令和7年度(2025年度)の
雇用保険料率とは?
推移や変更点・計算を分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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雇用保険料率は、雇用保険料を計算する上で必要となる数値です。
・雇用保険料率は「一般の事業」「農林水産・清酒製造業」「建設業」で異なります。
・雇用保険料率の適用日は「給与の締め日」「賞与の支払い確定日」です。
・雇用保険料を計算する際は、賃金総額の算定や端数処理に注意が必要です。
本記事では、雇用保険料率について解説します。
※この記事は、2025 年8月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
雇用保険料率とは
雇用保険料率とは、労働保険のひとつである雇用保険の保険料にかかわる割合のことです。実務においては、雇用保険は社会保険のひとつとして扱われることもあります。雇用保険の目的や雇用保険料の負担割合について解説します。
雇用保険の目的
雇用保険は、労働者の失業時の生活保障と職業能力開発、雇用の安定を目的とした社会保険制度です。景気変動や企業の経営状況に左右されがちな労働者の雇用を社会全体で支える仕組みとして設計されており、以下のような給付で労働者を支援します。
- 基本手当(失業保険):離職時に再就職までの一定期間手当を支給する
- 育児休業給付:育児で休業する際に収入を補填する
- 教育訓練給付:一定の教育訓練を修了した際に給付する
雇用保険が単なる失業保険ではなく、従業員のライフステージ全般を支える重要な制度であることを理解し、従業員への制度説明や活用提案に活かすことが重要です。
雇用保険料は労働者・事業者がそれぞれ負担
雇用保険料は労働者と事業主が共同で負担します。負担割合は、労働者と事業主で異なります。負担割合に違いが生じるのは、後述する雇用保険二事業分については事業主しか負担しないためです。
失業等給付と育児休業給付は労使で折半負担しますが、雇用安定事業能力開発事業の財源となる「雇用保険二事業」の保険料は事業主が全額負担するため、結果として事業主負担が高くなります。これは、雇用の安定責任を主に事業主が担うという制度設計の考え方によるものです。
労働者から控除する保険料額と事業主が実際に納付する保険料額は異なることを、正確に把握する必要があります。
令和7年度(2025年)の事業別雇用保険料率
2025年度の事業別雇用保険料率は、以下のとおりです。
| 一般の事業 | 従業員負担:0.55% 会社負担:0.9% |
| 農林水産・清酒製造業 | 従業員負担:0.65% 会社負担:1.0% |
| 建設業 | 従業員負担:0.65% 会社負担:1.1% |
一般の事業とは、農林水産業や建設業以外の事業を指します。製造業やサービス業、小売業、情報通信業などは、一般の事業に該当します。合計の料率は1.45%です。
農林水産・清酒製造業の雇用保険料率は合計で1.65%と、一般の事業よりも0.2%高くなっています。季節的な雇用変動が大きく、失業のリスクが高い業種として位置づけられているため、通常よりやや高く設定されています。
そして、建設業の雇用保険料率はさらに高く、合計1.75%です。建設業は工事の受注状況や天候などにより雇用が不安定になりやすいためです。建設現場で働く作業員だけでなく、建設会社の事務員や営業担当者も建設業の料率が適用されます。
参考 2024年度の雇用保険料率
参考として、2024年度の雇用保険料率を見てみましょう。
| 一般の事業 | 従業員負担:0.6% 会社負担:0.95% |
| 農林水産・清酒製造業 | 従業員負担:0.7% 会社負担:1.05% |
| 建設業 | 従業員負担:0.7% 会社負担:1.15% |
一般の事業が合計1.55%、農林水産・清酒製造業が合計1.75%、建設業が1.85%と、いずれも2024年度のほうが高くなっています。
2024年度の保険料は、2023年度から据え置かれたものです。料率が維持された背景には、コロナ禍における雇用調整助成金の特例的な支給増加により、雇用保険財政が厳しい状況にあったことが挙げられます。
コロナ禍の影響も落ち着いたことで、2025年度は前年度よりも保険料が引き下げられました。
雇用保険料率はどう決まる?
雇用保険料は、保険財政のバランスを見ながら決定されます。景気が悪化し失業者が増えると、失業手当などの給付費が増加し財政が厳しくなるため、保険料率を引き上げて収入を確保する必要が生じます。一方、景気が回復して失業率が下がると、給付費が減少して財政に余裕ができるため、料率を引き下げて労働者や事業主の負担を軽減します。
この調整は雇用保険法に定められた「弾力条項」というルールに基づいています。ある程度柔軟に保険料率を増減することで、財政のバランスを保ちます。令和7年度は保険料率が引き下げられたことから、財政にある程度余裕があり、失業する人が減ってきていると想定できます。
建設業の料率が高い理由
建設業の料率が高く設定されているのは、失業リスクが他業種よりも高いためです。
建設業は、工事の受注状況や季節的要因によって雇用が変動しやすく、プロジェクト単位の有期契約も多い傾向にあります。そのため、他業種と比較して歴史的に労働者の離職率が高く、失業手当の給付を受ける可能性が高いのです。こうした性質を鑑みて、あらかじめ高い保険料率を適用することで安定した財源を確保しています。
令和7年度の保険料率の内訳を見ると、事業主のみが負担する「雇用保険二事業」の料率が、建設業は0.45%となっており、一般の事業の0.35%よりも高くなっています。これは、業界固有の雇用安定や人材育成策がより手厚く講じられている証拠です。
雇用保険料率が適用されるタイミング
雇用保険料率が適用されるタイミングは、基本的に給与計算の締め日です。一方、賞与については支払いが確定した日を基準とします。適用のタイミングを解説します。
4月1日以降の最初に締め日が来る給料から適用
毎月の給与計算において、新しい雇用保険料率を適用するのは「給与の支払日」ではなく、「給与計算期間の締め日」が基準となります。具体的には「4月1日以降、最初に到来する締め日」が属する給与計算期間から新料率を適用します。締め日をもってその給与が属する年度が確定するという考え方に基づくためです。
例えば、給与が末日締めの会社では、3月31日に締めた給与は、実際の支払いが4月25日でも「3月分」と見なされ旧料率が適用され、4月30日に締める給与からが新料率の対象となります。一方、15日締めの会社の場合、4月15日が4月1日以降最初の締め日となるため、3月16日から4月15日までの給与計算期間全体に対して新料率を適用します。
ルールの認識を誤ると全従業員の控除額を間違えてしまいます。自社の締め日を確認し、適用開始のタイミングを正確に把握することが重要です。
4月1日以降に賞与の支払いが確定した日を基準に適用
賞与の雇用保険料率の変更タイミングは、月々の給与とは異なり、原則として「賞与の支払確定日」が基準となります。
賞与は特定の給与計算期間に紐づかない一時金としての性格が強いものです。そのため、実務上は支払確定日が4月1日以降かどうかで判断することになります。
たとえ前年度の業績を反映した決算賞与であっても、その支払確定日が3月31日であれば旧料率を、支払確定日が一日違いの4月1日であれば新年度の料率を適用して保険料を計算します。
一般的に賞与が支払われるのは6月や12月です。この賞与は支払確定日が4月1日以降であることが多いため、その年度の新しい料率が適用されます。年度末から年度初めにかけて賞与を支給する場合に限り、十分な注意が必要です。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料の具体的な算出方法を解説します。雇用保険料は、以下の計算式で算出します。
- 雇用保険料=賃金総額×雇用保険料率
正確な計算をするには、保険料の対象となる賃金や手当を理解し、細かな処理を的確に進める必要があります。ルールをおさえて、正確な保険料の計算をすることが重要です。
計算対象となる賃金・ならない賃金
雇用保険料の計算は、社会保険料や税金を控除する前の「賃金総額」に従業員負担分の保険料率を掛けて算出します。賃金総額には、以下のようなお金が含まれます。
- 基本給
- 残業手当
- 役職手当
- 家族手当
- 住宅手当
- 通勤手当
- 賞与
など
一方、以下のようなお金は、計算の対象になりません。
- 役員報酬
- 退職金
- 結婚祝金
- 災害見舞金
- 傷病手当金
- 出張旅費(実費弁償分)
など
上記のお金は、雇用保険料の計算時には除外する必要があります。ただし、役員が従業員を兼務している場合の給与部分は対象となるケースもあるため、ハローワークや社会保険労務士などの専門家の力を借りながら、対象となる賃金を適切に分けていくとよいです。
交通費・通勤手当の取り扱い
給与計算の実務において特に間違いやすいのが、交通費や通勤手当の扱いです。交通費は、雇用保険料の計算対象に含まれます。所得税の計算において通勤手当が一定額まで非課税となるルールと異なるため、混同しないよう注意が必要です。
雇用保険・労災保険において、通勤手当は労働者が通勤という形で労働を提供するために支払われる「労働の対償」の一部と見なされます。そのため、課税・非課税の区別なく、賃金総額に合算して保険料を計算しなければなりません。
給与計算システムの設定を確認し、通勤手当が算定基礎に含まれているか、必ずチェックしましょう。
端数は50銭を基準に処理
雇用保険料の従業員負担分を計算した結果、1円未満の端数が生じるケースがあります。端数は、基本的に「50銭以下の場合は切り捨て、50銭を超える場合は切り上げる」というルールに基づき処理します。一般的な四捨五入とは異なるため、計算時には注意が必要です。
給与計算ソフトでは端数処理が正しく設定されているケースが多いですが、手計算で保険料を算出している場合は、計算ルールが間違っていないかよく確認しながら進める必要があります。
雇用保険料率に関する注意点
雇用保険料率については、以下の3点に注意が必要です。
- パート・アルバイトの取り扱いに注意する
- 計算ミスが起きた際は迅速に修正する
- 料率改正の情報を遅れずに入手する
情報の収集遅れや取り扱いの勘違いなどが起きると、ミスが相次いで発生する可能性もあります。発生時の対応も踏まえて、注意点をおさえて適切に対応することが求められます。
パート・アルバイトの取り扱いに注意する
パートやアルバイトといった雇用形態であっても、雇用保険の加入義務が生じる点には十分な注意が必要です。雇用保険の加入要件は、以下の3つです。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込みがある
- 学生ではない
上記を満たすなら、事業主は当該労働者を雇用保険に加入させる義務があります。適用される保険料率は正社員と同じです。制度の適用は正規・非正規といった雇用形態ではなく、労働時間と雇用期間の実態で判断されます。
加入手続きの漏れは「適用漏れ」と呼ばれ、後から遡って保険料を納付する必要が生じる上、従業員が失業した際に失業手当が受けられなくなる可能性があります。採用時にはこの基準を必ず確認し、労働条件通知書に明記するフローを徹底することが重要です。
計算ミスが起きた際は迅速に修正する
どれだけ注意していても、雇用保険料の計算ミスが起こる可能性はあります。従業員の給与から控除する保険料額を間違えてしまった場合は、迅速かつ誠実に対応することが鉄則です。
在職中の従業員であれば、原則としてミスが発覚した後の翌月以降の給与で差額を調整します。例えば、本来より少なく控除していた場合は、事情を説明した上で、翌月の給与から不足分を追加で控除します。逆に多く控除しすぎていた場合は、事情を説明して、翌月の給与に上乗せする形で返金します。
重要なのは、従業員との信頼関係を損なわないよう、透明性のある対応を心がけることです。こうした事態が起きた場合に備えて、社内で修正時の対応フローを事前に定めておくと、適切な手順で処理を進められます。
料率改正の情報を遅れずに入手する
雇用保険料率は毎年のように見直されるため、法改正の情報を遅れずに入手することが重要です。厚生労働省や管轄の都道府県労働局のWebサイトなどで確認するとよいです。
新しい保険料率は、通常、年明けの1月下旬から2月頃に労働政策審議会で議論・答申され、3月末までには正式に決定・公表されます。そのため、毎年2月頃になったら、これらの公式サイトを定期的に確認する習慣をつけるのがよいです。
また、利用している給与計算システムの提供会社からの法改正に関するお知らせや、顧問契約をしている社会保険労務士からの情報提供なども活用するとよいです。主体的に情報を取得し、誤った料率を適用してしまうリスクを根本からなくすことが求められます。
雇用保険料率に関するよくある質問
雇用保険料率に関する質問や疑問をまとめました。保険料計算の参考にしてください。
令和7年度の雇用保険料率が引き下げられたのはなぜ?
令和7年度の雇用保険料率引き下げは、経済回復により失業者が減少したことが要因です。令和7年度の雇用保険料率は1.45%と、コロナ禍で悪化した雇用保険財政が回復したことから、前年度から0.1%引き下げられました。
保険料は毎年変動するため、実務担当者は常に最新情報を追うことが必要です。
雇用保険料率が引き下げられたら手取りは増える?
雇用保険料率の引き下げにより労働者の手取り額は増えますが、増額分は決して大きくありません。従業員の雇用保険料の負担は、そもそも0.55%でほかの社会保険料よりも少なく、負担割合が変更となっても手取りにあまり影響がありません。
とはいえ、多少は負担が軽減されるため、従業員にとっては保険料率の引き下げは嬉しい変更といえます。
一般拠出金の変更はある?
令和7年度において、一般拠出金の料率に変更はなく、引き続き賃金総額の0.002%(0.02/1,000)が事業主負担として適用されます。一般拠出金は石綿(アスベスト)による健康被害の救済費用に充てられる拠出金で、雇用保険料とは別の制度として運営されています。
石綿による健康被害は長期間にわたって発生が予想されるため、料率は比較的安定的に設定されており、雇用保険料率のような頻繁な変更は行われません。拠出金の必要額も雇用情勢とは独立して決定されるため、雇用保険料率の変動とは連動しません。
なぜ事業の種類ごとに保険料率が違う?
事業の種類ごとに雇用保険料率が異なるのは、業種によって失業リスクや雇用の安定性に差があるためです。
建設業は工事の完成とともに雇用が終了する特性があります。また、農林水産業は季節的な雇用変動が大きいです。そのため、どちらも一般の事業と比較して失業等給付を受給する確率が高くなります。
業種特性を反映し、リスクに応じた適正な保険料負担を実現するため、事業種別の料率体系が採用されているのです。
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参考文献
厚生労働省「石綿健康被害救済法に基づく一般拠出金の徴収制度について」
監修












