試用期間とは?
目的・長さ・条文例・通常の雇用期間との違い・
本採用拒否の注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「試用期間」とは、使用者が労働者を本採用する前に、試験的に雇用する期間をいいます。実務において一定期間労働者の能力や適性を見極めることが、試用期間の主な目的です。
試用期間は1カ月から3カ月程度、長くても6カ月以内とされるのが標準的です。長すぎる試用期間の設定は、公序良俗違反によって無効となるおそれがあります。
試用期間と通常の雇用期間の違いは、主に以下の4点です。
✅ 試用期間の方が、解雇の要件がやや緩やか
✅ 試用期間中は賃金を低く抑えられることがある
✅ 試用期間中の賃金は、平均賃金の算定対象外
✅ 試用期間中は解雇予告手当の支払いが不要|ただし雇用後14日以内のみ試用期間中の労働者を、本採用に移行せずに解雇することを「本採用拒否」といいます。本採用拒否の要件は通常の解雇よりも若干緩やかですが、使用者としては、通常の解雇に準じてその適法性を慎重に判断すべきでしょう。
この記事では試用期間について、目的・長さ・条文例・通常の雇用期間との違い・本採用拒否の注意点などを解説します。
※この記事は、2024年1月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
試用期間とは
「試用期間」とは、使用者が労働者を本採用する前に、試験的に雇用する期間をいいます。労働契約(雇用契約)や就業規則において、試用期間が定められることがあります。
試用期間の目的
試用期間の主な目的は、実務において一定期間、労働者の能力や適性を見極めることです。
企業は労働者を雇用するに当たって採用選考を行いますが、書類審査や面接だけでは、労働者の能力や適性を十分に見極めることは困難です。
そこで試用期間を設け、実際に仕事を任せる中で労働者の能力や適性を見極めようとすることがあります。
試用期間の標準的な長さ
試用期間は1カ月から3カ月程度、長くても6カ月以内とされるのが標準的です。
長すぎる試用期間を設定すると、公序良俗違反(民法90条)によって無効となるおそれがあるので注意しなければなりません。
試用期間に関する就業規則の条文例
試用期間を設定する場合は、労働契約または就業規則において定めるのが一般的です。
厚生労働省が公表しているモデル就業規則では、試用期間について以下の条文が設けられています。
(試用期間)
第6条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から か月間を試用期間とする。
2 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことがある。
3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続によって行う。
4 試用期間は、勤続年数に通算する。(解雇)
厚生労働省「モデル就業規則 令和5年7月版」
第53条 略
2 前項の規定により労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告をする。予告しないときは、平均賃金の30日分以上の手当を解雇予告手当として支払う。ただし、予告の日数については、解雇予告手当を支払った日数だけ短縮することができる。 3・4 略
全ての労働者につき原則として試用期間を設ける場合は、就業規則で試用期間を定めましょう。
これに対して、試用期間を設定するかどうかを労働者ごとに変える場合は、労働契約で試用期間を定めるのが適切です。
試用期間と通常の雇用期間の違い
試用期間中の労働者は、多くの面で通常の労働者と同様に取り扱われます。その一方で、試用期間特有の取り扱いがなされることもあります。
試用期間と通常の雇用期間の違いについては、以下の各点に留意しておきましょう。
- 試用期間と通常の雇用期間の違い
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① 試用期間の方が、解雇の要件がやや緩やか
② 試用期間中の賃金|本採用後より賃金を低く設定することも
③ 試用期間中の賃金は、平均賃金の算定対象外
④ 試用期間中の待遇|各種社会保険への加入は義務
⑤ 試用期間中は解雇予告手当の支払いが不要|ただし雇用後14日以内のみ
⑥ 試用期間中の退職は、通常の退職と同じ手続きが必要
試用期間の方が、解雇の要件がやや緩やか
試用期間中の労働者については、使用者側が労働契約の解約権を留保していると解されています。そのため、通常の解雇に比べると、試用期間中の労働者の解雇(=本採用拒否)の要件はやや緩やかです。
ただし、試用期間中であっても無制限に解雇(本採用拒否)できるわけではありません。本採用拒否の要件の詳細については、後述します。
試用期間中の賃金|本採用後より賃金を低く設定することも
試用期間中の賃金(給与)は、労働契約によって定められます。一般的には、試用期間中と本採用後の賃金を同等とするケースと、試用期間中の賃金を低く抑えるケースの2パターンに大別されます。
なお、試用期間中の賃金についても最低賃金(労働基準法28条、最低賃金法)が適用される点に注意が必要です。
試用期間中の賃金は、平均賃金の算定対象外
企業の人事・労務管理に当たっては、解雇予告手当(労働基準法20条)や休業手当(同法26条)の計算をはじめとして、平均賃金を用いた計算を行うべき場面が多々あります。
平均賃金とは原則として、基準日以前3カ月間に労働者に対して支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額です(労働基準法12条1項)。
※基準日:原則として算定すべき事由の発生した日。ただし賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日。
ただし例外的に、試用期間中の賃金については、平均賃金の基礎に算入しないものとされています(労働基準法12条3項5号)。
なお、この例外に対してはさらに例外があり、試用期間中に平均賃金を算定すべき事由が発生した場合は、試用期間中の賃金を平均賃金の基礎に算入します(労働基準法施行規則3条)。
例えば解雇予告手当の計算について、試用期間から本採用に移行した後に解雇する場合は、試用期間中の賃金を平均賃金の基礎から除外します。これに対して、試用期間中(満了時を含む)に解雇する場合は、試用期間中の賃金を用いて平均賃金を計算することになります。
試用期間中の待遇|各種社会保険への加入は義務
試用期間中の労働者についても、厚生年金保険および健康保険の加入義務に関するルールは、通常の労働者と同じです。
会社(法人)は社会保険の強制適用事業所なので、フルタイム労働者については、試用期間であっても厚生年金保険・健康保険に加入させなければなりません。
また、試用期間中の短時間労働者についても、以下の要件をいずれも満たす場合には、厚生年金保険・健康保険に加入させる必要があります。
① 特定適用事業所または任意特定適用事業所であること
特定適用事業所:短時間労働者を除く被保険者の総数が常時100人を超える事業所
※2024年10月以降は、短時間労働者を除く被保険者の総数が常時50人を超える事業所
任意特定適用事業所:特定適用事業所以外の事業所であって、労使合意に基づき、短時間労働者を厚生年金保険・健康保険の適用対象とする申し出をしたもの
② 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
③ 雇用期間が2カ月超見込まれること
④ 賃金の月額が8.8万円以上であること
⑤ 学生でないこと
試用期間中は解雇予告手当の支払いが不要|ただし雇用後14日以内のみ
使用者が労働者を解雇する際には、30日以上前に解雇予告を行うか、または解雇予告手当を支払う必要があります(労働基準法20条1項)。
ただし、雇入れ後14日以内である試用期間中の労働者は、解雇に当たって解雇予告や解雇予告手当の支払いは不要とされています(労働基準法21条4号)。
これに対して、雇入れ後14日が経過した後の試用期間中の労働者については、試用期間中または満了時に解雇する場合でも、解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となる点に注意が必要です。
試用期間中の退職は、通常の退職と同じ手続きが必要
就業規則等において定められている退職の手続きは、別段の定めがない限り、試用期間中の労働者にも適用されます。また、源泉徴収票・雇用保険の被保険者票・離職票・健康保険資格喪失証明書などについては、試用期間中の労働者が退職する際にも交付しなければなりません。
試用期間を延長するための要件
試用期間は、以下の要件を満たす場合に限って延長が認められます。
- 試用期間を延長するための要件
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① 労働契約または就業規則において、試用期間の延長に関する規定が設けられており、当該規定における延長事由に該当すること
② 試用期間を延長する客観的な必要性が認められる特段の事情があること
③ 試用期間の延長について、労働者が事前に同意していること
単に労働者が試用期間の延長に同意しているだけでは不十分で、労働契約または就業規則の定めおよび特段の事情が必要である点に注意が必要です。
試用期間中の労働者の解雇(本採用拒否)について
企業が一方的に試用期間中の労働者を退職させることは、通常の労働者と同じく、法的には解雇に当たります。試用期間中の労働者の解雇は、会社都合により本採用に移行しないという意味で「本採用拒否」と呼ばれることがあります。
試用期間中の労働者については、使用者側が労働契約の解約権を留保していると解されますが、常に本採用拒否が認められるわけではありません。実際には、本採用拒否の有効性は厳格に判断される傾向にあります。
本採用拒否の要件
試用期間中の労働者の解雇(本採用拒否)は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と認められる場合にのみ認められます(最高裁昭和48年12月12日判決)。
本採用拒否の有効性はケースバイケースで判断されますが、例えば以下のような事情があれば、本採用拒否が有効と認められやすいでしょう。
・勤務態度が非常に悪い
・無断での遅刻、欠勤、早退、中抜けが多い
・重要な経歴を詐称していた
・再三にわたって改善指導をしたにもかかわらず、簡単なミスを繰り返す
など
試用期間中および試用期間延長後の本採用拒否|厳格に判断
試用期間の途中で労働者を解雇すると、企業が労働者に対する教育を行って解雇を回避する努力を怠ったと評価され、本採用拒否が無効と判断される可能性が高いです。
また、試用期間を延長した場合には、当初の試用期間の満了までに判明した事情だけでは労働者を解雇しないと暫定的に意思表示をしたものと解されます(大阪高裁昭和45年7月10日判決)。
そのため、延長後に発生した事情を理由とするのでなければ、試用期間延長後の本採用拒否は認められません。
試用期間の途中および試用期間延長後の本採用拒否の有効性は、試用期間満了時の本採用拒否よりも厳格に判断される点に注意が必要です。
本採用拒否の手続き
試用期間中の労働者を解雇(本採用拒否)する際には、以下の流れで手続きを行いましょう。
- 本採用拒否の手続き
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① 解雇の有効性の検討
本採用拒否が認められる場合であるのかどうかを、法令・判例などに照らして検討します。認められない可能性が高い場合は、退職勧奨を行って合意退職を打診しましょう。② 解雇予告または解雇予告手当の支払い
原則として、解雇日の30日以上前に解雇を予告する必要があります。予告期間を短縮する場合は、短縮した日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払います。
ただし、雇入れ後14日以内の試用期間中の労働者を解雇する際には、解雇予告および解雇予告手当の支払いは不要です。③ 退職手続き
貸与品があれば返還させ、オフィスにある労働者の所有物は持ち帰らせるか、または郵送で労働者の自宅に送りましょう。また、労働者に対して以下の書類を交付する必要があります。
・源泉徴収票
・雇用保険被保険者票
・退職証明書(請求があった場合に限る)
・離職票
・健康保険資格喪失証明書
など
試用期間中の労働者を解雇(本採用拒否)する際の注意点
試用期間中の労働者の解雇(本採用拒否)の要件は、通常の労働者の解雇に比べれば若干緩やかですが、それでも不合理な理由によっては認められません。そのため、通常の解雇に準じて解雇(本採用拒否)の適法性を慎重に検討すべきです。
また、雇入れ後14日以内である場合を除き、通常の労働者の解雇時と同様に解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要です。その他の退職手続きについても、基本的には通常の労働者の解雇時と同様の要領で進めましょう。
不適切な理由・手続きで解雇すると、労働者との間でトラブルに発展しやすい点は、試用期間中でも本採用後でも同様です。法律上のルールに則り、解雇について必要な事前検討を行いましょう。
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