【2024年5月等施行】経済安全保障推進法とは?
4つの新制度の内容をわかりやすく解説!

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この記事のまとめ

経済安全保障推進法」とは、経済活動に関して行われる国家・国民の安全を害する行為を未然に防止するため、基本方針の策定および必要な制度の創設を定めた法律です。国際情勢の複雑化や社会経済構造の変化などを背景として、2022年5月11日に成立し、同月18日に公布されました。

経済安全保障推進法によって創設された制度は、以下の4つです。
① 重要物資の安定的な供給の確保に関する制度(2022年8月1日施行)
② 基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度(2023年11月17日施行)
③ 先端的な重要技術の開発支援に関する制度(2022年8月1日施行)
④ 特許出願の非公開に関する制度(2024年5月1日施行)

この記事では経済安全保障推進法について、4つの新制度の内容を解説します。

ヒー

経済安全保障に関する法律が施行されると聞きました。これって企業活動にも関係するのでしょうか?

ムートン

企業にも影響がありますよ。さまざまな要素をもつ法律ですので、全体像と特に注意すべきポイントを解説していきますね。

※この記事は、2024年2月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 経済安全保障推進法、法…経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律
  • 改正法…2024年5月1日に施行が予定される改正後の「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」
  • 令…経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律施行令
  • 改正令…2024年5月1日に施行が予定される改正後の「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律施行令」

経済安全保障推進法とは

経済安全保障推進法」とは、経済活動に関して行われる国家・国民の安全を害する行為を未然に防止するため、基本方針の策定および必要な制度の創設を定めた法律です。

経済安全保障推進法が制定された背景・経緯

経済安全保障推進法は、国際情勢の複雑化社会経済構造の変化などを背景として制定されました。

新型コロナウイルス感染症の拡大による物資供給網の混乱や、国家間の関係緊張および戦争などが発生する国際情勢において、軍事面だけでなく経済面からも独立・繁栄を確保することが各国の課題となっています。

日本においても、経済活動に関して行われる国家・国民の安全を害する行為を未然に防ぐ重要性が増していることを踏まえて、経済安全保障推進法が定められました。

経済安全保障推進法の趣旨|4つの制度の創設

経済安全保障推進法に基づき、以下の4つの制度が創設されました。

① 重要物資の安定的な供給の確保に関する制度
② 基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度
③ 先端的な重要技術の開発支援に関する制度
④ 特許出願の非公開に関する制度

ムートン

4つの制度の詳細については、後述します。

経済安全保障推進法の公布日・施行日

公布日

2022年5月18日

施行日

2022年8月1日
✅ 重要物資の安定的な供給の確保に関する制度
✅ 先端的な重要技術の開発支援に関する制度

2023年11月17日
✅ 基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度

2024年5月1日
✅ 特許出願の非公開に関する制度

ポイント①|重要物資の安定的な供給の確保に関する制度(2022年8月施行)

重要物資の安定的な供給の確保に関する制度は、2022年8月1日より施行されました。同制度のポイントは以下のとおりです。

重要物資の安定的な供給の確保に関する制度のポイント

(a) 安定的供給確保基本方針
(b) 特定重要物資の指定
(c) 事業者の計画認定・支援措置
(d) 政府による取り組み

安定的供給確保基本方針

政府は、特定重要物資の安定的な供給の確保に関する基本方針を定めるものとされています(法6条1項)。

参考:内閣府「特定重要物資の安定的な供給の確保に関する基本方針」

特定重要物資の指定

国民の生存に必要不可欠であり、もしくは広く国民生活や経済活動が依拠している重要な物資、またはその生産に必要な原材料・部品・設備・機器・装置・プログラムのうち、外国への依存を避けて安定供給を確保する必要性が特に高いものについては、政令で「特定重要物資」として指定するものとされています(法7条)。

2024年2月現在、以下の11物資が特定重要物資として指定されています(令1条)。

① 抗菌性物質製剤
② 肥料
③ 永久磁石
④ 工作機械および産業用ロボット
⑤ 航空機の部品(航空機用原動機および航空機の機体を構成するものに限る。)
⑥ 半導体素子および集積回路
⑦ 蓄電池
⑧ インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて電子計算機(入出力装置を含む。)を他人の情報処理の用に供するシステムに用いるプログラム
⑨ 可燃性天然ガス
⑩ 金属鉱産物(マンガン、ニッケル、クロム、タングステン、モリブデン、コバルト、ニオブ、タンタル、アンチモン、リチウム、ボロン、チタン、バナジウム、ストロンチウム、希土類金属、白金族、ベリリウム、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ルビジウム、ジルコニウム、インジウム、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、レニウム、タリウム、ビスマス、グラファイト、フッ素、マグネシウム、シリコンおよびリンに限る。)
⑪ 船舶の部品(船舶用機関、航海用具および推進器に限る。)

事業者の計画認定・支援措置

特定重要物資またはその生産に必要な原材料等(=特定重要物資等)の安定供給を図ろうとする者は、実施しようとする取り組みに関する計画(=供給確保計画)を作成し、主務大臣の認定を受けることができます(法9条)。

参考:内閣府ウェブサイト「「安定供給確保を図るための取組方針」及び認定供給確保計画の概要」

供給確保計画の認定を受けた事業者は、取り組みの実施に当たって必要な資金につき、安定供給確保支援法人等による助成やツーステップローン等の支援を受けることができます。

政府による取り組み

民間事業者の主導による特定重要物資の安定供給確保が困難な場合は、主務大臣が特別の対策を講ずる必要がある特定重要物資を指定した上で、備蓄等の措置を講じるものとされています(法44条)。

ポイント②|基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度(2023年11月施行)

基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度は、2023年11月17日から施行されました。同制度のポイントは以下のとおりです。

基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度のポイント

(a) 特定社会基盤役務基本指針
(b) 特定社会基盤事業者の指定
(c) 特定重要設備の導入等に関する事前届出・審査
(d) 特定重要設備の導入等後の勧告・命令

ムートン

事前届出等の制度は2024年5月17日から適用されます(法53条1項・50条1項)。

特定社会基盤役務基本指針

政府は、特定妨害行為の防止による特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する基本方針を定めるものとされています(法49条1項)。特定妨害行為とは、国民生活および経済活動の基盤となる役務(=特定社会基盤役務)の安定的な提供を妨害する行為です。

参考:内閣府「特定妨害行為の防止による特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する基本指針」

特定社会基盤事業者の指定|14事業と対象事業者について解説

主務大臣は、特定社会基盤事業を行う事業者のうち一定の基準に該当する者を、特定社会基盤事業者(基幹インフラ事業者)として指定することができます(法50条1項)。

特定社会基盤事業とは、次に掲げる14事業です(法50条1項、令9条)。

特定社会基盤事業とは

① 一般送配電事業、送電事業、配電事業、発電事業、特定卸供給事業
② 一般ガス導管事業、特定ガス導管事業、ガス製造事業
③ 石油ガス輸入業
④ 水道事業(簡易水道事業を除く)、水道用水供給事業
⑤ 第一種鉄道事業
⑥ 一般貨物自動車運送事業
⑦ 貨物定期航路事業および不定期航路事業のうち、主として本邦の港と本邦以外の地域の港との間において貨物を運送するもの
⑧ 国際航空運送事業、国内定期航空運送事業
⑨ 空港の設置および管理を行う事業、公共施設等運営事業
⑩ 電気通信事業
⑪ 放送事業のうち、地上基幹放送を行うもの
⑫ 郵便事業
⑬ 金融に係る事業のうち、以下のいずれかに該当するもの
・預金の受入れ、手形の割引、為替取引のいずれかを行う一定の事業(銀行業、資金移動業など)
・保険業
・取引所金融商品市場の開設の業務を行う事業、第一種金融商品取引業
・信託業
・資金清算業、第三者型前払式支払手段の発行の業務を行う事業
・預金保険法または農水産業協同組合貯金保険法に基づく一定の業務を行う事業
・振替業
・電子債権記録業
⑭ 包括信用購入あっせんの業務を行う事業

ヒー

電気・ガス・鉄道・通信・金融…幅広いインフラ事業者が対象なのですね。

ムートン

企業規模などに基準があり、2024年2月現在、特定社会基盤事業者として200社超の事業者が指定されています。

特定重要設備の導入等に関する事前届出・審査

特定社会基盤事業者は、

✅ 他の事業者から特定重要設備導入を行う場合
✅ 他の事業者に委託して特定重要設備維持管理または操作を行わせる場合

には、原則として事前に計画書を作成・添付した上で、主務大臣へ届出をする必要があります(法52条1項)。

特定重要設備とは

特定社会基盤事業の用に供される設備、機器、装置またはプログラムのうち、特定社会基盤役務を安定的に提供するために重要であり、かつ、我が国の外部から行われる特定社会基盤役務の安定的な提供を妨害する行為の手段として使用されるおそれがあるものとして主務省令で定めるもの

「特定重要設備の導入」(設備導入前)の届出・審査については構成設備の供給者まで、「特定重要設備の重要維持管理等の委託」に係る届出・審査については重要維持管理等の委託先全てに関する情報の届出が必要となります。

届出の対象となる事業者の範囲

内閣府「経済安全保障推進法の特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する制度について(令和6年1月16日時点)」

主務大臣が届出を受理した日から起算して30日が経過するまでは、特定重要設備を導入し、またはその維持管理・操作を他の事業者に行わせることができません(ただし、30日の期間は短縮または延長されることがあります。同条3項・4項)。

主務大臣は届出内容を審査した上で、特定重要設備が特定妨害行為の手段として使用されるおそれが大きいと認めるときは、計画書の内容の変更その他の必要な措置、または当該導入もしくは委託の中止勧告することができます(同条5項)。

勧告を受けた特定社会基盤事業者は、その諾否および応諾しない場合はその理由を10日以内に主務大臣へ通知しなければなりません(同条7項)。
勧告を応諾しないことについて正当な理由がないと認められるときは、主務大臣は特定社会基盤事業者に対して、当該導入もしくは委託の中止を命ずることができます(同条10項)。

特定重要設備の導入等後の勧告・命令

主務大臣は、実際に特定重要設備が導入され、または他の事業者に委託して特定重要設備の維持管理もしくは操作を行わせた後に、国際情勢の変化その他の事情の変更によって、特定重要設備が特定妨害行為の手段として使用され、または使用されるおそれが大きいと認めるに至ったときは、特定社会基盤事業者に対して特定妨害行為を防止するため必要な措置をとるべきことを勧告できます(法55条1項)。

事前届出の段階と同様に、勧告を受けた特定社会基盤事業者は、その諾否および応諾しない場合はその理由を10日以内に主務大臣へ通知しなければなりません(法55条3項・52条7項)。
勧告を応諾しないことについて正当な理由がないと認められるときは、主務大臣は特定社会基盤事業者に対して、当該措置を命ずることができます(法55条3項・52条10項)。

ポイント③|先端的な重要技術の開発支援に関する制度(2022年8月施行)

先端的な重要技術の開発支援に関する制度は、2022年8月1日から施行されました。同制度のポイントは以下のとおりです。

先端的な重要技術の開発支援に関する制度のポイント

(a) 特定重要技術研究開発基本方針
(b) 国による支援
(c) 官民パートナーシップ(協議会)
(d) 調査研究業務の委託(シンクタンク)

特定重要技術研究開発基本方針

政府は、特定重要技術の研究開発の促進およびその成果の適切な活用に関する基本指針を定めるものとされています(法60条1項)。
特定重要技術」とは、将来の国民生活および経済活動の維持にとって重要なものとなり得る先端的な技術のうち、外部からの不当利用や攻撃などによって安定的に利用できなくなると、国家・国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるものです。

参考:内閣府「特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関する基本指針」

国による支援

国は、特定重要技術の研究開発の促進およびその成果の適切な活用を図るため、特定重要技術研究開発基本指針に基づき、必要な情報の提供、資金の確保、人材の養成および資質の向上その他の措置を講ずるよう努めるものとされています(法61条)。

また、特定重要技術の研究開発の促進およびその成果の適切な活用を目的とする基金のうち内閣総理大臣が指定するものにつき、国の予算の範囲内で資金を補助できるものとされています(法63条)。

官民パートナーシップ(協議会)

国の資金により行われる研究開発等に関して資金を交付する大臣は、特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用を図るため、当該研究開発等の代表者の同意を得た上で、代表者と大臣により構成される官民パートナーシップ(=協議会)を組織することができます(法62条)。

調査研究業務の委託(シンクタンク)

内閣総理大臣は、特定重要技術の研究開発の促進およびその成果の適切な活用を図るために必要な調査・研究を行うものとされています(法64条1項)。
当該調査・研究は、専門的な能力を有するなどの条件を満たす者(=シンクタンク)に委託することができます(同条2項)。

ポイント④|特許出願の非公開に関する制度(2024年5月施行)

特許出願の非公開に関する制度は、2024年5月1日から施行されます。同制度の要点は以下のとおりです。

(a) 特許出願非公開基本方針
(b) 保全審査・保全指定
(c) 外国出願の禁止
(d) 損失の補償

特許出願非公開基本方針

政府は、特許法の出願公開の特例に関する措置など、公にすることにより外部から行われる行為によって国家・国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置に関する基本方針を定めるものとされています(改正法65条1項)。

参考:内閣府「特許法の出願公開の特例に関する措置、同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置に関する基本指針」

保全審査・保全指定

出願公開すべきでない発明に該当するかどうかの審査は、以下の流れで行われます。

保全審査・保全指定の流れ

① 技術分野等によるスクリーニング(第一次審査)
特許庁長官は、特許出願の明細書等に、改正令12条で定める技術分野に該当する発明が含まれる場合は、出願書類を内閣総理大臣に送付します(改正法66条)。

② 保全審査(第二次審査)
内閣総理大臣は、特許庁長官から送付を受けた出願書類を基に、その情報が外部に流出しないようにするための措置(=保全)をすることが適当かどうかを審査します(改正法67条~69条)。

③ 保全指定
保全をすることが適当と認めたときは、内閣総理大臣はその発明を保全対象発明として指定し、特許出願人および特許庁長官に通知します(改正法70条)。
保全対象発明については、特許出願人が内閣総理大臣の許可を受けた場合などを除いて実施が制限されます。
また、保全対象発明の内容については、正当な理由がある場合を除いて開示が禁止されます(法74条)。さらに特許出願人は、情報漏洩を防止するための措置を講じなければなりません(法75条)。

対象となる技術分野

内閣府「特定技術分野及び付加要件の概要」

なお、内閣総理大臣が保全指定を継続する必要がないと認めたときは、保全指定は解除されます(法77条)。

外国出願の禁止

何人も、日本国内でした発明であって公になっていないものが、改正令12条で定める技術分野に該当する場合には、特許庁長官の事前確認によって認められた場合を除き、当該発明を記載した外国出願をしてはなりません(改正法78条・79条)。

損失の補償

保全対象発明について実施の許可を受けられなかったことや、その許可に条件を付されたことなどによって損失を受けた者は、国に対して損失補償を請求できます(改正法80条)。

経済安全保障推進法に関する事業者の対応ポイント

経済安全保障推進法への対応に関して、事業者において特に留意すべきなのは、特許出願の非公開に関する制度です。
2024年5月1日以降に特許出願を行う際には、改正令12条に定める技術分野に属する発明が含まれるかどうかを確認しましょう。含まれる場合は非公開制度の対象となり、発明が実施できなくなるおそれがある点に注意が必要です。特許出願を控え、自社のノウハウとして活用するにとどめることも検討すべきでしょう。

また、特定社会基盤事業者として指定された事業者は、2024年5月17日以降、特定重要設備の導入やその維持管理・操作の外部委託に当たって、計画書の作成と主務大臣への事前届出が必要となる点に留意すべきです。
特定社会基盤事業者に対して、特定重要設備を構成する設備を供給する事業者や、設備の維持管理の委託を受ける事業者なども、届出や情報提出を求められることがあり得るため、制度の内容を把握すべきでしょう。

そのほか、特定重要物資等の安定供給確保に関する取り組みや、特定重要技術の研究開発の促進等を目的とする基金については、経済安全保障推進法に基づく支援補助などを受けられる可能性があるので、活用を検討しましょう。

ムートン

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参考文献

内閣府ウェブサイト「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)」