時間外労働とは?
残業との違い・割増率・上限・
実務運用のポイントなどを分かりやすく解説!
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※この記事は、2025年4月28日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
時間外労働とは
時間外労働とは、法律や就業規則で定められた労働時間を超えて行われる労働を指します。
労働基準法では、1日8時間・週40時間以内の労働を法定労働時間と定めており(同法32条1項・2項)、これを超える労働が「法定時間外労働」です。企業は労働者が法定外の労働を行った時間に対して割増賃金を支払う義務を負います。
また、所定労働時間(企業が就業規則などで定めた労働時間)を超えたが、法定労働時間内に収まる労働は「所定時間外労働」と呼ばれています。割増賃金の有無などの違いはありますが、どちらも労働者の健康に影響を及ぼす可能性があるため、適正な管理を行わなければなりません。
所定時間外労働・法定時間外労働の違い|残業との違いを解説
所定時間外労働とは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)の範囲で企業が定めた労働時間を超えて働いた時間を指します。一般に「残業」と呼ばれるのは法定時間外労働を指すことが多く、法律では所定時間外労働には割増賃金の支払いは義務付けられていません。

ただし、就業規則上では所定外労働時間も法定時間外時間と同様の取り扱いをすると定められている場合もあるので、運用には注意が必要です。
時間外労働の計算方法・割増率
時間外労働に対する割増賃金の料率は、労働基準法で定められています。通常の労働時間を超えた場合(法定外労働)、割増率は25%以上とされていますが、月60時間を超える時間外労働についての超過分は割増率が50%以上となります(労働基準法37条1項。中小企業についての猶予措置は2023年3月31日に終了)。
割増賃金の計算に当たっては、1分単位で時間外労働時間を把握し、未払いが発生しないよう管理を徹底することが重要です。
深夜・休日労働の割増率
深夜労働とは午後10時から午前5時までの勤務のことで、通常の賃金に25%以上の割増率が適用されます。これが時間外労働と重なる場合は、合計で50%以上の割増率となります(労働基準法37条4項)。
また法定休日に労働した場合は、法定休日に労働した全ての時間に35%以上の割増賃金の支払いが必要となります(労働基準法37条1項、労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)。振替休日制度などを導入しても、適切に運用されなければ割増賃金の支払い義務が生じる点に注意してください。
振替休日・代休取得時の取り扱い
「振替休日」と「代休」はどちらも休日労働の代わりに与えられる休暇ですが、両制度の違いには注意が必要です。
振替休日は、予め休日と労働日を入れ替える制度で、事前に手続きが行われた場合、割増賃金は不要です。
一方で、代休は休日出勤後に別の日を休みにする制度であり、休日出勤当日の労働は「法定休日労働」として扱われます。したがって、代休を取得した場合でも法定休日の労働時間に対して35%以上の割増賃金が必要となります。両制度の違いを理解し、適切に運用を行いましょう。
36協定締結のポイント
時間外労働を適法に行うためには、36協定の締結が不可欠です(労働基準法36条1項)。ここでは、協定締結時に押さえておくべき内容と注意点について解説します。
協定書の内容と締結手続き
労働者に時間外労働や休日労働をさせるには、労使間で「時間外・休日労働に関する協定書(36協定)」を締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。
協定書には、延長可能な労働時間の範囲や業務内容、対象労働者の範囲などを明記します。また、締結には労働者の過半数代表または労働組合との合意が必要となります。36協定は締結後に労働基準監督署へ届け出て初めて法的効力が発生するため、手続き漏れには注意が必要です。
時間外労働の上限規制とは|月45時間・年360時間の原則
時間外労働の上限規制は労働基準法により定められ、原則として月45時間・年360時間を超えることはできません(同法36条4項)。この規制は過剰な時間外労働を防ぐことを目的としていますが、特別な事情がある場合に限り、次に述べる「特別条項付き36協定」を締結することで、上限を超える時間外労働を行うことが可能となります。
特別条項付き36協定とは
通常の36協定では、時間外労働は月45時間・年360時間が上限です。しかし業務の繁忙など「臨時的・特別な事情」がある場合に限り、これを超える労働が可能になるのが「特別条項付き36協定」です。
この特別条項を設けることで、柔軟な労務管理ができる一方、厳しい制約があります。具体的には月45時間を超える労働は「年6回以内」に限られ、1カ月当たりの時間外労働と休日労働の合計も「100時間未満」に抑えなければなりません。さらに2カ月〜6カ月平均で「80時間以内」に収める必要があります。
回数や時間数の管理を怠ると違法となるため、慎重な制度運用が求められます。
臨時的な特別の事情がある場合の対応
特別条項付き36協定で「特別な事情がある場合」として例示されているのは、納期対応や人員不足など一時的な業務増加です。つまり「慢性的な人手不足」など恒常的な理由は対象外です。特別条項の運用には、上限を超えた回数や時間を正確に管理することが重要です。
違反した場合のリスクとは
36協定を超える時間外労働を命じた場合、企業は労働基準法違反として罰則の対象となります。刑事罰(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金。労働基準法119条)に加え、是正勧告や企業名の公表リスクもあります。違反が繰り返されれば、労働者からの訴訟リスクや社内外の信用失墜にもつながるため、協定を遵守し、日々の労働時間管理を徹底する必要があります。
多様な働き方と時間外労働のルール|リモートワーク・フレックス・時短勤務の実務対応
近年、働き方改革の一環として、リモートワーク、フレックスタイム制、時短勤務など、柔軟な働き方が増加しています。ここでは、さまざまな働き方に対応する時間外労働の管理方法について解説します。
在宅勤務・リモートワーク下での時間外労働の取り扱い
テレワーク環境でも、時間外労働の原則は変わりません。業務上の必要がある残業は時間外労働とされ、割増賃金の支払いが必要です。一方で、自主的な作業や中断の多い勤務形態では、業務指示の有無を明確にすることが必要です。
フレックスタイム制における時間外労働時間の計算方法
フレックスタイム制では、一定の期間(清算期間)で労働時間を管理するため、1日ごとの残業計算を行う必要がありません。清算期間を超えた勤務が法定労働時間を上回る場合に限り、時間外労働となります。フレックスタイム制の導入時には、就業規則への明記と、労使協定の締結が必須です(労働基準法32条の3)。
時短勤務者の時間外労働の注意点
時短勤務の労働者であっても、所定労働時間を超えた分が時間外労働になるかどうかは、就業規則や契約内容によります。法定労働時間(1日8時間)を超える場合には、通常勤務の労働者と同じく、割増賃金の支払い義務が発生します。本人の希望による残業であっても、「労働者の申し出=自由意思」とは限らないため注意しましょう。
法令違反を防ぐために把握するべき実務ポイント
時間外労働時間の管理や割増賃金支払いに関するトラブルを防ぐために、人事労務担当者が押さえておくべき基本事項と注意点について解説します。
残業代が発生しない?管理監督者の誤解と注意点
労働基準法では「管理監督者」に該当する場合、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用除外されるため、時間外手当の支払い義務はありません。しかし「管理監督者」と認められるには、単に役職名が課長・部長であるだけでは不十分で、以下の要素が求められます。
- 経営者と一体的な立場にあること
- 重要な責任と権限があること
- 勤務時間に裁量があること
- 相応しい待遇を受けていること
上記を満たしていない場合、「名ばかり管理職」として残業代の未払いを指摘され、過去にさかのぼって多額の残業代の支払いを命じられるリスクがあります。役職名だけで判断し、管理監督者として扱うことのないように気を付けましょう。
「みなし残業」で見落とされがちなリスク
みなし残業(固定残業)制度を導入する場合、賃金規定や雇用契約書に、対象となる残業時間数と割増賃金額を明示する必要があります。また、みなし残業時間を超える労働が発生した場合には、別途残業代を追加で支払う義務がある点にも注意が必要です。
さらに、基本給が最低賃金を下回るリスクも存在します。最低賃金を超えているかどうかは基本給で判断されるため、適切な給与設定が求められます。
みなし残業制度があるからといって時間外労働時間の管理を怠らないように注意しましょう。
自主的な残業でも未払賃金になる可能性
労働者が自主的に行った残業であっても、使用者がこれを認識しながら黙認していた場合、「指示による労働」とみなされ、時間外労働として取り扱われます。
例えば、上司が部下の遅くまでの在席(残業)を知っていながら何ら対応しなかった場合、部下からの申告がなかったとしても、企業側に未払賃金の支払い義務が生じる可能性があります。自主的残業の防止には、事前申請制の徹底や、勤務実態の可視化が有効です。
働き方改革・時間外労働削減のためにできること
働き方改革を推進し、企業が時間外労働削減のために取り組むべき内容をご紹介します。
ツール導入・従業員教育による業務効率化
業務の効率化は、時間外労働削減のための第一歩です。具体的には、タスク管理ツールの導入による業務タスクの可視化や、チャットツールによる迅速なコミュニケーション体制の構築などが効果的です。
また、業務の優先順位付けや無駄な会議の削減を目的とした「業務改善研修」を実施することで、従業員の意識改革を図ることも重要です。定期的な教育を通じて、効率的な業務の進め方や残業のリスクを周知し、時間外労働の削減を目指しましょう。
フレックス制度の導入
フレックスタイム制を導入することで、業務の繁閑に合わせた柔軟な働き方が可能となり、残業時間の抑制につながります。清算期間内で所定労働時間を調整できるため、ライフスタイルに合わせた働き方ができることで、ワークライフバランスの向上にも貢献します。ただし、制度導入には労使協定の締結と、就業規則の整備が必要で、運用開始後には適切な労働時間管理が求められます。
ノー残業デーの制度化と実行
毎週一定曜日を「ノー残業デー」と設定し、定時退社を促す取り組みも有効です。単なるスローガンで終わらせず、管理職による率先した退社、業務スケジュールの見直し、会議の早期終了など、具体的な行動指針を設けて全社員に徹底することが成功の鍵となります。また、実施状況を定期的にモニタリングし、企業文化として定着させることが重要です。
時間外労働の事前申請制による抑制
時間外労働を行う場合には、事前に上司への申請・承認を必須とする「残業の事前申請制」を導入することで、不要な残業を抑制できます。原則として無許可の残業を禁止し、違反があった場合のペナルティも明確にしておくと効果的です。事前申請制度を設けることで、業務を労働時間内で終わらせるための意識が高まり、企業の生産性向上にも寄与します。
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