【2024年4月施行】裁量労働制の改正とは?
制度の概要・改正内容・対応準備などについて
分かりやすく解説!

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弁護士法人高井・岡芹法律事務所弁護士
東京弁護士会所属 弁護士法人高井・岡芹法律事務所 人事・労務、企業法務一般(株主総会、CSR、その他会社経営一般)、M&A、訴訟・紛争解決等を取り扱う
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この記事のまとめ

裁量労働制」とは、一定の労働者について、実際の労働時間数に関わりなく、労使協定や労使委員会の決議で定められた時間数労働したものとみなす制度みなし労働時間制の一つ)です。
専門業務型裁量労働制企画業務型裁量労働制の2種類があります。

2024年4月から、裁量労働制について以下の改正内容が施行されます。
専門業務型の対象業務に「M&Aアドバイザリー業務」が追加され、対象業務は20業務に
✅ 専門業務型の場合、労使協定で定めるべき事項(労働者の同意・同意の撤回の手続・同意に関する記録の保存)の追加、健康・福祉確保措置の強化などが求められる
✅ 企画業務型の場合、労使委員会の運営規定に定めるべき事項・決議事項(同意の撤回の手続・労使委員会に対する賃金・評価制度の説明・同意の撤回に関する記録の保存)の追加、健康・福祉確保措置の強化などが求められる

裁量労働制を導入・継続する企業は、施行日までに上記の内容に対応することが必要となります。
この記事では、裁量労働制の改正について、制度の概要・改正内容・対応準備などを基本から分かりやすく解説します。

ヒー

弊社では一部の社員に裁量労働制を導入しています。3年ごとに労使協定を締結していますが、改正対応は更新のタイミングからでいいですか?

ムートン

2024年4月施行の内容は、3月中までに締結や届け出といった対応が必要となります。内容も確認していきましょう。

※この記事は、2024年1月17日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名等を次のように記載しています。

  • 労基法…労働基準法
  • 労基則…労働基準法施行規則
  • 改正労基則…2023年3月30日公布の「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令」による改正後の労働基準法施行規則

裁量労働制とは

制度の概要

裁量労働制とは、労基法所定の業務を遂行する労働者について、実際の労働時間数に関わりなく、労使協定や労使委員会の決議で定められた時間数労働したものとみなす制度をいいます(いわゆるみなし労働時間制の一つ)。

裁量労働制には、専門業務型裁量労働制(以下、「専門業務型」)と企画業務型裁量労働制(以下、「企画業務型」)の2種類があります。

厚生労働省の令和4年「就労条件総合調査」によれば、2022年時点で専門業務型を採用している企業は2.2%企画業務型を採用している企業は0.6%であり、利用状況は極めて低調といえます。

ヒー

裁量労働制は話題になっている気がしますが、採用している企業は少ないのですね。

ムートン

規模の大きい企業ほど、採用している割合が大きくなっています。

対象業務等

専門業務型

専門業務型対象となる業務は、「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務」とされています(労基法38条の3第1項1号)。

具体的には、労基則および告示により、19種類の業務が限定的に定められています(「対象業務の拡大|M&Aアドバイザリー業務が追加」も参照)。

裁判においては、当該業務が対象業務に該当するかが争われることもあり、この点につき判断した例として、以下の裁判例などがあります。

✅ 税理士補助業務を対象業務の「税理士の業務」に当たらないとしたレガシィほか1社事件
(東京高裁平成26年2月27日判決・労判1086号5頁)
✅ システムの一部しか担当せず、タイトな納期故に業務遂行の裁量性が乏しいことから「情報処理システムの分析又は設計の業務」に当たらないとしたエーディーディー事件
(大阪高裁平成24年7月27日判決・労判1062号63頁)
✅ 裁量が限定的であったことなどから、ウェブサイト上に掲載されるバナー広告の制作業務を「広告等の新たなデザインの考案の業務」に当たらないとしたインサイド・アウト事件
(東京地裁平成30年10月16日判決・判タ1475号133頁)

なお、今回の改正により、対象業務が1つ追加されました(「対象業務の拡大|M&Aアドバイザリー業務が追加」を参照)。

企画業務型

企画業務型対象となる業務は、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」とされています(労基法38条の4第1項1号)。

「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(平成11年労働省告示149号。以下、「企画指針」)によれば、対象業務となり得る例として、以下などが挙げられています。

第3・1(2)ロ(イ) 対象業務となり得る業務の例
① 経営企画を担当する部署における業務のうち、経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務
② 経営企画を担当する部署における業務のうち、現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成する業務
③~⑧ 略

「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」平成11年労働省告示第149号

企画業務型においては、法律上、対象業務に加えて、対象労働者にも制限があり、企画業務型の適用対象とするためには、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」であることが必要とされます(労基法38条の4第1項2号)。

企画指針では、「例えば、大学の学部を卒業した労働者であって全く職務経験がないものは、客観的にみて対象労働者に該当し得ず、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験を経た上で、対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であるかどうかの判断の対象となり得る」とされています(企画指針第3・2(2))。

導入手続

専門業務型

専門業務型を導入するためには、事業場の過半数で組織する労働組合、それがないときは労働者の過半数代表者との間で、一定の事項を定めた労使協定を締結し、これを所轄の労働基準監督署に届け出ることが必要です(労基法38条の3第1項・2項・38条の2第3項)。

なお、今回の改正により、労使協定で定めるべき事項が追加されました(「労使協定事項の追加」を参照)。

企画業務型

企画業務型を導入するためには、対象事業場単位で設置された労使委員会委員の5分の4以上の多数による議決により一定の事項を決議し、この決議を所轄の労働基準監督署に届け出ることが必要です(労基法38条の4第1項)。

労使委員会とは

賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会です。使用者およびその事業場の労働者を代表する者が構成員となり、人数については、労働者代表委員が半数を占めていなければなりません(労基法38条の4第2項1号)。

企画業務型裁量労働制を適用する場合は、労使委員会を設置し、必要な事項を規定した運営規程を策定した上、一定の事項について委員の5分の4以上の多数による決議をするなど、要件を満たす必要があります。

なお、今回の改正により、労使委員会で決議すべき事項が追加されました(「労使委員会決議事項の追加」を参照)。

導入の法的効果

専門業務型と企画業務型いずれについても、有効に裁量労働制が適用されると、適用された労働者は、実際の労働時間数に関わりなく、労使協定や労使委員会の決議で定められた時間数労働したものとみなされます

ただし、裁量労働制の適用があったとしても、休憩(労基法34条)、休日(同法35条)、時間外・休日労働および深夜労働(同法36条・37条)の法規制の適用が除外されるわけではなく、例えば、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合には、いわゆる36協定の締結や割増賃金の支払が必要となる点には注意が必要です。

改正の経緯

以上、裁量労働制の基本的事項を概観しましたが、政府は、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう、2021年7月から、「これからの労働時間制度に関する検討会」を開催し、同会は、2022年7月15日に、報告書を取りまとめました(当該報告書では、裁量労働制について、制度の趣旨・現状と課題が確認され、今後の対応の方向性が示されました)。

その後、裁量労働制については、当該報告書を踏まえ、労働政策審議会労働条件分科会において、さらなる議論がなされ、2022年12月27日には、「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」が公表されました。

政府は、同分科会での議論の結果に基づき、2023年3月30日付けで、施行規則告示の改正を公布・告示しました。これにより、裁量労働制に関わる以下の施行規則・告示が改正され、2024(令和6)年4月1日から施行されることとなりました。

✅ 労働基準法施行規則(労基則)
✅ 「労働基準法施行規則第24条の2の2第2項第6号の規定に基づき厚生労働大臣の指定する業務」(平成9年労働省告示7号)
✅ 「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(平成11年労働省告示149号。企画指針)

また、本改正に伴い、2023年8月2日には、「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令等の施行等について(裁量労働制等)」(令和5年8月2日基発0802第7号。以下、「施行通達」)と「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A」が発出され、同年11月6日には、「『令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A』の追加について」も発出されています(以下、「QA」)。

以下では、専門業務型、企画業務型それぞれについて、改正内容を概説します。

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