株式譲渡契約書とは?
記載する項目・会社法上の手続などを解説!

この記事のまとめ

「株式譲渡契約書」とは、会社株式を売主から買主に対して譲渡する内容の契約書です。比較的シンプルな手続により実行できることから、M&A取引の際には株式譲渡契約がよく活用されます。

株式譲渡契約書には、実行前提条件・表明保証・遵守事項など、M&A取引に特有の条項を盛り込む必要があります。また、株式譲渡に必要となる会社法上の手続も踏まえて、実行日(クロージング日)の流れも株式譲渡契約書に明記しておきましょう。

この記事では「株式譲渡契約書」について、規定すべき条項や、実行すべき会社法上の手続などを解説します。

ヒー

「M&Aに関する契約とは? 基本を解説!」の記事で勉強しましたが、M&Aの手法には、株式譲渡以外にも様々な種類があるんですよね。

ムートン

おっ! きちんと覚えていてすごいですね。今回は、他のM&A手法に比べ、比較的シンプルな手続で実行できる「株式譲渡契約」について勉強していきましょう!

(※この記事は、2022年3月29日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)

株式譲渡契約書とは?

「株式譲渡契約書」とは、会社株式を売主から買主に対して譲渡する内容の契約書です。主に、会社のオーナー株主が後継者に対して株式を譲渡する場合に、株式譲渡契約書が締結されます。

株式譲渡契約において想定されるのは、買収先企業の株式の全部又は一部を取得することによって、その会社の支配権を取得する取引です。金額が大きく、かつやり直しの利かない取引であるため、契約締結前には、買主によりデューデリジェンスが行われるのが一般的です。

なお、株式譲渡契約という名称ではありますが、株式という目的物を売買するため、民法上は売買契約(民法555条)に該当します。あくまで株式の売買契約に過ぎず、合併や会社分割などのように特別な手続を必要としないため、他のM&Aの手法と比較しても手続が簡易であるなどのメリットがあります。

株式譲渡契約の目的

株式譲渡契約を締結するのは、文字通り株式保有者が第三者に株式を譲渡(移転)するためですが、その背景にある目的は多種多様です。具体的には、以下の場合に株式譲渡契約を締結することが考えられます。

本記事では、上記のうち特に重要性が高い株式譲渡M&Aのケースを想定して、株式譲渡契約に関するチェックポイントを解説します。

M&A手法の中で株式譲渡を選択するメリット・デメリット

M&A(事業承継)の手法には、株式譲渡以外にも、合併・会社分割・事業譲渡など様々なものがあります。その中でも、株式譲渡はよく用いられるM&A手法です。

M&A手法としての株式譲渡には、以下のメリット・デメリットがあります。

株式譲渡によるM&Aのメリット

株式譲渡の方式でM&Aを行う最大のメリットは、シンプルな手続によってM&Aを実行できる点です。

例えば合併・会社分割の場合、会社組織自体が大幅に変更されるため、手続は非常に複雑なものとなります。事業譲渡の場合、個々の債務の承継について債権者の承諾を取得する、財産の名義変更を個別に行うなど、事務手続は非常に煩雑です。

これに対して株式譲渡の場合、会社組織や財産・債務などはそのままに、株式だけが移転します。そのため、株式譲渡契約書の締結などのシンプルな手続によって、M&Aを実行できるのです。

株式譲渡によるM&Aのデメリット

株式譲渡によるM&Aのデメリットとしては、簿外債務(貸借対照表には計上されていない債務)や潜在的なリスクを、事業承継の対象から外すことができない点が挙げられます。株式譲渡によるM&Aでは、買主は株式の取得によって、必ず対象会社の事業全体を承継するからです。

例えば事業譲渡などであれば、買主がほしい事業・資産を選んで取得することができます。対象会社に簿外債務や潜在的なリスクがあれば、その部分を除いて事業承継を行うことも可能です。

これに対して株式譲渡M&Aの場合、対象会社が簿外債務や潜在的なリスクを抱えているとしても、買主はそれを受け入れたうえで株式を取得するしかありません。もし簿外債務や潜在的なリスクによる問題が顕在化した場合、買主は大きな損失を被ってしまうおそれがあります。

簿外債務や潜在的なリスクによるデメリットを最小化するためには、株式譲渡M&Aの実行前に、対象会社に対するデューデリジェンスを慎重に行うことが大切です。

株式譲渡契約書に記載すべき事項

株式譲渡によるM&Aは大規模な取引になるため、株式譲渡契約書をきちんと作成しておくことが重要になります。以下では、株式譲渡契約書に規定すべき主な条項について、各概要を解説します。

基本合意|対象株式の銘柄・種類・数

株式譲渡契約書の最も基本的かつ根幹的な内容として、譲渡の対象とする株式の銘柄・種類・数を記載しましょう。

譲渡する株式の数量の記載については、①具体的な株式数を記載する方法、②譲渡する株式数の割合を記載する方法の2つがあります。ただし②の場合は、契約締結日から譲渡実行日までの間に発行済株式総数に変更があった場合、変更契約の締結等が必要になることがある点に注意が必要です。

株式譲渡の対価

株式譲渡の対価は、売主・買主間の交渉によって合意し、その金額を株式譲渡契約書に記載します。

例えばデューデリジェンスの結果、対象会社に関して何らかのリスクが判明した場合、譲渡対価のディスカウントが行われるケースもあります。譲渡対価は純粋な交渉事項なので、売主・買主双方の交渉術によって左右される部分も大きいところです。

譲渡実行日・クロージングの手続

株式譲渡契約書では、契約締結日と譲渡実行日を分けるのが一般的となっています。事業承継を円滑に完了できるように、最後の準備を整える期間を確保するためです。契約締結日から数週間~1か月後を目安として、譲渡実行日を株式譲渡契約書に明記しておきましょう。

なお、株式譲渡を実行することを「クロージング」と呼びます。クロージングの手続についても、株式譲渡契約書に定めておくと、譲渡実行日に戸惑うことがなくなります。クロージングの手続に関しては、以下の事項を定めておくとよいでしょう。

株式譲渡の実行前提条件

株式譲渡契約書における「実行前提条件」とは、譲渡実行日において当事者が満たすべき条件を意味します。当事者の一方が実行前提条件を一つでも満たしていない場合、相手方は株式譲渡を履行する義務を負いません。

実行前提条件としては、以下の内容を記載するのが一般的です。

表明及び保証

「表明及び保証」とは、売主・買主自身や対象会社について、一定の事項が真実かつ正確であることの表明・保証を意味します。

株式譲渡契約書では、デューデリジェンスで判明したリスクが顕在化した際に、売主側に責任を負わせる目的で表明保証規定が設けられることが多いです。表明保証の具体的な内容は、デューデリジェンスの結果を踏まえた売主・買主間の契約交渉によって決定されますが、一般的には以下のような内容を記載し、これらが真実かつ正確であることを担保することが多いです。

表明保証に規定される内容の例

✅  対象企業の株式の内容・状態
✅  対象企業の財務状態
✅  対象企業が保有する不動産に関する事項
✅  対象企業が保有する知的財産権に関する事項
✅  対象企業が雇用する従業員や労務問題に関する事項

遵守事項(実行前・実行後)

契約締結時における対象会社の状態を、クロージングまでの間に売主が勝手に変更してしまっては、買主としては困ってしまいます。そのため、実行前の遵守事項を株式譲渡契約書に規定しておくのが一般的です。
実行前の遵守事項の例としては、重要財産の処分禁止や役員の変更禁止などが挙げられます。

また、売主・買主間の契約交渉によって、株式譲渡実行後の遵守事項を規定するケースもあります。実行後の遵守事項の例としては、売主側の競業避止義務や、買主側の雇用維持義務などが挙げられます。

損害賠償

表明保証や遵守事項への違反等、契約違反によって当事者に損害が発生した場合に備えて、損害賠償に関する規定も盛り込んでおきましょう。

損害賠償の範囲の定め方

✅  民法の原則どおりとする場合
→「相当因果関係の範囲内で損害を賠償する」など

✅  民法の原則よりも範囲を広げる場合
→「一切の損害を賠償する」など

✅  民法の原則よりも範囲を狭くする場合
→「直接発生した損害に限り賠償する」、損害賠償の上限額を定めるなど

秘密保持

M&A取引では、売主・買主間で営業秘密等のやり取りが多数行われるため、秘密保持に関する規定も株式譲渡契約に入れておく必要があります。秘密保持に関して規定すべき主な事項は、以下のとおりです。

なお、先行してNDA(秘密保持契約書)を締結することも多く、その場合にはNDAの内容を株式譲渡契約書中で引用する形でも構いません。

契約の解除

株式譲渡契約の締結後、譲渡実行日までの間に、重大な債務不履行や事情変更等が生じた場合に備えて、契約の解除に関する定めを置くことも必要です。株式譲渡契約の解除事由としては、以下の例が挙げられます。

反社会的勢力の排除

コンプライアンスの観点から念のため、反社会的勢力の排除に関する条項(反社条項)を株式譲渡契約書に規定するケースが多いです。

具体的には、主に以下の内容を反社条項として規定しておきます。

合意管轄・準拠法

株式譲渡契約書に関して、売主・買主間でトラブルが発生した場合に備えて、訴訟を提起する裁判所を定めておきましょう(合意管轄)。可能であれば、自社の本店所在地を管轄する裁判所とするのが望ましいです。

また、売主・買主のいずれか(又は両方)がグローバル企業の場合は、準拠法を定めておくことも大切です。自社が日本企業の場合は、準拠法も日本法とすることが望ましいですが、相手方の交渉力が強い場合には、他の国や地域の法を準拠法とすることを受け入れざるを得ない場合もあります。

株式譲渡契約書に貼付すべき収入印紙の金額

株式譲渡契約書は、印紙税の課税文書ではないため、原則として収入印紙を貼付する必要がありません。

ただし、株式譲渡代金が前払いされており、株式譲渡契約書が「受取書」としての性質も有する場合には、以下の金額の収入印紙を貼付する必要があります。

受取金額印紙税額
5万円未満非課税
5万円以上100万円以下200円
100万円を超え200万円以下400円
200万円を超え300万円以下600円
300万円を超え500万円以下1,000円
500万円を超え1,000万円以下2,000円
1,000万円を超え2,000万円以下4,000円
2,000万円を超え3,000万円以下6,000円
3,000万円を超え5,000万円以下1万円
5,000万円を超え1億円以下2万円
1億円を超え2億円以下4万円
2億円を超え3億円以下6万円
3億円を超え5億円以下10万円
5億円を超え10億円以下15万円
10億円を超えるもの20万円
受取金額の記載のないもの200円

株式譲渡に必要な会社法上の手続

株式譲渡の取引を実行するに当たっては、株式譲渡契約書の締結に加えて、以下の会社法上の手続を実行する必要があります。

会社に対する株式譲渡承認請求

中小企業の株式の多くは、譲渡制限株式(譲渡に会社の承認を要する株式)に当たります。譲渡制限株式を第三者に譲渡する場合、売主は、株式譲渡契約書を締結するに先立って、以下の事項を記載した書面を会社に提出して、株式譲渡の承認を請求する必要があります(会社法138条1号イ、ロ)。

会社の株式譲渡承認決議

売主による株式譲渡承認請求を受けて、会社は承認に関する機関決定を行います。株式譲渡を承認する会社の機関は、以下のとおりです。

株式譲渡の承認機関

✅  定款に定めがある場合
→定款に定められた機関

✅  定款に定めがなく、かつ取締役会設置会社の場合
→取締役会

✅  定款に定めがなく、かつ取締役会設置会社でない場合
→株主総会

株式譲渡契約書の締結・実行

売主・買主の間で株式譲渡契約書を締結し、譲渡実行日において代金の支払と株式の移転を行います。

株式譲渡契約書の中では、後述する株主名簿への記録の手続と、株主名簿への記録に関する売主の協力義務を規定しておきましょう。

株主名簿への記録

株主名簿は、会社が株主として取り扱うべき者を記載した名簿です。株式譲渡の事実を会社に対抗(主張)するためには、株主名簿にその事実を記録しなければなりません(会社法130条1項)。

株主名簿の記載事項は、以下のとおりです(会社法121条)。

株式譲渡を受けた買主は、会社に対して株主名簿の書換えを請求できます(会社法133条1項)。株主名簿の書換え請求は、原則として売主・買主が共同で行う必要があるため(同条2項)、株式譲渡契約の定めに従って手続を進めましょう。

株主名簿への記録が完了したら、株式譲渡の取引全体が完結します。

この記事のまとめ

株式譲渡契約書の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

国税庁ウェブサイト「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」

国税庁ウェブサイト「No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで」