会社分割とは?
種類・事業譲渡との違い・メリット・
手続き・注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「会社分割」とは、株式会社または合同会社が、事業上の権利義務の全部または一部を分割した上で、他の会社に承継させることをいいます。「吸収分割」と「新設分割」の2種類があり、それぞれ会社法上の手続きに従って行います。
会社分割を行うと、当事者のニーズに応じて、特定の部門を切り離して売却(購入)することができます。また、包括承継により、既存の会社組織や契約を活用できる点なども、会社分割のメリットです。
その反面、会社分割は大規模な取引であり、簿外債務を引き継ぐリスクもあるため、デューデリジェンスをきちんと行うなどの慎重な対応が求められます。この記事では会社分割について、種類・事業譲渡との違い・メリット・手続き・注意点などを分かりやすく解説します。
※この記事は、2024年8月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
会社分割とは
「会社分割」とは、株式会社または合同会社が、事業上の権利義務の全部または一部を分割した上で、他の会社に承継させることをいいます。M&Aの手法の1つです。
吸収分割と新設分割
会社分割には「吸収分割」と「新設分割」の2種類があります。
① 吸収分割
分割して会社から切り離した権利義務を、別の既存会社に吸収させる形で承継させます。
吸収母体となる会社を「吸収分割承継会社」、権利義務を切り離す元の会社を「吸収分割会社」といいます。
② 新設分割
分割して会社から切り離した権利義務を、新たに設立する会社に承継させます。
新たに設立される会社を「新設分割設立会社」、権利義務を切り離す元の会社を「新設分割会社」といいます。
会社分割と事業譲渡の違い
会社分割と同じく、会社の権利義務の全部または一部を切り離して譲渡する手続きとして「事業譲渡」があります。
会社分割の場合、個々の権利義務について個別に承継手続きを行う必要はなく、効力発生によって自動的に権利義務が承継会社に引き継がれます(=包括承継)。
これに対して事業譲渡の場合は、個々の権利義務について個別に承継手続きを行わなければなりません(=事業譲渡)。
その他のM&A手続き|合併・株式譲渡など
会社法では、会社分割や事業譲渡以外にも、以下のようなM&A手続きが認められています。
① 合併
複数の会社が一つの会社になる手続きです。既存の会社が別の会社を吸収する「吸収合併」と、既存の会社が新たに設立する会社に統合される「新設合併」があります。
② 株式譲渡
会社の株式をオーナーから別の者に移転し、経営権を譲渡します。
会社組織が温存され、手続きも比較的簡単であるのが大きな特徴です。
会社分割のメリット
会社分割には、主に以下のメリットがあります。
① 特定の部門を切り離して売却(購入)できる
② 包括承継により、既存の会社組織や契約を活用できる
③ 新設分割は子会社や合弁会社の設立に活用できる
特定の部門を切り離して売却(購入)できる
会社を丸ごと売却(購入)する合併とは異なり、会社分割の場合は、特定の部門に係る権利義務だけを切り離して売却(購入)できます。
例えば、業績好調の部門を会社分割によって切り離して売却し、残った不採算部門を清算するなど、当事者のニーズに合わせた取引が可能になります。
包括承継により、既存の会社組織や契約を活用できる
会社分割の効力が発生すると、分割によって切り離された権利義務は、吸収分割承継会社または新設分割設立株式会社へ自動的に承継されます。
事業承継などとは異なり、会社分割では個々の権利義務についての承継手続きが必要ありません。そのため、既存の会社組織や契約などをそのままスムーズに活用できます。
新設分割は子会社や合弁会社の設立に活用できる
新設分割は、1つの会社が単独で行うこともできます。
例えば、複数の事業部門を展開している会社が、特定の部門だけを切り出す形で新設分割を行えば、スムーズに子会社を分離独立させることができます。
また、複数の会社が共同で新設分割を行えば、合弁会社(ジョイント・ベンチャー)をスムーズに設立することが可能です。
会社分割のデメリット
会社分割には、以下のデメリットがあることに注意が必要です。
① 手続きが大規模・煩雑である
② 簿外債務を引き継ぐリスクがある
手続きが大規模・煩雑である
会社分割を行う際には、会社法上の規定に沿って手続きを行わなければなりません。
後述するように会社法上の会社分割の手続きは非常に大規模かつ複雑になっています。専門家(弁護士など)のサポートが事実上必須となりますが、依頼する際にはコストがかかる点に注意が必要です。
簿外債務を引き継ぐリスクがある
会社分割は、事業単位で会社の権利義務を包括承継させる手続きです。個々の権利義務を個別に譲渡する(譲り受ける)わけではないので、買い手側が把握していない債務を引き継いでしまうリスクがあります。
特に簿外債務を引き継いでしまうと、買い手側は予期せぬ損害を被るおそれがあるので注意が必要です。会社分割を行う際には、分割対象となる部門について徹底的にデューデリジェンス(後述)を行いましょう。
会社分割の手続きの流れ
会社分割の手続きは、大まかに以下の流れで進行します。
- 会社分割の手続き
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① 会社分割に関するマッチング・交渉
② 基本合意書の締結
③ デューデリジェンス
④ 吸収分割契約の締結・新設分割計画の作成・本店での備え置き
⑤ 株主総会特別決議による吸収分割契約・新設分割計画の承認
⑥ 反対株主の株式買取請求等
⑦ 債権者異議手続き
⑧ 会社分割の効力発生
⑨ 会社分割に関する書面等の備え置き・閲覧※1社単独で行う新設分割については、①~③は不要
会社分割に関するマッチング・交渉
まずは、会社分割を行う当事者のマッチングを行います(1社単独で行う新設分割については不要)。
主にいずれかの当事者が他方を指名して交渉するパターンと、M&A仲介業者を通じてマッチングがなされるパターンの2通りがあります。
マッチングがなされた後は、分割の対象とする事業・部門や、分割対価などの基本的な契約条件に関する交渉が行われます。
基本合意書の締結
会社分割に関する基本的な契約条件の合意がおおむね調ったら、当事者間で基本合意書(MOU:Memorandum of Understanding、LOI:Letter of Intent)を締結します(1社単独で行う新設分割については不要)。
基本合意書には、分割対象とする事業・部門や分割対価など、会社分割に関する契約条件が定められます。
ただし、会社分割に関する契約条件には、基本合意書の段階では法的拘束力を持たせず、デューデリジェンスの完了後に確定させるのが一般的です。
そのほか、基本合意書にはデューデリジェンスのスケジュールや協力義務、独占交渉権などを定めます。
デューデリジェンス
「デューデリジェンス」は、M&A取引における買い手側が、対象会社の状態を知るために実施する調査です。財務・法務・税務・人事労務・不動産など、さまざまな観点からデューデリジェンスが行われます。
会社分割の実行後に予期せぬリスクが判明すると、買い手側は大きな損害を被るおそれがあるので、きちんとデューデリジェンスを行わなければなりません。
デューデリジェンスの結果として予期せぬリスクが判明した場合は、契約条件の変更や会社分割そのものの取りやめも検討すべきです。
吸収分割契約の締結・新設分割計画の作成・本店での備え置き
吸収分割の場合は、当事者間において吸収分割契約を締結します。
吸収分割契約には会社法所定の事項を定める必要があるほか(会社法758条・760条)、当事者間で合意したその他の契約条件を定めます。
新設分割の場合は、新設分割計画を作成します。
新設分割計画には、会社法所定の事項を定める必要があります(会社法763条・765条)。
吸収分割契約および新設分割計画に関しては、原則として承認決議(後述)をする株主総会の日の2週間前から効力発生日の6カ月後まで、法定事項を記載・記録した書面または電磁的記録を、当事者である各会社の本店に備え置かなければなりません(会社法782条・794条・803条)。
株主総会特別決議による吸収分割契約・新設分割計画の承認
吸収分割契約または新設分割計画については、原則として当事者である各会社において、株主総会特別決議により承認を受けなければなりません(会社法783条・795条・804条・309条2項11号)。
ただし、吸収分割承継会社が吸収分割会社の特別支配会社である場合、分割によって承継させる資産の帳簿価額が吸収分割会社の総資産額の5分の1以下である場合、分割対価が吸収分割承継会社の資産額の5分の1を超えない場合には、株主総会特別決議による承認が不要となることがあります(会社法784条・796条)。
なお、当事者が持分会社である場合は、吸収分割契約または新設分割計画につき、原則として総社員の同意を得る必要があります(会社法802条・813条)。
反対株主の株式買取請求等
株式会社の会社分割については、反対株主に株式買取請求権が認められています。
株式買取請求権を行使するには、吸収分割契約または新設分割計画を承認する株主総会に先立って、会社に対して合併に反対する旨を通知し、かつ実際に株主総会で反対の議決権を行使することが必要です。
この場合、反対株主は会社に対して、自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう請求できます(会社法785条・786条・797条・798条・806条・807条)。
また、吸収分割株式会社および新設分割株式会社においては、新株予約権についても同様の買取請求が認められています(会社法787条・788条・808条・809条)。
債権者異議手続き
会社分割の当事者である会社の債権者は、会社分割について異議を述べることができます(会社法789条・799条・810条)。
会社分割の当事者である会社は、会社分割に関する事項および債権者が異議を述べることができる旨を公告しなければなりません。さらに、知れている債権者に対しては各別に催告する必要があります。
会社分割に対して異議を述べた債権者に対しては、その債権者を害するおそれがない場合を除き、会社は弁済・担保提供・信託のいずれかを行う必要があります。
会社分割の効力発生
吸収分割の効力は、吸収分割契約で定められた効力発生日に生じます(会社法759条1項・761条1項)。
吸収分割の効力が発生すると、吸収分割承継会社は、吸収分割会社から対象となる権利義務を自動的に承継します。
新設分割の効力は、新設分割設立会社が成立する日に生じます(会社法764条1項・766条1項)。
新設合併の効力が発生すると、新設分割設立会社は、新設分割会社から対象となる権利義務を自動的に承継します。
会社分割に関する書面等の備え置き・閲覧
吸収分割会社および吸収分割承継会社は、吸収分割の効力発生日後遅滞なく、吸収分割に関する事項を記載・記録した書面または電磁的記録を作成し、効力発生日から6カ月間本店に備え置かなければなりません(会社法791条・801条)。
新設分割会社は、新設分割設立会社の成立の日後遅滞なく、新設分割設立会社と共同して、新設分割に関する事項を記載・記録した書面または電磁的記録を作成しなければなりません。作成した書面または電磁的記録は、新設分割会社の本店において、効力発生日から6カ月間備え置く必要があります(会社法811条)。
会社分割を行う際の注意点
会社分割を行う際には、特に以下の2点に注意して手続きを進めましょう。
① 会社法の規定に沿って手続きを行う
② デューデリジェンスをきちんと行う
会社法の規定に沿って手続きを行う
会社法で定められた手続きをきちんと行わないと、会社分割無効の訴えを提起されるおそれがあります(会社法828条1項9号・10号)。
会社法上の規定をよく確認し、必要な手続きを漏れなく行った上で、その内容や過程を記録に残しておきましょう。
デューデリジェンスをきちんと行う
会社分割の買い手側(複数の会社が新設分割を行う場合は、すべての当事者)は、会社分割について予期せぬリスクを負う事態を回避するため、デューデリジェンスを徹底的に行いましょう。
少しでも不安な点や疑問点があれば、経営陣に対する質問(=マネジメント・インタビュー)などを通じて詳細を明らかにしましょう。
重大なリスクが判明した場合には、会社分割を取り止めることも検討すべきです。
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