債権譲渡とは?
活用例・民法のルール・対抗要件・
手続き・注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「債権譲渡」とは、他人に対して債権を譲渡することです。
弁済期未到来の債権を早期に現金化したい場合、滞納状態に陥った債権を債権回収会社に買い取ってもらう場合、別の債権の担保に供する場合などに債権譲渡が行われることがあります。債権譲渡に関するルールは、主に民法で定められています。債権譲渡は原則として可能とされていますが、譲渡制限付き債権を譲渡する際の取り扱いについては注意が必要です。
債権譲渡を行う際には、まず譲渡人と譲受人の間で債権譲渡契約を締結します。その後、契約に従って債権譲渡を実行した後、対抗要件を具備します。
他人から債権を譲り受けるに当たっては、弁済期・時効・債務者の信用状況など、債権に関する情報を漏れなく確認することが重要です。
また譲渡人においては、譲受人に対してこれらの情報を偽りなく伝えなければなりません。虚偽の情報を伝えると、契約不適合責任などの責任を問われることがあるので要注意です。この記事では債権譲渡について、活用例・民法のルール・手続き・注意点などを解説します。
※この記事は、2024年3月7日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 特例法…動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律
目次
債権譲渡とは
「債権譲渡」とは、他人に対して債権を譲渡することをいいます。
例えばAがBに100万円を貸している場合、AはBに対して100万円の返還請求権(=貸金債権)を有します。この貸金債権をAがCに譲渡すると、Aの代わりに、CがBに対して100万円の返還を請求できるようになります。
債権譲渡の具体例
債権譲渡は一例として、以下のような場合に行われることがあります。
- 債権譲渡の具体例
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① 弁済期未到来の債権を早期に現金化したい場合
資金繰りが厳しい会社が、弁済期がまだ到来していない債権を早期に現金化するため、ファクタリング業者などに対して債権を譲渡することがあります。
(例)A社がファクタリング業者に対して、2024年6月末に支払われる予定の売掛金債権100万円分を、同年4月末に95万円で譲渡した。② 滞納状態に陥った債権を債権回収会社に買い取ってもらう場合
自社では回収が困難になった債権を少しでも現金化するため、債権回収会社に対して債権を譲渡することがあります。
(例)B社は債権回収会社に対して、期日どおりに支払われず回収の見込みが立たなくなった貸付債権1000万円分を、200万円で譲渡した。③ 別の債権の担保に供する場合
別の債権が不履行となった場合に備えた担保とするため、債権譲渡の形式をとって譲渡担保権を設定するケースがあります。
(例)C社は、D社に対する100万円の借入債務の担保とするため、E社に対して有する50万円の売掛金債権をD社に譲渡した。
債権譲渡のメリット・デメリット
債権譲渡には、譲渡人・譲受人の双方にとって、それぞれ以下のメリット・デメリットがあります。
譲渡人 | 譲受人 | |
---|---|---|
メリット | ・債権を早期に現金化できる ・回収不能のリスクから解放される ・担保目的の場合は、無担保の場合よりも好条件で資金を調達できる | ・債権の回収に成功すれば、額面と譲渡価格の差額が利益となる ・担保目的の場合は、別の債権が回収不能となるリスクを軽減できる |
デメリット | ・譲渡価格は額面を下回るのが一般的 ・担保目的の場合は、実際に担保が実行されると、債権者(取引先など)の信頼を失うおそれがある | ・債権譲渡時から債権回収時までの間、キャッシュが減る ・譲り受けた債権が回収不能となるリスクがある |
債権譲渡に関する民法のルール
債権譲渡に関するルールは、主に民法で定められています。主なルールの内容は以下のとおりです。
① 債権譲渡は原則として可能
② 譲渡制限付き債権の譲渡も原則として有効
③ 譲渡制限付き債権が譲渡された場合における債務者の供託
④ 将来債権の譲渡も可能
⑤ 債権譲渡の対抗要件
⑥ 債権譲渡における債務者の抗弁
⑦ 債権譲渡における相殺権
債権譲渡は原則として可能
債権は原則として、譲渡することが認められています(民法466条1項本文)。
ただし例外的に、債権の性質が譲渡を許さないときは、債権譲渡が認められません(同項但し書き)。また、法律によって譲渡が禁止されている債権もあります。
- 譲渡できない債権の例
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(a) 譲渡が性質上認められない債権
・大学教授が学生に教授する義務
・特定の当事者の間で決済されるべき債権(例:交互計算に組み入れられた債権)
・未確定の不法行為に基づく慰謝料請求権
など(b) 譲渡が法律上禁止されている権利
・扶養請求権(民法881条)
・著作者人格権(著作権法59条)
など
譲渡制限付き債権の譲渡も原則として有効
債権者および債務者は、契約(合意)によって債権の譲渡を禁止し、または制限することができます(=譲渡制限特約)。
譲渡制限特約に反して行われた債権譲渡も、原則として有効です(民法466条2項)。
ただし例外的に、以下のいずれかに該当する場合には、債務者は債権の譲受人に対する弁済を拒むことができます。
例外1|譲受人等が悪意・重過失の場合は弁済を拒める
例外2|預貯金債権の譲渡は、悪意・重過失の譲受人等との関係で無効
例外1|譲受人等が悪意・重過失の場合は弁済を拒める
譲渡制限特約の存在を知り(=悪意)、または重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者(=譲受人等)に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができます。また、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって、譲受人等に対抗することも可能です(民法466条3項)。
ただし、譲受人等が相当の期間を定めて譲渡人に対して履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、債務者が譲受人等に対して債務を履行しなければなりません(同条4項)。
また、譲渡制限特約が付された債権について差押え(強制執行)が行われた場合には、債務者は原則として、譲渡制限特約の存在を差押債権者に対抗できません(民法466条の4第1項)。
ただし例外的に、譲渡制限特約の存在を対抗できる譲受人等の債権者が差押債権者である場合には、債務者は債務の履行を拒むことができ、かつ弁済等の事由をもって差押債権者に対抗できます(同条2項)。
例外2|預貯金債権の譲渡は、悪意・重過失の譲受人等との関係で無効
預貯金債権に関する譲渡制限特約は、その存在を知り、または重大な過失によって知らなかった譲受人等に対抗できます(民法466条の5第1項)。この場合、債務者(銀行)は譲受人等に対する弁済を拒むことが可能です。
なお、銀行取引の経験がある者にとっては、預貯金債権に譲渡制限特約が付されていることは周知の事柄であると解されているので(最高裁昭和48年7月19日判決)、ほとんどのケースにおいて譲受人等の悪意または重過失が認められると考えられます。
ただし例外的に、預貯金債権について差押え(強制執行)が行われた場合には、銀行は差押債権者に対する弁済を拒否できません(同条2項)。
譲渡制限付き債権が譲渡された場合における債務者の供託
譲渡制限特約が付された債権が譲渡された場合、債務者はその債権の全額に相当する金銭を、債務の履行地の供託所に供託することができます(民法466条の2第1項)。供託がなされた場合、その債権は消滅します(民法494条1項)。
上記の供託を行った債務者は、遅滞なく譲渡人および譲受人に対して供託の通知をしなければなりません(民法466条の2第2項)。供託金は、譲受人に限って還付を請求できます(同条3項)。
なお、譲渡人について破産手続開始の決定があったときは、譲受人は債権の全額に相当する金銭を、債務の履行地の供託所に供託させることができます(ただし、債権の全額を譲り受け、第三者対抗要件を備えた譲受人に限ります。民法466条の3)。
将来債権の譲渡も可能
債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しないとされています(民法466条の6第1項)。つまり、将来発生する債権についても譲渡が可能です。
将来債権が譲渡された後で実際に発生した場合、譲受人がその債権を当然に取得します(同条2項)。
なお、譲受人が債権譲渡の対抗要件を具備するまでに、その債権に譲渡制限特約が付されたときは、譲受人等が譲渡制限特約の存在を知っていたものとみなされます(同条3項)。
債権譲渡の対抗要件
債権譲渡の対抗要件には、「債務者対抗要件」と「債権者対抗要件」の2種類があります。対抗要件の具備は、民法または特例法に定める方法によらなければなりません。
債務者対抗要件と第三者対抗要件
債務者対抗要件を具備すると、債権の譲受人は、債務者に対して債務の履行を請求できます。
反対に、債務者対抗要件を具備していなければ、譲受人は債務者に対して債務の履行を請求できません(債務者が任意に履行することは可能)。
第三者対抗要件を具備すると、債権の譲受人は、債務者以外の第三者に対して債権譲渡の事実を対抗できます。
例えば債権が二重譲渡された場合に、第三者対抗要件を先に具備していれば、他の譲受人よりも優先されます。
債権譲渡の対抗要件を具備する方法
債権譲渡の対抗要件具備は、下表記載のいずれかの方法によって行います(民法467条、特例法4条)。
債務者対抗要件 | ・譲渡人の債務者に対する通知 ・債務者の承諾 |
第三者対抗要件 | ・譲渡人の債務者に対する通知(確定日付のある証書によることが必要) ・債務者の承諾(確定日付のある証書によることが必要) ・債権譲渡登記 |
債権譲渡における債務者の抗弁
債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって、譲受人に対抗することができます(民法468条1項)。
ただし、以下のいずれかに該当する場合には、対応する時点以降に譲渡人に対して生じた事由をもって、譲受人に対抗することができます(同条2項)。
(a) 譲渡制限特約が付された債権につき、譲受人の譲渡人に対する履行の催告後、相当の期間が経過しても履行がなかったとき
→相当の期間を経過した時
(b) 譲渡制限特約が付された債権につき破産手続開始の決定があり、譲受人が債務者に対して供託を請求したとき
→供託の請求を受けた時
債権譲渡における相殺権
債務者は、対抗要件具備時より前に取得したものに限り、譲渡人に対する債権を自働債権として相殺を行い、その相殺をもって譲受人に対抗することができます(民法469条1項)。
また、以下のいずれかに該当する債権については、対抗要件具備時より後に取得したものであっても、譲渡債権との間での相殺を譲受人に対抗できます(同条2項)。
(a) 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権
(b) (a)のほか、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権
なお、以下のいずれかに該当する場合には、相殺の基準時が対抗要件具備時ではなく、以下の対応する時点となります(同条3項)。
(a) 譲渡制限特約が付された債権につき、譲受人の譲渡人に対する履行の催告後、相当の期間が経過しても履行がなかったとき
→相当の期間を経過した時
(b) 譲渡制限特約が付された債権につき破産手続開始の決定があり、譲受人が債務者に対して供託を請求したとき
→供託の請求を受けた時
債権譲渡の手続き
債権譲渡は、以下の手続きを経て行うのが一般的です。
① 債権譲渡契約の締結
② 債権譲渡の実行
③ 対抗要件の具備
債権譲渡契約の締結
譲渡人と譲受人の間で、譲渡の条件等を定めた債権譲渡契約を締結します。
- 債権譲渡契約に定めるべき主な事項
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・譲渡する債権の情報(債権者、債務者、金額、発生原因)
・譲渡の対価(金額、支払方法、振込手数料の負担者など)
・譲渡実行日
・譲渡する債権に関する表明保証
など
債権譲渡の実行
債権譲渡契約で定めた譲渡実行日において、債権譲渡を実行します。
譲受人は譲渡人に対して代金を支払い、譲渡人は譲受人に対して、譲渡債権に関連する書類等を引き渡します。
対抗要件の具備
譲受人が債務者に対して債務の履行を請求するには、債務者対抗要件を具備しなければなりません。また、二重譲渡などによって譲受人が債権を失う事態を防ぐには、第三者対抗要件を具備する必要があります。
通常は、債権譲渡の実行直後に、譲渡人が債務者に対して確定日付ある証書による通知を発し、債務者対抗要件と第三者対抗要件の両方を具備します。
ただし、債務者(取引先など)に債権譲渡の事実を知られたくない事情がある場合には、債務者に対する通知を行わずに、債権譲渡登記のみを行うことがあります。この場合は、第三者対抗要件のみが先に具備されます。
債務者対抗要件については、実際に譲受人が債務者に対して弁済を請求する必要が生じた場合に、譲渡人が確定日付ある証書による通知を行って、後から具備することになります。
債権譲渡を行う際の注意点
債権譲渡を行う際には、譲渡人と譲受人の間で、対象債権に関する情報を適切に授受することが大切です。
譲渡人側の注意点|譲受人に漏れなく情報を伝える
譲渡人としては、譲受人に対して対象債権に関する情報を漏れなく伝える必要があります。債権の額面や発生原因だけでなく、債務者の財務状況や信用状況などについても、譲渡人が知っている情報はきちんと譲受人に伝えましょう。
債務者の財務状況・信用状況が悪いことを知っているのに、それを秘して債権譲渡を行うと契約不適合責任(民法562条以下)を追及され得るほか、詐欺罪(刑法246条1項)の責任を問われるおそれもあるので注意が必要です。
譲受人側の注意点|債権に関する情報を漏れなく確認する
譲受人としては、弁済期・時効・債務者の財務や信用の状況など、対象債権に関する情報を漏れなく確認しておくべきです。その上で、不履行となる可能性が高い場合には、債権の譲受け自体を中止するか、または譲渡対価の引き下げなどを求めて交渉しましょう。
債権に関する情報については、譲渡人から伝えられた内容が真実かつ正確であることにつき、債権譲渡契約において表明保証を定めることも検討しましょう。
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