動産執行とは?
申立てに必要な準備・手続き・費用・
流れなどを分かりやすく解説!

この記事のまとめ

動産執行」とは、債務者が所有する動産を執行官が差し押さえ売却した代金を強制的に債権弁済へ充てる手続きです。現金のほか、貴金属類・美術品・骨董品など、幅広い動産が動産執行の対象となります。

動産執行を申し立てる際には、執行官に対して債務名義の正本を提出しなければなりません。債務名義に当たるのは、確定判決・和解調書・審判書・調停調書などです。動産執行の申立てに先立ち、これらの債務名義を取得する必要があります。
また、動産執行の申立てに当たっては、差し押さえる動産の範囲(場所)を特定しなければなりません。債務者の自宅や事業所などを対象とするのが一般的です。

動産執行は、執行官が動産を占有する方法で差し押さえた後、その動産を売却して債権者に配当するという流れで行われます。
動産を差し押さえる際には、執行官に対して支払う予納金のほか、開錠業者や搬送業者に対して支払う費用などがかかります。

この記事では動産執行について、申立てに必要な準備・手続き・費用・流れなどを解説します。

ヒー

訴訟に勝った後も、相手がお金を払わなかった場合に、強制的にお金を取り立てる方法はありますか?

ムートン

裁判所による強制執行の方法の一つに、「動産執行」があり、債務者の自宅や事業所(会社・店)などで直接動産を差し押さえることができますよ。

※この記事は、2024年7月11日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

動産執行とは

動産執行」とは、債務者が所有する動産を執行官が差し押さえ売却した代金を強制的に債権弁済へ充てる手続きです。現金のほか、貴金属類・美術品・骨董品など、幅広い動産が動産執行の対象となります。

動産執行の目的

動産執行の目的は、不履行となっている債権を強制的に回収することです。

訴訟の判決などによって債務が確定したにもかかわらず、その債務が履行されない場合には、債権者は裁判所に対して強制執行を申し立てることができます。
強制執行の手続きでは、債務者の財産が強制的に換価・処分され、債権の弁済に充当されます。

強制執行は、不動産・動産・債権などのさまざまな財産について申し立てることができます。動産執行は、動産を対象とする強制執行です。

動産執行の具体例

動産執行では、現金・貴金属類・美術品・骨董品など、幅広い動産が換価・処分および弁済充当の対象となります。

例えば、以下のような形で動産執行が行われます。

  • 貸金返還請求権100万円を回収するため、債務者の自宅にある動産について強制執行の申立てを行い、執行官が債務者の自宅にあった現金100万円を差し押さえた。
  • 売掛金債権200万円を回収するため、債務者の事業場にある動産について強制執行の申立てを行い、執行官が債務者の事業場にあった金地金(ゴールド)を差し押さえた。

動産執行を申し立てるために必要な準備

動産執行を申し立てる際には、以下の準備が必要になります。

① 債務名義を取得する
② 債務名義に執行文を付与してもらう(不要な場合あり)
③ 差し押さえる動産の場所を特定する

債務名義を取得する

債務名義」とは、強制執行の申立てに必要な公文書です。強制執行を申し立てる際には、まず債務名義を取得する必要があります。

債務名義に当たる文書の例は、以下のとおりです(民事執行法22条)。

(a) 確定判決

(b) 仮執行の宣言を付した判決

(c) 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあっては、確定したものに限る)
(例)仮差押命令、仮処分命令など

(d) 仮執行の宣言を付した損害賠償命令

(e) 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令

(f) 仮執行の宣言を付した支払督促

(g) 裁判手続きの費用の負担の額などを定める裁判所書記官の処分

(h) 債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている公正証書(執行証書)

(i)確定した執行決定のある特定和解

(j) 確定判決と同一の効力を有するもの((c)の裁判を除く)
(例)和解調書、認諾調書、調停調書、審判書など

など

強制執行の申立てに用いられることが多い債務名義としては、確定判決・仮執行宣言付判決・仮執行宣言付支払督促・公正証書(執行証書)・和解調書・調停調書・審判書などが挙げられます。

債務名義が手元にない場合は、支払督促・調停・訴訟などの法的手続きを通じて債務名義を取得しましょう。

債務名義に執行文を付与してもらう(不要な場合あり)

強制執行は原則として、執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施されます(民事執行法25条本文)。
執行文は、執行証書以外の債務名義については裁判所書記官が、執行証書については公証人が付与します(同法26条1項)。

参考:裁判所ウェブサイト「執行文付与」

ただし例外的に、以下の債務名義については、強制執行の申立てに当たって執行文の付与が不要とされています(同法25条但し書き)。

  • 少額訴訟における確定判決
  • 仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決
  • 仮執行の宣言を付した支払督促

差し押さえる動産の場所を特定する

動産執行の申立てに当たっては、差し押さえる動産の範囲を所在場所によって特定する必要があります。動産の種類や内容などを具体的に特定する必要はありません。

例えば、「(債務者の自宅の住所)に所在する土地上、およびその土地上に存在する建物内に存在する一切の動産」などの形で、差押えの範囲を特定します。

対象となる動産の具体例

動産執行の対象となるのは、不動産以外の有体物(=動産)です。具体的には現金のほか、貴金属類・美術品・骨董品など、幅広い動産が動産執行の対象となります。

なお、銀行などに所在する預貯金は、払戻しを受ける権利(=債権)なので、動産執行ではなく債権執行の対象です。

差押禁止動産に対しては執行不可

以下の動産は差押え禁止とされているため、動産執行によって差し押さえることはできません(民事執行法131条)。

  • 生活必需品である衣服、寝具、台所用具、畳、建具
  • 1カ月間の生活に必要な食料、燃料
  • 66万円以下の金銭
  • 事業に欠くことができない器具など
  • 実印その他の印で、職業または生活に欠くことができないもの
  • 仏像、位牌など、礼拝または祭祀に欠くことができない物
  • 系譜、日記、商業帳簿など
  • 勲章など
  • 学校などでの学習に必要な書類、器具
  • 未公表の発明、著作
  • 義手、義足など
  • 法令に基づく消防用機械、器具、避難器具、備品

動産執行の申立てにかかる費用

動産執行の申立てには、主に以下の費用がかかります。

① 予納金
裁判所に納付します。3万円から4万円程度です。

② 開錠費用
開錠業者を伴う場合に支払います。数万円程度です。

③ 運搬費用
差し押さえた動産をトラックなどで運搬する必要がある場合に、運搬業者に対して支払います。数万円から数十万円程度です。

④ 弁護士費用
弁護士に強制執行の申立てなどを依頼する際に支払います。数十万円程度が標準的ですが、事案の内容や依頼先の弁護士によって異なります。

動産執行の手続きの流れ

動産執行の手続きは、以下の流れで進行します。

① 執行官に対する動産執行の申立て
② 執行官との打ち合わせ
③ 動産の差押え・執行官による占有
④ 動産の売却
⑤ 債権者等への配当

執行官に対する動産執行の申立て

動産執行の申立ては、動産の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に対して行います。

申立てに当たって必要となる主な書類は、以下のとおりです。

  • 申立書
  • 法人の資格証明書(申立人が法人の場合のみ。発行日から3カ月以内のもの)
  • 住民票の写し、戸籍謄本など(申立人が自然人で、かつ氏名または住所が債務名義上の表示と異なる場合のみ。発行日から3カ月以内のもの)
  • 執行力のある債務名義の正本(原則として執行文の付与が必要)
  • 執行力のある債務名義の送達証明書
  • 委任状(代理人が申立てをする場合のみ)
  • 執行場所の略図
  • 当事者目録、債務名義の表示

また、申立ての際に予納金を納付します。予納金の額は、申立先の執行官室の担当者に確認しましょう。

執行官との打ち合わせ

動産執行の実施に先立って、執行官との打ち合わせを行います。

打ち合わせでは、以下のようなことを話し合って決めます。

・動産執行の実施日時
・動産執行当日の待ち合わせ場所
・動産執行の手順、方法
・事前に手配が必要な業者(開錠業者、運搬業者など)
など

動産の差押え・執行官による占有

動産執行は、執行官が目的物を差し押さえる方法によって行います(民事執行法122条1項)。
執行官による動産の差押えに当たっては、執行官がその動産を占有します(同法123条1項)。

執行官は、債務者の住居その他債務者の占有する場所に立ち入ってその場所を捜索することができます。また、債務者の占有する金庫その他の容器を捜索することもできます(同条2項)。

差し押さえる動産の捜索に当たって必要があるときは、執行官は閉鎖した戸・金庫その他の容器を開くため、必要な処分をすることができます(同項)。具体的には、扉にかかっている鍵を強制的に開けたり、容器を壊して開けたりすることができます

執行官が相当であると認めるときは、差し押さえた動産を債務者保管させることができます(同条3項)。この場合、執行官は差し押さえた動産について、封印その他の方法で差押えの表示を行います。
例えば、大きすぎて運搬が困難な動産などについては、債務者に保管させる方法が選択されることもあります。

また、債務者に差押物を保管させる場合において、執行官が相当と認めるときは、債務者にその動産の使用を許可することも認められています(同条4項)。

なお、債務者が不在の場合であっても、執行官は扉を強制的に開錠するなどして、動産執行を実施することができます
実際には、債務者不在の状態で動産執行を実施するかどうかは、申立人(債権者)と執行官が事前に打ち合わせた上で判断することになるでしょう。

動産の売却

動産を差し押さえた後、執行官はその動産売却します。

売却に当たっては、執行官が裁量によってその価値を評価した上で差押物を売却するケースが多いです。その一方で、差押物が高価と思われる場合や、価値の判断が難しい場合には、売却に先立って鑑定人に差押物の価値を評価させるケースもあります。

売却の価額については、不動産に対する強制執行とは異なり、原則として売却基準価額などによる制限はありません。
ただし、取引所の相場のある有価証券は、その日の相場以上の価額で売却しなければならないとされています(民事執行規則123条)。また、貴金属またはその加工品は、地金としての価額以上の価額で売却しなければなりません(同規則124条)。

差押物の売却の方法は、入札または競り売りが原則とされています。実務上、動産競売における入札はほとんど行われておらず、競り売りによるのが一般的です。

ただし、差押物の種類・数量等を考慮して相当と認めるときは、執行官は執行裁判所の許可を受けて、入札または競り売り以外の方法で差押物を売却することが認められています(民事執行法134条、民事執行規則121条)。これは「特別売却」という手続きです。
競り売りに適していない動産を、個別の交渉を通じて売却する場合などに特別売却が選択されます。

また、執行官は執行裁判所の許可を受けて、執行官以外の者に差押物を売却させることもできます(同規則122条)。これは「委託売却」という手続きです。
美術品など、取り扱いに専門的な注意を要する動産の売却に当たっては、委託売却が選択されることがあります。また、売却の効率性の観点から委託売却が選択されることもあります。

債権者等への配当

動産競売の場合、申立てを行った差押債権者が、執行官から弁済金全額の交付を受けられるのが原則です。ただし、差押債権者が複数である場合は、協議等の内容に従って執行官が配当を実施します(民事執行法139条)。

また、差押物について先取特権または質権を有する者は、その権利を証する文書を提出して、配当要求をすることができます(同法133条)。

先取特権者と質権者は、目的物である動産から優先的に弁済を受ける権利を有します(民法303条・342条)。
したがって、差押債権者が差押物について先取特権または質権を有しない場合において、先取特権者または質権者から配当要求があったときは、差押債権者はほとんど配当を得られないケースが多いです。

ムートン

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