嘱託社員だから」というだけの理由で、正社員よりも待遇を低く抑えることは認められません。
- 認められない待遇差の例
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・正社員として雇用していた労働者が、定年を機に嘱託社員として再雇用された。再雇用後も定年前と同様の業務をこなしており、責任も全く変わらないが、嘱託社員になったことだけを理由に、賃金が大幅に減額された。
有給休暇は勤務日数に応じて付与
嘱託社員にも、労働基準法の規定に従って有給休暇を付与する必要があります。
嘱託社員がフルタイム労働者である場合、有給休暇の日数は通常のフルタイム労働者と同様です(労働基準法39条2項)。
- フルタイム労働者の要件
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以下のいずれかに該当する場合は、フルタイム労働者として有給休暇が付与されます。
① 1週間の所定労働日数が5日以上
② 1年間の所定労働日数が217日以上
③ 1週間の所定労働時間が30時間以上
継続勤務期間 | 付与される有給休暇の日数 |
---|---|
6カ月 | 10日 |
1年6カ月 | 11日 |
2年6カ月 | 12日 |
3年6カ月 | 14日 |
4年6カ月 | 16日 |
5年6カ月 | 18日 |
6年6カ月以上 | 20日 |
これに対して、嘱託社員がフルタイム労働者でない場合は、所定労働日数(1週間または1年間)に応じて有給休暇を付与する必要があります(同条3項)。
付与される有給休暇の日数 | |||||
---|---|---|---|---|---|
1週間の所定労働日数 | 4日 | 3日 | 2日 | 1日 | |
1年間の所定労働日数 | 169日以上 216日以下 | 121日以上 168日以下 | 73日以上 120日以下 | 48日以上 72日以下 | |
継続勤務期間 | 6カ月 | 7日 | 5日 | 3日 | 1日 |
1年6カ月 | 8日 | 6日 | 4日 | 2日 | |
2年6カ月 | 9日 | 6日 | 4日 | 2日 | |
3年6カ月 | 10日 | 8日 | 5日 | 2日 | |
4年6カ月 | 12日 | 9日 | 6日 | 3日 | |
5年6カ月 | 13日 | 10日 | 6日 | 3日 | |
6年6カ月以上 | 15日 | 11日 | 7日 | 3日 |
※1週間の所定労働日数と1年間の所定労働日数で列が異なる場合は、有給休暇の日数が多くなる方を適用します。
嘱託社員も社会保険・雇用保険・労災保険への加入義務あり
嘱託社員についても、以下の要件を満たす場合には、社会保険・雇用保険・労災保険に加入させる義務があります。
- 社会保険の加入要件
-
以下の要件を全て満たすこと
① 会社における厚生年金保険の被保険者数が101人以上(2024年10月以降は51人以上)
② 週の所定労働時間が20時間以上
③ 所定内賃金(=所定労働時間に対する賃金)が月額8万8000円以上
④ 2カ月を超える雇用の見込みがある
⑤ 学生ではない
- 雇用保険の加入要件
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以下の要件をいずれも満たすこと
① 週の所定労働時間が20時間以上
② 31日以上の雇用の見込みがある
- 労災保険の加入要件
-
全ての労働者(嘱託社員も一律加入対象)
嘱託社員の雇い止めに関する注意点
嘱託社員との雇用契約は、期間満了によって終了するのが原則です。会社が嘱託社員と合意して雇用契約を更新することはできますが、会社は原則として更新を拒絶できます(=雇い止め)。
ただし労働契約法により、一定の場合には「無期転換ルール」や「雇い止め法理」が適用され、嘱託社員の雇い止めが制限されることがあるので注意が必要です。
無期転換ルール
以下の要件を全て満たす有期雇用労働者(嘱託社員を含む)が、会社に対して期間の定めのない雇用契約の締結を申し込んだ場合、会社はその申込みを承諾したものとみなされます(労働契約法18条)。これを「無期転換ルール」といいます。
- 無期転換の要件
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① 期間の定めがある雇用契約が1回以上更新されていること
② 期間の定めがある雇用契約の通算契約期間が5年を超えていること
③ 契約期間が満了するまでの間に、期間の定めのない雇用契約の締結を申し込むこと
嘱託社員や契約社員などとして、期間の定めがある雇用契約の期間が通算5年を超えている労働者は、無期転換ルールの対象となる点にご留意ください。
雇い止め法理
以下の要件をいずれも満たす有期雇用労働者(嘱託社員を含む)については、会社による雇い止めが認められず、雇用契約が更新または再締結されたものとみなされます(労働契約法19条)。これを「雇い止め法理」といいます。
- 雇い止め法理の要件
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① 以下のいずれかに該当すること
・期間の定めがある雇用契約が過去に反復して更新されており、雇い止めが無期雇用労働者の解雇と社会通念上同視できること
・労働者が期間の定めがある雇用契約の更新を期待することにつき、合理的な理由があること② 契約期間が満了するまでの間に、または期間満了後遅滞なく、期間の定めがある雇用契約の締結を申し込むこと
定年後に再雇用する嘱託社員については、雇用の上限年齢(再雇用の定年)をあらかじめ明示しておけば、それ以降の雇用契約の更新について、労働者の合理的な期待は生じないと考えられます。
一方、若い嘱託社員については、何度も契約を更新していると、雇い止め法理が適用される可能性が高まる点にご注意ください。
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