商標を出願(申請)する方法を解説!
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- この記事のまとめ
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商標とは、簡単に言うと、商品やサービスに付けられたロゴマークやネーミングのことです。
ただ、どんなに特徴的な商標でも、特許庁へ出願して、審査を通過しないと商標権は取得できず、保護を受けることができません。
この記事では、特許庁へ商標を出願(申請)する具体的な方法について解説します。
※この記事は、2022年12月2日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
商標とは
「商標」とは、事業者等が、自分が取り扱う商品・サービスを他人のものと区別するために使用する文字や図形等のマークのことをいいます(商標法2条1項)。
商標を出願(申請)する際は、商標だけでなく、「○○という商品に○○という商標を使用します」といったかたちで、その商品をどのような商品・サービスに使うかも指定します(商標法6条1項)。
商標権は、文字・図形等のマークと、その商標を使用する商品・サービスとの組み合わせで権利範囲が定まります。
特許庁「事例から学ぶ 商標活用ガイド」4頁
商標権を取得するメリットとは
商標権を取得することで、下記のようなメリットがあります。
- 商標権のメリット
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✅商標の独占的使用ができる
商標権を取得した者(商標権者)は、その商品・サービスの範囲内では、その商標を使って独占的に商売をすることができます(商標法25条)。
また、申請により何度でも更新登録することができる(商標法19条2項)ため、半永久的に、自分の商標として安心して使用することができます。
他人が無断で登録商標を使用した場合、商標権者は、裁判所に、使用差し止め(商標法36条)や、損害賠償(民法709条、商標法38条)を請求することができます。✅紛らわしい商標を排除できる
商標権があると、他人の紛らわしい商標(商標が同一・類似で、使う商品・サービスも同一・類似)は登録されません(商標法4条1項11号)。また、紛らわしい商標の使用についても、使用差し止め(商標法37条)や損害賠償(民法709条、商標法38条)が請求できます。✅ライセンスすることが可能になる
他人に商標の使用を許諾(ライセンス)することが可能です(商標法31条)。他人に商標を使用させ事業を広げたり、ライセンス収入を得たりすることができます。
商標権がないと、先に商標登録をした他人から使用を差し止められたり、模倣品が出回ったりするリスクが高まります。また、社会的信用が得にくいということも挙げられます。
商標出願から商標権取得までの流れ、費用
商標出願から商標権取得までの流れ
商標権を取得するためには、特許庁に商標登録の出願(申請)をし、審査にパスしなければなりません。商標権は、商標権の設定の登録がされることにより発生します(商標法18条)。
特許庁ウェブサイト「初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~」
- 「商標出願」から「商標権取得」までの流れ
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1 商標出願(出願書類の作成・提出)
2 方式審査(書類の形式や料金などに関する審査)
3 実体審査(その商標を登録できるか否か、実体的な内容に関する審査)
4 登録査定(登録することができない理由が見つからなければ、「登録査定」が送付)
5 登録料納付(所定の登録料を納付後に設定登録)
6 商標権の設定登録(商標権が発生)
3の実体審査の結果、出願全体の約65%がスムーズに登録査定となり、残りの約35%に対して、登録することができない理由(拒絶理由)が通知されています(2022年4月時点。特許庁「商標審査官が教えます 商標出願ってどうやるの?~これでわたしたちも商標登録!~」1頁)。
拒絶理由が通知されたとしても、登録できないことが確定したわけではありません。
出願した人(出願人)は、拒絶理由について意見を述べたり(意見書の提出)、指定商品等の修正を行ったり(手続補正書の提出)することができます。
これらの手続により、
拒絶理由が解消された場合→商標登録できる旨の通知(登録査定)(商標法16条)
拒絶理由が解消されない場合→商標登録できない旨の通知(拒絶査定)(商標法15条)
いずれかの通知が出願人に送付されます。
費用
上記「『商標出願』から『商標権取得』までの流れ」において、特許庁に手数料を支払う必要があるのは、「1 商標登録出願」での出願料と、「5 登録料納付」での登録料です。料金は出願時に指定した商品・サービスのカテゴリーの数(区分数)によって異なります。
なお、商標には、特許とは異なり審査請求制度(実体審査を行うように請求する制度)がないため、審査請求料は発生しません。
出願料 | 3,400円+(区分数×8,600円) |
登録料 | 区分数×32,900円 (10年分)一括納付の場合 区分数×17,200円 (5年分)※分割納付の場合 ※6年目以降も権利を存続させるためには、後期納付期限までに登録料を納付する必要あり |
特許庁に支払う手数料は、特許庁ウェブサイト「手続料金計算システム 国内出願に関する料金」で調べることができます。なお、商標に関しては、特許料のように中小企業等を対象とした減免制度はありません。
また、商標出願を弁理士に依頼している場合は、特許庁に支払う手数料の他に、代理人手数料がかかります。一般的には、出願時と、登録料納付時の他に、拒絶理由が通知された場合の対応時に代理人手数料が発生することが多いです。代理人によって手数料が異なるため、事前に必ず見積もりを依頼しましょう。
権利化までの平均期間
商標出願から権利化までの期間は、通常、平均9.6カ月(2021年度。特許庁「特許行政年次報告書2022年版」29頁)です。ただし、出願時に指定する商品・役務(サービス)が所定の要件を満たす場合は、自動的にファストトラック審査の対象となり、出願から約6カ月で最初の審査結果が通知されています。
早期の権利化を希望する場合は、審査を通常に比べて早く実施する早期審査制度の利用ができるか検討しましょう。出願商標を既に使用していること等の一定の要件の下、出願人から申請をした場合、平均審査順番待ち期間は、早期審査の申請から平均2.1月(2021年)と大幅に短縮されています。
特許庁ウェブサイト「早く審査結果を得るための『2つの方法』!」
商標権を取得するための要件
商標が登録されるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 主な要件
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① 自己と他人の商品・役務(サービス)とを区別することができないものでないこと(商標法3条1項各号)
② 公共の機関のマークと紛らわしい等の公益性に反するものでないこと(同法4条1項1~7号・9号・16号・18号)
③ 他人の登録商標や周知・著名商標等と紛らわしいものでないこと(同項8号・10~15号・17号・19号)
具体例が特許庁ウェブサイト「出願しても登録にならない商標」で詳しく説明されています。
日本の商標制度では、現実に商標を使用している必要はなく、自分の業務に関する商品等について使用する意思があれば(商標法3条1項柱書)、出願に基づいて、登録を受けることができます。
商標を出願(申請)する方法
①事前調査|出願する前にすべきこと
商標の決定
商標登録を受けるためには、まず、その商標(ロゴマークやネーミング)が自他商品の識別力を備えている必要があります(商標法3条)。
商標は、文字や図形だけでなく、立体的な形状、音、色彩のみなど、いろいろな種類があります。商標を決定するに当たっては、商品やサービスの内容や特徴をうまく伝えつつもオリジナリティのある商標を選別しましょう。
特許庁「商標審査官が教えます 商標出願ってどうやるの?~これでわたしたちも商標登録!~」25頁
指定商品・役務の決定
商標を出願(申請)する際は、商標だけでなく、その商標を使う商品・サービスも指定します。現在自分の扱っている商品・サービスだけでなく、将来扱う予定のある商品・サービスも指定するようにしましょう。
願書に記載する商品・サービスの例 | |
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✅「アパレルメーカー」の場合 | 第25類 被服 |
✅化粧品を仕入れて「ネット通販」をやっている場合 | 第35類 化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 |
✅「Webデザイン会社」の場合 | 第42類 ウェブサイトの作成または保守 |
✅「居酒屋」の場合 | 第43類 飲食物の提供 |
✅「ネイルサロン」の場合 | 第44類 爪の美容 |
上記表中の「第〇類」とは、特許庁で定められた、商品・サービスのカテゴリーのことで、「区分」といいます。願書には商品・サービスの名前とともに、区分も記載する必要があります。
「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)商品・役務名検索」で商品・サービスの検索を行うことができます。
また、どのような商品・サービスを指定すべきか分からない場合は、似たような事業を行っている他社の登録例を「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)商標検索」で検索して参考にしてもよいでしょう。
先行商標調査
似たような商標がすでに出願・登録されていれば、審査に通らないだけでなく、無断で使うと他人の商標権の侵害となる可能性もあります。出願前には必ず先行商標調査を行いましょう。
調査は、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)商標検索」を用いて無料で行うことができます。出願する商標の文字や読み方だけでなく、ロゴマーク入りの商標(図形商標)を検索することも可能です。
調査方法については、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)ウェブサイトに詳細が掲載されています。
②商標出願|書類の作成・提出
願書の作成
商品・サービスに使用する商標が決まったら、特許庁に提出する書類(「商標登録願」、一般的には「願書」といいます)を作成しましょう。
書類の書き方や様式は、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)のウェブサイトで詳細に説明されています。
出願方法
商標出願は、インターネットを用いて出願する方法(インターネット出願)と、紙面で出願する方法(紙出願)の2つの方法があります。
- インターネットを用いて出願する方法
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インターネット出願を行う場合、
① 電子証明書を準備
② 特許庁の「電子出願ソフトサポートサイト」から、「インターネット出願ソフト」(特許庁へのオンライン手続きが可能となる専用ソフトウェア)をダウンロードしてPCにインストール
③ 利用登録
をする必要があります。インターネット出願の場合、特許庁への書類の提出だけでなく、審査結果等の書類の受け取りなどもオンラインで行うことができます。また、手数料の支払いにクレジットカードを利用できます。
- 紙面で出願する方法
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紙出願の場合、特許庁の受付窓口へ直接持参する方法と、郵送する方法があります。
特許庁のウェブサイト「初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~」で、詳細に説明されています。紙出願の場合、出願時に加え、特許庁に書類を提出する度に、書類を電子化するための手数料として、
電子化手数料:2400円+(800円×書類のページ数)
がかかる点に注意が必要です。
③方式審査
商標出願すると、まず、書類の形式や料金などの形式的または手続的な要件を満たしているかの審査(方式審査)が行われます。運用基準は、特許庁ウェブサイトの「方式審査便覧」にまとめられています。
④実体審査
方式審査をパスすると、次は、その商標が、登録できるか否かの要件(商標法3条・4条等)を満たしているかの審査(実体審査)が行われます。
実体審査は、商標審査基準の指針にのっとって行われます。
拒絶理由が通知された場合
実体審査において、商標を登録することができないと判断されると、その理由(拒絶理由)が記載された書面が通知されます。
拒絶理由が通知されても、審査が終わったわけではありません。所定の期間内において、拒絶理由の内容を踏まえ、意見を述べたり(意見書の提出)、指定商品等の修正(手続補正書の提出)を行ったりすることで審査官の判断を覆すことができます(商標法15条の2・68条の40)。
特許庁の「お助けサイト~通知を受け取った方へ~」では、「商標の拒絶理由通知書を受け取った方へ」として、拒絶理由通知の見方やその後の手続について案内しています。
これらの手続により、拒絶理由が解消した場合は、商標登録できる旨の通知(登録査定)が送付されます(商標法16条)。
拒絶査定が出た場合
一方、拒絶理由が解消できなければ、商標登録できない旨の通知(拒絶査定)が送付されます(商標法15条)。拒絶査定が送付されると、審査は終了となります。
しかし、拒絶査定について不服がある出願人は、審査結果の撤回を求める審判(拒絶査定不服審判)を請求することができます(商標法44条)。
また、さらに、審判の結果(審決)についても不服がある場合は、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起することができます(商標法63条)。
登録査定が出た場合(審査に合格した場合)
審査に合格した場合は、登録査定が送付されますが、登録査定を受け取っただけでは、商標権は発生しません。
商標権を取得するためには、登録査定を受け取ってから30日以内に登録料を支払う必要があります(商標法41条1項)。10年分を一括して納付する全額納付か、5年分を分割して納付する分割納付かを選択できます。
登録料の納付方法や、納付書の作成方法等は、特許庁のお助けサイト「商標の登録査定を受け取った方へ」に記載されています。
⑤商標権の設定の登録(商標権が発生)
登録料の納付がされると、商標権の設定の登録がされ、商標権が発生します(商標法18条)。
商標権は、商標権者の申請により、権利期間を更新することができますが、権利期間は10年と長いので、更新時期を忘れてしまう場合があるかもしれません。商標の更新期限切れを予防するために、特許庁では、「特許(登録)料支払期限通知サービス」を提供しています。
商標を出願(申請)する際の注意点
弁理士に依頼すべきか
弁理士は、知的財産権の取得をサポートする専門家です。商標権を取得するためには、特許庁に商標出願する必要がありますが、弁理士に依頼せず、自力で行うことは可能です。しかし、弁理士に依頼することで、下記のようなメリットがあります。
✅適切な商標の決定、商品・サービスの指定ができる
✅時間と労力の無駄を省くことができる
✅権利化後のフォローが受けられる
商標を決定する際、すでに登録されている商標に似ているかどうかなど、判断が難しい場合も多くあります。自力で出願しようとすると、商標登録の要件を満たさないようなものを、分からずに出願して無駄になってしまうこともあり得ますが、弁理士に依頼しておけば、適切な商標や、指定商品等のアドバイスを受けることができます。
また、願書の作成や、拒絶理由通知に対する対応なども、自分で調べる時間や労力を削減することができます。
権利化後の更新手続きの期限管理を依頼することも可能ですので、期限を忘れてしまい、権利が消滅してしまう心配もなくなります。また、権利化後の商標の使用等について不安が出てきた際は、弁理士に相談しやすくなるでしょう。
弁理士に依頼すると、代理人手数料が発生しますが、メリットがデメリットを上回るのではないでしょうか。
海外での商標の保護
日本の特許庁で取得した商標権の効力は、海外には及びません。その商標を付した商品やサービスを海外展開しようとする場合は、その国でも商標権を取得していないと、商標は保護されません。
さらに、他人が、その国で商標権を取得している場合は、日本で商標権を取得していたとしても、その国で商標を使用することはできません。
そのため、海外展開を視野に入れているときは、使用する商標について、進出国へ早期に商標出願するとともに、他人が商標権を取得していないかも調査しておく必要があります。
この記事のまとめ
商標を出願(申請)する方法の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!
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参考文献
特許庁「商標審査官が教えます 商標出願ってどうやるの?~これでわたしたちも商標登録!~」