労働時間とは?
休憩時間の扱いや計算方法、
賃金の扱いなどを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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労働時間とは、労働者が働く時間のことで、具体的には労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。
・時間外労働をする際は36協定の締結および届出が必要です。
・時間外労働や深夜労働などの際は、割増賃金の支払いが必要です。
・労働時間は、休憩時間と分けて考える必要があります。本記事では、労働時間について、基本から詳しく解説します。
※この記事は、2025年6月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
労働時間とは
労働時間は労働基準法で定義が明示されているわけではなく、これまでの判例によって意味が定められてきました。以下では、労働時間の定義や種類について解説します。
労働基準法上の労働時間とは
労働基準法上の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことをいいます。具体的には、労働者が会社の指示により業務に従事、または事実上参加等が強制されているかどうかが、労働時間に該当するかどうかの判断基準となります。
例えば、緊急時の対応が求められる場合の仮眠時間や指示を待つ際の待機時間は、労働時間として扱われます。また、業務命令として義務付けられた研修時間や、作業のための着替え時間も労働時間に該当する時間です。ただし、通勤時間は原則として対象外です。自宅と会社を往復する一般的な通勤の場合、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないと解されるためです。
法定労働時間と所定労働時間の違い
法定労働時間は労働基準法で定められた労働時間の上限で、原則として1日8時間・週40時間です。ただし、常時雇用している労働者の数が10人未満の卸売業や小売業、病院、旅館といった事業場の場合は週44時間となります。
一方、所定労働時間は各企業が就業規則や雇用契約で独自に設定する労働時間のことです。法定労働時間の範囲内であれば「1日7時間・週35時間」といったように自由に決められます。
主な労働時間制度の種類
企業は業種や職種の特性に応じて、さまざまな労働時間制度を選択できます。主な労働時間制度は以下のとおりです。
- 固定労働時間制:労働者の働く時間が常に固定されているもの。
- 変形労働時間制:一定期間を平均して週の法定労働時間を超えなければ、特定の日や週に法定労働時間を超えて働かせることができるもの。
- フレックスタイム制:一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が始業・終業時刻を自主的に決定できるもの。
新たな労働時間制度を導入する際は、導入理由や導入による効果を労働者へ丁寧に説明することが重要です。
労働時間の上限
法定労働時間を超える労働は、原則認められません。しかし、36協定を締結し、所轄の労働基準監督署長へ届け出れば、例外的に時間外労働が認められます。労働時間の上限や36協定の内容について解説します。
36協定による時間外労働の上限
労働基準法第36条第4項に基づき、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間と定められています。36協定とは、企業が法定労働時間である1日8時間・週40時間を超えて労働者に労働させる場合に労働者の代表や労働組合と締結する協定です。
36協定では時間外労働を行う業務の種類を具体的に特定し、締結した内容は労働者に周知することが義務付けられています。なお、法定休日の労働は休日労働に該当するため、時間外労働の上限には含まれません。
なお、建設業、医師、ドライバー、一部地域の砂糖製造業においては特有の事情から時間外労働の上限規制適用が猶予されていましたが、2024年4月から適用が開始されています(一部特例あり)。
36協定の特例
臨時的・特別な事情がある場合に限り、特別条項付き36協定を締結することで、労働者により長い時間外労働を行わせることが可能になります。具体的な制限は以下のとおりです。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満(休日労働含む)
- 2~6カ月の各平均がすべて80時間以内(休日労働含む)
- 月45時間を超えることができるのは年6カ月まで
特別条項は例外措置であり、常態化してはいけません。可能な限り、原則の上限内の時間外労働で収まるよう努めることが重要です。
36協定に違反した場合の罰則
36協定の上限規制に違反した場合、企業には罰則が科される可能性があります。労働基準法第119条に基づき、6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されるほか、労働基準監督署から行政上の措置として是正勧告、改善指導等を受ける場合があります。
悪質な事案では企業名が公表される場合もあり、企業イメージの悪化や採用活動への悪影響、労働者から未払い賃金請求を受けるなど、さまざまなトラブルのもとになる点に注意が必要です。
割増賃金の支払義務(時間外労働、休日労働など)
労働者に時間外労働や休日労働をさせた際は、割増賃金を支払う必要があります。以下の3つのケースについての割増賃金の扱い方を見ていきます。
- 時間外労働の割増賃金
- 深夜労働の割増賃金
- 休日労働の割増賃金
また、あわせて固定残業代制度を導入する際の注意点についても解説します。
時間外労働の割増賃金
法定労働時間である1日8時間・週40時間を超えて労働させた場合、労働基準法37条に基づき、使用者は通常賃金の25%以上の割増賃金を支払う義務があります。例えば、所定労働時間が7時間の会社で8時間労働した場合、7~8時間は割増なし、8時間を超えた分から25%の割増となります。
また、月の労働時間が60時間を超えた場合の割増率は50%です。2023年からは、中小企業にもこの割増率での支払いが適用されています。
深夜労働の割増賃金
午後10時から午前5時までの深夜時間帯に労働者に労働させた場合、使用者は通常賃金の25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
深夜労働が時間外労働と重複する場合は割増率が加算され、深夜かつ時間外の場合は50%以上(25%+25%)、休日かつ深夜の場合は60%以上(35%+25%)の割増率となるため、計算時に注意が必要です。
休日労働の割増賃金
休日労働とは、法定休日に働かせることを指します。法定休日は、労働基準法で定められた「労働者に必ず与えなければならない休日」のことです。
法定休日である週1日または4週4日の休日に労働させた場合は35%以上の割増賃金の支払いが必要です。深夜時間に勤務した場合は深夜割増と重複し、割増率は60%以上(35%+25%)となります。
また、法定外休日(所定休日)の労働が週40時間を超えた分は、時間外労働として扱われ、25%以上の割増率が適用されます。加えて、振替休日と代休の違いも重要です。振替休日は休日を休日でなくした結果設定されるもののため、週の労働時間が40時間を超えない限りは労働日に対して割増賃金は発生しません。一方、代休は休日労働をした結果設定されるものであり、その休日が法定休日である場合は35%以上の割増賃金の支払いが必要になります。
計算は「1時間あたりの賃金×1.35×実際に働いた時間」で算出し、8時間未満の労働でも35%割増となります。
固定残業代(みなし残業代)制度を導入する場合の注意点
固定残業代制度を導入する場合、対象となる時間外労働時間数と割増賃金額を明確に定め、実際の時間外労働時間数が所定の時間を超えた場合は、差額の支払いが必要です。
固定残業代の明示は「月30時間分の時間外労働に対して5万円」のように具体的にする必要があり、基本給に含める形式は、基本給と割増賃金部分を明確に分離できないため、裁判で無効と判断される可能性が高くなります。労働契約書などでの明示の際は、十分な注意が必要です。
労働時間の計算の仕方
労働時間の計算の仕方を、所定労働時間8時間・7時間の場合を例に解説します。あわせて、計算方法の原則や注意点も見ていきます。
労働時間の計算方法の原則
労働時間の計算は1分単位で行うことが法律で定められています。15分単位や30分単位での端数処理は、賃金未払いの時間が発生し、労働者にとって不利となる場合があります。そのため、労働基準法違反と判断される場合があります。
記録方法についても、タイムカードやICカード、PCログなど客観的な記録に基づき正確な始業・終業時刻を把握することが求められます。
所定労働時間が8時間の場合
所定労働時間が法定労働時間と同じ8時間の場合、労働時間の計算は比較的シンプルです。8時間を超えた労働時間はすべて時間外労働となり、25%以上の割増賃金の支払い対象となるためです。
例えば、9時から18時(休憩1時間)の8時間勤務の場合、18時以降の労働は全て25%割増の対象となります。また、22時以降は深夜労働となるため、深夜割増25%が加算され、時間外労働とあわせて合計50%の割増賃金となります。
所定労働時間が7時間の場合
所定労働時間が7時間の場合、法定内残業と法定外残業を正確に区別する必要があります。所定労働時間を超えても法定労働時間8時間以内であれば割増賃金は不要で、通常賃金のみの支払いとなります。8時間を超えた分から25%以上の時間外割増賃金の支払いが必要です。
例えば、9時から17時(休憩1時間)の7時間勤務で19時まで勤務した場合、7時間から8時間の1時間は法定内残業として通常賃金、8時間を超える1時間は法定外残業として25%の割増賃金となります。
計算時に気をつけるべきポイント
労働時間の計算では、休憩時間の除外を忘れずに行う必要があります。休憩時間は6時間超の労働で45分以上、8時間超で1時間以上です。また、深夜時間との重複処理も注意が必要です。22時から5時の深夜労働は25%割増、時間外労働と重複すれば50%割増となります。
勤怠管理システムを適切に設定した上で、エクセルテンプレートの活用や複数人でのチェックなどをして、賃金額に間違いがないよう計算をすることが大切です。
労働時間を管理するための方法
労働時間を適切に管理するには、以下の5点を重視してください。
- 労働時間の客観的な把握
- 勤怠管理システムの活用
- 法改正対応と社内規程の見直し
- リモートワークなど多様な働き方への対応
- 長時間労働の慢性化の是正
労働時間を管理するには、法的義務を遵守しさまざまなツールを駆使することが大切です。
労働時間の客観的な把握
労働時間の客観的な把握は使用者の法的義務です。自己申告制に頼るのは労働基準法や労働安全衛生法違反のリスクを高めるため、タイムカードやICカード、PCログなどの客観的な記録方法を用いる必要があります。
自己申告制を併用する場合は、タイムカードのような客観的データとの照合・検証作業を行い、労働時間と実際の業務内容との整合性をチェックします。正確な労働時間の把握が、適切な賃金支払いにつながります。
勤怠管理システムの活用
勤怠管理システムを活用することにより、労働時間の正確な記録・計算・分析が自動化され、効率的な労働時間管理が実現できます。
手作業による労働時間管理では計算ミスや法令違反のリスクが高く、計算の複雑化や多様な働き方への対応が困難です。正確性と効率性を向上するなら、システムの導入が不可欠です。
法改正対応と社内規程の見直し
法改正に対応するためには、法改正情報の把握や定期的な社内規程の見直しが必要です。労働関連法令は頻繁に改正されています。迅速に対応するためにも、日頃からの情報収集を怠らないことが大切です。
また、改正に基づく社内規程の見直しも重要です。規程が法令を下回るような条件になっていないか確かめつつ、常に見直しを続けながら運用していく必要があります。
リモートワークなど多様な働き方への対応
リモートワークや在宅勤務など多様な働き方では、従来の労働時間の管理手法が適用しにくいため、新たなアプローチが必要です。リモートワークでは物理的な出退勤の概念が曖昧になり、労働時間と私生活の境界が不明確になりやすく、正確な労働時間把握が困難になります。
労働時間を把握するには、メールやチャットによる始業・終業時刻の報告システム、PC操作ログやアプリケーション使用時間の記録・分析などを駆使します。
また、中抜け時間(私用での業務中断)の適切な管理、フレックスタイム制や裁量労働制の活用による柔軟な時間管理も有効です。
長時間労働の慢性化の是正
長時間労働の慢性化の是正は、労働時間の短縮だけでなく労働者の健康管理のためにも重要です。
長時間労働は労働者の健康被害、生産性の低下、労働災害のリスク増加などの深刻な問題を引き起こし、企業にとっても人材の離職、採用困難、法的リスクなどの経営上の損失をもたらします。
長時間労働を減らすには、業務プロセスの見直しや無駄な作業の削減・自動化、適正な人員配置、業務分担の最適化などが有効です。また、残業の事前申請・承認制度の徹底、ノー残業デーや早帰り推奨日の設定と実施も効果的です。
休憩時間付与の義務
会社で働く際は、労働時間とは別に休憩時間を設けなければなりません。休憩時間の概要や原則、労働時間との関連性を解説します。
休憩時間とは
休憩時間とは、労働者が労働時間の途中で休息のために労働から完全に解放されることを保障されている時間をいいます。労働基準法34条により使用者に付与義務が課せられています。付与すべき休憩時間は以下のとおりです。
- 労働時間6時間を超える場合:45分以上
- 労働時間8時間を超える場合:1時間以上
6時間ちょうどの労働時間であれば、休憩を与える義務は生じません。6時間を少しでも超える場合は、休憩を与える必要があります。分割での付与もできますが、労働者が十分に疲労回復できるような与え方をしなければなりません。
休憩時間の3原則
休憩時間の付与は、労働基準法で定められた以下の3つの原則に従って行う必要があります。
途中付与の原則 | 休憩は労働時間の途中で与える必要がある。勤務時間の始めや終わりに与えることは認められない。 |
一斉付与の原則 | 原則として事業場の全労働者に一斉に休憩を付与することが求められる。ただし、労使協定により交代制での付与も可能。 |
自由利用の原則 | 労働者が休憩時間を自由に利用でき、自由な活動が保障されている必要がある。 |
なお、運輸交通業・商業・金融保険業・官公署など、業務の性質上労働者へ一斉の休憩付与が困難な業種は、一斉付与の原則の例外扱いとなっています。
また、常勤の消防団員や児童と起居をともにする児童自立支援施設の職員などは、自由利用の原則の例外となっています。
休憩時間は労働時間に含まれる?
休憩時間は労働時間には含まれず、賃金の支払対象外となるのが原則です。休憩時間は労働者を労働から解放する時間であり、使用者の指揮命令下にない状態のためです。
ただし、休憩時間中であっても電話や来客対応を求められる場合のように、実質的に労働から解放されていない時間は労働時間として扱われ、賃金支払対象となります。
労働時間に関するよくある質問
労働時間に関する質問や疑問をまとめました。労働時間の取り扱いなどに悩んだ際の参考としてください。
管理監督者の労働時間の取り扱いは?
管理監督者は労働基準法41条により労働時間・休憩・休日の規定が適用除外となります。そのため、時間外労働に関する割増賃金の支払いは不要です。ただし、深夜労働については22時から5時の時間帯に労働した場合、25%以上の割増賃金の支払いが必要です。
また、管理監督者であっても労働安全衛生法の観点から労働時間の状況を把握しなければならない点には注意が必要です。
休憩時間を分割することはできる?
休憩時間の分割は労働基準法上認められており、法定の最低休憩時間を満たしていれば複数回に分けて付与できます。労働者が疲労回復に努められるよう、休憩時間を分割する際は就業規則で明確な規定を定めることが大切です。
労働時間の取り扱いに関するガイドラインはありますか?
厚生労働省は労働時間管理に関する複数のガイドラインを公開しており、企業の適切な労務管理を支援しています。「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」などは、日々の業務で判断に迷った際に利用すれば、解決のヒントを得られる可能性があります。
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監修