直ちに(ただちに)とは?
速やかに/遅滞なくとの違い・日数の目安・
例文・契約書レビュー時の注意点などを
分かりやすく解説!

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[法務必携!]ポケット契約用語集~基本編~
この記事のまとめ

法律契約書の条文で用いられる「直ちに(ただちに)」とは、すぐに(即時に)行わなければならないことを意味します。理由の如何を問わず、一切の遅れが許されません
これに対して、「速やかに」は可能な限り早く、「遅滞なく」は事情の許す限り早くという意味であり、いずれも合理的な理由があれば、行動するまでにある程度時間がかかっても許されます。緊急性・切迫性の度合いは「直ちに」が最も高く、次いで「速やかに」「遅滞なく」の順です。

「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」と記載されている場合に、行動までにかけてよい日数(時間)は、具体的な状況によって異なります。
「直ちに」の場合は即日またはそれに近い時期の行動を求められますが、「速やかに」「遅滞なく」の場合は数日から数週間、状況によっては数カ月程度かけてよい場合もあります。

契約書をレビューする際には、「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」の使い分けを意識しましょう。
契約違反の是正やトラブル対応など、緊急性の高い行動については「直ちに」とすべきです。「速やかに」「遅滞なく」については、行動すべき時期が流動的で解釈の余地が広いので、あらかじめ相手方と認識を共有することが望ましいでしょう。

この記事では「直ちに」について、「速やかに」「遅滞なく」との違い・日数の目安・法律や契約書における条文例・契約書レビュー時の注意点などを解説します。

ヒー

「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」に順番があるのですか? 日本語の意味としては大体同じかと…

ムートン

大きくは、即時を意味する「直ちに」を用いるべき場合と、より緩やかに「速やかに」「遅滞なく」でよい場合に分けられます。3つの内容を確認していきましょう。

※この記事は、2023年11月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

「直ちに」とは

法律契約書の条文で用いられる「直ちに(ただちに)」とは、すぐに(即時に)行わなければならないことを意味します。契約違反の是正やトラブル対応など、当事者が緊急に行動すべき事柄について「直ちに」が用いられます。

「直ちに」と「速やかに」「遅滞なく」の違い

「直ちに」と同じく、当事者に迅速な行動を促す条文上の文言として「速やかに」と「遅滞なく」があります。

「直ちに」については、理由の如何を問わず、一切の遅れが許されません。これに対して「速やかに」と「遅滞なく」については、「直ちに」に比べると時間的余裕があります

「速やかに」とは

速やかに」は、「可能な限り早く」という意味です。合理的な理由があれば、行動するまでにある程度時間がかかっても許されます。

「速やかに」は「直ちに」よりも時間的な余裕がありますが、「遅滞なく」に比べると早めに行う必要があるというイメージです。

また、法令用語としては、「直ちに」と「遅滞なく」は義務的な性質を持つ場合に使用されることが多いのに対し、「速やかに」は可能な限り早くすべき、という程度の訓示的な意味合いに解釈されることがあります。

「遅滞なく」とは

遅滞なく」は、「事情の許す限りで早く」という意味です。「速やかに」と同様に、「遅滞なく」についても、合理的な理由があれば、行動するまでにある程度時間がかかっても許されます。

「遅滞なく」は「速やかに」よりも緩やかに時間的余裕が認められますが、どの程度の差があるのかは明確ではありません。

直ちに・速やかに・遅滞なく|日数(時間)の目安は?

直ちに」については、即日またはそれに近い時期の行動を求められます。

これに対して、「速やかに」「遅滞なく」については数日から数週間、状況によっては数カ月程度かけてよい場合もあります。どの程度の時間が許されるかは、行動の障害となる事情の内容や、それが解消するまでの見込みスケジュールなどによって異なります。

民法における「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」の使用例・条文例

民法において、「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」が使用されている条文を見てみましょう。

民法における「直ちに」の使用例・条文例

(遺言執行者の任務の開始)
第1007条
1 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 (略)

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

民法1007条1項では、遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならないと定めています。

遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するための職務を行う者です。遺言執行者の職務は相続人や受遺者に大きな影響を及ぼすため、就任を承諾したら「直ちに」任務を行うべきものとされています。

民法における「速やかに」の使用例・条文例

第860条の3
1 成年後見人は、成年被後見人に宛てた郵便物等を受け取ったときは、これを開いて見ることができる。
2 成年後見人は、その受け取った前項の郵便物等で成年後見人の事務に関しないものは、速やかに成年被後見人に交付しなければならない。
3 (略)

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

民法860条の3第2項では、成年後見人が成年被後見人宛の郵便物を開封して見た後、その内容が成年後見人の事務に関しない者である場合は、速やかに成年被後見人に交付しなければならないと定めています。

成年後見人と成年被後見人は同居しているとは限らないので、郵便物の交付には時間がかかることがあります。成年後見人が忙しく、なかなか郵便物を手渡す機会を設けられないケースもあるでしょう。
そこで、郵便物の交付は「速やかに」行えばよいとされています。

民法における「遅滞なく」の使用例・条文例

(財産の管理の計算)
第828条
子が成年に達したときは、親権を行った者は、遅滞なくその管理の計算をしなければならない。ただし、その子の養育及び財産の管理の費用は、その子の財産の収益と相殺したものとみなす。

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

民法828条では、子が成年(18歳)に達した後、親権者だった者は遅滞なく、子の財産の管理の計算をしなければならないと定めています。

財産の管理の計算に当たっては、子の財産を集計して価値を評価するなどの作業が必要であり、大幅な時間を要するケースも想定されます。そのため、ある程度の時間的余裕を与える意味で、親権の終了後「遅滞なく」計算を行えばよいとされています。

契約書における「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」の使用例・条文例

法律と同様に、契約書でも「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」が用いられることがあります。それぞれ条文例を紹介します。

契約書における「直ちに」の使用例・条文例

第○条(秘密情報の返還又は破棄等)
情報受領者は、情報開示者の合理的な請求があったときは、当該請求に従い、情報開示者より入手した秘密情報及び秘密情報が記載又は記録された書面、電磁的媒体その他の資料等を直ちに情報開示者に対して返還し、又は破棄若しくは消去しなければならない。

上記の条文例は、秘密保持契約(NDA)で定められることが多い、秘密情報の返還または破棄等に関するものです。情報開示者が開示済の情報をコントロールできるように、情報受領者に対して秘密情報の返還・破棄・消去を義務付けています。

何らかのトラブルが懸念される場合において、秘密情報の返還・破棄・消去はできる限り迅速に行う必要があります。そのため、情報受領者は「直ちに」秘密情報を返還・破棄・消去しなければならないとすべきでしょう。

契約書における「速やかに」の使用例・条文例

第○条(報告)
当事者の住所や代表者の変更があったとき、又は当事者の経営に関して重大な変更が生じたときは、当該当事者は相手方に対して、当該変更の内容を速やかに報告するものとする。

上記の条文例は、契約の相手方に対する報告義務を定めるものです。住所変更や代表者変更のほか、経営に関する事項の重大な変更などを報告義務の対象とすることがあります。

特に金銭消費貸借契約など、いずれか一方の当事者(貸主)が相手方(借主)をモニタリングする必要がある契約では、報告義務の定めが重要です。

相手方当事者に対する報告は、その内容を検討したり、文書を作成して送付したりするのに時間がかかる場合があります。とはいえ、変更はできる限り早めに報告することが望ましいので、「速やかに」が用いられることが多いです。

契約書における「遅滞なく」の使用例・条文例

第○条(税務申告書の提出)
甲は、乙に対し、甲の毎事業年度に係る税務申告書の写しを、当該税務申告後遅滞なく提出する。

上記の条文例も当事者の報告義務を定めるものですが、報告の内容が税務申告書の写しの提出とされています。

住所・代表者の変更や経営に関する事項の重大な変更に比べて、完了済みの税務申告に関する報告は、トラブル等が生じていない限り緊急性が低いと考えられます。そのため、「速やかに」よりも緩やかに「遅滞なく」提出させることで足りるでしょう。

「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」に関する契約書レビュー時の注意点

契約書をレビューする際には、「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」の使い分けや、具体的な日数を定めることの要否についてよく検討すべきです。

具体的には、以下の各点に注意しつつ契約書をレビューしましょう。

① 緊急性が高い場合は「直ちに」|契約違反の是正やトラブル対応など
② 「速やかに」と「遅滞なく」の行動時期は流動的|相手方と認識の共有を
③ 「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」とする? 日数を定める?

緊急性が高い場合は「直ちに」|契約違反の是正やトラブル対応など

当事者に対して緊急性が高い行動を義務付ける必要がある場合は、「直ちに」を用いるべきです。

例えば以下に挙げるような義務を定める場合は、「直ちに」を用いるのが適切でしょう。

「直ちに」を用いるべき内容の例

・契約違反の是正に関する請求への対応義務
・第三者との間のトラブルに関する報告義務
・秘密情報の返還、破棄、消去義務
など

上記のような義務について「速やかに」や「遅滞なく」を用いると、相手方に義務の履行を遅らせる理由を与えてしまうことになりかねません。即日またはそれに近い対応を求める意味で、「直ちに」を用いましょう。

「速やかに」と「遅滞なく」の行動時期は流動的|相手方と認識の共有を

「直ちに」とは異なり、速やかに」と「遅滞なく」については、義務を履行すべき時期にある程度幅があります

例えば、「速やかに」報告を行うべきとされているケースを考えます。

ヒー

(この条項は「速やかに」だから、遅くとも1週間以内には報告がされるはず…)

ムートン

(「速やかに」なら、色々想定して1カ月くらいはかかっても仕方ないということですね)

(1週間後…)

ヒー

なんでまだ報告が来ないんですか? 報告は「速やかに」ですよね。

ムートン

いま取りまとめているところです。「速やかに」なのだから、1カ月程度で出しますよ。

当事者の一方は「遅くとも1週間以内に報告すべきだろう」と考えていても、相手方は「1カ月くらいはかかってもいいだろう」と考えているかもしれません。この場合、当事者間における認識のズレが原因で、契約トラブルに発展するリスクが否定できません。

また、一般的には「速やかに」の方が「遅滞なく」よりも迅速な行動を求められますが、これを逆に(=「遅滞なく」の方が「速やかに」よりも迅速に行動する必要がある)理解している人もいます。

ムートン

特に、「速やかに」を訓示的内容と見て、「遅滞なく」よりも弱い規定と受け止めると、齟齬が生まれます。

この場合、「速やかに」や「遅滞なく」の解釈について、当事者間で認識が食い違ってしまうリスクが高いです。

契約書において「速やかに」や「遅滞なく」を用いる際には、義務を履行すべき期間の目安について、当事者間で認識を共有しておくことが大切です。
例えば報告義務については、「○週間以内には報告する」「毎回同じくらいの期間のうちに報告する」などと約束事を決めておけば、認識のズレによるトラブルのリスクを抑えられます。

ヒー

報告の「速やかに」の期間は、具体的には1週間くらいを想定しています。

ムートン

取りまとめに時間がかかるので、2週間から1カ月は待ってほしいです。できる限り急ぎますから、文言は「速やかに」で構いません。

契約の相手方とコミュニケーションをとって、実務上の取り扱いについて認識をすり合わせましょう。

「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」とする? 日数を定める?

「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」と抽象的に記載するのではなく、義務を履行すべき期間(日数)を具体的に定めることも考えられます。

例えば請求書の発行納品物の検収など、反復継続して行われることが予定されているものや、定型的で所要期間が容易に予測できるものは、具体的な期間(日数)を定めた方がよいでしょう。実務上の取り扱いの明確化につながります。

これに対して、義務の内容自体が包括的な場合や、具体的な事情によって所要期間(日数)が変動し得る場合もあります。これらの場合には、「速やかに」「遅滞なく」を用いて、契約上の定めにある程度幅を持たせて解釈の余地を残した方が、些細な義務違反に起因するトラブルの回避に役立ちます

「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」と抽象的に記載するか、それとも義務を履行すべき期間(日数)を具体的に定めるかについては、義務の内容や実務上の取り扱いを考慮して総合的に判断しましょう。

ムートン

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