内定とは?
採用や内々定との違い・法的性質・
内定通知書の記載例・内定取り消しや
内定辞退の可否などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「内定」とは、内定者が将来入社することについて、会社と内定者の間で合意することをいいます。
将来の入社を前提に、会社と内定者がそれぞれ準備を整える期間を設けることが、内定制度の目的です。
最高裁の判例上、内定の時点で「始期付解約権留保付労働契約」が成立すると解されています。
会社による内定取り消しは、厳格な要件を満たさなければ認められないので注意が必要です。その一方で、内定者による内定辞退は緩やかに認められています。
会社が内定を出す際には、内定候補者の能力や性格などをできる限り審査するように努めましょう。
内定辞退が一定数出ることを見越して、余裕を持った人数を採用すべきですが、安易な内定取り消しが認められないことを考慮すると、内定者の人選は慎重に行わなければなりません。この記事では内定について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2024年1月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
内定とは
「内定」とは、内定者が将来入社することについて、会社と内定者の間で合意することをいいます。
内定制度の目的
内定制度の目的は、将来の入社を前提に、会社と内定者がそれぞれ準備を整える期間を設けることです。
内定によって入社する人と入社時期が決まれば、会社は正式な入社に向けた人材配置や手続きを計画的に進めることができます。内定者としても、入社が約束されることによって就職活動を終了し、生活面などの準備を整えられるメリットがあります。
内定と採用の違い
内定と同じような意味として「採用」が用いられることがありますが、内定と採用の意味は必ずしも同じではありません。
内定は、会社と内定者の間で入社を合意することを意味します。後述するように、内定の時点で労働契約が成立すると解されています。
これに対して採用は、採用選考の候補者に対して、会社が合格の旨を伝えることを意味するのが一般的です。
会社が候補者に合格を伝えた(=採用した)だけでは、会社と候補者の間に労働契約は成立しません。候補者が会社の申込みを承諾した時点で「内定」となり、労働契約が成立します。
内定と内々定の違い
内定よりも前の段階で、採用候補者に対して企業が「内々定」を出すケースもあります。
「内々定」とは、企業が採用候補者に対して、内定前の段階で採用の意思を通知することをいいます。すなわち、将来的に内定することが決まっている状態です。
政府は学業を尊重し、安心して就職活動に取り組める環境をつくるため、各企業に対し、内定は一定の日付以降に出すように要請を行っています。
内閣官房ウェブサイト「就職・採用活動に関する要請」
これはあくまで「要請」であり、「義務」ではありません。しかし、国内企業は、世間の批判を回避するため、あるいはロビイングをスムーズに行うためなどの理由で、この要請に従うケースが多いです。
その一方で、企業はできる限り早い段階で、あらかじめ採用選考を進めて優秀な人材を確保したいと考える傾向にあります。この場合、正式な内定を出す前の段階で「内々定」を出し、候補者を囲い込むことがあります。
内定の場合はその時点で労働契約が成立しますが、内々定の場合はまだ労働契約が成立しません。そのため、取り消しの要件や辞退の手続きについて、内々定のルールは内定よりも緩やかになっています。
内定の法的性質|始期付解約権留保付労働契約
内定の法的性質は、「始期付解約権留保付労働契約」であると解されています(最高裁昭和54年7月20日判決)。
「労働契約」とあるとおり、内定の時点で労働契約が成立するのがポイントです。
「始期付」とは、契約成立日とは別に契約開始の時期が定められていることを意味します。
「解約権留保付」とは、使用者(会社)が内定を取り消す権限を留保していることを意味します。ただし後述するように、内定取り消しが認められるケースは厳しく限定されています。
内定通知書とは|記載例・記載事項も含め解説!
企業と採用候補者の間で内定が成立した場合、企業は採用候補者に対して「内定通知書」を交付するのが一般的です。
- 内定通知書の記載例
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〇年〇月〇日
〇〇〇〇様
株式会社〇〇〇〇
代表取締役〇〇〇〇内定通知書
拝啓
時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。選考の結果、貴殿の採用を内定した旨をご通知いたします。
つきましては、同封の内定承諾書をご返送ください。□年□月□日までに内定承諾書のご返送がない場合には、貴殿が内定を辞退したものとみなします。なお、健康状態その他の事由により、入社日より前に入社が不適切であると当社が合理的に判断した場合には、内定を取り消すことがございますので、ご了承くださいますようお願い申し上げます。
敬具
1. 入社日:△年△月△日
2. 雇用条件:別紙のとおり
3. お問い合わせ先:○○
内定通知書の主な記載事項は、以下のとおりです。
①内定の旨
内定した旨を明確に記載します。
②内定承諾書の返送依頼
内定承諾書を別途添付し、返送を依頼します。返送期限も明記しておきましょう。
③内定取り消しがあり得る旨
内定取り消しがあり得る旨を確認的に記載することも考えられます。記載がないとしても、内定取り消しが直ちに認められなくなるわけではありませんが、内定者に対する注意喚起の意味があります。
④入社日
内定者が入社する予定日を記載します。
⑤雇用条件
配属部署、従事する業務の内容、就業場所、給与・手当、試用期間などの雇用条件を記載します。
⑥問い合わせ先
内定者が会社に連絡を取りたい場合の問い合わせ先を記載します。
内定決定後の流れ・手続き
採用候補者の内定が決定した後、入社に至るまでの手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。
①内定式・説明会など
内定者同士の交流や、入社後の心構え・注意点のインプットなどを目的として、内定式や内定者向け説明会を開催する企業が多いです。ただし、開催は必須ではありません。
②労働条件通知書の交付(+雇用契約書の締結)
内定者に対して、労働条件を記載した書面(=労働条件通知書)を交付します。労働条件通知書は、内定者の入社時までに交付しなければなりません。
また、内定者との間で改めて雇用契約書を締結する企業もあります。ただし、内定の時点で労働契約(雇用契約)は成立しているので、雇用契約書の締結は必須ではありません。
③内定者による情報の提出
内定者が会社に入社する際には、以下の情報を会社に提出する必要があります。
- 雇用保険被保険者証番号
- 基礎年金番号
- 給与振込先の口座情報
- 前職の源泉徴収票
- マイナンバー など
これらの情報は、入社日に提出させる会社が多いですが、入社前の段階であらかじめ提出させる会社もあります。
④入社
内定時に取り決めた入社日が来たら、実際に内定者が入社します。
なお入社後は、社会保険や雇用保険の加入手続きなどが必要になります。
内定取り消しの要件・認められるケース
内定においては、使用者側が労働契約の解約権を留保しています。
しかし、無制限に解約権の行使が認められるわけではありません。不合理な理由による内定取り消しは、違法・無効と判断されるおそれがあるので注意が必要です。
内定取り消しの要件
内定取り消しが認められるのは、以下の要件をいずれも満たす場合に限られます(最高裁昭和54年7月20日判決)。
①内定取り消しの理由が、使用者にとって、採用内定当時において知ることができず、また知ることが期待できないような事実であること
②採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができること
上記判決において最高裁は、内定取り消しを制限すべき理由として、一般的には雇用契約の締結に際し、企業が労働者に対して優越した地位にあることを挙げています。
内定によって就職活動を終了し、他社への入社機会を放棄して入社に備える内定者にとって、企業が一方的に内定を取り消すことは大きな不利益となります。このような不利益を内定者に甘受させてよいのは、それ相応の合理的な理由がある場合に限られるということです。
内定取り消しが認められるケースの例
例えば以下のような場合には、内定取り消しが認められる可能性が高いと考えられます。
・重大な経歴詐称が判明した場合
・内定後の健康診断において、就労に支障を生じる重大な健康上の問題が判明した場合
・内定後に犯罪行為をした場合
・内定後に、会社の責に帰すことができない事由によって経営状態が大幅に悪化した場合
など
内定取り消しが認められないケースの例
これに対して、以下のような場合には内定取り消しが認められないと考えられます。
・内定者の実際の性格が、面接で受けた印象とは違った場合
・内定者の能力が、期待していた水準に比べて低かった場合
・財務状況が若干悪化したため、人件費を調整する目的で内定を取り消した場合
など
最高裁昭和54年7月20日判決では、「被上告人はグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかった」という理由で行われた内定取り消しについて、以下の理由から違法・無効と判示しました。
グルーミーな印象であることは当初からわかっていたことであるから、上告人としてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたのに、不適格と思いながら採用を内定し、その後右不適格性を打ち消す材料が出なかったので内定を取り消すということは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべき
最高裁昭和54年7月20日判決
内定辞退は緩やかに認められる|2週間前の通知で辞退可能
使用者による内定取り消しは厳格な要件を満たさなければ認められません。一方、内定者による内定辞退は緩やかに認められます。
内定は労働契約であるため、内定者による内定辞退は、労働者による労働契約の解除に相当します。
無期雇用(正社員)の場合は2週間前の通知によって内定辞退が可能です(民法627条1項)。
有期雇用(契約社員など)の場合は、やむを得ない事由が必要とされます(民法628条)。ただ、入社前であることを考慮すると、実務上は緩やかに内定辞退が認められる可能性が高いと考えられます。
内定を出す企業が注意すべきポイント
採用候補者に対して内定を出す際、企業は以下の各点に注意すべきです。
ポイント1|能力や性格などをできる限り審査する(安易な内定取り消しは不可)
ポイント2|内定辞退を見越した採用戦略を立てる
ポイント1|能力や性格などをできる限り審査する(安易な内定取り消しは不可)
前述のとおり、内定取り消しが認められるのは、その理由について使用者が採用内定当時に知ることができず、また知ることが期待できない場合に限られます。
言い換えれば、採用面接において審査しようと思えばできたはずなのに、十分な審査をしなかった結果見落とした事情に基づく内定取り消しは認められません。
このように、内定取り消しが厳しく制限されていることを踏まえると、企業は採用選考に当たって、候補者の能力や性格などをできる限り審査することが求められます。
多角的な選考方法を採用したり、コミュニケーションの機会をたくさん設けたりして、候補者の特徴を隅々まで知ることができるように努めましょう。
ポイント2|内定辞退を見越した採用戦略を立てる
使用者による内定取り消しが厳しく制限されている反面、内定者の側からの内定辞退は緩やかに認められています。
そのため企業としては、内定辞退が出ることを見越した採用戦略を検討すべきです。
毎年多くの内定を出す企業であれば、過去の統計を基に内定辞退者の見込み数を計算し、それを織り込んだ上で余裕を持った人数を採用すればよいでしょう。
これに対して、採用人数が少数である企業においては、内定辞退を見越して多くの人数を採用することが難しい面があります。結局内定辞退者が出なかった場合でも、一部の内定を取り消すことは原則としてできないからです。
このような小規模の企業においては、できる限り内定辞退者を出さないように努めることが重要です。内定者のケアをこまめに行い、入社前から会社への帰属意識を高めるような取り組みが求められます。
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