出向とは?
目的・手続き・拒否された場合の対応・
出向契約書の規定事項などを解説!

無料で資料をダウンロード
 人事・労務部門ですぐに使えるChatGPTプロンプト集 >
✅ 副業解禁のために企業が知っておくべき就業規則の見直しポイント >
この記事のまとめ

「出向」とは、自社の従業員を別の企業へ赴任させることをいいます。

出向には「在籍出向」と「転籍出向」の2種類があります。
自社と出向者の雇用契約を存続させたまま出向させる場合は「在籍出向」、自社と出向者の雇用契約を終了させたうえで、出向者が出向先と新たに雇用契約を締結する場合は「転籍出向」に当たります。単に「出向」と言う場合は、在籍出向を指すのが一般的です。

在籍出向は、労働契約または就業規則に根拠があれば、人事権の濫用に当たらない限り、従業員に拒否されても命じることができます。ただしトラブルを避けるため、できる限り従業員の同意を得ることが望ましいです。
これに対して転籍出向は、従業員の個別同意が必須とされているため、拒否されたら強制することはできません。

この記事では出向について、目的・手続き・拒否された場合の対応・出向契約書の規定事項などを解説します。

ヒー

社員を出向させる話が出ているのですが、そもそも出向とは?がわかりません。

ムートン

自社の従業員を別の会社で働かせる人事異動のことです。自社との雇用契約を維持する在籍出向と、雇用契約を打ち切って完全に移籍させる転籍出向の2つに分かれます。混同されがちな派遣との違いや、法的に注意すべき点も多いので、詳しく見ていきましょう。

※この記事は、2025年10月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

出向とは

出向」とは、出向元・出向先間の出向契約に基づき、自社の従業員を別の企業へ赴任させることをいいます

在籍出向と転籍出向の違い

出向には「在籍出向(在籍型出向)」と「転籍出向(転籍型出向)」の2種類があります

在籍出向は、自社と出向者の雇用契約を存続させたまま、出向者が別の企業とも雇用契約を締結して、その企業で働くものです。
これに対して転籍出向では、自社と出向者の雇用契約を終了させたうえで、出向者が出向先と新たに雇用契約を締結します。

単に「出向」と言う場合は、在籍出向を指すのが一般的です。本記事では、在籍出向と転籍出向の両方を取り上げます。

出向の主な目的

出向は、さまざまな目的で行われます。出向の主な目的としては、以下の例が挙げられます。

① 人材の育成・キャリア形成
異なる環境で働いてもらうことで、従業員のスキルアップや視野の拡大を図ります。

② グループ内の人材交流
親会社から子会社、子会社から親会社などへ出向させることで、ノウハウの共有や連携強化を図ります。

③ 人員の調整
人員が余っている企業から不足している企業へ出向させることで、人材配置の適正化を図ります。

④ 他企業との連携強化
取引先や出資先などとの間で人材交流を行い、連携の強化を図ります。

出向と似た用語との違い|派遣・左遷・異動・転勤

出向に似た用語としては、「派遣」「左遷」「異動」「転勤」などがあります。各用語の意味と、出向との違いは以下のとおりです。

① 派遣
自社の従業員(=派遣労働者)を、別の企業の指揮命令下で働かせることをいいます。
出向とは異なり、派遣労働者は派遣先との間で雇用契約を締結しません。

② 左遷
非違行為や能力不足などを理由として行われる、キャリアや待遇の観点から不利となる人事異動をいいます。法律上の用語ではありません。
出向が事実上の左遷に当たる場合もありますが、それ以外に社内での配置転換など、左遷はさまざまな方式によって行われます。

③ 異動
「人事異動」の略称で、従業員の部署・役職・業務内容・勤務地などを変更することを意味します。出向も異動の一種ですが、それ以外に社内での配置転換なども異動に該当します。

④ 転勤
従業員の勤務地を変更することをいいます。転勤は社内での配置転換による場合も、出向による場合もあります。

企業が従業員を出向させるメリット・デメリット

企業が従業員を出向させることには、メリットとデメリットの両面があります。双方を比較して、より大きな収穫を得られるように出向者の選定などを行いましょう

企業が従業員を出向させるメリット

企業が従業員を出向させるメリットとしては、以下の各点が挙げられます。

・管理職候補の従業員などに、多様な業務や企業文化の経験を積ませることができる。
・グループ内の他企業や、取引先・出資先などとの間で連携を強化できる。
・グループ内の人員配置を最適化できる。
・従業員の経験や知見をグループ内の他企業にも共有することで、グループ全体の発展に繋がる。
など

企業が従業員を出向させるデメリット

企業が従業員を出向させるデメリットとしては、以下の各点が挙げられます。

・労務管理が複雑になる。
・従業員が出向先になじめないと、モチベーションが低下するおそれがある。
・グループ外の企業に出向させる場合は、情報漏洩などのリスクがある。
など

従業員に出向を指示する際の手続き

従業員に出向を指示するときは、以下の手順で検討や手続きを行います。

① 出向の候補者を選定する
② 候補者に出向を打診する
③ 出向契約書を締結する
④ 出向命令を行い、出向先に従業員を赴任させる

出向の候補者を選定する

まずは、出向の候補者を選定します。

選定に当たっては、目的に適した人材を選ぶことが大切です
例えばノウハウの共有を目的としている場合は、関係する業務について一定以上の経験を積んだ従業員を出向させることが望ましいでしょう。
取引先に出向させる場合は、すでに取引先との間で一定の面識を持っている従業員の方が、そうでない従業員に比べてスムーズになじみやすいと思われます。

候補者に出向を打診する

候補者を選定したら、その候補者に出向を打診します。

基本的には、本人の同意を得て出向させることが望ましいです(転籍出向は本人の同意が必須)。出向の目的や必要性、本人にとってメリットがあることなどを丁寧に説明して、理解を得るように努めましょう。

もし候補者に出向を拒否されたら、別の候補者を選定することも検討しましょう。在籍出向は本人が拒否しても命じることができる場合がありますが、トラブルのリスクがある点に注意が必要です。

出向契約書を締結する

出向者が決まったら、出向元と出向先の間で出向契約書を締結します。

出向契約書には、出向に関する以下の条件などを定めます。トラブルが生じないように、明確な文言で条文を作成することが大切です

・出向者と出向元の雇用契約の取り扱い(在籍出向なら存続、転籍出向なら終了)
・出向者が出向先との間で新たに雇用契約を締結する旨
・出向者の氏名、生年月日など
・出向期間
・出向中の勤務地、所属、役職、業務内容など
・出向中の労働条件(賃金、労働時間、休憩、休日、休暇など)
・賃金や社会保険料の負担(出向元と出向先の負担割合など)
・出向状況に関する報告
・復職時の手続き
など

出向命令を行い、出向先に従業員を赴任させる

出向契約書の締結が完了したら、出向元が出向者に対して出向命令を行い、実際に出向先へ赴任させます。転籍出向の場合、出向元はこの時点で出向者との雇用契約を合意解除します

出向先においては、出向者との間で新たに雇用契約を締結する必要があります。その際には、労働条件の明示(労働条件通知書の交付など)を行わなければなりません

出向の適法性|従業員に拒否されても、出向を命じることはできるか?

出向を打診したところ、従業員に拒否されてしまうケースもあります。

在籍出向については、一定の要件を満たせば本人が拒否していても命令できます。これに対して転籍出向は、従業員の個別同意が必須と解されているため、本人に拒否された場合は命令できません

在籍出向命令が認められるための要件

拒否する従業員に対して在籍出向を命じるためには、以下の要件をいずれも満たす必要があります。

(a) 労働契約または就業規則に根拠があること
(b) 人事権の濫用に当たらないこと

労働契約または就業規則に根拠があること

強制的な在籍出向を命じるためには、労働契約または就業規則に根拠規定が存在しなければなりません

例えばモデル就業規則8条には、以下の条文が定められています。同条2項および3項が、拒否する従業員に対して在籍出向を命じるための根拠規定に当たります。

(人事異動)
第8条 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。
2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。
3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

引用元|モデル就業規則 – 厚生労働省

人事権の濫用に当たらないこと

出向命令が不当な目的による場合や、従業員に与える不利益が大きすぎる場合には、労働契約や就業規則に根拠規定が存在するとしても、人事権の濫用として出向命令が無効となります(労働契約法14条)。

例えば以下のようなケースでは、出向命令が人事権の濫用として無効となる可能性が高いです。

・毛嫌いしている従業員に嫌がらせをする目的で出向を命じた。
・家族の介護をしている従業員に対して、代替者を容易に見つけることができるにもかかわらず、遠方への出向を命じた。
・出向前と比べて、大幅に賃金などの待遇が悪化する出向を命じた。
など

転籍出向は個別同意が必須|拒否された場合は認められない

転籍出向については、従業員本人の個別同意が必須とされています。出向元と締結している雇用契約が終了するため、従業員が受ける影響が在籍出向よりも大きいためです。

したがって、拒否する従業員に対して転籍出向を強制することはできません。転籍出向が必要なら、別の従業員に打診しましょう。

出向後の契約関係(出向元・出向先・従業員)

従業員が出向した後、出向元・出向先・従業員の間に存在する契約関係のあり方は、在籍出向と転籍出向で異なります。

在籍出向の場合|出向元と従業員の雇用契約+出向元と出向先の出向契約+出向先と従業員の雇用契約

在籍出向の場合は、以下の3つの契約関係が生じます。

(a) 出向元と従業員の雇用契約(出向前から存続)
(b) 出向元と出向先の出向契約
(c) 出向先と従業員の雇用契約

出向する従業員は、出向元と出向先の両方と雇用契約を締結した状態になります

転籍出向の場合|出向元と出向先の出向契約+出向先と従業員の雇用契約

転籍出向の場合は、出向元と従業員の雇用契約が終了するため、以下の2つの契約関係が残ります。

(a) 出向元と出向先の出向契約
(b) 出向先と従業員の雇用契約

出向する従業員は、出向先だけに雇われた状態となります

出向中の労働条件などに関する注意点

従業員に出向を指示する際には、特に以下のポイントに注意しましょう。

① 最低でも、出向前の労働条件を維持するのが原則
② 在籍出向でも、従業員の個別同意を得ることが望ましい

最低でも、出向前の労働条件を維持するのが原則

従業員の理解を得てトラブルを予防する観点からは、賃金などの労働条件については、最低でも出向前の労働条件を維持するのが原則となります

賃金を引き下げたり、出向前は利用できた福利厚生をはく奪したりすると、深刻なトラブルの原因になり得るので要注意です。従業員の立場や人格を尊重して、出向後の待遇を適切に定めましょう。

在籍出向でも、従業員の個別同意を得ることが望ましい

在籍出向は、労働契約または就業規則に根拠規定があり、かつ人事権の濫用に当たらなければ、本人が拒否しても命じることができます。

ただし、強制的に出向させられたことについて従業員が不満を感じていると、仕事のモチベーションが上がらないおそれがあります。また、会社に対して出向命令の無効を主張してくるなど、トラブルに発展する可能性も否めません。

基本的には在籍出向であっても、従業員の同意を得ることが望ましいです。出向の必要性やメリットなどについて説明を尽くしたうえで、どうしても本人の同意が得られないなら、別の候補者を探すことも検討しましょう。

在籍型出向の支援制度

政府は、スキルアップを目的とした在籍出向に対する助成制度として「産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)」などを設けています。同助成金では、復帰後の賃金を出向前よりも5%以上上昇させた場合、出向元事業主が負担した出向中の賃金の一部が助成されます。

また産業雇用安定センターは、人員調整などを目的とする在籍出向について、出向元と出向先のマッチングを無料で行っています。

これらの支援制度については、厚生労働省のウェブサイトで詳しく案内されているのでご参照ください。

参考:厚生労働省ウェブサイト「在籍型出向支援」
ムートン

最新の記事に関する情報は 、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

無料で資料をダウンロード
 人事・労務部門ですぐに使えるChatGPTプロンプト集 >
✅ 副業解禁のために企業が知っておくべき就業規則の見直しポイント >

参考文献

厚生労働省「モデル就業規則」

厚生労働省ウェブサイト「在籍型出向支援」