事業用定期借地権とは?
通常の借地権との違い・期間・
借地借家法のルール・設定手続き・
注意点などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

事業用定期借地権」とは、専ら事業の用に供する建物の所有を目的に、存続期間を10年以上50年未満として設定される借地権です。

通常の借地権とは異なり、事業用定期借地権に対しては、借地借家法の規制のうち一部の適用が免除されることがあります。
特に貸主にとって負担が重い、契約の更新や建物買取請求権の規制の適用が免除されれば、貸主としては土地運用の計画を立てやすくなります。

事業用定期借地権の設定は、公正証書によって行わなければなりません。電子契約は不可とされており、収入印紙の貼付を要する点に注意しましょう。

この記事では事業用定期借地権について、通常の借地権との違い・借地借家法のルール・設定手続き・注意点などを解説します。

ヒー

借地権とか賃貸借契約って種類が多くて分かりにくいです…。事業用定期借地権はどういうものでしたっけ?

ムートン

事業用定期借地権は、土地を借りて店舗やオフィスビルを建てる際に設定するものです。期間を短くすることができるなど、貸す側に有利な契約と言えます。詳しく見ていきましょう。

※この記事は、2024年3月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 法…借地借家法

事業用定期借地権とは

事業用定期借地権」とは、専ら事業の用に供する建物の所有を目的に、存続期間を10年以上50年未満として設定される借地権です(法23条)。
店舗物件オフィスビルなどを建設するに当たり、施主(賃借人)が地主(賃貸人)から土地を借りる際に、事業用定期借地権の設定を受けることがあります。

なお、居住の用に供する建物の所有を目的とする場合は、事業用定期借地権に当たりません(法23条1項)。
建物の一部でも居住用の部分が含まれていれば、それが主たる目的ではないとしても、事業用定期借地権とは認められないことになります。
老人ホームなどは事業用の施設ですが、居住用でもあるため、事業用定期借地権の対象外です。

また、専ら事業の用に供する建物の所有とする場合でも、存続期間が50年以上の場合は、通常の借地権または一般定期借地権(法22条)として取り扱われます。

事業用定期借地権と通常の借地権・一般定期借地権の違い

事業用定期借地権については、借地借家法に基づき、通常の借地権や一般定期借地権とは異なるルールが定められています。

事業用定期借地権と通常の借地権の違い

通常の借地権については、借地借家法のルールが全面的に適用されます。

詳細は後述しますが、地主による更新拒絶には正当事由が必要であることや、借地権者に建物買取請求権が認められることなどが定められており、借地権者を厚く保護する内容となっています。

これに対して、事業用定期借地権については、借地借家法の規制のうち一部の適用が免除されることがあります。どの規制の適用が免除されるかについては、存続期間が10年以上30年未満か、それとも30年以上50年未満かによって変わります(後述)。

事業用定期借地権と一般定期借地権の違い

一般定期借地権とは、存続期間を50年以上とし、契約の更新がない旨などを定めた借地権です(法22条)。

事業用定期借地権と一般定期借地権についてはいずれも、以下の内容を定めることができます。

契約の更新がない
建物の築造による存続期間の延長がない
建物買取請求権を認めない

その一方で、事業用定期借地権と一般定期借地権の間には、下表のような違いがあります。

事業用定期借地権一般定期借地権
用途専ら事業の用に供する建物(居住の用に供する者を除く)の所有制限なし
存続期間10年以上50年未満50年以上
契約締結の方法公正証書書面または電磁的記録
※特約以外の部分は口頭でも締結可能

事業用定期借地権のメリット・デメリット

事業用定期借地権には、地主・借地権者の双方にとって、メリット・デメリットの両面があります。

事業用定期借地権のメリット

事業用定期借地権のメリットとしては、以下の各点が挙げられます。

地主にとってのメリット

・契約の更新がない旨を定めれば、土地運用の計画を立てやすい

・建物買取請求権を認めない旨を定めれば、契約終了時のコスト負担を回避できる

・契約期間を10年以上30年未満とすることができるため、比較的短期間の貸し出しも可能
※通常の借地権の存続期間は30年以上(法3条)、一般定期借地権の存続期間は50年以上(法22条)

借地権者にとってのメリット

・通常の借地権に比べると、地代が割安な傾向にある

事業用定期借地権は、通常の借地権と比較して、地主にとってメリットが大きいものです。そのため、特に好立地の物件など、地主の交渉力が強いケースにおいて事業用定期借地権が設定される傾向にあります。

事業用定期借地権のデメリット

事業用定期借地権のデメリットとしては、以下の各点が挙げられます。

地主にとってのデメリット

・借地権者の権利が比較的弱いため、通常の借地権に比べると借り手が付きにくい

・公正証書による締結が必須であるため、契約締結に手間や費用がかかる

借地権者にとってのデメリット

・契約の更新が認められないので、期間が満了すると必ず立ち退かなければならない

・建物買取請求権が認められないので、借地権の終了時に建物を取り壊さなければならず、コスト負担が発生する

・公正証書による締結が必須であるため、契約締結に手間や費用がかかる

借地権者にとっては、事業用定期借地権よりも通常の借地権の方が好条件です。そのため、通常の借地権に比べると、事業用定期借地権には借り手が付きにくい傾向にあります。
地主としては、よほどの好立地でなければ、地代を割り引くなどの対応が必要になることが多いでしょう。

借地権者としては、契約の更新がないことや、建物買取請求権が認められないことなどを正しく理解した上で、地代の水準と併せて総合的に検討する必要があります。

事業用定期借地権の活用例

事業用定期借地権の活用方法としては、以下の例が挙げられます。

(例)
・店舗物件を建設するため、存続期間を30年とする事業用定期借地権を設定し、契約の更新がない旨および建物買取請求権を認めない旨を定めた。

・オフィスビルを建設するため、存続期間を40年とする事業用定期借地権を設定し、契約の更新がない旨および建物買取請求権を認めない旨を定めた。

・短期的な営業を想定した店舗物件を建設するため、存続期間を10年とする事業用定期借地権を設定した。

事業用定期借地権に関する借地借家法のルール

借地借家法における事業用定期借地権の取り扱いを、原則的な借地借家法のルールと比較しながら解説します。

原則的な借地借家法のルール

借地権については、借地借家法に基づき、原則として以下のルールが適用されます。

① 存続期間(法3条)
借地権の存続期間は30年です。ただし、契約で30年より長い期間を定めたときはその期間となります。

② 更新後の期間(法4条)
借地権の更新後の期間は、最初の更新については更新の日から20年、2回目以降の更新については更新の日から10年です。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときはその期間となります。

③ 更新請求・更新拒絶(法5条・6条)
借地権の存続期間が満了する際に、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、原則として従前と同一の条件で契約を更新したものとみなされます。
地主が契約更新を拒絶するためには、借地権者の更新請求に対して遅滞なく異議を述べること、および更新拒絶に正当の事由があると認められることが必要です。

④ 建物の再築による期間延長(法7条)
借地権の存続期間が満了する前に建物が滅失した場合において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、その築造について地主の承諾がある限り、承諾日または築造日のいずれか早い日から20年間借地権が存続します。
ただし、残存期間がこれより長いとき、または当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間借地権が存続します。

⑤ 契約更新後の建物の滅失による解約(法8条)
契約更新後に建物が滅失したときは、借地権者は借地契約の解約を申し入れることができます。
また、上記の場合において、借地権者が地主の承諾を得ずに残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、地主は借地契約の解約を申し入れることができます。
これらの解約申入れがなされた場合には、申入れがあった日から3カ月が経過すると借地権が消滅します。

⑥ 対抗力(法10条)
借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは第三者に対抗できます。
建物が滅失した場合にも、その建物を特定するために必要な事項・滅失日・建物を新たに築造する旨を土地上の見やすい場所に掲示すれば、引き続き2年間に限り、借地権を第三者に対抗できます。

⑦ 地代等増減請求権(法11条)
契約後の事情変更によって地代が不相当となったときは、契約の条件に関わらず、各当事者が将来に向かって地代の増減を請求できます。ただし、一定期間地代を増額しない旨の特約がある時は、その定めに従います。

⑧ 地主の先取特権(法12条)
地主は直近2年分の地代について、借地権者がその土地上に所有する建物につき先取特権を有します。

⑨ 借地権者の建物買取請求権(法13条)
借地契約が期間満了によって終了するときは、借地権者は地主に対し、建物を時価で買い取るように請求できます。

⑩ 第三者の建物買取請求権(法14条)
土地上の建物その他附属物を第三者に譲渡した場合において、地主が賃借権の譲渡または転貸を承諾しないときは、当該第三者は地主に対して、建物その他附属物を時価で買い取るように請求できます。

⑪ 借地条件の変更等(法17条~20条)
借地条件の変更について、地主と借地権者の間に協議が調わない時は、当事者の申立てによって裁判所が借地条件を変更できます。
また、契約上制限された増改築・契約更新後の建物の再築・借地権の譲渡または土地の転貸についても、当事者間の利益の衡平の観点から、裁判所が許可等を与えることができるとされています。

存続期間が30年以上50年未満の事業用定期借地権の取り扱い

存続期間が30年以上50年未満の事業用定期借地権については、契約の更新および建物の築造による存続期間の延長がなく、ならびに建物買取請求をしないこととする旨を定めることができます(法13条1項)。

なお、存続期間が30年以上50年未満の場合は、これらの事項を定めるかどうかは任意であり、定めなかった場合は通常の借地権として取り扱われます。

存続期間が10年以上30年未満の事業用定期借地権の取り扱い

存続期間が10年以上30年未満の事業用定期借地権については、契約の内容に関わらず、以下の規定が適用されません。

① 存続期間(法3条)
② 更新後の期間(法4条)
③ 更新請求・更新拒絶(法5条・6条)
④ 建物の再築による期間延長(法7条)
⑤ 契約更新後の建物の滅失による解約(法8条)
⑥ 借地権者の建物買取請求権(法13条)
⑦ 借地契約の更新後の建物の再築の許可(法18条)

上記以外の規定については、通常の借地権と同様に適用されます。

事業用定期借地権を設定する際の手続き

事業用定期借地権を設定する際の手続きは、以下のとおりです。

① 借地契約の条件について交渉する
② 契約書を公正証書で作成する
③ 事業用定期借地権の対抗要件を具備する

借地契約の条件について交渉する

まずは地主と借地権者の間で、借地契約の条件について交渉します。以下に挙げるような契約事項について、漏れなく話し合って取り決めましょう。

事業用定期借地権設定契約書に定めるべき事項

・借地権を設定する土地の表示
・借地権の存続期間
・地代
・契約の更新および建物の築造による存続期間の延長がない旨
・建物買取請求をしない旨
・対抗要件具備の手続き
・解約申入れの手続き
・契約解除事由
・損害賠償
・合意管轄
など

契約書を公正証書で作成する

事業用定期借地権設定契約は、公正証書によってしなければなりません(法23条3項)。

地主と借地権者の間で合意した契約案文を、公証役場に連絡をとって公証人に送付しましょう。公証人との調整を経て案文が固まったら、日程を合わせて公証役場で公正証書を作成します。

事業用定期借地権の対抗要件を具備する

事業用定期借地権を締結したら、借地権者は速やかに、以下のいずれかの方法によって借地権の対抗要件を具備しましょう

  • 借地権登記する(民法177条)
  • 建物を築造した上で、その建物登記する(借地借家法10条)

事業用定期借地権に関する注意点

事業用定期借地権については、地主・借地権者のそれぞれにおいて、以下の各点にご留意ください。

① 存続期間を50年以上とする場合は、一般定期借地権を利用可能
② 契約書には収入印紙の貼付が必要
公正証書での契約締結が必須|電子契約は不可

存続期間を50年以上とする場合は、一般定期借地権を利用可能

事業用定期借地権として取り扱われるのは、存続期間が10年以上50年未満のものに限られます。

存続期間を50年以上とする場合は「一般定期借地権」として、事業用定期借地権と同様に、契約の更新および建物の築造による存続期間の延長がなく、ならびに建物買取請求をしないこととする旨を定めることができます(法22条)。
一般定期借地権の場合、借地契約を公正証書で締結する必要はなく、通常の書面や電子契約で締結することも可能です。また、事業用定期借地権とは異なり、一般定期借地権に用途の制限はありません。

契約書には収入印紙の貼付が必要

事業用定期借地権設定契約書には、契約金額に応じて、以下の収入印紙を貼付する必要があります。

契約金額印紙税額
1万円未満非課税
1万円以上10万円以下200円
10万円超50万円以下400円
50万円超100万円以下1,000円
100万円超500万円以下2,000円
500万円超1000万円以下1万円
1000万円超5000万円以下2万円
5000万円超1億円以下6万円
1億円超5億円以下10万円
5億円超10億円以下20万円
10億円超50億円以下40万円
50億円超60万円
契約金額の記載のないもの200円

なお契約金額とは、権利金その他名称の如何を問わず、契約に際して借地権者が地主に交付し、後日返還されることが予定されていない金額をいいます。

保証金敷金など、返還が予定されている金銭は契約金額に含まれません。

また、地代も契約金額に含まれません。したがって、契約書に地代だけが記載されている場合には、契約金額の記載がないものとして、貼付すべき収入印紙は200円となります。

公正証書での契約締結が必須|電子契約は不可

事業用定期借地権は公正証書による締結が必須なので、電子契約は認められません

これに対して、通常の借地契約や一般定期借地権設定契約については、電子契約も認められています。事業用定期借地権設定契約との違いに注意しましょう。

ムートン

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