意匠法とは?
基本を分かりやすく解説!

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弁護士法人NEX弁護士
2015年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。経済産業省知的財産政策室や同省新規事業創造推進室での勤務経験を活かし、知的財産関連法務、データ・AI関連法務、スタートアップ・新規事業支援等に従事している。
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この記事のまとめ

意匠法は、意匠(デザイン)の保護と利用を図ることにより、意匠の創作を促し、産業の発展に貢献することを目的とする法律です。

主に、意匠の登録に関する要件・手続や、意匠権の効力、意匠権が侵害された場合の法律関係について規定しています。

この記事では、意匠法の知識がない方にも基本から分かりやすく解説します。

(※この記事は、2022年10月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)

意匠法とは

意匠法とは、「意匠」を公開する代わりに、その意匠の実施(使用・譲渡など)を独占できる制度を定めた法律です。

ヒー

そもそも「意匠」とは何でしょうか。

ムートン

意匠は、一言でいうと「物品や建築物などのデザイン」ですね。法令上の詳細な定義は、「意匠法の保護対象となる「意匠」とは」で解説します。

意匠権は、特許庁へ意匠出願をして、意匠登録がされてはじめて取得できます(意匠権をもつ者のことを「意匠権者」といい、登録された意匠を「登録意匠」といいます)。

意匠権者は、登録意匠の実施を独占できるため、他人が自らの登録意匠を無断で使用する場合、使用の差止めや損害賠償等を請求することができます(意匠法37条、民法709条)。

意匠法の目的

意匠法の目的は、「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与すること」です(意匠法1条)。

意匠とは物品等のデザインであり、目で見ることができるため、簡単に模倣することができます。

しかし、模倣が無断で自由にできる状態だと、意匠の創作者は経済的利益を得ることが難しくなり、新たな創作をする意欲ももてません。

そこで、意匠法では、意匠の創作者に一定期間独占的に意匠を実施する権利を与え、意匠創作のインセンティブを与えるとともに、模倣を認めないことで産業の発展に貢献することを目的としています。

意匠法の保護対象となる「意匠」とは

以下、まず意匠法の保護対象である「意匠」について説明します。

意匠とは|意匠の種類

「意匠」には、

①物品の意匠
②建築物の意匠
③画像の意匠

があります(意匠法2条1項)。

②建築物の意匠と③画像の意匠は、2019年意匠法改正により保護が認められた比較的新しい意匠です。

①物品の意匠

①物品の意匠とは、「物品(物品の部分を含む…)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(…形状等…)であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」をいいます(意匠法2条1項)。

物品の意匠の例として、例えば、車やかばんのデザインが挙げられます。

【物品の意匠の例】

特許庁ウェブサイト「令和元年意匠法改正特設サイト」

②建築物の意匠

②建築の意匠とは、「建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等(※形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合)…であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」をいいます(意匠法2条1項)。

建築物の意匠の例として、例えば、博物館やホテルのデザインが挙げられます。

【建築物の意匠の例】

特許庁ウェブサイト「令和元年意匠法改正特設サイト」

③画像の意匠

③画像の意匠とは、「画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。…)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるもの」をいいます。

この定義のとおり、意匠法上保護される画像意匠は、

・操作画像|機器の操作のために用いるもの
・表示画像|機器がその機能を発揮した結果として表示されるもの

に限られます。

具体的には、スマホの操作画面やアプリの表示画面が挙げられます。なお、単なる壁紙や、映画・ゲーム等のコンテンツの画像などは、意匠法では保護されません。

【画像の意匠の例】

特許庁ウェブサイト「令和元年意匠法改正特設サイト」

特別な意匠登録制度

意匠登録制度は、物品・建築物・画像(以下、「物品等」とまとめます)のデザインを保護する制度です。

しかしその他にも、いくつかの特別な制度が存在しますので、ここではそれらを解説します。

部分意匠制度

部分意匠制度とは、物品等の一部分について、意匠登録を受けることができる制度です。

物品等から切り離せないものの、ある部分にデザイン上の特徴があるような場合に、部分意匠制度を活用することで、当該部分を手厚く保護することが可能となります。

組物の意匠

組物の意匠とは、セットものの意匠のことです。

組物の意匠の例としては、以下のようなものがあります。

・「包丁」と「まな板」の「一組の調理器具セット」
・「テーブル」と「椅子」の「一組の家具セット」

意匠法では、原則として、一つの物品等につき一つの意匠権の成立を認めています。しかし、以下に該当する場合は、組物の意匠として、複数の物品等について一つの意匠登録が認められています(意匠法8条)。

・同時に使用される2以上の物品等であること
・意匠法施行規則別表で定めるものに該当すること
・組み合わせた物が全体としての統一性をもっていること

内装の意匠

内装の意匠とは、店舗・事務所等の内装(内部の設備・装飾)を構成する物品等について、内装全体として統一的な美感を起こさせるときに、一つの意匠として意匠登録を受けることができる制度です(意匠法8条の2)。

関連意匠制度

関連意匠制度とは、自己の登録意匠などに類似する意匠については「関連意匠」として意匠登録を認める制度です(意匠法10条)。

意匠登録は、本来、先願主義となっており、出願・登録済の意匠に類似する意匠は登録が認められません。しかし、関連意匠制度を利用すれば、既に出願・登録されている自己の意匠に類似する場合であっても、登録意匠として保護できるようになります。

関連意匠制度は、例えば、企業がシリーズ製品について、一貫したコンセプトに基づいたデザインを行い自社ブランドの構築を図ろうとする場合に活用できます。

秘密意匠制度

秘密意匠制度は、意匠権の設定登録の日から最長3年間、登録意匠の内容を秘密にすることができる制度です(意匠法14条)。

意匠権の設定登録がされた場合、意匠権の内容は意匠公報に掲載され公にされますが(意匠法20条3項)、意匠は物品等の外観で模倣されやすい特徴があるため、この秘密意匠制度を活用することで、製品発表のタイミング等をコントロールすることができます。

意匠登録を受けるための要件

「意匠」の全てが意匠登録を受けることができるわけではなく、意匠登録を受けるためには、「意匠」が意匠登録要件を満たすことが必要です。

具体的には、以下の要件を満たす必要があります。

①工業上、利用できること
②新規性があること
③創作非容易性がある(高い創作性がある)こと
④他人に先に出願されていないこと(先願主義)
⑤意匠登録を受けることができない意匠に該当しないこと

以下、各要件について説明します。

①工業上、利用できること

意匠登録を受けるためには、「工業上、利用できる意匠であること」が必要です(意匠法3条1項柱書)。

本要件は物品の種類に応じ、それぞれ以下の内容を意味します。

意匠の種類意味
物品の意匠同一のものを複数製造できること
建築物の意匠同一のものを複数建築できること
画像の意匠同一のものを複数作成できること
ムートン

まとめると、「工業的に量産できること」が意匠登録の要件の一つなのです。1点ものの絵画・陶芸品などは、量産できないので、本要件を満たさないと考えられています。

なお、本要件は、工業上利用できる「可能性」があれば足りると解されています。

②新規性があること

既に誰もが知っているような意匠に意匠権という独占権を付与することは「産業の発達」に寄与しないため(むしろマイナスであるため)、意匠権が認められるためには、意匠が新しいもの(新規性を有するもの)であることが必要です。(意匠法3条1項)

なお、新規性が認められない場合でも、一定の要件を満たせば、例外的に救済を受けられる可能性もあります(意匠法4条)。

③創作非容易性がある(高い創作性がある)こと

既に知られている意匠に基づいて容易に創作できる意匠について、意匠権という独占権を付与することは「産業の発達」に寄与しません(むしろマイナスです)。

そのため、意匠登録を受けるためには、「その意匠の属する分野における通常の知識を有する者」が容易に創作できないこと(創作非容易性)が必要です(意匠法3条2項)。

④他人に先に出願されていないこと

別々の創作者が「同一又は類似の意匠」について、それぞれ特許庁に出願した場合、先に意匠を創作した者ではなく、先に出願した者が意匠登録を受けることができます(先願主義、意匠法9条)。

具体的には、「出願日」に基づき、どちらが先に出願したかを判断します。

⑤意匠登録を受けることができない意匠

「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠」は、意匠登録を受けることができません(意匠法5条1号)。

「意匠審査基準」では、例えば、日本や外国の元首の像や国旗を表した意匠は、意匠法5条1号の意匠に該当するため、意匠登録できないとされています。

意匠登録を受けることができる者

次に、誰が意匠登録を受けることができるかについて説明します。

意匠登録を受けうる者は、

・意匠を創作した者(意匠創作者)
・意匠創作者から意匠登録を受ける権利を承継した者(承継人)

に限られます(創作者主義)。

上記以外の者による出願は拒絶され(意匠法17条4号)、仮に意匠登録されても後に無効となる可能性があります(同法48条1項3号)。

意匠創作者

まず、「意匠創作者」とは、当該意匠の創作に実質的に関与した者をいいます。

単なる補助者、助言者、資金の提供者、単に命令をしたに過ぎない者は意匠創作者にはあたらないと考えられています。

職務創作意匠

職務創作意匠とは、会社の命令に基づき、従業員が職務上作成する(した)意匠のことです。(意匠法15条3項、特許法35条1項)。

職務発明規程等で会社に意匠登録を受ける権利を取得させると定めたときは、意匠の発生時から意匠登録を受ける権利は会社に帰属します(意匠法15条3項、特許法35条2項・3項)。一方、こうした定めをおいていない場合は、意匠登録を受ける権利は従業員に帰属します。

また、従業員に意匠登録を受ける権利が帰属したとしても、会社も資金や設備の提供をすることで意匠の創作に貢献していることから、会社には無償の通常実施権が付与されます(意匠法15条3項、特許法35条1項)。

通常実施権とは

通常実施権とは、意匠権者との合意により定めた範囲内で、登録意匠を業として実施できる権利のことです。

なお、会社に意匠登録を受ける権利を取得させたときは、従業員は、その発明に対する貢献の対価として、「相当の利益」を受ける権利を有します(意匠法15条3項、特許法35条4項)。

「相当の利益」の金額について、職務発明規程で定める場合には、「使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況」等が考慮されますが(意匠法15条3項、特許法35条5項)、この考慮すべき状況等に関しては、以下のとおり指針が定められています。

「特許法第35条第6項に基づく発明を奨励するための相当の金銭その他の経済上の利益について定める場合に考慮すべき使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況等に関する指針」

出願から意匠権取得までの流れ

それでは、次に意匠権を取得するまでの流れについて説明します。

意匠審査の流れ

特許庁における審査の流れの全体像は以下のとおりです。

意匠審査の流れ

①事前調査
②意匠出願(出願書類の作成・提出)
③方式審査
④実体審査
⑤登録査定
⑥意匠権の設定の登録(意匠権が発生)

「特許行政年次報告書2021年版」によると、権利化までの期間は、平均して7.1カ月(2020年度)となっています。

以下、詳しく解説します。

①事前調査

意匠登録出願をする前に、先行意匠調査を行うことが望ましいです。先行意匠調査を行う際には、工業所有権情報・研修館(INPIT)が提供する、「J-PlatPat」を活用できます。

②意匠登録出願(出願書類の作成・提出)

先行意匠調査の結果、問題がなさそうであれば、意匠登録出願に進みます。

意匠登録出願の際には、「意匠登録願(願書)」や、「図面」(または写真、見本等)を提出する必要がありますが、これらの出願書類の作成は専門家でないと困難なことが多いので、弁理士に依頼することが多いです。

意匠登録出願の出願書類の様式や、作成の方法については、以下の特許庁のウェブサイトに詳細な説明があります。

③方式審査

意匠登録出願がされると、出願が法令で定める形式的な要件を満たしているかの審査(方式審査)が行われます。

方式審査の結果、不備がある場合には、補正(出願内容の補足や訂正)が命じられ(意匠法68条2項、特許法17条3項)、これに対し、出願人が適切な補正をしないと出願手続が却下されます(意匠法68条2項、特許法18条)。

方式審査の運用基準については、特許庁のウェブサイトに詳細な説明があります。

④実体審査

方式審査後、特許庁による実体審査に進みます。

実体審査では、意匠が意匠登録を受けることができない意匠ではないかなど拒絶理由(意匠法では不合格のことを「拒絶」といいます。意匠法17条各号)の有無について審査が行われます。

なお、意匠法では、特許法と異なり、審査請求制度(方式審査後、実体審査に進むために、特許庁に審査に着手してほしい旨を請求する必要がある制度)は採用されておらず、出願されたものが全て審査されます。

審査の結果、拒絶理由が認められると、拒絶理由通知書が出されます。これに対し、出願人は、意見書の提出や補正等の対応を行い、拒絶理由の解消を図ることとなります(意匠法19条・特許法50条、意匠法60条の24)。

⑤登録査定

審査の結果、拒絶理由がない(なくなった)と判断された場合、登録査定がされます(意匠法18条)。

登録査定とは、意匠権を付与すべきであるという回答がされたという意味ですが、この時点では、まだ意匠権は付与されていません。

⑥意匠権の設定の登録(意匠権が発生)

出願人が、登録査定の謄本の送達日から30日以内に登録料を納付すれば、意匠権の設定の登録がされ、意匠権が発生します(意匠法20条、43条1項)。

登録料が納付されないと、意匠登録出願が却下されてしまいます(意匠法68条2項、特許法18条)。

意匠権の存続期間は、意匠登録出願の日から25年です(意匠法21条1項)。

特許庁の判断を争うための方法

以上の特許庁の審査を経て意匠権が発生しますが、特許庁の判断を争いたい(特許庁の判断に不服がある)場合には、どのような対応をとればいいでしょうか。以下主な手続について説明します。

審判

まず、特許庁の審査官が行った拒絶査定や特許査定といった判断は、同じ特許庁内の審判部でその妥当性等について判断してもらうことができます。これが「審判」です。以下は主な審判手続の内容です。

拒絶査定不服審判

拒絶査定を受けた場合、謄本の送達日から3カ月以内であれば、拒絶査定不服審判(拒絶査定が本当に適切に行われたかチェックをしてもらうこと)を請求することができます(意匠法46条1項)。

審判での審理の対象は、意匠登録出願に拒絶理由(意匠法17条各号)があるかです。

意匠登録無効審判

意匠登録無効審判とは、意匠登録の無効を求めることができる審判です(意匠法48条)。

特許法では、異議申立てをできるのは、利害関係を有する者のみですが、意匠法では、原則、利害関係人に限らず誰もが無効審判を請求することができます。

これは、意匠法には特許法と異なり異議申立制度がないためです。

異議申立制度とは

異議申立制度とは、特許掲載公報(特許権の取得を知らせる公報)の発行から6カ月間は、特許付与の是非について再審査を求めることができる制度です。

意匠登録が無効となる理由は意匠法48条1項各号に規定されており、意匠登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、原則として意匠権は初めから存在しなかったものとみなされます(意匠法49条本文)。

審決等取消訴訟

 以上の特許庁の審判の結果(審決)に不服がある場合には、知的財産高等裁判所に審決を取り消してもらうための訴訟(審決取消訴訟)を提起することができます(意匠法59条)。

意匠権の効力

それでは、次に取得した意匠権にはどのような効力が認められるかについて説明します。

意匠権を取得すると、意匠権者は、業として登録意匠と同一・類似の意匠の実施をする権利を専有します(意匠法23条)。

意匠権の効力は、登録意匠と同一の意匠のみならず、類似の意匠にまで及びます(意匠法23条)。意匠の類似については重要な概念ですので、「意匠の類似」で詳しく説明します。

また、「実施」とは、意匠法2条2項各号で、以下のとおり規定されています。

物品における実施(1号)製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出、輸入、譲渡・貸渡しの申出・展示
建築物における実施(2号)建築、使用、譲渡、貸渡し、譲渡・貸渡しの申出・展示
画像における実施(3号)
※意匠に係る画像を表示する機能を有するプログラム等を含む
・作成、使用、電気通信回線を通じた提供、電気通信回線を通じた提供の申出・展示(イ)
・意匠に係る画像記録媒体等の譲渡、貸渡し、輸出、輸入、譲渡・貸渡しの申出・展示(ロ)

意匠の類似

では、意匠の類似について説明します。

意匠が類似であるか否かは、以下の2点について、需要者(意匠を見た者)の視覚を通じて起こさせる美感に基づき判断されます(意匠法24条2項)。

①両意匠における物品等の用途・機能が同一・類似であるか否か
→物品の用途及び機能に共通性があれば類似であり、共通性がなければ類似とはならないと考えられています

②両意匠の形態が同一・類似であるか否か
→両意匠が需要者に共通の美感をもたらすか否かで判断されます

これらは、以下のとおり整理することができます。

物品が同一物品が類似物品が非類似
形態が同一同一類似非類似
形態が類似類似類似非類似
形態が非類似非類似非類似非類似

※需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて判断

意匠権の効力が及ばない範囲

 また、意匠法上、以下の場合には意匠権の効力が及ばないとされています。

個人的な実施や家庭内での実施(意匠法23条)
試験又は研究のためにする登録意匠の実施(意匠法36条、特許法69条1項)
単に日本国内を通過するに過ぎない船舶若しくは航空機等(意匠法36条、特許法69条2項1号)
意匠登録出願時から日本国内にある物(意匠法36条、特許法69条2項2号)

意匠権の活用方法

それでは、次に意匠権はどのように活用できるかについて説明します。主に、以下の4つの活用方法が想定できます。

✅  自己使用
✅  ライセンス
✅  移転(譲渡)
✅  担保権の設定

自己使用

まず、当然ながら意匠権者は登録意匠を(他者に実施許諾せず)自分だけが独占的に活用することで利益を上げることができます。

意匠権者としては、無断で自己の登録意匠を実施する者がいれば、差止請求や損害賠償請求等を行使しつつ、自社による独占的な実施を維持・確保することになります。

ライセンス

次に、意匠権者は、他者に登録意匠の実施権を許諾等(ライセンス)することで対価を得ることも可能です。

ライセンスの方法は複数あり、以下、ライセンスの種類を説明します。

専用実施権

 専用実施権は、意匠権者の意思により設定される実施権で、ライセンス契約等で定めた範囲内で登録意匠を独占的に実施することができる権利です(意匠法27条)。

専用実施権が設定されると、専用実施権者は自ら差止請求権等を行使できるなど(意匠法37条等)、後述の「通常実施権」と比較し強い権利を取得することができます。

一方、意匠権者は、設定行為で定めた範囲内では自身も登録意匠を実施することができなくなるなどの制限を受けます(特許法23条ただし書)。

なお、専用実施権は、契約などで専用実施権を定めるのにプラスして、特許庁への設定登録をしなければ効力が生じないことに注意が必要です(意匠法27条4項、特許法98条1項2号)。

通常実施権

通常実施権は、意匠権者の意思により設定される実施権で、ライセンス契約等で定めた範囲内で登録意匠を実施することができる権利です(意匠法28条)。

専用実施権とは異なり、通常実施権の効力の発生のために特許庁への設定登録をする必要はなく、また柔軟に実施権の内容を設定することができるため、実務上もよく活用されています。

一般的には、通常実施権が設定されても、意匠権者は、自ら登録意匠を実施したり、他者に通常実施権を許諾したりすることも制限されません。

しかし、通常実施権でも、

✅意匠権者から他者には実施権の許諾をすることができない旨の合意をする(このような通常実施権を独占的通常実施権ということがあります。)
✅意匠権者自身も登録意匠を実施しない旨の合意をする(このような通常実施権を完全独占的通常実施権ということがあります。)

場合もあります。

また、(独占的通常実施権者については争いがありますが、)少なくとも、非独占的通常実施権者については、専用実施権者とは異なり、自ら差止請求権等を行使することはできないと考えられています。

法定実施権

意匠権者の意思にかかわりなく発生する実施権に法定通常実施権があります。

法定通常実施権とは、公益上の必要性や当事者間の衡平を図る観点から、法律上の規定によって発生する実施権です。

「職務創作意匠」で前述した、従業員の職務創作意匠について使用者が取得する実施権(意匠法15条3項、特許法35条1項)が法定通常通常実施権の一つです。

また、よく問題となるものとして、先使用による法定通常実施権(意匠法29条)があります。

「④他人に先に出願されていないこと」のとおり、意匠法には、先願主義というルールがあり、権利の取得は、基本は早いもの勝ちです。

しかし、例外的に、意匠登録出願された意匠の内容を知らずに同一・類似の意匠を実施している場合等に、出願をした者以外の者に対しても、一定の要件のもとで当該意匠の実施を認めることがあります。これが、先使用による法定通常実施権です。

裁定実施権

裁定通常実施権は、意匠権者の意思にかかわりなく、公益上の必要性から、裁定という行政処分によって強制的に設定される実施権です。

意匠法33条では、登録意匠と同一・類似の意匠が意匠法26条の利用関係にある場合で、通常実施権の許諾に関する協議が成立しないときに認められる裁定通常実施権を規定しています。 

移転(譲渡)

 意匠権を移転(譲渡)して対価を得ることも可能です。ただし、譲渡による意匠権の移転は登録しなければ効力を有しない点に注意が必要です(意匠法36条、特許法98条1項1号)。

担保権の設定

意匠権を担保として資金調達をすることも可能です(意匠法35条)。ただし、意匠権を担保とするためには、特許庁への設定登録が必要となる点には注意が必要です(意匠法35条3項、特許法98条1項3号)。

共有に係る意匠権

 意匠権は以上のように活用できますが、意匠権が共有されている場合には、以下のとおり意匠権の活用にあたり制限が生じる場合があります。

登録意匠の実施共有者の同意なく自由に実施することが可能(意匠法36条、特許法73条2項)
持分の譲渡・質権の設定、
専用実施権・通常実施権の設定
共有者の同意がなければ左記の行為をすることができない(意匠法36条、特許法73条1項・3項)

意匠権の侵害とは

意匠権の侵害とは、意匠権者に無断で、業として登録意匠を実施することをいいます。以下では、どのような場合に、意匠権の侵害となるのか説明します。

意匠権侵害の類型

意匠権侵害には、

・直接侵害
・間接侵害

の2つの類型があります。

直接侵害

直接侵害とは、業として、無断で登録意匠と同一・類似の意匠を実施することをいいます。

間接侵害

直接侵害にはあたらないものの、直接侵害を誘発する可能性のある行為については、間接侵害として意匠権の侵害にあたります。

具体的に何が間接侵害となるかは、意匠法38条各号に定められていますが、例えば、意匠登録されている物品を譲渡のために所持する行為などがあります。

抗弁

それでは、意匠権者からの請求に対し、被疑侵害者はどのような反論をすることができるでしょうか。以下では、主な抗弁(反論)について説明します。

消尽

消尽とは、意匠権者等が登録意匠を実施した製品を適切に流通させた場合、その後のその物の譲渡等は権利侵害にならないことをいいます。

消尽が認められる場合には、意匠権侵害が否定されますので、意匠権の侵害を疑われた者としては、反論として消尽を主張することができます。

無効の抗弁

登録意匠が意匠登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、意匠権者は相手方に対しその権利を行使することができませんので(意匠法41条、特許法104条の3第1項)、侵害が疑われた者としては、登録意匠が無効とされるべきものであることを反論として主張することができます。

実施権

「ライセンス」記載の各実施権が認められる場合には、抗弁として主張することができます。例えば、実務上、先使用の法定通常実施権(意匠法29条)を抗弁として主張する場合があります。

意匠権侵害をされたときの対処法

それでは、自己の意匠権が侵害された場合、どのような対応をとることができるでしょうか。以下説明します。

意匠権侵害に対する民事上の救済措置

差止請求権

意匠権者は、自己の意匠権を侵害する者・侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止・予防の請求(差止請求)をすることができます(意匠法37条1項)。

 また、差止請求をするに際し、侵害の行為を構成した物や侵害の行為により生じた物の廃棄等侵害の予防に必要な行為を請求することもできます(意匠法37条2項)。

損害賠償請求権

意匠権者は、意匠権侵害によって損害を被った場合、損害賠償請求をすることもできます(民法709条)。

 なお、意匠権者の損害額に関する立証負担を軽減するために、意匠法には損害額の算定規定が設けられています(意匠法39条)。

信用回復措置請求権

 意匠権者は、意匠権侵害により意匠権者の業務上の信用を害した者に対して、意匠権者の業務上の信用を回復するために必要な措置を請求することができます(意匠法41条、特許法106条)。

不当利得返還請求権

意匠権者は、無断で自己の意匠権を実施する者に対し、不当利得返還請求(民法703条)をすることも可能です。

民事手続の特則

 意匠権侵害に関する民事裁判においては、通常の民事裁判と比較し、主に以下の特則が設けられています。

過失の推定(意匠法40条)他人の意匠権を侵害した者はその侵害について過失があったものと推定されます。
具体的態様の明示義務(意匠法41条、特許法104条の2)意匠権侵害訴訟の相手方は、意匠権者が侵害の行為を組成したものとして主張する物又は方法の具体的態様を否認するときは、自己の行為の具体的態様を明らかにする必要があります。
書類の提出等(意匠法41条、特許法105条)裁判所は、当事者に対し、侵害行為や侵害行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命じることができます。
損害計算のための鑑定(意匠法41条、特許法105条の2の12)意匠権侵害訴訟の当事者は、裁判所が侵害行為による損害の計算をするために鑑定を命じた場合には、鑑定人に対し、必要な事項を説明しなければなりません。
相当な損害額の認定(意匠法41条、特許法105条の3)裁判所は、意匠権侵害訴訟において、損害の発生は認められるものの、損害額の立証が極めて困難である場合、相当な損害額を認定することができます。
秘密保持命令(意匠法41条、特許法105条の4)裁判所は、意匠権侵害訴訟において、準備書面等に当事者の営業秘密が記載されている場合、当事者等に対し、秘密保持命令を発することができます。

意匠権侵害に対する行政上の救済措置

意匠権を侵害する物品は関税法上、輸出入してはならない物品とされています(関税法69条の2第1項第3号、同法69条の11第1項第9号)。このため、自己の意匠権を侵害する物品が輸出入されている場合、関税法上の手続を経ることで、これらの行為を水際で差し止めることができます。

意匠権侵害に対する刑事上の救済措置

意匠権侵害は刑事罰の対象にもなっています(意匠法69条、意匠法69条の2)。このため、自己の意匠権を侵害された者は、警察等に刑事告訴(刑事訴訟法230条)や被害相談等をすることができます。

この記事のまとめ

意匠法の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

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参考文献

特許庁ウェブサイト「2021年度知的財産権制度入門テキスト」

特許庁ウェブサイト「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説[第21版]」(意匠法)

茶園成樹著『意匠法[第2版]』有斐閣、2020年