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コンテンツ製作者の中国市場進出と 取引上の留意点

高橋治弁護士

高橋治弁護士

2021/10/19 (公開:2021/10/12)

この記事を書いた人

弁護士 高橋 治

シティライツ法律事務所

慶應義塾大学大学院法務研究科修了
2012年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、2012~15年小松製作所(コマツ)の経営企画部門で主にクロスボーダーM&Aの法務を担当。2015~19年Baidu Japan(百度日本法人)にて法務部長と経営企画部長を兼任。百度の国際部門における法務責任者も兼務。その後現職。 2020年~株式会社ワンキャリア監査役。

中国市場とのコンテンツ取引

中国出身の友人たちと話すと、本当に中国では若い世代(「90後」「00後」と呼ばれる1990年代以降に生まれた世代)から中年世代(「80後」世代)まで、日本発のコンテンツを愛する人々が多いと感じます。
特に2000年代以降、中国のコンテンツ市場が急速な盛り上がりを見せる中で、日本発のコンテンツには一貫して熱視線が向けられてきました。
日本のクリエイターも、中国のファンの声に応えようと優れたコンテンツを作り続け、初期には制作後のコンテンツのライセンス取引がほとんどだったのが、今ではコンテンツの制作時点から中国の資本が入ったプロジェクトが組まれることも珍しくなくなりました。

当然ながら、こうした取引では中国側と日本側ががっぷり四つに組んだ複雑な契約書を巻くことが少なくありません。
契約法務の観点から見ると、コンテンツ(著作物についての著作権、著作者人格権や著作隣接権のほか、肖像権、パブリシティ権、商標権等 複合的な権利を含む場合がありますが、ここでは様々な権利の束を単に「コンテンツ」と呼びます。)をライセンスする、コンテンツに出資する、ないし、譲渡するといった取引の形をとります。

取引の形自体は様々ですが、例えば、以下のような取引がこれにあたります。

● 日本で制作された劇映画やテレビ番組等の映像コンテンツを、中国の動画配信サイトで配信する。
● 日本で出版された書籍の中国語翻訳版を、中国の出版社から出版する。
● 日本で開発されたゲームソフトの中国ローカライズ版を開発し、中国市場で販売する。
● 日本で制作する劇映画に、日中双方の企業が出資し、中国側は中国で、日本側は日本で配給する権利を得る。

また、純粋なコンテンツ取引とはいえないものの、日本で開発・生産された製品を、中国の代理店を通じて中国市場で販売する、といった場合も、契約条件として商標権その他のライセンスを伴う場合が多いといえます。

こうした様々なケースで、日本と中国の法体系の違いはもちろんのこと、両国の商習慣や契約実務の違いもあり、基本的な論点(頻出する留意点)で日本側に戸惑いが生じるケースも多いように感じます。本稿ではそういった取引の一般的な留意点を取り上げたいと思います。

中国市場とのコンテンツ取引の注意点

では、どういった点に注意しながら、取引を進めるべきなのでしょうか。

取引においては、以下のような点に注意することが望ましいです。

① コンテンツに係る権利は登録(権利化)されているか
② ライセンス料の算定基準は明確か
③ ライセンス料の設定にあたって、税制上の考慮がなされているか
④ ライセンス料の回収の実行可能性は確保されているか
⑤ 海賊版や偽ブランド品への対処法が検討されているか
⑥ 政府機関による各種の命令や要請への対応が想定されているか

以下、順に説明します。

コンテンツに係る権利等は登録(権利化)されているか

通常、特許権等の産業財産権についてライセンス条件を交渉する場合、そもそも当該産業財産権についてライセンス先の国で特許権等が登録済みであるか、あるいは少なくとも出願済でなければならない、という点には誰もが留意することと思います。

他方、日本ではコンテンツについて権利化、典型的には著作権登録の有無が意識されることはあまり多くありません。
しかし、中国においては、著作権登録制度(中国語では「版権登記」といいます。)が日本よりも盛んに利用されており、契約交渉の過程で中国側当事者から、中国における著作権登録証の提示を求められて日本側当事者が戸惑う、という場面がみられます。

著作権登録それ自体は中国で代理人を通じて手続できますので、必要性が予期される場合は手続を進めることがよいでしょう(日本から特許事務所等を通じてコミュニケーションしていただける場合もあります。)。 また、場合によっては、中国側から、日本においても著作権登録がされている証明書を出してほしい、との要望が出ることもあり、その場合は日本で文化庁に対して登録の手続を行うことになります(日本での著作権登録は、自分で行うこともできますし、やはり特許事務所等の代理人に手続をお願いすることもできます)。

また、著作権に限らず、中国の商習慣ではさまざまな権利や地位、行政許可等の存在について、公的機関の発行した証明書による確認を重視する傾向にあります。そのたびに、商標であれば商標登録証、自社の法的実在性であれば登記事項証明書、免許や許可が存在する場合は許可証の写し等を、必要に応じて中国語に翻訳しつつ提供することがあります。

ライセンス料の算定基準は明確か

コンテンツのライセンス条件には、無償でない限りは当然、ライセンス料に関する条件が入ってきます。
ライセンス料が固定額である場合はそれほど問題になりませんが、一部又は全部がレベニューシェア方式等、一定の指標(KPI)に従った変動額になる場合は、当該KPIの明確性、客観性、検証可能性に注意する必要があります。

一例として、スマートフォン用のアプリストアにおいて有償で販売されるゲームアプリがライセンスされるとした場合に、KPIが"revenue"(収入)であると定義されているとします。
その「収入」とは、ユーザーがアプリに対して払った金額を指すのでしょうか。それとも、アプリストアの手数料を控除して、ライセンシーに実際に入金された金額を指すのでしょうか。「収入」というシンプルな概念ひとつとっても、解釈の幅があります。

また、KPIが明確に定義できているとしても、そのKPIはライセンシー側からの一方的な報告に依拠するものではないでしょうか(ライセンシーにしか把握できない数字をKPIにしている場合がこれにあたります。)。ライセンサー側がKPIに疑いを持った場合に、検証することが可能になっているでしょうか。
そのような懸念に対処するため、契約上は、ライセンサー側が会計士等の第三者機関を指名してライセンシーの帳簿を監査する権利を持つ、等の規定を置くこともあります。

ライセンス料の設定にあたって、税制上の考慮がなされているか

中国から日本へライセンス料、その他契約上の対価を支払う場合には、中国と日本、双方の税制上の考慮が必要となります。

中国から日本に支払う金額に対して中国側に源泉徴収義務が課されることもあり、結果的に契約上合意された額面の金額よりも、実際に日本において受け取ることのできる金額が少なくなる場合もありますので、どのような税が課せられるのか、控除される金額はどの程度か等、あらかじめ確認しておく必要があります。
契約交渉の最終段階になって源泉徴収義務があることが発覚し、実際の入金額が大幅に減少することに気づいたがために、金額面での交渉をやり直さなくてはならなくなる、といった事態は避けたいものです。

ライセンス料の回収の実行可能性は確保されているか

中国企業との取引に限った話ではありませんが、渉外取引を行う場合において、自身が支払いを受ける側であるときは、いかに相手から支払いを受けることを確保できるかが大きな懸念要因になります。
前払金や手付金をお預かりすることは最も簡便な手段のひとつで、契約上の取り決めにより容易に実現できます。当然ながら、100%前金で受け取ってしまえば、その後の支払いリスクはなくなります。
しかし相手方も、こちら側による納品・履行のリスクを100%負うことまでを受け入れられるものではなく、前金と後払い分、定額支払い分と成果連動(レベニューシェア)分、等様々なリスク分配のスキームが編み出されることになります。

その場合、どうしても、相手方所在国での債権回収の実効性を抜きにして考えることはできません。すなわち、紛争解決手段について契約締結時点で考えておくことが重要になります。

準拠法と紛争解決手段は別々の論点であるかのように説明されることもあるように思いますが、実務上は、まず紛争解決手段を決め、それに合わせて準拠法を選択する、という順序で考えるのが分かりやすいように思います。

そして、紛争解決手段について考える場合、しばしば、裁判か仲裁か、という論点と、紛争解決地(裁判管轄・仲裁機関)としてどこを選択すべきか、という問題が登場します。この紛争解決手段の選択はそれだけで一本の論稿を書くことができるほどの複雑な問題であって、ここでは深入りしません。

ただ、ひとつだけ断っておくと、国際取引においては、日本の契約書でおなじみの「●●地方裁判所を第一審の合意管轄裁判所とする」という決まり文句が有効とはいえない場合も多いということです。

なぜならば、仮に日本の裁判所で被告に金銭を支払わせる判決を得ることができたとしても、それを海外で執行することができるとは限らず、相手方が任意に判決内容を履行しなければ、結果的に判決が「空振り」に終わる可能性もあるからです。
そこには外国判決の承認(日本法では、民事訴訟法第118条参照。)という、これまた民事手続法学において数々論じられてきた問題が横たわっており、ここでは紙幅の関係でこれ以上の言及は省略させていただきます。

また、紛争解決手段として仲裁を選択する場合は、「相手方所在国において仲裁判断を執行できるか(ニューヨーク条約加盟国であるか)」が考慮事項になりますが、ここでは詳細を述べることは避け、論点の指摘にとどめます。

海賊版や偽ブランド品への対処法が検討されているか

コンテンツの海賊版(ライセンサーの許諾のない複製)や、偽ブランド品(商標を無断で使用する商品)が登場するリスクにも備えておく必要があります。

もちろんこれはコンテンツを海外に輸出するから起こる、という問題ではなくて、日本国内においても海賊版等が出現する可能性はあります。しかし少なくとも、海外でそれが登場した場合に比べれば、まだしも対処は容易といえます。海外で海賊版等が発見された場合の対処の難しさは、国内の比ではありません。

実務上は、契約によって海賊版等への対処をライセンシーに義務付けることも多いといえます。海賊版等の出現は正当なライセンス料を支払っているライセンシーにとっても脅威であることから、この取り決めはひとまず理に適っています。
ただし、ライセンサーが自分で権利行使する可能性を全く想定していない、というのは、それはそれでリスクを残していることになります。

あまり想定したくはない例ですが、ライセンシーが正規品を販売している一方で、ライセンシーの製造委託先の工場では許諾対象のロットを生産する裏で別ロットとして同じ製品を生産し、その別ロットの製品(要するに偽ブランド品、ということにはなるのですが、正規品と同じ材料、工程で生産されているということです。)が並行して販売される、といった事態も想定できるのです。

あらゆる事態を想定することは不可能ですが、それほどコストがかからず、かつ、実効性のあるリスクヘッジ手段をライセンサー自身において確保しておくべきでしょう。
例えば商標権であれば代表的な商標のいくつかを想定される指定商品・役務において登録しておくこと、コンテンツであれば著作権登録を行っておくことは、比較的コストがかからず、かつ有効な手段のひとつといえます。

政府機関による各種の命令や要請への対応が想定されているか

政府機関がコンテンツの配信、上映、出版等に介入する可能性があることは、少なくとも中国市場においては想定しておかなければならないリスクといえます。
典型的には、コンテンツの内容が暴力的、ないし公序良俗違反等と判断され、配信等の中止を命令されるリスクです。

当然、ライセンサー側、ライセンシー側ともに、この種のリスクに備えて事前によくコンテンツの内容をチェックすることが必要です。
しかし、入念な準備にもかかわらず、政府機関の命令はある日突然、それも配信等の開始からしばらく時間が経ったタイミングで発されることもあります。中国側ライセンシー(配信等を行う側)は政府機関の命令に対して争うよりは素直に従う方針を取ることも多く、その場合、コンテンツの配信等はその日から中止を余儀なくされることになります。

一種の不可抗力事由ともいえる事態ですが、あらかじめ、そのような事態にそなえ、ライセンス料の調整や代替コンテンツの提供等を契約上、定めておくことは大変、有益です。

また、ライセンス契約においてはコンテンツが「国家の安全を脅かすような表現、風紀を紊乱するような表現」を含まない旨の表明保証を中国側ライセンシーから求められることがあり、あまり聞き慣れないタイプの表明保証条項であるため戸惑うこともありますが、こうした条項が求められる背景にも政府機関による表現規制があるのではないかと想像します。

終わりに

2010年代以降、中国のコンテンツ市場は徐々に自前でのコンテンツ制作の力を蓄えてきたといわれており、筆者などは、この趨勢が続けばこれまで日本発コンテンツへ注がれてきた熱視線にもやがて陰りが生じるのではないか、と危惧しています。また、米国や韓国等他国発のコンテンツとの競争も今後、激しさを増すことでしょう。

とはいえ、当面、中国のコンテンツ市場において、日本発のコンテンツが一定程度消費される状況は続くと思いますし、いままで一部の、コンテンツの海外輸出に積極的な製作者だけが中国市場との接点を持っていた状況から、中小、独立系のコンテンツ製作者に至るまで、また、いままで中国市場との接点が全くなかったような表現ジャンルまで、中国市場との接点を意識せざるを得ない状況があり、以前に比べてタッチポイントの裾野が格段に広がっているのを感じます。
今後も、中国市場とのコンテンツ取引は、様々な分野において広がっていくのであろうと、個人的には感じています。

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