特許実施許諾契約(特許ライセンス契約)とは?
規定すべき主な条項などを解説!

この記事のまとめ

「特許実施許諾契約(特許ライセンス契約)」とは、特許権を取得した発明について、第三者による実施(使用・譲渡など)を許諾する契約です。

許諾を受ける側(ライセンシー)は、特許発明を活用して新商品を製造・販売できるようになる一方で、特許権者(ライセンサー)はライセンス料による収入を得られます。

特許ライセンス契約を締結する場合、許諾の内容やライセンス料の計算方法などを中心に、さまざまな事項を定める必要があります。契約内容を巡るトラブルが発生しないように、必要な条項を漏れなく定めましょう。

今回は特許ライセンス契約について、締結の目的や規定すべき主な条項などを解説します。

特許実施許諾契約(特許ライセンス契約)をレビューできるようになるためには、特許についても勉強しないとですよね。

そうですね。この記事では、特許についても簡単に解説していきますが、もっと詳しく知りたい場合は「特許とは? 特許制度の概要・出願手続の流れなどを分かりやすく解説!」の記事で勉強していきましょう!

※この記事は、2022年6月23日時点の法令等に基づいて作成されています。

特許実施許諾契約(特許ライセンス契約)とは

「特許実施許諾契約(特許ライセンス契約)」とは、特許権を取得した発明について、第三者による実施(使用・譲渡など)を許諾する契約です。

特許の実施を許諾する側/される側はそれぞれ、ビジネス上、以下のように呼ばれます。

  • 特許の実施を許諾する側:ライセンサー(又は、特許権者)
  • 特許の実施を許諾してもらう側:ライセンシー

本記事でも、この表現を用いていきます。

ライセンサーとライセンシー、間違えてしまいそうです…。

「動詞+er=(動作を)する人」「動詞+ee=(動作を)される人」と覚えておきましょう! interviewer(インタビュアー=インタビューをする人)とinterviewee(インタビュイー=インタビューをされる人)など、似た単語と覚えておくのもいいかもしれませんね。

特許ライセンス契約を締結する主な目的

特許ライセンス契約を締結するライセンサー・ライセンシーの主な目的は、それぞれ以下のとおりです。

特許権者(ライセンサー)の目的

✅  ライセンス料による収入を得ること
ライセンサーは、ライセンシーから実施許諾料(ライセンス料)を受け取ることができます。保有する特許権を活用して、実働せずに権利収入を得ることが、ライセンサーの主な目的です。

許諾を受ける側(ライセンシー)の目的

✅  他社の特許を活用して商品を製造・販売すること
ライセンシーは、ライセンサーのもつ特許発明を活用して、自社の商品を製造・販売することができます。
ライセンサーの特許を実施できれば、ライセンシーはゼロから技術開発を行う必要がなくなります。そのため、ライセンス料を支払ったとしても製造・販売のトータルコストを下げられる点や、迅速に商品を市場展開できる点などが、ライセンシーにとっての狙いです。

特許の実施許諾が必要となる行為|特許法上の「実施」とは

特許権者は、特許を取得した発明を業として実施する権利を専有(独占)しています(特許法68条)。したがって、特許権者以外の者が特許発明を業として実施する場合、特許権者から許諾を受けなければなりません。

特許法上、発明は以下の3種類に分類されています。

  •   物の発明
    例:化学物質・コンピュータープログラム・機械などの発明
  •   方法の発明
    例:通信方法・食品の保存方法・害虫の駆除方法などの発明
  •   物を生産する方法の発明
    例:化粧品の製造方法・化学物質の製造方法・PCの生産方法などの発明

特許権の「実施」とは、上記の特許発明の分類ごとに、以下の行為と定義されています(特許法2条3項)。

物の発明の「実施」

物の発明の「実施」に当たる行為

その物についての以下の行為
✅  生産
✅  使用
✅  譲渡、貸渡し(その物がプログラム等の場合は、電気通信回線を通じた提供を含む。以下「譲渡等」)
✅  輸出
✅  輸入
✅  譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む)

方法の発明の「実施」

方法の発明の「実施」に当たる行為

その方法についての以下の行為
✅  使用

物を生産する方法の発明の「実施」

物を生産する方法の発明の「実施」に当たる行為

その方法についての以下の行為
✅  使用

その物についての以下の行為
✅  使用
✅  譲渡等
✅  輸出
✅  輸入
✅  譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む)

第三者が特許権をもつ発明を業として実施したい場合には、必ず特許ライセンス契約を締結する必要があります。無断で、他人の特許発明を業として実施してしまうと、特許権の侵害となってしまうので、注意しましょう!

特許ライセンス契約に定めるべき主な条項

特許ライセンス契約では、実施許諾に関するルールを明確に、かつ漏れなく定めておく必要があります。

特許ライセンス契約で定めておくべき主な条項は、以下のとおりです。

  •  実施許諾の内容・範囲
  •  設定登録の有無・方法
  •  ライセンス料(対価)に関する事項
  •  実施に関する状況報告
  •  帳簿の保管・閲覧
  •  対価の不返還
  •  製品における特許の表示義務・方法
  •  秘密保持
  •  改良技術・改良発明の取扱い
  •  第三者からのクレームへの対応
  •  保証の否認
  •  損害賠償
  •  反社会的勢力の排除
  •  合意管轄準拠法

以下、順に解説していきます。

実施許諾の内容・範囲

ライセンシーができることを明確化するため、実施許諾の内容・範囲を定めます。具体的には、以下の事項を特定しておきましょう。

  •  実施権の種類
  •  契約期間
  •  実施許諾の対象地域
  •  許諾範囲の制限(分野・数量・顧客など。もしあれば)

なお、実施権の種類については、特許法及び実務上、以下の分類がなされています。

  •  仮専用実施権と仮通常実施権
  •  専用実施権と通常実施権
  •  独占的実施権と非独占的実施権

以下それぞれ解説します。

仮専用実施権と仮通常実施権

特許出願中で、特許権の設定登録が済んでいない場合(=出願審査中の場合)には、

  •  仮専用実施権(特許法34条の2)
  •  仮通常実施権(特許法34条の3)

のいずれかを設定します。

  •   仮専用実施権
    →特許発明を業として実施できる権利を、ライセンシーのみに付与。特許ライセンス契約内で許諾した範囲においては、ライセンサーでさえも特許発明を業として実施できない。
  •  仮通常実施権
    →特許発明を業として実施できる権利を、ライセンシーにも付与。複数のライセンシーに付与することも可能。ライセンサーも引き続き、特許発明を業として実施できる。

なお、仮専用実施権・仮通常実施権は、

  • 特許権の設定登録があったとき(特許権が認められたとき)
  • 特許が認められないことが確定したとき

には消滅します(特許法34条の2第6項、34条の3第10項)。

特許権の設定登録がなされた後も、実施許諾を継続するためには、新たに専用実施権又は通常実施権の設定が必要です。

専用実施権と通常実施権

既に特許権の設定登録が済んでいる場合(=特許権が取得できている場合)には、

  •  専用実施権(特許法77条)
  •  通常実施権(特許法78条)

のいずれかを設定します。

専用実施権と通常実施権の違いは、仮専用実施権・仮通常実施権と同じく、実施許諾の範囲において、ライセンサーが特許発明を業として実施できるか否かの点です。

独占的実施権と非独占的実施権

仮通常実施権又は通常実施権を設定する場合、さらに

  1. 独占的通常実施権|実施許諾の対象者をライセンシーに限定するか
  2. 非独占的通常実施権|他の事業者に対する許諾を認めるか

の2通りに分類されます。
例えば通常実施権を設定し、他の事業者に対する実施許諾を行わないことを約する場合は「独占的通常実施権」となります。

なお、技術情報等のノウハウに限定してライセンスを行う場合には、特許発明そのものの実施を許諾するわけではありません。

この場合、(仮)専用実施権・(仮)通常実施権の区別は問題にならないため、独占的実施権・非独占的実施権のどちらにするかを決めれば足ります。

実施権の種類まとめ

✅  特許権取得前の実施権
・仮専用実施権
・仮通常実施権
     ├独占的仮通常実施権
     └非独占的仮通常実施権

✅  特許権取得後の実施権
・専用実施権
・通常実施権
     ├独占的通常実施権
     └非独占的通常実施権

✅  ノウハウに関する実施権
・独占的実施権
・非独占的実施権

設定登録の有無・方法

仮専用実施権・専用実施権の場合、特許ライセンス契約上に権利を記載しただけでは、法的効力が発生しません。効力を発生させるためには、特許庁に申請して設定登録を行う必要があります(特許法34条の4第1項、98条1項2号)。そのためライセンサーに対して、設定登録申請に必要な書類・情報の提供を義務付けることなどを定めておきます。

これに対して、仮通常実施権・通常実施権については、発生後に権利を取得した者に対しても当然に効力を有します(特許法34条の5、99条)。したがって、仮通常実施権・通常実施権を設定する場合、設定登録に関する契約上の定めは不要です。

ライセンス料(対価)に関する事項

特許発明の実施許諾は無償とする場合もありますが、何らかの対価(ライセンス料)を設定することの方が多いです。

ライセンス料を設定する場合、その金額を算定する方法としては、以下の例が挙げられます。

  •   定額実施料(Fixed Sum Royalty)
    →ライセンスの実績に関係なく、契約期間に応じた固定額のライセンス料を支払う方式です。
  •  経常実施料(Running Royalty)
    →ライセンスの実績に比例したライセンス料を支払う方式です。販売価格に応じた「料率法」と、製品数量に応じた「従量法」の2つがあります。
  •  利益に応じた実施料
    →純利益のうち一定割合をライセンス料とする方式です。
    「純利益3分方式」(資金力・営業力・特許発明。純利益の3分の1をライセンス料とする)や、「純利益4分方式」(資金力・営業力・特許発明・組織力。純利益の4分の1をライセンス料とする)などがあります。
  •  最低実施料(Minimum Royalty)
    →上記の各方式と組み合わせて、ライセンス料の最低保証額を設定することがあります。

また、ライセンス料の計算方法と併せて、支払日や支払方法なども契約中に明記しておきましょう。

実施に関する状況報告

ライセンサーとしては、ライセンシーによる特許発明の実施が、許諾の範囲内で適切に行われているかどうかを確認する必要があります。また、実績ベースのライセンス料を採用する場合には、ライセンス料を正しく算定するためにも、特許発明の実施状況に関する情報が必要です。

そのため、四半期ごと・半期ごと・1年ごとなどの期間を区切って、ライセンシーからライセンサーに対して、特許発明の実施状況に関する報告を義務付けるのが一般的となっています。

帳簿の保管・閲覧

実績ベースのライセンス料が適切に算出されているかどうかを確認するには、ライセンシーからの報告だけでは信頼性に欠ける場合があります。

そこで、ライセンサーが要求した場合には、ライセンシー側の帳簿書類等の閲覧・検査を認めることが多いです。ライセンシーからの閲覧・検査要求に応じるため、契約期間中及び終了後数年間については、帳簿書類等の保管をライセンシーに義務付けておきます。

対価の不返還

特許ライセンス契約を締結した後、特許権が無効になったり、出願中の特許が拒絶されたりする可能性もあります。

この場合、支払い済みのライセンス料をどのように取り扱うかが問題となりますが、トラブルの複雑化を防ぐため、ライセンス料の不返還を合意しておくケースが多いです。

製品における特許の表示義務・方法

特許発明を利用してライセンシーが製造・販売する商品において、特許権の表示をすることに関するルールを定めるケースも多いです。特許権の表示には、商品の信頼性を高め、かつ第三者による権利侵害を予防する効果が期待できます。

契約上は、特許権の表示を義務付けるケースと、ライセンシーの判断で表示するか否かを選択できるケースの両方があり得ます。

秘密保持

ライセンサーとライセンシーの間でやり取りされる営業秘密などにつき、第三者への流出を防止するため、秘密保持義務に関するルールを定めます。具体的には、以下の事項を定めるのが一般的です。

  •  秘密情報の定義
  •  第三者に対する秘密情報の開示・漏えい等を原則禁止する旨
  •  第三者に対する開示を例外的に認める場合の要件
  •  秘密情報の目的外利用の禁止
  •  契約終了時の秘密情報の破棄・返還
  •  秘密情報の漏えい等が発生した際の対応
    など

なお、出願公開前の発明をライセンスする場合、発明の内容に関する説明や、特許出願明細書などは秘密情報に該当する点に注意が必要です。

改良技術・改良発明の取扱い

実施許諾の対象特許に基づき、ライセンサー・ライセンシーのいずれかが、改良技術・改良発明を生み出すことも想定されます。

法律上は、改良技術・改良発明を相手方に開示する義務はありません。しかし、取引上の公平性を考慮して、相手方に対する開示を義務付け、さらに無償での実施を許諾するケースが実務上多くなっています。

第三者からのクレームへの対応

対象特許に基づいて生産された商品等につき、第三者からクレームを受けた場合に、ライセンサー・ライセンシーのどちらが主導して対応するかを定めておきます。

一般的には、商品の製造・販売を行うライセンシーの責任で対応するケースが多いです。

保証の否認

商品等の製造・販売によって何らかの損害が発生した場合、その全てをライセンシーが負担し、ライセンサーは一切の保証を提供しない旨を定めることもあります。

保証の否認を定めることで、当事者間における責任の所在・分担を明確化し、紛争を予防する効果が期待されます。

損害賠償

いずれかの当事者の契約違反により、相手方に損害が発生した場合には、違反者が相手方に対して損害賠償責任を負います。以下の要領を参考にして、損害賠償責任の範囲につき、契約で明記しておきましょう。

損害賠償の範囲の定め方

✅  民法の原則どおりとする場合
→「相当因果関係の範囲内で損害を賠償する」など

✅  民法の原則よりも範囲を広げる場合
→「一切の損害を賠償する」など

✅  民法の原則よりも範囲を狭くする場合
→「直接発生した損害に限り賠償する」、損害賠償の上限額を定めるなど

反社会的勢力の排除

コンプライアンスの観点から、反社会的勢力の排除について、ライセンサー・ライセンシーが相互に合意するケースも多いです。具体的には、以下の事項を反社条項として定めます。

  •  当事者(役員等を含む。以下同じ)が暴力団員等に該当しないことの表明・保証
  •  暴力的な言動等をしないことの表明・保証
  •  相手方が反社条項に違反した場合、直ちに契約を無催告解除できる旨
  •  反社条項違反を理由に契約を解除された当事者は、相手方に対して損害賠償等を請求できない旨
  •  反社条項違反を理由に契約を解除した当事者は、相手方に対して損害全額の賠償を請求できる旨

合意管轄・準拠法

万が一、ライセンサーとライセンシーの間でトラブルが発生した場合に備えて、訴訟を提起する裁判所をあらかじめ合意しておきましょう(合意管轄)

また、ライセンサーとライセンシーのいずれかが海外企業の場合、契約解釈に関する準拠法も定めておきます。

この記事のまとめ

特許実施許諾契約(特許ライセンス契約)の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

独立行政法人工業所有権情報・研修館「知っておきたい特許契約の基礎知識」