厚生年金とは?
国民年金との違い・
加入条件・給付内容・事業主が
行うべき手続きなどを解説!

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この記事のまとめ

厚生年金厚生年金保険)」とは、企業などに勤める人が加入する公的年金です。
全ての国民が加入対象となる国民年金に加えて、厚生年金にも加入していると、将来受け取れる老齢年金の額が増えます。国民年金を「1階部分」、厚生年金を「2階部分」と呼ぶこともあります。

会社が雇用している労働者については、フルタイム労働者は全員、短時間労働者は一定の要件を満たす場合に限り、厚生年金および健康保険に加入させる必要があります
事業主においては、新たに事務所を設置したとき、加入対象の労働者を雇い入れたとき、厚生年金に加入している労働者が離職したときなどに手続きを行わなければなりません。

この記事では厚生年金について、国民年金との違い・加入条件・給付内容・事業主が行うべき手続きなどを解説します。

ヒー

厚生年金とは、どういった制度なのでしょうか。

ムートン

会社員や公務員が加入する公的年金で、老後や障害、遺族に対する給付を行う仕組みです。詳しく見ていきましょう。

※この記事は、2025年8月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

厚生年金とは

厚生年金(厚生年金保険)」とは、企業などに勤める人が加入する公的年金です

「公的年金」とは、高齢者などの自力で収入を得ることが難しい人を経済的に支えるため、年間を通して国から支給されるお金のことです。
日本の公的年金は「国民年金」と「厚生年金」の2種類で、厚生年金は会社員や公務員などを対象としています。

厚生年金と国民年金の違い

国民年金は、日本国内に住む20歳以上60歳未満の全ての人に加入が義務付けられています
国民年金を一定期間以上納付すると、原則として60歳以降に「老齢基礎年金」を受給できます。

これに対して厚生年金は、会社員や公務員などの給与所得者を対象とした公的年金です。自営業者や専業主婦(主夫)などは、厚生年金に加入できません
厚生年金の加入者は、保険料の納付実績に応じて原則として65歳以降に「老齢厚生年金」を受給できます。

老齢基礎年金は幅広い国民が受給できるのに対して、老齢厚生年金は厚生年金の加入者だけが受給できます。そのため、老齢基礎年金は公的年金の「1階部分」、老齢厚生年金は「2階部分」と呼ばれることがあります

厚生年金の加入対象者(被保険者)の条件

厚生年金への加入が義務付けられているのは、以下の①~③の要件をすべて満たす人です。

① 強制適用事業所または任意適用事業所に勤務していること

② 以下のいずれかに該当すること
【パターン1】フルタイム勤務者であること
【パターン2】短時間勤務者であって、一定の要件を満たすこと

③ 除外事由に該当しないこと

強制適用事業所または任意適用事業所に勤務していること

厚生年金の加入義務の対象となるのは、強制適用事業所または任意適用事業所に勤務している人です。

強制適用事業所とは

強制適用事業所」とは、以下のいずれかに該当する事業所をいいます。

強制適用事業所とは

全ての法人の事業所
・個人の事業所であって、従業員が常時5人以上いるもの(農林漁業、サービス業などを除く)

任意適用事業所とは

任意適用事業所」とは、強制適用事業所以外の事業所で、従業員の半数以上が適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けたものをいいます。

強制適用事業所に当たらないのは、従業員が常時4人以下の個人の事業所、または農林漁業・サービス業などを行う個人の事業所です。
これらの事業所では、原則として厚生年金への加入義務が生じません。しかし、従業員の半数以上の同意および事業主の申請によって任意適用事業所になると、厚生年金への加入義務が発生します。

【パターン①】フルタイム勤務者であること

強制適用事業所または任意適用事業所に勤務している人が、以下の要件をいずれも満たしている場合は、除外事由(後述)に当たらない限り厚生年金に加入する必要があります。

フルタイム勤務者の要件

(a)勤務時間が正社員の1週間の所定労働時間の4分の3以上
(b)勤務日数が正社員の1カ月の所定労働日数の4分の3以上

従業員(労働者)のほか、取締役などの役員についても、上記の要件をいずれも満たす場合は厚生年金に加入しなければなりません。「常勤の役員は厚生年金に加入する」と理解しておきましょう。

【パターン②】短時間勤務者であって、一定の要件を満たすこと

フルタイム勤務者の要件を満たしていない人(=短時間勤務者)でも、以下の要件を全て満たす場合は、除外事由に当たらない限り厚生年金に加入する必要があります。

短時間勤務者の厚生年金の加入条件

・週の所定労働時間が20時間以上あること
・所定内賃金(=残業代などを除いた賃金)が月額8.8万円以上であること
・学生でないこと
・常時雇用している従業員が51人以上の事業所に勤めていること

除外事由に該当しないこと

以下のいずれかに該当する人は、厚生年金に加入できません。

厚生年金に加入できない人

・継続雇用期間が1カ月以内の日雇い労働者
・2カ月以内の期間を定めて使用される人
・所在地が一定しない事業所に使用される人
・雇用期間4カ月以内で、季節的業務に使用される人
・雇用期間6カ月以内で、臨時的事業の事業所に使用される人
・船員保険の被保険者の人
・国民健康保険組合の事業所に使用される人
・70歳以上の人

厚生年金保険料の計算方法

厚生年金保険料は、以下の式によって計算します。

【月々の賃金に課される厚生年金保険料】
保険料額=標準報酬月額×保険料率

賞与に課される厚生年金保険料】
保険料額=標準賞与額×保険料率

※以下の説明は、いずれも令和7年度(令和7年4月~令和8年3月)分を前提とするものです。

保険料算出の基礎となる標準報酬月額と標準賞与額

標準報酬月額」とは、月々支払われる賃金額を区切りのよい数字にした金額です。

厚生年金保険料については32段階の標準報酬月額が設定されています。例えば月48万8000円の賃金を受け取っている場合、標準報酬月額は50万円です。
なお、厚生年金保険料の標準報酬月額の上限は65万円とされています。
標準報酬月額の詳細は以下のリンクより参照できます。

参考:
日本年金機構ウェブサイト「厚生年金保険料率と標準報酬月額等級の変遷表」

標準賞与額」とは、税引前の賞与総額から1000円未満を切り捨てた額です。例えば96万7500円の賞与を受け取った場合、標準賞与額は96万7000円となります。
なお、厚生年金保険料の標準賞与額の上限は、1カ月当たり150万円とされています。

保険料率は18.300%|労使折半で負担する

厚生年金保険料の保険料率は18.300%です。標準報酬月額または標準賞与額に18.300%を掛けると、厚生年金保険料の額を計算できます。

厚生年金保険料は、労使折半で負担します
被保険者(従業員)負担分は賃金から控除するのが一般的です。その場合は、被保険者負担分の端数が50銭以下であれば切り捨て、50銭を超える場合は切り上げます。

(例)
(a)標準報酬月額が50万円の場合
保険料額
=50万円×18.300%
=9万1500円

事業主負担分:4万5750円
被保険者負担分:4万5750円

(b)標準賞与額が96万7000円の場合
保険料額
=96万7000円×18.300%
=17万6961円

事業主負担分:8万8481円
被保険者負担分:8万8480円

事業主が負担する子ども・子育て拠出金

事業主は、厚生年金保険の標準報酬月額または標準賞与額の0.36%に当たる「子ども・子育て拠出金」を負担します。

(例)
(a)標準報酬月額が50万円の場合
子ども・子育て拠出金の額
=50万円×0.36%
=1800円

(b)標準賞与額が96万7000円の場合
子ども・子育て拠出金の額
=96万7000円×0.36%
=3481円

子ども・子育て拠出金については、被保険者(従業員)の負担はありません。

厚生年金の主な給付内容

厚生年金の加入者は、以下の年金を受給できます。

① 老齢厚生年金
② 障害厚生年金
③ 遺族厚生年金

老齢厚生年金|原則として65歳以降

老齢厚生年金」は、老後の生活費に充てるためのものです。原則として65歳から受給できます。

厚生年金の加入者は、国民年金加入者が受給できる「老齢基礎年金」に加えて、老齢厚生年金も受け取れます。その結果、国民年金しか加入していない自営業者に比べると、老後の年金の額が増えます。

参考:
日本年金機構ウェブサイト「老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額」

障害厚生年金|病気やけがなどで障害が残ったとき

障害厚生年金」は、重度の障害によって働くことが難しくなった人の生活を保障するためのものです。厚生年金の加入者が、障害等級1~3級に相当する障害を負った場合に受給できます。

国民年金にも「障害基礎年金」が設けられていますが、厚生年金の加入者は障害厚生年金も上乗せして受け取れるので、万が一障害を負った場合の生活保障が充実しています。

参考:
日本年金機構ウェブサイト「障害厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額」

遺族厚生年金|同一生計の被保険者が亡くなったとき

遺族厚生年金」は、厚生年金の加入者が亡くなった場合に、生計を維持されていた遺族が受給できる年金です。遺族の生活保障を目的としています。

国民年金にも「遺族基礎年金」が設けられていますが、厚生年金の加入者の遺族は遺族厚生年金も上乗せして受け取れます。

なお、2025年の国会で成立した法改正により、遺族厚生年金の内容は段階的に見直される予定です。

参考:
日本年金機構ウェブサイト「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
厚生労働省ウェブサイト「遺族厚生年金の見直しについて」

厚生年金について事業主が行うべき主な手続き

厚生年金に関して、事業主が行うべき手続きは以下のとおりです。いずれも日本年金機構に対して、所定の書類を提出する必要があります。

手続きが必要になるケース行うべき手続き
新たに事務所を設立したとき新規適用届
加入対象となる労働者を雇用したとき被保険者資格取得届
厚生年金に加入している労働者が離職したとき被保険者資格喪失届
年に一度保険料を見直すとき算定基礎届(定時決定)
従業員の給与が大幅に変わったとき月額変更届(随時改定)
厚生年金保険料を口座振替で納付するとき保険料口座振替納付申出書

新たに事務所を設立したとき|新規適用届

強制適用事業所を設立し、健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするときは「新規適用届」を提出します

なお、強制適用事業所に当たらない個人事業所が健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするときは、新規適用届ではなく「任意適用申請書」を提出します。

参考:
日本年金機構ウェブサイト「1-1:事業所を設立し、健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき」

加入対象となる労働者を雇用したとき|被保険者資格取得届

健康保険・厚生年金保険の加入対象となる労働者を雇用したときは「被保険者資格取得届」を提出します
契約社員やパートの勤務形態が変わったことなどに伴い、既存の労働者が新たに健康保険・厚生年金保険の加入対象となった場合も、同じく被保険者資格取得届の提出が必要です。

参考:
日本年金機構ウェブサイト「2-1:従業員を採用したとき」

厚生年金に加入している労働者が離職したとき|被保険者資格喪失届

健康保険・厚生年金保険の加入対象となる労働者が離職したときは「被保険者資格喪失届」を提出します
労働者が死亡した場合も、同じく被保険者資格喪失届の提出が必要です。

参考:
日本年金機構ウェブサイト「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」

年に一度保険料を見直すとき|算定基礎届(定時決定)

事業主は毎年7月10日までに、健康保険・厚生年金保険に加入している全被保険者の3カ月間(4月・5月・6月)の報酬月額を集計し、その内容を記載した「算定基礎届」を提出する必要があります。

算定基礎届の内容を踏まえて健康保険料と厚生年金保険料の額が決まり(=定時決定)、9月から翌年8月まで適用されます

参考:
日本年金機構ウェブサイト「定時決定(算定基礎届)」

従業員の給与が大幅に変わったとき|月額変更届(随時改定)

従業員の昇給または降給によって、標準報酬月額が2等級以上変わる場合は「月額変更届」を提出する必要があります。

月額変更届を提出した場合、変更後の給与を初めて受けた月から起算して4カ月目に標準報酬月額が改定されます

参考:
日本年金機構ウェブサイト「随時改定(月額変更届)」

厚生年金保険料を口座振替で納付するとき|保険料口座振替納付申出書

厚生年金保険料を口座振替で納付したい場合は「保険料口座振替納付申出書」を提出します。

参考:
日本年金機構ウェブサイト「ケース3:健康保険料・厚生年金保険料を口座振替によって納付したいとき」

厚生年金の加入手続きを怠った事業主が受けるペナルティ

従業員を厚生年金に加入させる義務を怠った事業主は「6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」に処される可能性があります(厚生年金保険法102条)。

ムートン

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参考文献

日本年金機構ウェブサイト「厚生年金保険」

日本年金機構ウェブサイト「老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額」

日本年金機構ウェブサイト「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」

日本年金機構ウェブサイト「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」

厚生労働省ウェブサイト「遺族厚生年金の見直しについて」

日本年金機構ウェブサイト「1-1:事業所を設立し、健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき」

日本年金機構ウェブサイト「2-1:従業員を採用したとき」

日本年金機構ウェブサイト「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」

日本年金機構ウェブサイト「定時決定(算定基礎届)」

日本年金機構ウェブサイト「随時改定(月額変更届)」

日本年金機構ウェブサイト「ケース3:健康保険料・厚生年金保険料を口座振替によって納付したいとき」