36協定の対象者とは?
対象外となる労働者・適用除外・
カウント方法などを分かりやすく解説!

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植月・岩﨑法律事務所弁護士
2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会所属)。中小企業法務、契約法務、労働法務などを取り扱う。他士業とのセミナー共催多数。東洋経済オンライン記事執筆、独占禁止法等の法律書籍監修、国家戦略特区東京圏雇用労働相談センター相談員、慶應義塾大学法科大学院助教(~2022年)、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」出演。
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この記事のまとめ

36協定とは、時間外労働や休日労働をさせる場合に定めなければならない労使協定のことをいいます。

労働基準法の要件を満たした36協定を締結している場合、その対象となる労働者に対して時間外労働や休日労働をさせても労働基準法違反には当たりません。
企業の担当者は36協定の対象者が誰なのか、時間外労働や休日労働を何時間までさせてよいのかを把握する必要があります。

この記事では、36協定の対象となる労働者の範囲について、基本から分かりやすく解説します。

ヒー

36協定って、社員に残業をさせるために必須なんですよね? でも、36協定の対象者って具体的には誰が当てはまるんでしょうか?

ムートン

法令上の言葉は、「残業」ではなく「時間外労働」や「休日労働」ですね。会社で働く人のうち、誰が36協定の対象となるのか、以下で確認していきましょう。

※この記事は、2023年6月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名等を次のように記載しています。

  • 育児介護休業法…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

36協定とは

36協定(サブロク協定)とは、労働者に時間外労働休日労働をさせる場合に、あらかじめ締結しなければならない労使協定です。
労働基準法36条に基づいて締結されることから、36協定(サブロク協定)とよばれています。

時間外労働とは労働基準法で定められた労働時間を超えて労働させること
休日労働とは労働基準法により労働者に与えなければならない休日に労働させること

36協定に違反した場合、6カ⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科されます。

時間外労働・休日労働の上限規制

36協定がなければ、そもそも使用者は労働者に対して時間外労働や休日労働を命じることはできません。もっとも、36協定さえあれば無制限に時間外労働や休日労働を命じることができるわけではありません
具体的には、時間外労働を命じることができる上限は、

  • 月45時間まで
  • 年360時間まで

が原則です(労働基準法36条4項)。

そして、1年を通して常に、時間外労働休⽇労働合計は、

  • ⽉100時間未満
  • 2〜6か⽉の平均が各期間で80時間以内

でなければなりません(労働基準法36条6項2号・3号)。

ムートン

例えば、「時間外労働:40時間(45時間以内)、休⽇労働:60時間」のように、合計が⽉100時間以上になると、労働基準法違反となります。

特別条項

通常の36協定の内容に加えて、通常予見することのできない業務量の大幅な増加など、臨時的で特別な事情がある場合には、上限を超えた時間外労働をさせる時間を定めることができます。この例外的な定めを特別条項といいます。

ただし、特別条項を定める場合であっても、時間外労働を命じることができるのは、

  • 年720時間まで

が上限です。

また、月45時間を超えて時間外労働を命じることができる月数は、

  • 1年のうち6カ月まで

です(労働基準法36条5項)。

そして、特別条項がある場合であっても、時間外労働休日労働合計は、特別条項のない場合と変わらず、

  • 月100時間未満
  • 2〜6か⽉の平均が各期間で80時間以内

でなければなりません。

36協定の対象者とは

36協定は、労働基準法に基づいて締結されるものですから、その対象者は労働基準法に定める「労働者」(労働基準法9条)ということになります。

労働基準法上の「労働者」とは

労働基準法上の「労働者」の定義については、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」(労働基準法9条)と定められています。
ですので、雇用関係にある従業員は広く含むことになります。当然、再雇用や休業中の者も含まれます。
雇用形態は問いませんので、

  • 契約社員
  • パート、アルバイト

などの非正規雇用の従業員も含みます。

ただし、非正規雇用の従業員に時間外労働をさせない場合には、36協定の対象とする必要はありません。

一方、たとえ事業所等で働いていたとしても、使用者と雇用関係にない、

  • 役員(使用者)
  • 派遣社員(派遣元事業者と雇用関係にある)
  • 業務委託
  • 業務請負

などに当たる人は、労働基準法上の「労働者」ではないため、36協定の対象者ではありません。

ムートン

労働基準法上の「労働者」に当たるかどうかは、契約書上の定めがどうなっているかではなく、実際に指揮命令を受けているかといった実態から判断されます。

管理監督者|「管理職」との違い

労働者であっても、管理監督者は36協定の対象にはなりません。
管理監督者とは、「監督若しくは管理の地位にある者」(労働基準法41条2号)のことで、労働時間に関する労働基準法の定めが適用されません。

「部長」や「店長」といった役職の名称がついていると、社内では管理職として扱われるかもしれませんが、管理職であれば管理監督者に当たるというわけではありません

管理監督者に当たるかどうかは、

  • 職務の内容や権限などから見て経営者と一体的な立場にあるか
  • 勤務態様が労働時間の管理に馴染まないものかどうか
  • 他の一般の労働者に比べて管理監督者にふさわしい待遇がされているか

などを考慮して判断されます。

18歳未満の者

18歳未満の者に対しては、原則として時間外労働を命じることができません(労働基準法60条)。したがって、18歳未満の者を対象とした36協定を締結したとしても、時間外労働を命じる根拠にはなりません。

育児や介護を理由とした請求がある場合

36協定を締結していれば、会社は従業員に対し、36協定に定めた時間外労働を命じることができます。
しかし、未就学時を養育する労働者から、育児を理由とした請求があったときは、

  • 月24時間
  • 年150時間

を超えて時間外労働をさせることはできません(育児介護休業法17条)。

また、要介護状態にある家族を介護する労働者から、介護を理由とした請求があったときも、同様に月24時間、年150時間を超えて時間外労働をさせることはできません(育児介護休業法18条)。

妊産婦から請求がある場合

36協定を締結していても、妊産婦(妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性をいいます)から請求があったときは、時間外労働をさせることはできません(労働基準法66条2項)。

36協定の上限規制の適用が猶予される業種・業務

時間外労働・休日労働の上限規制」で解説した36協定の上限規制は、2019年4月から(中小企業は2020年4月から)適用が始まっていますが、2024年3月31日まで適⽤が猶予されている業種や業務があります。適用が猶予されているのは、以下の業種・業務です。

建設事業

建設事業は、2024年3月31日まで、上限規制は適用されません。
2024年4月1日以降は、災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制が全て適用されます。
災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制は適用されません(年の上限〔360時間、特別条項ありの場合は720時間〕は適用されます)。

自動車運転の業務

自動車運転の業務は、2024年3月31日まで、上限規制は適用されません。
2024年4月1日以降は、特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります。

時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制は適用されません。また、時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月までとする規制は適用されません。

医師

医師は、2024年3月31日まで、上限規制は適用されません。
2024年4月1日以降は、

  • 一般的な医師の時間外労働の上限水準(A水準:上限は年960時間、月100時間未満)
  • 地域医療提供体制の確保の観点からやむを得ずA水準を超える場合の水準(B水準・連携B水準:上限は年1860時間、月100時間未満〔例外あり〕)
  • 一定の期間集中的に技能向上のための診療を必要とする医師向けの水準(C-1水準・C-2水準:上限は年1860時間、月100時間未満〔例外あり〕)

を設け、それぞれの水準ごとに異なる上限が適用されます。

⿅児島県および沖縄県における砂糖製造業

⿅児島県および沖縄県における砂糖製造業は、2024年3月31日まで、時間外労働と休⽇労働の合計について、⽉100時間未満、2〜6カ⽉平均80時間以内とする規制は適用されません。
2024年4月1日以降は、上限規制が全て適用されます。

36協定の上限規制の適用が除外される業務

新たな技術、商品または役務の研究開発に係る業務については36協定の上限規制の適用が除外されています(労働基準法36条11項)。
ただし、1週間当たり40時間を超えて労働した時間が⽉100時間を超えた労働者に対しては、医師の⾯接指導が罰則付きで義務付けられています(労働安全衛生法66条の8の2)。

36協定の対象者のカウント方法

36協定は、事業場ごとに、使用者と「労働者の過半数で組織する労働組合(過半数労働組合)」または「労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)」が締結することとされています。

この「労働者の過半数」のカウント方法ですが、分母には正社員だけでなく、契約社員、パートやアルバイト、出向者、休職中の者なども含めた事業場の全ての労働者をカウントします。

一方で、36協定届に記載する労働者数を記載する際は、実際に36協定を適用する者の人数をカウントする必要があります。

出向者のカウント方法

出向者は出向先で就業するため、原則として出向先の36協定の対象者にカウントされます。
なお、出向先が36協定を締結していない場合、出向元で36協定を締結していたとしても、時間外労働や休日労働をさせることはできません。

管理監督者のカウント方法

管理監督者は36協定の対象者ではありませんが、事業場ごとの「労働者の過半数」をカウントするときの分母には含めるというのが行政解釈です。
一方で、管理監督者は、「労働者の過半数を代表する者」になることはできません(労働基準法施行規則6条の2第1項1号)。

また、上記のとおり、管理監督者は36協定の対象者ではないため、36協定届の労働者数をカウントする際は含めません。

派遣社員はカウントしない

派遣社員は、派遣先と雇用関係にあるわけではありませんので、派遣先の労働者にはカウントしません。
事業場ごとの「労働者の過半数」をカウントするときにも、母数には含みません。

ただし、派遣元事業主が36協定を締結している場合は、派遣元事業主は36協定を根拠に、派遣社員に時間外労働・休日労働を命じることができます。

36協定に定める労働者数は起算日を基準に算定する

36協定では、その制度の適用が始まる日を「起算日」として定めます。36協定に定める労働者数は起算日を基準に算定します。
事前に算定する場合は、退職や管理監督者等の変動が予定されていないかなどに注意が必要です。

企業の担当者が気をつけるべきポイント

現代では働き方が多様化していますので、正社員だけでなく、契約社員、パートやアルバイト、派遣社員などさまざまな雇用形態の人が一つの事業場で働いていることも多いでしょう。
企業の担当者としては、時間外労働や休日労働が必要な事業場ごとに、36協定の対象者は誰か過半数組合または過半数代表者が協定の当事者になっているかを確認しましょう。

また、36協定の締結後も、特別条項の有無などに応じて、対象者に時間外労働や休日労働を何時間までさせてよいのか・実際に何時間行っているのかを把握する必要があるといえます。

ムートン

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